追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ

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最終章(こちらだけ15話構成です)

第49話:聖女と天使の「応急処置」

 南極ダンジョン【白き終焉】の崩壊は、もはや止まらなかった。

 強アルカリ性の漂白剤(未知のバグ)によって完全に素材が死んだ氷床は、ソウジが撒いた酸性の中和剤すらも受け付けず、サラサラと白い粉になって虚無へと崩れ落ちていく。

「うわああああッ! 床が! 床が抜けますゥゥゥッ!」

 足元の氷が消滅し、真っ暗な穴に吸い込まれそうになった剣崎が、必死にソウジのツナギの裾にしがみついた。
 周囲では、色抜けしたペンギン型モンスターたちがパニックを起こし、次々と虚無の底へと落下していく。

「チッ……! ここまで床が傷んでたら、もう掃除の範疇じゃねぇ!」

 ソウジはトングを腰にしまい、鋭い声で社員たちに号令をかけた。

「総員、清掃作業を中断! これより『緊急応急処置』に移行する! これ以上、穴が広がらないように物理的に塞ぐぞ!」

「ぶ、物理的にって……空間の崩落ですよ!? どうやって!」

「大工が来るまでのツギハギだ! ミカエル、上空から裂け目を塞げ!」

「承知いたしました、ソウジ様!」

 天使ミカエルが、真っ白に色抜けした空へと飛翔する。
 彼の手には、ホームセンターでよく見かける「緑色のガムテープ」のようなものが握られていた。

「神よ、この傷ついた世界にかりそめの平穏を!
 展開──【聖なる目張り(緑色の養生テープ)】!!」

 バァァァァンッ!!
 ミカエルが手をかざすと、空間に開いた真っ黒な亀裂に対し、巨大な緑色の養生テープが「ベタァッ!」と物理的に貼り付けられた。
 粘着力に神聖魔法を付与されたそれは、崩れゆくバグの裂け目を、力技でガッチリと繋ぎ止めたのだ。

『ファッ!?』
『養生テープで空間の裂け目塞いだwww』
『天使の使い方が完全に内装業者』
『ブラックホールをガムテで止めるな』
『でも崩壊止まってる!? すげぇ!』

「よし! 次はセシリア! これ以上『漂白成分』が床に染み込まないように、大量の水で洗い流せ!」

「お任せくださいませ! 主の御名において、この空間をすすぎ洗いしますわ!」

 聖女セシリアが、自社特製の超高圧洗浄機ケルベルス・キャッハーを構えた。
 彼女の背中には、巨大な給水タンクが背負われている。

「大いなる神の息吹よ、邪悪なる浸食を打ち払いたまえ! 放てェェェッ!」

 ズバババババババッ!!!

 猛烈な勢いで噴射されたのは、セシリアの規格外の魔力が込められた「特濃の聖水」だった。
 彼女の高位なる浄化魔法は、世界を侵食するバグに対し「強力なアンチウイルス」として作用し、データ崩壊の進行を強制的に停滞させていった。

 だが、ソウジにはそんなファンタジーな理屈は見えていない。

「よしよし、いいぞセシリア! 漂白剤を落とす時は、とにかく水量が命だ! ケチらずたっぷりすすぎ落とせ!」

 彼はアンチウイルスによる決死のシステム防衛を、ただの「景気のいい水洗い」として満足げに頷いていた。

「社長! すでに崩れ落ちてしまった地面の残骸はどうしますか!?」

 剣崎がゴーグルを光らせながら叫ぶ。
 虚無の穴の周囲には、完全に消滅を免れた「半壊状態の氷や岩の欠片」がフワフワと漂っていた。

「そのままにしとけと言いたいところだが、誰かが踏んで怪我したらクレームになる。剣崎、コアちゃん! 回収できる欠片だけ集めろ!」

「了解です! 覚醒スキル──【超高速分別眼(ソーティング・アイ)】!!」

 剣崎の瞳が、青いバーコードリーダーの光を放つ。

「完全に死んだデータ(ゴミ)は放棄! 復元可能なリソース(資源)だけをマーキングします! コアちゃん、青く光った岩だけを拾ってください!」

「はーい! 【重力操作(トラッシュ・キャッチ)】!」

 コアちゃんが指を鳴らすと、剣崎が見極めた「再利用可能な世界の欠片」だけが、重力に引かれて次々と宙に舞い上がり、安全な場所へと積み上げられていく。
 元・エリート探索者の超高速分別と、元・ダンジョンコアの空間魔法による、完璧な連携作業。

「右舷の裂け目、テープ追加ですわ!」

「セシリア、そこもっと水撒け! まだ塩素の臭いがするぞ!」

「資源回収急ぎます!」

 空間が消滅しようとする終末の光景の中で。
 クリーン・ファンタジー社の面々だけが、まるで「台風の日に雨漏りを直す町工場のオヤジたち」のような異常なテンションで、世界の崩壊を強引に食い止めていた。

「……ふぅ。とりあえず、こんなもんか」

 数十分後。
 ソウジが額の汗を拭い、深く息を吐いた。

 彼らの目の前に広がっていたのは、かつての恐ろしい南極ダンジョンの面影すらない、異様な光景だった。
 真っ白に色抜けした空間に、無数の「緑色の養生テープ」がベタベタと貼られ、地面は水浸し。

 それは、どう見ても「施工不良でボロボロになった事故物件の、見栄えの悪い応急処置」にしか見えなかった。

(続く)
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