追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ

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第6章:S級清掃員の天敵

第29話:中途半端な掃除は『逆効果』

 阿鼻叫喚の光景。

「ひぃぃぃ! 来るな! こっち見るな!」

「社長! しっかりしてください! あなたの指示がないと!」

 最強のS級清掃員・灰坂ソウジは、人事部長の剣崎の背中に隠れて震えていた。
 彼の視界には、テラテラと黒光りする『プレデター・コックローチ(黒の捕食者)』の大群が映っている。

 生理的嫌悪感が限界突破し、解析ゴーグルすらエラーを吐き続けている状態だ。

「くそっ! 物理攻撃が当たりません!」

 剣崎が鞄を振り回すが、Gの動きは異常に速い。
 カサカサッ! という不快な音と共に、壁から天井へと自在に移動し、予測不能な軌道で襲いかかってくる。

「ええい! 聖なる光よ、不浄を焼き払いなさい! ホーリー・レイ!」

 セシリアが杖(布団叩き)を掲げ、光魔法を放つ。
 しかし、Gたちは残像を残すほどのスピードで回避し、魔法は虚しく壁を焦がすだけだ。

「速すぎますわ! 狙いが定まりません!」

「ミカエル! 空からなんとかならんか!」

「無理ですソウジ様! この狭い坑道では、私の翼が引っかかって……うわっ!」

 ミカエルも天井付近でGと空中戦を繰り広げているが、数の暴力に押されている。
 このままでは全滅だ。

「…………ッ!!」

 追い詰められたソウジの中で、何かが切れた。
 恐怖が極限に達し、逆ギレに近い感情が爆発する。

「ええい、鬱陶しいんだよ! 近づくなと言ってるだろ!」

 ソウジは震える手で、背中のタンクに直結した三本ノズルの銃身を構えた。
 超高圧スチーム洗浄機『ケルベロス・ヒャッハー』だ。
 太陽の黒点や運命の記述すら消した神話級清掃具だが、今の彼には「虫を吹き飛ばす水鉄砲」にしか見えていない。

「高圧スチームで、彼方へ消え去れェェェ!」

 ブシュゥゥゥゥゥゥッ!!

 轟音と共に、三つのノズルから超高圧・超高温の蒸気が噴射された。
 それは正確にGの群れを捉え、その黒い甲殻を直撃した。

「やったか!?」

 剣崎が叫ぶ。
 凄まじい水圧と熱量だ。普通のモンスターなら細胞ごと蒸発しているはずだ。

 だが。
 蒸気が晴れた後、そこにいたのは――。

 ピカーーーーーッ!!

 眩いばかりの光を放つ、銀色の集団だった。

「……は?」

 ソウジが呆然と呟く。
 Gたちは死んでいなかった。
 それどころか、スチームに含まれる微細な水粒子が、超高速で衝突したことで『ウォータージェット加工』のように表面をナノレベルで平滑化してしまった結果、「鏡面仕上げ(ミラー・フィニッシュ)」の状態になっていたのだ。

「キシャァァァァッ!!(スッキリしたァァ!)」

 Gたちが歓喜の声を上げる。
 体が軽くなり、動きのキレが増している。
 そして何より、その背中は鏡のように周囲の景色を反射していた。

「な、なんか綺麗になってますわよ!?」

「いや、逆にキモさ倍増です! 輝くGとか最悪すぎます!」

『うわあああ! ピカピカになってるwww』
『余計なことをwww』
『シルバー・コックローチ爆誕』
『輝いてる分、ディテールがはっきり見えて地獄』
『防御力上がってんじゃねーか!』
『掃除が裏目に出た初めてのケース』

「くっ、怯むな! もう一度魔法で……ホーリー・レイ!」

 セシリアが再び光魔法を放つ。
 閃光が先頭のG――いや、プラチナ・コックローチに直撃した。

 カィィィン!!

 硬質な音が響いた。
 魔法の光は、鏡面化した背中で完璧に反射(リフレクト)され、そのままソウジたちの足元へと跳ね返ってきた。

 ドカーーン!!

「うわぁぁぁ!?」

 爆風に吹き飛ばされる一行。
 Gのスキル【鏡面反射(ハイパー・リフレクション)】の発動だ。

「は、跳ね返された!? 魔法が効きません!」

 剣崎が渾身の力で鞄を叩きつけるが、表面が滑らかすぎてツルンと滑り、勢い余って剣崎が盛大に転ぶ。そしてGの群れに突っ込みそうになる。

「うわぁーー! 物理もダメだ! ツルツル滑って攻撃が通らねぇ!」

 絶望的な状況に、ソウジはガクリと膝をついた。
 彼の脳裏に、数時間前の駄菓子屋での会話が蘇る。

『塩の粒子で研磨するんです。表面を削って、ツルツルに磨き上げるんですよ』

「しまっ……!」

 ソウジは頭を抱えた。

「茶渋の『研磨』と同じだ! 俺はこいつらを……『ワックス掛け』しちまったんだ!」

 ただでさえ強敵だった「黒の捕食者」を、自らの手で「白銀の無敵要塞」へと進化させてしまった。
 掃除屋としての技術(スキル)が、最悪の形で牙を剥いた瞬間だった。

『塩研磨の伏線回収そこかよwww』
『まさかの敵へのバフ(強化)』
『磨けば光る原石(G)だったか……』
『詰んだ』
『誰か殺虫剤持ってこい!』

 輝くGの大群が、一斉に羽を広げる。
 その光景は、もはや悪夢を超えた地獄絵図だった。

(続く)
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