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第三幕 攻勢・ヒストリカ
97 道中の教示
しおりを挟む「恥を承知で、もう一つご教示いただけますか? その男ならば、どう戦ったでしょうか。自らが剣、相手が槍であったのなら。どう戦うべきであったと思われますか?」
セドリックはすっかり元の調子を取り戻し、厚かましさを隠さず直接的な手解きを求めてきた。
その熱の籠った瞳に、在りし日の自分の姿を重ねる。
父上やドルガス相手に教えを乞うと、大抵は自分で考え、答えにたどり着けるように、剣同士の語り合いによって導かれたものだが、あいにくと今の俺はセドリックに直接稽古を付けてやれるような強靭な肉体をしていない。
「ねえ、ジョゼ。やっぱりこの人、頭打っておかしくなったんじゃない? お姫様相手に聞くことじゃないでしょ、どう考えても」
プリシラが、煽りとも、本気の心配とも付かない口調で言う。
「何をおっしゃいます。ジョセフィーヌ様は、かのサナトス様の薫陶を受けておいでです。並みの男では太刀打ちできぬほどの腕前をお持ちの御方なのですよ?」
セドリックは平民の女性からこれだけ不敬な口の利き方をされても全く意に介した様子がなかった。
度量が広い、というよりは、そういったことに対し、恐ろしいほど興味がないのかもしれない。
今は少し、声に不満そうな響きが宿ったが、それもおそらく、プリシラのジョセフィーヌに対する不理解に対し苛立ったためであろうと思われた。
「サナトスって誰?」
「この国が誇る稀代のソードマスターの名をご存知ないのですか?」
「知るわけないでしょ。私を誰だと思ってんの。ただの町娘よ」
ただの町娘らしからぬ剣呑な物言いに、傍で聞いているこちらの胃がきゅっと痛む。
「ええと……、聞きかじりの知識で参考になるかは分かりませんが、おそらく、手練れの槍使い相手であれば、無理に戦わず退くのが筋かと思いますよ?」
「それは……。剣と槍ではそれほどの差があると?」
「広く平坦な場所で、一対一であればそうですね。実力が近い者同士であれば、その優位はまず覆らないかと」
同条件ならセドリックだって決して引けを取らないのだぞ、と気付かせようとして力を込める。
「私はあそこまで自在に槍を扱えません。王都中を探してもあれ程の使い手は見つけられないでしょう。一体彼は何者なのでしょう? どこで鍛えたらああいった腕前を? やはり、サナトス様のように他国の戦地を渡って行脚した者でしょうか?」
「……セドリック様。鍛えるべきは己でございます」
「そうでした。私としたことがまた要らぬ詮索を……。しかし、退くに退けないとき、それでも槍相手に立ち向かわねばならないこともあるでしょう?」
「そうですね、私なら……。私が男性であればですが、組み打ちを狙いに行くのではないでしょうか」
「組み打ち?」
「組み伏せなくとも、刃のない柄の部分を掴むことができれば勝機は十分です」
「しかし、あの素早い動きを捉えられるイメージが沸きませんが」
「それは相手も用心していますから。ただ、掴むと言っても使うのは掌に限った話ではありませんよ?」
槍の縦横の振りには、受けても致命とならない部位がある。
刺突の恐怖をかいくぐって前に出ることが前提だが、脇や肩などであえて受けておき、相手が槍を引き上げる前に掴むことができれば、片手でも取り回しの容易い剣の方に利がある。
場合によっては剣すら捨てて、両手で掴みかかっても良いだろう。
なまじ打ち合おうとするから不利が出るのだ。
「……なんと。……流石でございますね。いや、私の発想が貧困なのでしょうか?」
意外とセドリックの頭は固かったが、それでも俺の言わんとしたことにはちゃんと思い至ったようだ。
「セドリック様に限らず、王都の方々は直剣以外を軽んじている風潮がございます。まずは色々な得物をお使いになることをお勧めいたします。剣術の試合で勝つことではなく、有事の際に身を助け国を守ることが目的なのですから。考えられる限り、あらゆるケースを想定して訓練しておくべきです」
それはセドリックに対してではなく、これまで目にしてきたこの国の兵士たちの訓練風景への不満であった。
本当に必死であれば、少しでも優位な武器を取ろうとするだろうし、足元に転がる石だって有効な武器となる。
しばらく戦がないとは言え、仮にもこの国の中枢を守る者たちが、見栄えにかまけて備えを疎かにしている現状は極めて不安だ。
ジョセフィーヌにもう少し発言権があったなら、兵たちの訓練や意識改革についても申し立てしてやるのに。
俺はさらにセドリックら三人のサナトスへの師事が叶うようにもう一度頼んでみると約束した。
以前にも直接頼んでみたことがあるのだが、サナトスは性に合わんの一言で、取り付く島もなく断られていたのだった。
ジョゼの父ブレーズ王も巻き込んで彼に口添えしてもらえば、多少は話も聞いてもらえるのではないだろうか。
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