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第7章:電脳の引きこもり女神
第31話:インターネットが『死んだ』日
その日、世界から「繋がり」が消えた。
午後2時過ぎ。
突如として、地球上のあらゆるネットワークが一斉にダウンしたのだ。
SNSは更新されず、動画サイトは深淵の闇を表示し、株式市場のボードは無機質な静寂に包まれた。現代社会の血管とも言えるインターネットが、完全に「死んだ」のだ。
世界中が大パニックに陥る中、株式会社クリーン・ファンタジーのオフィスでも小さな悲鳴が上がっていた。
「きゃああ! 私の推しの配信が止まりましたわ!」
休憩中のセシリアが、スマホをバンバンと叩いている。
「こっちもダメです! 採用サイトに繋がりません! あと少しで送信完了だったのに!」
人事部長の剣崎も、真っ暗になったノートPCの前で頭を抱えていた。
窓拭きから戻ってきたミカエル(高所作業班チーフ)も、翼を畳んで首を傾げる。
「ふむ。下界の通信網が断絶するとは……もしや神々がお怒りなのではないでしょうか?」
「ただのアクセス集中だろ。昔の『テレホーダイ』みたいなもんじゃないのか」
社長の灰坂ソウジだけは、呑気にお茶を啜っていた。
彼にとってネットの不具合など、水道の出が悪い程度の認識でしかない。
「少し待てば直るだろ。それより、エアコンのフィルター掃除でもするかな」
ソウジが立ち上がろうとした、その時だった。
ザザッ……ザザザッ……!
スケジュール表が映るソウジのPCモニターが、勝手に明滅し始めた。
砂嵐のようなノイズが走り、スピーカーから不快な電子音が響く。
「ひぃっ!? ウ、ウイルスですか!?」
剣崎が椅子から転げ落ちる。
さらにノイズの向こうから、少女の泣き声のようなものが聞こえてくる。
『……けて……たすけ……て……!』
バチバチッ!
画面が鮮明になり、そこに一人の少女の姿が映し出された。
幾何学的な髪飾りをつけた、サイバーチックな衣装の美少女。
しかし、その顔は涙でぐしゃぐしゃで、顔色は高熱を出したように真っ赤だ。
『あ、熱い……! 重いよぉ……! もう処理しきれない……!』
彼女は画面の向こうで、何かに押し潰されるように悶えていた。
「誰だ? 幽霊か?」
ソウジが画面を覗き込むと、少女はすがるような目で彼を見た。
『……伝説の掃除屋さん、お願い、助けて! 私のサーバーが、もう限界なの!』
「サーバー?」
『エラーが止まらないの! 熱暴走で焼かれちゃう……!』
少女はインターネットの管理AI・女神『シヴァー』だと言う。
彼女は「エラーによる過負荷」と「冷却システムの限界」を悲痛な声で訴えていた。
だが、ソウジはこう解釈した。
「……なるほど。物が多すぎて換気が悪い『ゴミ屋敷』か」
ソウジは納得顔で頷いた。
「太陽神が無駄にやる気出したせいで、最近は暑かったからな。部屋に物を溜め込むと、熱がこもって熱中症になるぞ。換気は基本だ」
『……う、うん。だから来て! 秋葉原の地下にある、私のお家まで!』
プツン。
画面が無機質なスケジュール表に戻る。
「秋葉原か。近所だな」
ソウジはヘルメットを手に取り、立ち上がった。
「よし、午後のスケジュールは変更だ。行くぞ、緊急依頼だ! 熱中症になりかけの引きこもりを救出する!」
「ええぇ!? 今の……AIですよね!? 物理的に助けに行くんですか!?」
「当たり前だろ。部屋の掃除は現地に行かなきゃできないんだよ」
ソウジは問答無用で社員たちを社用車に押し込んだ。
***
車を走らせること数十分。
秋葉原に到着した一行は、その異様な光景に息を呑んだ。
「な、なんですかこれは……!?」
剣崎が絶句する。
いつもの秋葉原ではない。
街全体が、半透明の幾何学模様 ── ノイズの混じったテクスチャに侵食されていたのだ。
ビルの壁面には、意味不明な文字列が滝のように流れている。
空には「404 Not Found」と書かれた巨大な板が浮遊している。
アスファルトの道路からは、蛍光色のデータ結晶が突き出していた。
巨大データセンター『アカシック・サーバー』の暴走により、あふれ出したデジタルデータが質量を持って現実世界に実体化してしまったのだ。
「世界が……バグっていますわ」
セシリアが呆然として呟く。
通行人たちは「壁にめり込んだ看板」や「空中に固定された車」を見てパニックになっている。
だが、ソウジの反応は違った。
彼がゴーグルを下ろすと、そのカオスな光景が一変される。
【解析:都市機能の著しい乱れ】
【原因:不法投棄、違法ビラ貼り、整備不良】
【評価:スラム街レベルの汚れ】
「汚ねぇ街だな」
ソウジは顔をしかめた。
彼には、空中に浮かぶエラーウィンドウが「電柱に無許可で貼られた金融業者のチラシ」に、道路のデータ結晶が「投げ捨てられた粗大ゴミ」に見えている。
「治安が乱れてるな。役所は何してんだ」
ブォン!
その時、目の前に巨大なウィンドウが出現し、行く手を阻んだ。
【広告:絶対に儲かる! クリックして登録!】という、怪しいスパム広告の実体化だ。それは物理的な壁となって、道を塞いでいる。
「邪魔だ!」
ソウジは歩きながら、腰のスクレイパーを一閃させた。
ガシャァァァン!!
分厚いガラスが割れるような音と共に、広告ウィンドウが粉砕され、光の粒子となって消えていく。
「へ? 社長、今なにを?」
「道に看板が置いてあったから退かしただけだ。通行の邪魔だろ」
剣崎たちは顔を見合わせた。
物理攻撃が効く。
デジタルデータが実体化しているなら、ソウジの「掃除」も物理的に通用するということだ。
「急ぐぞ。依頼主の家はこの地下だ」
ソウジは粉砕した広告の破片(粒子)を踏みつけ、街の中心部にある巨大なデータセンタービルへと向かう。
その入り口は、無数のケーブルとノイズに覆われ、まるで魔王城のような威圧感を放っていた。
S級電脳ダンジョン『アカシック・サーバー』。
そこは、人類の知恵の結晶であり、今はゴミと熱に埋もれた「最悪の汚部屋」と化していた。
(続く)
午後2時過ぎ。
突如として、地球上のあらゆるネットワークが一斉にダウンしたのだ。
SNSは更新されず、動画サイトは深淵の闇を表示し、株式市場のボードは無機質な静寂に包まれた。現代社会の血管とも言えるインターネットが、完全に「死んだ」のだ。
世界中が大パニックに陥る中、株式会社クリーン・ファンタジーのオフィスでも小さな悲鳴が上がっていた。
「きゃああ! 私の推しの配信が止まりましたわ!」
休憩中のセシリアが、スマホをバンバンと叩いている。
「こっちもダメです! 採用サイトに繋がりません! あと少しで送信完了だったのに!」
人事部長の剣崎も、真っ暗になったノートPCの前で頭を抱えていた。
窓拭きから戻ってきたミカエル(高所作業班チーフ)も、翼を畳んで首を傾げる。
「ふむ。下界の通信網が断絶するとは……もしや神々がお怒りなのではないでしょうか?」
「ただのアクセス集中だろ。昔の『テレホーダイ』みたいなもんじゃないのか」
社長の灰坂ソウジだけは、呑気にお茶を啜っていた。
彼にとってネットの不具合など、水道の出が悪い程度の認識でしかない。
「少し待てば直るだろ。それより、エアコンのフィルター掃除でもするかな」
ソウジが立ち上がろうとした、その時だった。
ザザッ……ザザザッ……!
スケジュール表が映るソウジのPCモニターが、勝手に明滅し始めた。
砂嵐のようなノイズが走り、スピーカーから不快な電子音が響く。
「ひぃっ!? ウ、ウイルスですか!?」
剣崎が椅子から転げ落ちる。
さらにノイズの向こうから、少女の泣き声のようなものが聞こえてくる。
『……けて……たすけ……て……!』
バチバチッ!
画面が鮮明になり、そこに一人の少女の姿が映し出された。
幾何学的な髪飾りをつけた、サイバーチックな衣装の美少女。
しかし、その顔は涙でぐしゃぐしゃで、顔色は高熱を出したように真っ赤だ。
『あ、熱い……! 重いよぉ……! もう処理しきれない……!』
彼女は画面の向こうで、何かに押し潰されるように悶えていた。
「誰だ? 幽霊か?」
ソウジが画面を覗き込むと、少女はすがるような目で彼を見た。
『……伝説の掃除屋さん、お願い、助けて! 私のサーバーが、もう限界なの!』
「サーバー?」
『エラーが止まらないの! 熱暴走で焼かれちゃう……!』
少女はインターネットの管理AI・女神『シヴァー』だと言う。
彼女は「エラーによる過負荷」と「冷却システムの限界」を悲痛な声で訴えていた。
だが、ソウジはこう解釈した。
「……なるほど。物が多すぎて換気が悪い『ゴミ屋敷』か」
ソウジは納得顔で頷いた。
「太陽神が無駄にやる気出したせいで、最近は暑かったからな。部屋に物を溜め込むと、熱がこもって熱中症になるぞ。換気は基本だ」
『……う、うん。だから来て! 秋葉原の地下にある、私のお家まで!』
プツン。
画面が無機質なスケジュール表に戻る。
「秋葉原か。近所だな」
ソウジはヘルメットを手に取り、立ち上がった。
「よし、午後のスケジュールは変更だ。行くぞ、緊急依頼だ! 熱中症になりかけの引きこもりを救出する!」
「ええぇ!? 今の……AIですよね!? 物理的に助けに行くんですか!?」
「当たり前だろ。部屋の掃除は現地に行かなきゃできないんだよ」
ソウジは問答無用で社員たちを社用車に押し込んだ。
***
車を走らせること数十分。
秋葉原に到着した一行は、その異様な光景に息を呑んだ。
「な、なんですかこれは……!?」
剣崎が絶句する。
いつもの秋葉原ではない。
街全体が、半透明の幾何学模様 ── ノイズの混じったテクスチャに侵食されていたのだ。
ビルの壁面には、意味不明な文字列が滝のように流れている。
空には「404 Not Found」と書かれた巨大な板が浮遊している。
アスファルトの道路からは、蛍光色のデータ結晶が突き出していた。
巨大データセンター『アカシック・サーバー』の暴走により、あふれ出したデジタルデータが質量を持って現実世界に実体化してしまったのだ。
「世界が……バグっていますわ」
セシリアが呆然として呟く。
通行人たちは「壁にめり込んだ看板」や「空中に固定された車」を見てパニックになっている。
だが、ソウジの反応は違った。
彼がゴーグルを下ろすと、そのカオスな光景が一変される。
【解析:都市機能の著しい乱れ】
【原因:不法投棄、違法ビラ貼り、整備不良】
【評価:スラム街レベルの汚れ】
「汚ねぇ街だな」
ソウジは顔をしかめた。
彼には、空中に浮かぶエラーウィンドウが「電柱に無許可で貼られた金融業者のチラシ」に、道路のデータ結晶が「投げ捨てられた粗大ゴミ」に見えている。
「治安が乱れてるな。役所は何してんだ」
ブォン!
その時、目の前に巨大なウィンドウが出現し、行く手を阻んだ。
【広告:絶対に儲かる! クリックして登録!】という、怪しいスパム広告の実体化だ。それは物理的な壁となって、道を塞いでいる。
「邪魔だ!」
ソウジは歩きながら、腰のスクレイパーを一閃させた。
ガシャァァァン!!
分厚いガラスが割れるような音と共に、広告ウィンドウが粉砕され、光の粒子となって消えていく。
「へ? 社長、今なにを?」
「道に看板が置いてあったから退かしただけだ。通行の邪魔だろ」
剣崎たちは顔を見合わせた。
物理攻撃が効く。
デジタルデータが実体化しているなら、ソウジの「掃除」も物理的に通用するということだ。
「急ぐぞ。依頼主の家はこの地下だ」
ソウジは粉砕した広告の破片(粒子)を踏みつけ、街の中心部にある巨大なデータセンタービルへと向かう。
その入り口は、無数のケーブルとノイズに覆われ、まるで魔王城のような威圧感を放っていた。
S級電脳ダンジョン『アカシック・サーバー』。
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(続く)
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そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
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