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第3章:宇宙の清掃
第12話:スペースデブリは『不法投棄の山』
月面のホコリ掃除を終えたソウジたちは、地球への帰還ルート上で立ち往生していた。
目の前に、行く手を阻む「巨大な壁」があったからだ。
「うへぇ……。こりゃまた、派手に散らかしたもんだな」
地球の衛星軌道上を漂う、全長数千キロメートルに及ぶゴミの帯(デブリベルト)。
その正体は、遥か彼方の星系から流れ着いた『銀河文明の廃棄物』だった。
壊れた宇宙船、使い捨ての生物兵器、謎の放射性物質……。それらが重力に引かれ、地球に落下する寸前の状態で漂っているのだ。
『なんだあれ!? 空がゴミで埋まってるぞ!』
『エイリアンの宇宙船か!?』
『あれが落ちてきたら地球終わるぞ……』
地球上がパニックになる中、ソウジは腰に手を当てて「やれやれ」と首を振った。
【解析:不法投棄の山】
【内訳:可燃ゴミ(生物)、不燃ゴミ(金属)、資源ゴミ(レアメタル)、危険物(爆発性)】
【状態:未分別】
「これだから最近の業者は。分別もしないで捨てていくんだから」
彼の目には、それが「分別ルールを守らない住人が出した、団地のゴミ集積所」にしか見えていない。
「社長! どうしますか!? まとめて焼却処分(大気圏突入)させますか?」
通信機からコアちゃんの声が響く。
しかし、ソウジは手を横に振った。
「いや、ダメだ。よく見ろ。中身入りスプレー缶(核融合炉)とか、リチウム電池(プラズマ爆弾)が混ざってる。このまま焼却炉に入れたら大爆発して、焼却炉(地球)が壊れちまうぞ」
ゴミ処理の基本は分別だ。
爆発物を混ぜて焼却するのは、清掃員として最も恥ずべき行為である。
だが、この膨大な量を一人で仕分けるには、あまりにも時間が足りない。
「……仕方ない。プロを呼ぶか」
ソウジは後ろを振り返り、ガムテープで補強された宇宙服を着て震えている男を手招きした。
「おい、バイトリーダー。出番だぞ」
「ひぃっ!? お、俺ですか!? 無理ですよ、あんな化け物みたいなゴミの山!」
剣崎は涙目で首を振った。
無理もない。目の前にあるのは、触手が生えた生体兵器や、呪いを撒き散らす魔導兵器の残骸なのだ。
「いいか剣崎。お前は昔、俺に言ったよな。『効率と処理速度こそが正義だ』って」
「そ、それは……」
「見せてみろよ、お前の正義を。このゴミ山を『燃える』か『燃えない』か、コンマ1秒で判断して仕分けろ。……お前ならできるはずだ」
ソウジはニヤリと笑い、剣崎の背中をバシッと叩いて無重力空間へ放り出した。
「うわあああああ! やってやる! やればいいんだろぉぉぉ!」
半ばヤケクソになった剣崎が、デブリの海へ突っ込む。
迫りくる巨大な生物兵器の残骸。
剣崎の「エリートとしての脳」が、極限状態で覚醒した。
カッッッ!
彼の中で、世界がスローモーションになる。
対象をスキャン。成分解析。リスク評価。利益計算。
これら全ての演算を、彼は瞬きする間に行っていた。
「……成分、炭素鎖! 有機物! これは『燃えるゴミ』ッ!」
バシュッ!
剣崎は専用のトングで生物兵器を掴み、ソウジの持つ「赤い袋(焼却用)」へ放り投げた。
「次! 形状、円筒形! 内部に高圧ガス反応! これは『危険物(穴あけ必須)』ッ!」
「次! 材質、ミスリル合金! 市場価値高騰中! これは『資源ゴミ』ッ!」
シュババババババババッ!!
剣崎の腕が残像と化した。
右へ、左へ、中央へ。
千手観音のような動きで、膨大な宇宙ゴミを次々と仕分けていく。
その姿は、かつて机上の空論で数値を弄っていた頃とは比べ物にならないほど、生き生きとしていた。
「ははは! 分かる! 分かるぞ! これらは全てデータだ! 俺の処理能力が、世界を整理していく!」
ゾーンに入った剣崎は、もはや恐怖を感じていなかった。
ただひたすらに、目の前の混沌(カオス)を秩序(オーダー)に変える快感に酔いしれていた。
『すげえええええええ!』
『剣崎、覚醒www』
『手の動きが見えねえ!』
『これがエリートの事務処理能力か……』
『輝いてるぞ剣崎! お前がナンバーワンだ!』
配信画面は、剣崎への称賛(と少しの笑い)で埋め尽くされた。
「よし、いいペースだ」
ソウジは、剣崎が選別した「燃えるゴミ(生物兵器)」の袋を受け取り、携帯用の『小型焼却炉(という名のプラズマカッター)』で次々と焼却していく。
危険物が取り除かれているため、爆発の心配はない。
恐ろしいほどの効率で、デブリベルトが消滅していく。
数時間後。
地球を覆っていたゴミの帯は、綺麗さっぱりと片付いていた。
後に残ったのは、資源ゴミとして回収されたレアメタルの山(数兆円相当)と、燃え尽きて真っ白になった剣崎だけだった。
「はぁ……はぁ……終わっ、た……」
宇宙空間に大の字で浮かぶ剣崎。
その顔は疲労困憊していたが、どこか晴れやかだった。
今まで「他人の功績」や「数値」ばかり追いかけてきた彼が、初めて自分の手足を使って何かを成し遂げた瞬間だった。
「いい仕事だったぞ、バイトリーダー」
ソウジが近寄り、缶コーヒー(無重力用パック)を投げて寄越した。
「お前のおかげで助かった。……やっぱり、俺の目に狂いはなかったな。お前は最高の『分別係』だ」
それは、ソウジからの最上級の褒め言葉だった。
剣崎はパックを握りしめ、悔しそうに、しかし嬉しそうに呟いた。
「くそっ……なんで俺が、こんなゴミ拾いで……認められちまうんだよ……!」
宇宙の星々よりも輝く、男の涙がキラリと光って消えた。
【タスク完了:デブリ帯の完全撤去】
【分別率:100%(S評価)】
【獲得資源:オリハルコン、ミスリル、他多数】
「さて、と。資源ゴミは換金してボーナスにするとして……ん?」
作業を終えて帰ろうとしたソウジは、ふと違和感を覚えて後ろを振り返った。
ゴミの山が消えたその場所に、空間が歪んで渦を巻いている。
ゴミの質量が急激に消滅した反動で、重力バランスが崩れ、そこに『極小ブラックホール』が発生しようとしていたのだ。
「あちゃー。ゴミを詰め込みすぎて、排水溝が詰まっちまったか」
ソウジは「やれやれ」と肩を回し、腰の道具袋から次なる武器を取り出した。
「剣崎、休憩は終わりだ。最後の大仕事(詰まり抜き)といこうか」
(続く)
目の前に、行く手を阻む「巨大な壁」があったからだ。
「うへぇ……。こりゃまた、派手に散らかしたもんだな」
地球の衛星軌道上を漂う、全長数千キロメートルに及ぶゴミの帯(デブリベルト)。
その正体は、遥か彼方の星系から流れ着いた『銀河文明の廃棄物』だった。
壊れた宇宙船、使い捨ての生物兵器、謎の放射性物質……。それらが重力に引かれ、地球に落下する寸前の状態で漂っているのだ。
『なんだあれ!? 空がゴミで埋まってるぞ!』
『エイリアンの宇宙船か!?』
『あれが落ちてきたら地球終わるぞ……』
地球上がパニックになる中、ソウジは腰に手を当てて「やれやれ」と首を振った。
【解析:不法投棄の山】
【内訳:可燃ゴミ(生物)、不燃ゴミ(金属)、資源ゴミ(レアメタル)、危険物(爆発性)】
【状態:未分別】
「これだから最近の業者は。分別もしないで捨てていくんだから」
彼の目には、それが「分別ルールを守らない住人が出した、団地のゴミ集積所」にしか見えていない。
「社長! どうしますか!? まとめて焼却処分(大気圏突入)させますか?」
通信機からコアちゃんの声が響く。
しかし、ソウジは手を横に振った。
「いや、ダメだ。よく見ろ。中身入りスプレー缶(核融合炉)とか、リチウム電池(プラズマ爆弾)が混ざってる。このまま焼却炉に入れたら大爆発して、焼却炉(地球)が壊れちまうぞ」
ゴミ処理の基本は分別だ。
爆発物を混ぜて焼却するのは、清掃員として最も恥ずべき行為である。
だが、この膨大な量を一人で仕分けるには、あまりにも時間が足りない。
「……仕方ない。プロを呼ぶか」
ソウジは後ろを振り返り、ガムテープで補強された宇宙服を着て震えている男を手招きした。
「おい、バイトリーダー。出番だぞ」
「ひぃっ!? お、俺ですか!? 無理ですよ、あんな化け物みたいなゴミの山!」
剣崎は涙目で首を振った。
無理もない。目の前にあるのは、触手が生えた生体兵器や、呪いを撒き散らす魔導兵器の残骸なのだ。
「いいか剣崎。お前は昔、俺に言ったよな。『効率と処理速度こそが正義だ』って」
「そ、それは……」
「見せてみろよ、お前の正義を。このゴミ山を『燃える』か『燃えない』か、コンマ1秒で判断して仕分けろ。……お前ならできるはずだ」
ソウジはニヤリと笑い、剣崎の背中をバシッと叩いて無重力空間へ放り出した。
「うわあああああ! やってやる! やればいいんだろぉぉぉ!」
半ばヤケクソになった剣崎が、デブリの海へ突っ込む。
迫りくる巨大な生物兵器の残骸。
剣崎の「エリートとしての脳」が、極限状態で覚醒した。
カッッッ!
彼の中で、世界がスローモーションになる。
対象をスキャン。成分解析。リスク評価。利益計算。
これら全ての演算を、彼は瞬きする間に行っていた。
「……成分、炭素鎖! 有機物! これは『燃えるゴミ』ッ!」
バシュッ!
剣崎は専用のトングで生物兵器を掴み、ソウジの持つ「赤い袋(焼却用)」へ放り投げた。
「次! 形状、円筒形! 内部に高圧ガス反応! これは『危険物(穴あけ必須)』ッ!」
「次! 材質、ミスリル合金! 市場価値高騰中! これは『資源ゴミ』ッ!」
シュババババババババッ!!
剣崎の腕が残像と化した。
右へ、左へ、中央へ。
千手観音のような動きで、膨大な宇宙ゴミを次々と仕分けていく。
その姿は、かつて机上の空論で数値を弄っていた頃とは比べ物にならないほど、生き生きとしていた。
「ははは! 分かる! 分かるぞ! これらは全てデータだ! 俺の処理能力が、世界を整理していく!」
ゾーンに入った剣崎は、もはや恐怖を感じていなかった。
ただひたすらに、目の前の混沌(カオス)を秩序(オーダー)に変える快感に酔いしれていた。
『すげえええええええ!』
『剣崎、覚醒www』
『手の動きが見えねえ!』
『これがエリートの事務処理能力か……』
『輝いてるぞ剣崎! お前がナンバーワンだ!』
配信画面は、剣崎への称賛(と少しの笑い)で埋め尽くされた。
「よし、いいペースだ」
ソウジは、剣崎が選別した「燃えるゴミ(生物兵器)」の袋を受け取り、携帯用の『小型焼却炉(という名のプラズマカッター)』で次々と焼却していく。
危険物が取り除かれているため、爆発の心配はない。
恐ろしいほどの効率で、デブリベルトが消滅していく。
数時間後。
地球を覆っていたゴミの帯は、綺麗さっぱりと片付いていた。
後に残ったのは、資源ゴミとして回収されたレアメタルの山(数兆円相当)と、燃え尽きて真っ白になった剣崎だけだった。
「はぁ……はぁ……終わっ、た……」
宇宙空間に大の字で浮かぶ剣崎。
その顔は疲労困憊していたが、どこか晴れやかだった。
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「いい仕事だったぞ、バイトリーダー」
ソウジが近寄り、缶コーヒー(無重力用パック)を投げて寄越した。
「お前のおかげで助かった。……やっぱり、俺の目に狂いはなかったな。お前は最高の『分別係』だ」
それは、ソウジからの最上級の褒め言葉だった。
剣崎はパックを握りしめ、悔しそうに、しかし嬉しそうに呟いた。
「くそっ……なんで俺が、こんなゴミ拾いで……認められちまうんだよ……!」
宇宙の星々よりも輝く、男の涙がキラリと光って消えた。
【タスク完了:デブリ帯の完全撤去】
【分別率:100%(S評価)】
【獲得資源:オリハルコン、ミスリル、他多数】
「さて、と。資源ゴミは換金してボーナスにするとして……ん?」
作業を終えて帰ろうとしたソウジは、ふと違和感を覚えて後ろを振り返った。
ゴミの山が消えたその場所に、空間が歪んで渦を巻いている。
ゴミの質量が急激に消滅した反動で、重力バランスが崩れ、そこに『極小ブラックホール』が発生しようとしていたのだ。
「あちゃー。ゴミを詰め込みすぎて、排水溝が詰まっちまったか」
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(続く)
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