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第9章:富士山大噴火
第41話:日本沈没の危機と、荒ぶる『給湯器』
『──繰り返しお伝えします! 富士山火口に位置するS級ダンジョン【ナラカ】において、過去最大規模の魔力異常を観測! 大量のマグマと共に、S級の鬼系モンスターが火口から溢れ出しつつあります!』
テレビの画面越しに、緊迫した顔のアナウンサーが絶叫している。
映し出されているのは、黒煙を上げ、赤々とした溶岩を吐き出し始めた日本最大の霊峰・富士山の姿だった。
『政府は先ほど、関東一円に【国家非常事態宣言】を発令! 近隣住民は直ちに──』
ピーッ! ピーッ!
スマートフォンから鳴り響くけたたましい緊急アラート音が、株式会社クリーン・ファンタジーのオフィスに鳴り響いていた。
「お、終わりました……! 日本沈没です! 俺たちのボーナスが……いや、命が火砕流で消し飛びます!」
人事部長の剣崎が、頭を抱えて床を転げ回っている。
つい数週間前、ゴミ拾い大会で優勝して歓喜の涙を流していた男の姿はそこにはない。あるのは、大自然の脅威を前にした一人の哀れな小市民だ。
「主よ、どうかこの試練を乗り越える力を……!」
聖女セシリアも、テレビの前で十字を切って必死に祈りを捧げている。
富士山の大噴火。
それは単なる自然災害ではない。ダンジョン化した火口から溢れ出すのは、神話クラスの強さを持つ『地獄の軍勢』だ。
討伐に向かった自衛隊やトップクランの探索者たちも、あまりの熱と有毒ガスに阻まれ、すでに撤退を余儀なくされているという。
まさに、日本滅亡のカウントダウン。
オフィスが絶望に包まれる中──。
「……おい」
給湯室の方から、ひどく低い、地を這うような声が聞こえた。
絶望の底にいる剣崎たちでさえ、思わず背筋が凍るほどの「ガチギレ」の声。
「社長……?」
剣崎が恐る恐る振り返ると、そこには、愛用のマグカップを手にした社長・灰坂ソウジが立っていた。
彼の首元のタオルは湯気で湿り、無骨なゴーグルの奥の目は、静かに怒りで血走っている。
「剣崎。このオフィスの『給湯器』、最近メンテナンスしたか?」
「は? きゅ、給湯器ですか? いえ、特にいじってませんが……それより社長、今は富士山が──」
「ちょっとこれを見てみろ」
ソウジに手招きされ、剣崎とセシリアが給湯室を覗き込む。
そこにある蛇口からは、水やお湯ではなく──ボコボコボコッ!! と、異常な勢いで『熱湯と白煙(蒸気)』が噴き出していた。
「ひぃっ!? 熱っ! なんですかこれ!?」
「ただの蛇口から、温泉の源泉みたいな熱湯が……!」
「最悪だ」
ソウジは舌打ちをして、蛇口のバルブを力任せに閉めた。
「関東一円の温水インフラを支えてる『地下のメインボイラー』が、完全にオーバーヒート(異常過熱)してやがる」
「……地下の、メインボイラー?」
剣崎が首を傾げる。
ソウジの【真実の魔眼(解析ゴーグル)】には、テレビで報じられている「富士山のマグマ溜まりの異常」が、とんでもない形に翻訳されて映っていた。
【解析:地下巨大ボイラーの圧力異常】
【状態:安全弁の固着による蒸気充満】
【警告:配管破裂(爆発)の危険性・極大】
「テレビの『圧力ゲージ(マグマ水位計)』を見たか? 完全にレッドゾーンだぞ。あんなの、安全弁(リリーフバルブ)が壊れて圧力が逃げなくなってる証拠だ」
ソウジはマグカップをドンッと流し台に置いた。
「このまま放置してみろ。圧力が限界を超えて、ボイラーが爆発(噴火)するぞ! 街が吹っ飛ぶ大事故になる!」
「いや、社長! ボイラーって言うか、あれ『富士山』ですよ!? 大自然の脅威ですよ!?」
「自然だろうが人工だろうが関係ねぇ! 水回りのトラブルは24時間待ったなしだ!」
ソウジは壁に掛けられたロッカーを開け、次々と機材を取り出し始めた。
「ボイラーの過熱原因の9割は『サビ』か『スケール(水垢)』の詰まりだ。配管がガチガチに固まって、熱交換器がいかれてるに違いねぇ」
「社長、本気ですか……! 相手はマグマと地獄の鬼ですよ!?」
「鬼だか何だか知らねぇが、俺のコーヒーの邪魔をした罪は重い。出張修理に行くぞ」
ソウジが振り返り、ニヤリと笑った。
その手には、太陽で大活躍した、あの耐熱服が握られている。
「剣崎、セシリア! ミカエルとコアちゃんも呼べ! 【ソーダ・アイス・スーツ】を着込め! ガスマスクも忘れるなよ!」
「ああもう! またあのベタベタする冷却服を着るんですか!? 今回は太陽じゃなくて火山ですよ!」
「文句を言うな! 当たりが出たらもう一本だぞ!」
剣崎のツッコミも虚しく、株式会社クリーン・ファンタジーは「ボイラー修理」という名目で、地獄と化した富士山火口への出動準備を完了させた。
日本政府が国家の存亡をかけて絶望する中、一人の清掃員だけは「給湯器の詰まり」に腹を立てていた。
世界一ズレた出張修理のバンが、避難民の車列を逆走し、サイレンを鳴らしながら霊峰・富士へと爆走していく。
(続く)
テレビの画面越しに、緊迫した顔のアナウンサーが絶叫している。
映し出されているのは、黒煙を上げ、赤々とした溶岩を吐き出し始めた日本最大の霊峰・富士山の姿だった。
『政府は先ほど、関東一円に【国家非常事態宣言】を発令! 近隣住民は直ちに──』
ピーッ! ピーッ!
スマートフォンから鳴り響くけたたましい緊急アラート音が、株式会社クリーン・ファンタジーのオフィスに鳴り響いていた。
「お、終わりました……! 日本沈没です! 俺たちのボーナスが……いや、命が火砕流で消し飛びます!」
人事部長の剣崎が、頭を抱えて床を転げ回っている。
つい数週間前、ゴミ拾い大会で優勝して歓喜の涙を流していた男の姿はそこにはない。あるのは、大自然の脅威を前にした一人の哀れな小市民だ。
「主よ、どうかこの試練を乗り越える力を……!」
聖女セシリアも、テレビの前で十字を切って必死に祈りを捧げている。
富士山の大噴火。
それは単なる自然災害ではない。ダンジョン化した火口から溢れ出すのは、神話クラスの強さを持つ『地獄の軍勢』だ。
討伐に向かった自衛隊やトップクランの探索者たちも、あまりの熱と有毒ガスに阻まれ、すでに撤退を余儀なくされているという。
まさに、日本滅亡のカウントダウン。
オフィスが絶望に包まれる中──。
「……おい」
給湯室の方から、ひどく低い、地を這うような声が聞こえた。
絶望の底にいる剣崎たちでさえ、思わず背筋が凍るほどの「ガチギレ」の声。
「社長……?」
剣崎が恐る恐る振り返ると、そこには、愛用のマグカップを手にした社長・灰坂ソウジが立っていた。
彼の首元のタオルは湯気で湿り、無骨なゴーグルの奥の目は、静かに怒りで血走っている。
「剣崎。このオフィスの『給湯器』、最近メンテナンスしたか?」
「は? きゅ、給湯器ですか? いえ、特にいじってませんが……それより社長、今は富士山が──」
「ちょっとこれを見てみろ」
ソウジに手招きされ、剣崎とセシリアが給湯室を覗き込む。
そこにある蛇口からは、水やお湯ではなく──ボコボコボコッ!! と、異常な勢いで『熱湯と白煙(蒸気)』が噴き出していた。
「ひぃっ!? 熱っ! なんですかこれ!?」
「ただの蛇口から、温泉の源泉みたいな熱湯が……!」
「最悪だ」
ソウジは舌打ちをして、蛇口のバルブを力任せに閉めた。
「関東一円の温水インフラを支えてる『地下のメインボイラー』が、完全にオーバーヒート(異常過熱)してやがる」
「……地下の、メインボイラー?」
剣崎が首を傾げる。
ソウジの【真実の魔眼(解析ゴーグル)】には、テレビで報じられている「富士山のマグマ溜まりの異常」が、とんでもない形に翻訳されて映っていた。
【解析:地下巨大ボイラーの圧力異常】
【状態:安全弁の固着による蒸気充満】
【警告:配管破裂(爆発)の危険性・極大】
「テレビの『圧力ゲージ(マグマ水位計)』を見たか? 完全にレッドゾーンだぞ。あんなの、安全弁(リリーフバルブ)が壊れて圧力が逃げなくなってる証拠だ」
ソウジはマグカップをドンッと流し台に置いた。
「このまま放置してみろ。圧力が限界を超えて、ボイラーが爆発(噴火)するぞ! 街が吹っ飛ぶ大事故になる!」
「いや、社長! ボイラーって言うか、あれ『富士山』ですよ!? 大自然の脅威ですよ!?」
「自然だろうが人工だろうが関係ねぇ! 水回りのトラブルは24時間待ったなしだ!」
ソウジは壁に掛けられたロッカーを開け、次々と機材を取り出し始めた。
「ボイラーの過熱原因の9割は『サビ』か『スケール(水垢)』の詰まりだ。配管がガチガチに固まって、熱交換器がいかれてるに違いねぇ」
「社長、本気ですか……! 相手はマグマと地獄の鬼ですよ!?」
「鬼だか何だか知らねぇが、俺のコーヒーの邪魔をした罪は重い。出張修理に行くぞ」
ソウジが振り返り、ニヤリと笑った。
その手には、太陽で大活躍した、あの耐熱服が握られている。
「剣崎、セシリア! ミカエルとコアちゃんも呼べ! 【ソーダ・アイス・スーツ】を着込め! ガスマスクも忘れるなよ!」
「ああもう! またあのベタベタする冷却服を着るんですか!? 今回は太陽じゃなくて火山ですよ!」
「文句を言うな! 当たりが出たらもう一本だぞ!」
剣崎のツッコミも虚しく、株式会社クリーン・ファンタジーは「ボイラー修理」という名目で、地獄と化した富士山火口への出動準備を完了させた。
日本政府が国家の存亡をかけて絶望する中、一人の清掃員だけは「給湯器の詰まり」に腹を立てていた。
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(続く)
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