追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ

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第9章:富士山大噴火

第43話:最悪の詰まり『獣脂(牛)と毛髪(馬)』

 サビ(赤鬼・青鬼)を溶かして落としたクリーン・ファンタジーの一行は、さらに火口の奥深く──マグマが波打つ大空洞へと降下していた。
 そこは、地下の超高圧マグマが地上へと一気に逆流しようとしている「噴火の震源地」である。

「ひぃぃ……っ! マグマの海ですよ社長! スーツのおかげで熱くはないですが、視覚的な恐怖がエグいです!」

 剣崎がロープ伝いに降りながら、眼下に広がる灼熱の海を見て悲鳴を上げる。
 だが、ソウジの視線はマグマそのものではなく、そのマグマを地上へ向かって力任せに「押し上げている」異常な存在に向けられていた。

「……おい。なんだ、あの最悪の光景は」

 ソウジが顔をしかめ、心底嫌そうに吐き捨てた。
 マグマ溜まりの中心。そこには、地獄の先兵として名高いS級上位の鬼たちが、ぎっしりとスクラムを組んで道を塞いでいた。

『ブモォォォォォッ!!(地上ヲ火ノ海ニ変エロ!)』
『ヒヒィィィンッ!!(我ラガ地獄ノ先陣ヲ切ル!)』

 筋骨隆々の巨体に牛の頭を持つ魔神、『牛頭(ごず)』。
 そして、同じく屈強な肉体に馬の頭を持つ魔神、『馬頭(めず)』。
 数万匹にも及ぶ彼らの大群が、圧倒的な質量と魔力で「栓」となり、行き場を失ったマグマの圧力を限界まで高めていたのだ。

『牛頭馬頭キタアアアアア!』
『S級上位が数万匹とか、完全に日本の終わり』
『自衛隊の一個師団でも勝てないぞアレ……』
『さすがの清掃会社もこれは無理だろ』
『撤退しろおおお!』

 画面越しの視聴者が絶望する中、ソウジはゴーグルの奥でギリッと歯ぎしりをした。

「……うげぇ。配管清掃で『一番見たくないヤツ』じゃねぇか」

「見たくないヤツ?」

 剣崎が首を傾げる。
 ソウジの目には、恐るべき地獄の軍団が、まったく別の「おぞましい物体」に翻訳されていた。

【解析:排水管深部の深刻な閉塞】
【主成分:大量の動物性油脂(牛脂)および毛髪(馬の毛)】
【状態:極めて強固なファットバーグ(油脂の塊)】

「見ろ、剣崎! あの『牛頭』ってのは、冷えて白く固まった『ラード(牛脂)』だ! そしてあの『馬頭』は、排水溝に絡みついた大量の『毛髪(馬の毛)』だ!」

「はぁ? ラードと髪の毛……?」

「そうだ! 誰だよ、油をそのままシンクに流したバカは! 毛髪と絡み合って、配管の奥で巨大な『ファットバーグ(油脂の塊)』に成長してやがる!」

 ソウジはトングをカチカチと威嚇するように鳴らした。
 配管内に流れ込んだ油は、冷えて固まると石のように硬くなる。そこに髪の毛やゴミが絡みつけば、どんな強力な薬剤でも容易には溶かせない最悪の「詰まり」へと変貌するのだ。

「あれが完全に『栓』になって、ボイラーの圧力が逃げなくなってるんだ! このままじゃ、マジで配管(富士山)が破裂するぞ!」

「なるほど、そういうことでしたか!」

 剣崎が(ズレた方向に)納得して頷く。

「社長! ここは私が先ほどの『スライム・サリバー・オメガ』を散布します! 酸で溶かしてやりましょう!」

「待て剣崎! そいつは──」

 ソウジの制止をよそに、剣崎がオリハルコンノズルを構え、緑色の酸性洗浄剤を牛頭馬頭の大群に向かって噴射した。

 ブシュゥゥゥゥッ!!

『ム? 何ダ、コノ緑ノ水ハ?』

 劇薬が牛頭の強靭な肉体に直撃する。
 しかし、先ほどの赤鬼たちのように「シュワシュワ」と溶ける気配はない。表面がわずかに変色し、チリチリと煙を上げるだけだ。

『ブハハハッ! 人間ドモメ、我ラノ『剛毛』ト『厚キ脂肪』ノ前ニハ、カヨワキ魔法ナゾ通用センワ!』

 牛頭と馬頭が腹を抱えてゲラゲラと嘲笑う。
 剣崎が驚愕してノズルを下ろした。

「な、なんてことだ……! 最強のサビ取り剤が効かない!?」

「だから待てと言ったんだ」

 ソウジが呆れたようにため息をついた。

「酸は『サビ(酸化鉄)やカルシウム』には効くが、『油と毛の塊』を溶かすのには時間がかかりすぎるんだよ。あんな分厚い脂肪(ラード)の層を溶かし切る前に、こっちの洗剤が空になっちまう」

「そ、そんな……! じゃあどうすれば!?」

「簡単だ」

 ソウジはバンの荷台から、見慣れない「漆黒の太いホース」を引きずり出してきた。
 その先端には、金属製の奇妙なノズルが取り付けられている。いくつもの噴射口が、まるで八つの頭を持つ大蛇のように全方位を向いている、特殊な形状のツール。

「油と毛が絡まった最悪の『詰まり(ファットバーグ)』。こいつを抜くには、薬剤に頼らず、物理的に粉砕して『貫通』させるしかねぇ」

 ソウジは漆黒のホースを、専用の超高圧コンプレッサーに接続した。

「配管清掃の最終兵器。──【業務用・洗管ホース(ヤマタノノズル)】の出番だ。力技でぶち抜くぞ!」

 ソウジが不敵に笑い、漆黒のホースがまるで生き物のように「ギチチチッ」と身をよじらせた。
 地獄の軍団に対する、容赦のない「清掃」が今、始まろうとしていた。

(続く)
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