追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ

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第8章:東京クリーンアップ・ウォーズ

第36話:『東京クリーンアップ・ウォーズ』開催

 夏の日差しがアスファルトを焦がす、8月の東京・新宿。
 普段なら観光客や買い物客で賑わう大通りが、今日は異様な熱気に包まれていた。

「さあ、始まりました! 東京都主催、『第1回・東京クリーンアップ・ウォーズ』! 都内の『ダンジョン化しかけたエリア(吹き溜まり)』を、誰が一番綺麗にできるかを競う、真夏のボランティア決戦です!」

 特設ステージのアナウンサーが絶叫し、カメラのフラッシュが焚かれる。
 集まったのは、都内屈指の探索者クランたち。彼らは皆、最新鋭の装備に身を包み、闘志を燃やしていた。

 そんな中、明らかに場違いな集団がいた。
 使い古したグレーの作業着(ツナギ)に、首元のタオル。
 武器ではなく、デッキブラシとトングを手にした男たち──株式会社クリーン・ファンタジーの一行だ。

「社長! 見ましたかこの『優勝の副賞』! これですよ、これ!」

 人事部長の剣崎が、パンフレットを握りしめて興奮している。
 普段の冷静な彼からは想像もつかないほど、鼻息が荒い。

「落ち着けよ。金に困ってるわけじゃないだろ。オリハルコンの積立金、まだ使い切れてねぇぞ」

 ソウジは呆れたように言った。
 この会社は、創業時に手に入れた「オリハルコンの山(数兆円相当)」に加え、太陽神やNASAからの報酬で、資金だけは潤沢にある。
 今さら賞金程度で騒ぐ理由はないはずだ。

「お金じゃありません! ここを見てください!」

 剣崎が指差したのは、パンフレットの隅にある『特別ゲスト』の欄だった。

「今回の一日都知事は、あの大人気ダンジョンアイドル『ミラクル・ミミちゃん』なんですよ! 優勝チームには、彼女から直接表彰状と、『ハグ付きツーショット撮影権』が授与されるんです!」

「……誰だそれ?」

「信じられませんわソウジ様! ミミちゃんをご存じないなんて!」

 食い気味に割り込んできたのは、聖女セシリアだ。
 彼女もまた、頬を紅潮させ、どこから取り出したのか『ミミちゃん公式ペンライト』を握りしめている。

「彼女こそ、歌と踊りで迷える魂を救済する『現代の聖女』! D-Tube登録者数1000万人越えのカリスマですわ! バチカンの寮でも、シスター達がこっそり隠れて推してましたのよ!」

「お、おう……セシリアも好きなのか?」

「『好き』という言葉では軽すぎます! 尊いのです! 特に3rdシングルの『ダンジョン・ラブ・パニック』のサビの振り付けはサンクチュアリですわ!」

「おおっ! 分かりますか聖女殿! あそこのステップ、最高ですよね!」

「ええ! 剣崎さんもお目が高いですわね!」

 ガシィッ!
 剣崎とセシリアが、熱い握手を交わした。
 普段は「上司と部下」「おじさんと少女」という距離感の二人が、今この瞬間、「同志」として結束したのだ。

「絶対に優勝しましょう! ミミちゃんの尊いハグをいただくために、新宿のゴミを根絶やしにしますわ!」

「その通りだ! 認知をもらうチャンスは今しかない!」

 二人は目を血走らせ、拳を突き上げた。
 背景に燃え盛るオーラが見える。

「……お前らなぁ」

 ソウジは頭を抱えた。
 まともな動機の奴はいないのか。

「ミカエル、お前はどうなんだ? まさかお前もアイドル目当てじゃ……」

「いえ。私はただ、下界の汚れが許せないだけです」

 背中に白い翼を生やした美少年・ミカエルだけは、涼しい顔で空を見上げている。
 ソウジはホッと胸を撫で下ろした。

「そうか。お前だけが良心だ──」

「あそこの電線に、風船が引っかかっていますね。『景観を乱す罪』で、所有者を特定して天罰を下すべきでは?」

「……前言撤回だ。お前が一番物騒だわ」

 ソウジは愛用のトングのカチカチ具合を確認し、深くため息をついた。

「マスターの雄姿を全世界に見せつけるチャンスです! これぞ『東京全土・ダンジョン化計画(お掃除)』の第一歩ですね!」

 秘書のコアちゃん(元ダンジョン・コア)も、物騒なことを言いながらComeProを回している。

「ま、動機はどうあれ、やる気があるならいいけどよ。……行くぞ」

 と、その時だった。

「おいおい、なんだその貧相な装備は? ここはお遊びの場所じゃねぇんだぞ?」

 威圧的な声と共に、金属の擦れる音が響いた。
 現れたのは、全身を真紅のフルプレートアーマーで固めた、大柄な男たちだった。
 背中には巨大な「火炎放射器のような杖」を背負い、胸にはライオンのエンブレムが輝いている。

「出た……! 武闘派最大手クラン、『ブレイブ・ナイツ』!」

 剣崎が息を呑む。
 リーダーらしき赤髪の男──通称『紅蓮のレオ』が、ソウジを見下して鼻を鳴らした。

「掃除屋風情がしゃしゃり出るなよ。貴様らのような軽装じゃ、今日の汚れ(モンスター)に食われるのがオチだ」

「……その金属鎧、カチャカチャうるさいな。狭い路地に入るとき邪魔だぞ? あと、関節部分に油差したほうがいい」

「あぁン!? 俺は忠告してやってんだよ!」

 レオが凄むが、ソウジは「あーはいはい」と聞き流す。
 彼にとって、この重装備集団は「動きにくそうなコスプレ集団」にしか見えていない。

「いいか、よく見ていろ! 我ら『ブレイブ・ナイツ』が掲げる正義(ジャスティス)こそが、真の掃除だということをな!」

 『パンッ!』

 その時、開始のピストルが鳴り響いた。
 競技スタートだ。

「行くぞ野郎ども! 汚物は消毒だァァッ!!」

 レオが叫ぶと同時に、彼らは背中の杖を構えた。
 その先端から、紅蓮の炎が噴き出した。

 ゴォォォォォォォォッ!!!

「なっ!?」

 剣崎が絶叫する。
 彼らが狙ったのは、路地裏に積み上げられた「燃えるゴミ」と「粗大ゴミ」の山──そして、そこに潜んでいた低級モンスター(スライム)たちだ。
 ゴミの山が、一瞬にして巨大な火柱と化した。

「見たか! これが俺たちの清掃術、『プロミネンス・パージ(焼却)』だ! ゴミもモンスターも、灰にしてしまえば拾う手間も省ける!」

 レオが高笑いする。
 魔法による焼却。一見すれば、豪快で効率的な処理に見えるかもしれない。

 だが。
 ただ一人。
 灰坂ソウジだけは、鬼のような形相で震えていた。

「……おい」

 地を這うような低い声。
 ソウジが、炎の前に立ちはだかった。

「あ? なんだ掃除屋、邪魔すんじゃ……」

「消せ」

 ソウジの声に、場の空気が凍りついた。
 彼はゴーグルの奥で、静かに、しかし確実にブチ切れていた。

「てめぇら……バカなのか? そこにあるのは『ビニール傘』と『プラスチック容器』だぞ!?」

「は? だからなんだ。燃やせば消えるだろ」

「消えるかボケェッ!!」

 ソウジの怒号が新宿に響き渡った。

「プラスチックを低温焼却したらどうなるか知ってんのか!? 不完全燃焼で黒煙が出るだろ! ダイオキシンが発生するだろ! 近隣住民に迷惑がかかるだろうが!!」

 彼はトングを突きつけ、レオに説教を開始した。

「掃除ってのはな、『無に帰す』ことじゃねぇんだよ! 『あるべき場所(処理場)へ正しく導く』ことだ!
 野焼きは法律で禁止されてんだよ! 環境省のガイドラインを読んできやがれ!」

「か、環境省……?」

 レオたちがポカンとする。
 彼らは「魔物を浄化する」つもりだったが、ソウジには「近所の迷惑なオヤジがゴミを燃やしている」ようにしか見えていなかった。

「ふん! 御託はいい! 結果が全てだ! 俺たちは灰(燃えるゴミ)だけを回収して優勝する!」

 レオはソウジを無視し、さらに炎の勢いを強めようとした。
 黒い煙がモクモクと上がり、空を汚していく。

「……上等だ」

 ソウジはトングをカチリと鳴らし、背後の社員たちに指示を出した。

「総員、戦闘(清掃)開始だ。
 あの『素人』共に教えてやるぞ。
 ──本物のプロの仕事(ゴミ拾い)ってヤツをな」

 S級清掃員 vs 武闘派探索者。
 新宿を舞台にした、仁義なきゴミ拾いバトルが幕を開けた。

(続く)
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