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第三章 学園編
第96話 魔石剣の製作実演
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生きた心地のしない私は、しょぼくれながらフィレン王子やサクラと一緒に城の中へと入っていく。いつもなら魔法で余裕に歩いている足取りが、この時ばかりは非常に重く、すごく不安定だった。
(ああ、短い第二の人生だったわ……)
すでに悲壮感たっぷりの私は、顔を上げる事すら敵わなかった。フィレン王子はまったくこっちを気に掛けてくれないし、サクラの立派な二の腕で支えられている状態である。
私が連れてこられたのは予想外にも国王の執務室だった。さらし者にされるかと思ったのに、連れてこられた場所は機密の保たれる場所だったのだ。
しかし、すっかり怯えていた私は、どこに連れていかれようともまったく安心できなかった。むしろ秘密裏に処分されるのかと、より一層心臓が止まりそうな緊張に包まれてしまった。それでも何とか耐えられているのは、サクラの同行が許された事。彼女が横についていてくれるだけで非常に心強かった。
「父上、アンマリアを連れて参りました」
「うむ。フィレンよ、伝言にあった妙な剣とやらを見せてくれ」
「はい、父上。こちらでございます」
フィレン王子は、国王に私の作った魔石剣を差し出していた。そして、おもむろに鞘から引き抜くと、その剣をしっかりと眺めていた。その間も、私はずっと下を向いたままである。とてもじゃないけれど顔を上げていられなかった。
その間も、国王は剣の状態をよく見ている。
「ふむ、ゼニークとサガリーから聞いてはいたが、これは見事な剣だな。それでいて鍛造したものではないとは、実物を見ても信じられんな」
「やはりそうですよね。アンマリアが言うには、魔石とトレント木材を自分の魔力で変形させて作り上げたそうですが……、いくら見てみてもにわかには信じられませんね」
国王とフィレン王子は剣を眺めながら、首を捻っているようだった。そして、剣を鞘に収めると、私の方へと顔を向けてきた。
「アンマリアよ」
「は、はい……っ」
国王が声を掛けてきたので、私は戸惑いながらも返事をする。
「どうだ。この剣をこの場で私にも作ってくれないか?」
国王から掛けられた言葉は、ものすごく意外なものだった。私はその意外さゆえに、思考がすっかり停止してしまった。
「まったく、父上の悪い癖が出てしまった……」
フィレン王子が額に手を当てて首を左右に振っている。
「だってそうだろうが。サガリーに少し触らせてもらったが、金属を使わずに作りながら、あの強度と鋭さだ。それでいて軽い。しかも魔力との親和性も高い。そんな剣を見せられて欲しがるなという方が無理だ!」
国王はまるで駄々をこねる子どものように騒いでいる。フィレン王子もその様子には呆れているし、私とサクラはどう反応していいのか困ってしまった。
とはいえども、どうやら私が牢屋にぶち込まれるような事態ではない事がなんとか理解できた。ようやく私は安心できたのだ。
「畏まりました。魔石剣を作らさせて頂きます」
私は右手を胸に当て、軽く膝を曲げてそう宣言した。すっかり調子を取り戻したので、鍛えてきていた事もあって体幹はぶれない。
国王たちの見守る中、私は収納魔法から魔石数個とトレント木材を取り出す。そして、器用に魔力を扱い、魔石とトレント木材に魔力を流しながら変形させていく。その光景は、国王たちからすれば見た事のない風景なのだろう。国王もフィレン王子もサクラも、声を出す事もできずにその光景を見守っていた。
魔石もトレント木材も、魔力とは強い親和性を持っている。だからこそ、こうやって魔力を用いて加工ができるのだ。とはいえ、魔石を魔力で変形させられるのはごく少数。トレント木材にいたっては、多分私だけだろう。
さすがに魔石剣を作るのはこれが4本目。もうここまで来るともう手慣れたものである。魔石もトレント木材も見る見るうちに姿を変えていく。そして、あっという間に魔石は剣に、トレント木材は柄と鞘に姿を変えてしまった。
「……これでパーツは完成しました。あとは剣と柄を組み合わせるだけですね」
私はもう一息だと、もう一度魔力を練り上げていく。すると、剣が柄に収まり、柄に収まった部分の剣が光を放った。これで剣が柄と一体化して、どんなに振り回しても剣がすっぽ抜ける事はない。
「陛下、魔石剣の完成でございます」
私は剣を鞘に収めて、片膝をついて剣を両手で高く掲げた。ドレスで片膝とはあまりするものではないけれど、献上するとなるとそういうポーズを取らざるを得なかった。
「……意外と簡単にできるものなのだな」
国王は私が持つ剣を手に取って、まじまじと見ている。そして、鞘から引き抜くと、その剣身を光に照らしながらじっくりと眺めている。
「うむ、光沢はまったくもって問題はない。ただここには斬るものがないな」
物騒な事を言わないでもらいたい。
「心配しなくとも、アンマリアを手打ちにはせぬぞ。これほどまでの人材、失う方が損失が大きすぎるからな。だが、切れ味は見てみたくなるな……」
新しい剣を手にしたらそうなるわよね。というわけで、私たちは騎士団の訓練場に移動する。さすがに国王と王子が現れたら、騎士も兵士も大騒ぎである。
その騒ぎの中、国王が藁人形の前に立ち、魔石剣を振るう。すると、先日のサガリー同様に、あっさりと藁人形は斬れてしまった。
「この切れ味は素晴らしいな。これで金属ではないというのだから驚きだ。サガリーが広めぬように言うのが納得できる」
剣をじっくりと見る国王は、アンマリアにこう言い放った。
「私が許可を出さぬ限り、絶対にこの剣はもう二度と作るな。よいな?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
国王の微笑みに、返事がおかしな事になるくらいに私は震え上がってしまったのだった。
(ああ、短い第二の人生だったわ……)
すでに悲壮感たっぷりの私は、顔を上げる事すら敵わなかった。フィレン王子はまったくこっちを気に掛けてくれないし、サクラの立派な二の腕で支えられている状態である。
私が連れてこられたのは予想外にも国王の執務室だった。さらし者にされるかと思ったのに、連れてこられた場所は機密の保たれる場所だったのだ。
しかし、すっかり怯えていた私は、どこに連れていかれようともまったく安心できなかった。むしろ秘密裏に処分されるのかと、より一層心臓が止まりそうな緊張に包まれてしまった。それでも何とか耐えられているのは、サクラの同行が許された事。彼女が横についていてくれるだけで非常に心強かった。
「父上、アンマリアを連れて参りました」
「うむ。フィレンよ、伝言にあった妙な剣とやらを見せてくれ」
「はい、父上。こちらでございます」
フィレン王子は、国王に私の作った魔石剣を差し出していた。そして、おもむろに鞘から引き抜くと、その剣をしっかりと眺めていた。その間も、私はずっと下を向いたままである。とてもじゃないけれど顔を上げていられなかった。
その間も、国王は剣の状態をよく見ている。
「ふむ、ゼニークとサガリーから聞いてはいたが、これは見事な剣だな。それでいて鍛造したものではないとは、実物を見ても信じられんな」
「やはりそうですよね。アンマリアが言うには、魔石とトレント木材を自分の魔力で変形させて作り上げたそうですが……、いくら見てみてもにわかには信じられませんね」
国王とフィレン王子は剣を眺めながら、首を捻っているようだった。そして、剣を鞘に収めると、私の方へと顔を向けてきた。
「アンマリアよ」
「は、はい……っ」
国王が声を掛けてきたので、私は戸惑いながらも返事をする。
「どうだ。この剣をこの場で私にも作ってくれないか?」
国王から掛けられた言葉は、ものすごく意外なものだった。私はその意外さゆえに、思考がすっかり停止してしまった。
「まったく、父上の悪い癖が出てしまった……」
フィレン王子が額に手を当てて首を左右に振っている。
「だってそうだろうが。サガリーに少し触らせてもらったが、金属を使わずに作りながら、あの強度と鋭さだ。それでいて軽い。しかも魔力との親和性も高い。そんな剣を見せられて欲しがるなという方が無理だ!」
国王はまるで駄々をこねる子どものように騒いでいる。フィレン王子もその様子には呆れているし、私とサクラはどう反応していいのか困ってしまった。
とはいえども、どうやら私が牢屋にぶち込まれるような事態ではない事がなんとか理解できた。ようやく私は安心できたのだ。
「畏まりました。魔石剣を作らさせて頂きます」
私は右手を胸に当て、軽く膝を曲げてそう宣言した。すっかり調子を取り戻したので、鍛えてきていた事もあって体幹はぶれない。
国王たちの見守る中、私は収納魔法から魔石数個とトレント木材を取り出す。そして、器用に魔力を扱い、魔石とトレント木材に魔力を流しながら変形させていく。その光景は、国王たちからすれば見た事のない風景なのだろう。国王もフィレン王子もサクラも、声を出す事もできずにその光景を見守っていた。
魔石もトレント木材も、魔力とは強い親和性を持っている。だからこそ、こうやって魔力を用いて加工ができるのだ。とはいえ、魔石を魔力で変形させられるのはごく少数。トレント木材にいたっては、多分私だけだろう。
さすがに魔石剣を作るのはこれが4本目。もうここまで来るともう手慣れたものである。魔石もトレント木材も見る見るうちに姿を変えていく。そして、あっという間に魔石は剣に、トレント木材は柄と鞘に姿を変えてしまった。
「……これでパーツは完成しました。あとは剣と柄を組み合わせるだけですね」
私はもう一息だと、もう一度魔力を練り上げていく。すると、剣が柄に収まり、柄に収まった部分の剣が光を放った。これで剣が柄と一体化して、どんなに振り回しても剣がすっぽ抜ける事はない。
「陛下、魔石剣の完成でございます」
私は剣を鞘に収めて、片膝をついて剣を両手で高く掲げた。ドレスで片膝とはあまりするものではないけれど、献上するとなるとそういうポーズを取らざるを得なかった。
「……意外と簡単にできるものなのだな」
国王は私が持つ剣を手に取って、まじまじと見ている。そして、鞘から引き抜くと、その剣身を光に照らしながらじっくりと眺めている。
「うむ、光沢はまったくもって問題はない。ただここには斬るものがないな」
物騒な事を言わないでもらいたい。
「心配しなくとも、アンマリアを手打ちにはせぬぞ。これほどまでの人材、失う方が損失が大きすぎるからな。だが、切れ味は見てみたくなるな……」
新しい剣を手にしたらそうなるわよね。というわけで、私たちは騎士団の訓練場に移動する。さすがに国王と王子が現れたら、騎士も兵士も大騒ぎである。
その騒ぎの中、国王が藁人形の前に立ち、魔石剣を振るう。すると、先日のサガリー同様に、あっさりと藁人形は斬れてしまった。
「この切れ味は素晴らしいな。これで金属ではないというのだから驚きだ。サガリーが広めぬように言うのが納得できる」
剣をじっくりと見る国王は、アンマリアにこう言い放った。
「私が許可を出さぬ限り、絶対にこの剣はもう二度と作るな。よいな?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
国王の微笑みに、返事がおかしな事になるくらいに私は震え上がってしまったのだった。
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