一歩の重さ

burazu

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高校2年編

live中継

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 棋将戦本戦トーナメントで倉橋正一八段との対局の為に真壁天馬は対局前日に大阪に向かっていた。

 その日の夕方頃、東京にいた鎌田美緒女流三冠はスマートフォンで誰かに電話をしていた。

「もしもし牧野さん、鎌田です。今大丈夫かな?」
「もしもし鎌田さん、どうしたんですか?」
「急で悪いんだけど、明日って学校終わった後何か予定ある?」
「いえ、特にはありませんけど」

 電話の相手は小夜であり、小夜の発言を聞いて鎌田はある事を知らせる。

「明日、大阪で真壁先生が倉橋先生と対局するのを知っていると思うけど、それがademaテレビの将棋チャンネルの情報live中継をするみたいだから一緒に観ない?」

 情報live中継とは中継に解説が付かず、盤面のみを映像として流す中継方法なのだ。テロップとしての情報は流れるが、純粋に対局のみに特化したadema特有の中継方法なのだ。その観戦の誘いを受けて小夜は鎌田に返答をする。

「もちろんです、終局後の検討もするんですよね」
「さすがね、牧野さん。分かってるじゃない、与田さんにも連絡お願いね、村田君には私から連絡するから」
「はい、分かりました」

 小夜の言葉を聞くと鎌田は電話を切り、小夜は美咲へと連絡をする。

「もしもし美咲ちゃん、今大丈夫?」
「小夜ちゃん⁉どうしたの?」
「さっき、鎌田さんから明日の真壁先生の対局をademaで一緒に観ようって誘われたんだけど、美咲ちゃんも学校が終わったら鎌田さんのアパートに行く?」
「うん、行くわ」

 美咲の返事を聞いて小夜は言葉をかけて、電話を切る。

「じゃあ明日ね」

 小夜は電話を切って、家路につく。

 その頃、自宅で一輝はある人物と連絡をとっていた。

「明日天馬の対局を西田さんのアパートで一緒に観るんですか?」
「おお、終局後の検討もしたくてな、それに黒木さんも誘ってみた」
「黒木さんも来るんですか?」
「そうだ、そういえば最近真壁君が師匠の大川先生のマンションを訪ねたのを見たっていう奨励会員の話を聞いたんだけど何か知っているか?」

 一輝にとってもその話は初耳という事もあり、その事を西田に伝える。

「いえ、でも変ですね、四段昇段の報告も電話だけで済ました天馬がわざわざ訪ねるなんて」
「真壁君にとっては初の本戦トーナメント入りだしそれかもしれないな、ま、あの倉橋さんとの対局だし楽しみだな」
「じゃあ明日学校が終わったら行きますね」

 一輝にとっては謎の天馬の行動だが倉橋八段と今の天馬の対局は自身の今の実力を見極めるいい材料であるとも考える一輝であった。
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