最強の魔王様、猫になる。そして変な女子高生に拾われる。

星上みかん(嬉野K)

文字の大きさ
29 / 33
体育祭

第29話 一生の不覚

しおりを挟む
 2年3組ではるが成仏してから、1ヶ月が経過した。その間は不気味なくらい平和で、まさに嵐の前の静けさといった感じだった。

 いや……このまま平和が続く可能性だってあるだろう。魔王時代は平穏な時間が長く続くと不安になったものだが、今はその戦乱の時代とは違うのだ。
 この世界は、本来は平和な世界なのだ。破壊神だの悪霊だの……この平和な世界で聞いていい単語じゃない。

 管理者……吸血鬼……まだまだ危機的な単語は多く聞く。最近になって、急に危険な単語を聞くようになった。

 もちろん私はこの時代の新参者だ。だが、過去の歴史を調べても、ここまで物騒なワードが並んでいる時代は少なかった。

 何かが起こっているのかもしれない。私の知らないところで、何かが乱れているのかもしれない……

 とはいえ……

「相変わらずもふもふしてるね……ケントニス・ノレッジ・コネサンス・シュテルケ・ポテンツァ・サジェス・ウィズダム・ヴィスハイト・ヴィゴーレ・マハト・フォルスさん……」
「ニャー(相変わらずなのはお前だよ。ゆう)」

 なんで毎回、こいつは私のことをフルネームで呼ぶのだろう。ご主人はご主人でまともに私の名前を呼ばんし……

「すっかりキミも馴染んだねぇ……」閑古鳥かんこどりゆうに撫でられる私を見て、「キミにもなにか役職を与えてあげようか」
「ニャー(いらん)」

 役職なんて、もううんざりだ。魔王なんて大層な役職をもらったがばっかりに、私はえらい苦労をした。もはやこの猫の姿で役職をもらおうとは思わない。

 ともあれ、今現在私は生徒会室にいる。ご主人が生徒会室に遊びに来たり、補習のときはこの生徒会室に預けられるのが慣例になってきていた。

 ゆうは私を撫でるのがうまいし、さらにキャットフードまで用意されている。もはやここに住みたいくらいである。

 いや……私が生徒会室に住んでしまったら、ご主人が危険だな。ご主人は治安の悪い地域に一人暮らしなので、私が守ってやらないといけない。
 一応ご主人も、私には気を使ってくれている。エサもシャンプーも寝床も遊び場も……いろいろと用意してくれている。なによりご主人は私のことを愛してくれている。ならば、身の安全くらいは保証してやろう。

「あ……そうだ」閑古鳥かんこどりはなにやら草を取り出して、「こんなの拾ってきたよ」
「おお……猫じゃらしですね」

 ネコジャラシ……? 猫じゃらし……つまり猫の遊び道具か何かか。どうやら私のために持ってきてくれたらしい。拾ってきたと形容して、さらにくさであることを考えると、どこかに自生している植物のようだな。

 ふん……たまにご主人が買ってくる猫用のおもちゃみたいなものだろう。そんなものでこの元魔王が懐柔できると思っているのなら浅はかだったな。

 ご主人だってその手のおもちゃを買ってきてくれる。しかし魔王たる私に興味はない。まぁご主人が悲しまないように、適当に遊んではいる。決してご主人が私のためを思って買ってきてくれたのが嬉しいとか、そういうことではない。たぶん。

「ほれほれ。猫じゃらしだぞー」閑古鳥かんこどりは私の目の前で草――猫じゃらしを振る。「私とも遊んでおくれよー」

 そんなことを言われてもな……私は私の興味でしか動かない。元魔王たる私は……

「ニャ……(……なんだ……)」

 ふと猫じゃらしに目をやる。閑古鳥かんこどりの手によってフリフリと左右に揺れている猫じゃらし。

 これが猫じゃらしか……なるほど暇つぶしくらいにはなりそうだが……なんというか……

「ニャー……(……おお……)」

 目が離せられん。閑古鳥かんこどりが振る猫じゃらしに合わせて、目線と体が動いてしまう。

 なんとも甘美な動きだった。異常なほど猫じゃらしとやらが魅力的に見えた。魔王を持ってしても抗えない魅力が猫じゃらしから発せられていた。まるでブラックホール……

 気がつけば、

「わ……」閑古鳥かんこどりが慌てて猫じゃらしを引っ込める。それから、ニヤリと笑って「お気に召したようだね」

 自分でも知らないうちに、私は猫じゃらしに飛びついていた。完全に私の理性を離れた行動だった。幽霊にでも操られたかのようだった。

「ほら、こっちこっち」

 さらに閑古鳥かんこどりは猫じゃらしを振る。考える間もなく、私の体は猫じゃらしに吸い寄せられる。前足で猫じゃらしを追いかける。

 なんとも心が躍る遊びだった。やってることは子供だまし。ただ草を追いかけているだけ。だが、気がつけば私は猫じゃらしに夢中になっていた。

 しばらくして、

「会長……そろそろ会議はじめますよ」
「あ……ごめん。了解」神代じんだいの声で、私は正気に戻る。そんな私に閑古鳥かんこどりが、「今度はもっと持ってくるよ。気に入ってくれたみたいだね」

 正気に戻って、ようやく自分の状態に気がつく。

 腹を見せて、猫じゃらしをいじっていた。警戒心や威厳など何もなく、猫じゃらしに夢中になっていた。完全に理性を失っていた。

 ……この猫じゃらし……これは劇薬だ。猫を惑わせる嗜好品だ。これを目の前で見せられて、正気を保てる自信がない。実際に正気は保てなかった。

 この魔王……一生の不覚。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...