118 / 500
第三章 学園編
第118話 安心したいから
しおりを挟む
私はリブロ王子の経過を見るために、途中で見かけた兵士にリブロ王子の部屋まで案内してもらった。お城の中なので勝手に一人で歩くのもよろしくないだろうという判断からよ。婚約者だから許されるかもだけれど、一応証人のようなものは必要でしょ?
「案内ご苦労様ですわ」
「はっ、この私めでよければ、いつでも!」
私が労うと、案内をしてくれた兵士は敬礼をしてその場を去っていった。
さて、私は気を取り直してリブロ王子の部屋の扉を叩く。
「アンマリア・ファッティでございます。リブロ殿下、様子を見に参りました」
「あ、アンマリアかい? 入ってきていいよ」
私が中に呼び掛けると、ちょっと慌てたような感じのリブロ王子の反応が返ってきた。一体何があったというのだろうか。気にはなったものの、私は許可が下りたので扉を開けて中へと入った。
「や、やあ、アンマリア。一体どうしたんだい?」
テーブルに向かって車椅子に乗ったまま本を読んでいるリブロ王子。どうやら来年から通う学園のために、ちょっとした勉強をしているようだった。
その様子をしばらく眺めていた私だけれども、手の方は完全に動きが戻ってきているようで、本をめくる動作も、紙に文字を書く動作も実にスムーズに行えている。
「だいぶお体の調子はよろしくなられたようですね」
ようやく私は口を開いた。
「ああ、アンマリアがしてくれた魔力循環治療のおかげだよ。腕や手を使った作業についてはまったく問題が無くなってきてる」
うん、それは見れば分かるものである。痛がる様子も動き止まる様子も誤差レベルと言っていいくらいスムーズなのだ。
しかし、私が今回見に来たのは脚の方だ。普通に立って歩けるかどうか、歩けたとして何歩ぐらいまでなのか、そっちの方を確認する必要があるのである。医者ではないけれど、初期治療を始めた者としては完治まで見届ける義務があると思うわ。
「あ、アンマリア? なんだか怖いよ?」
あまりにじっと凝視していたら、リブロ王子に怖がられてしまった。いやこれは失敗ね。
「申し訳ございません、リブロ殿下。殿下の状態がどのくらい回復したのか気になってしまって、つい凝視をしてしまいました」
とりあえず正直に話しておく私。もちろん謝罪もするために頭だって下げておく。
「そうか。婚約者だものね、気になってしまうのも当然か」
私の返答に、リブロ王子は納得した様子だった。
私は視界に入った松葉杖を取るために部屋の中を移動する。そして、松葉杖を手にすると、笑顔をリブロ王子に向けた。
「どれほど脚の状態が回復したのか、確認させて頂いてよろしいでしょうか。どちらが王位を継ぐと致しましても、やはり歩けない事には話にならないと思いますのでね」
松葉杖を運んできた私は、リブロ王子に無言の笑顔絵で松葉杖を差し出した。当のリブロ王子や彼の使用人たちも驚いていたが、こればかりは要る要らないの選択ではなく、必須の項目なのだ。
私の無言の圧力に屈したリブロ王子は、車椅子の方向を変えて両手に松葉杖を持つ。そして、力を込めて車椅子から立ち上がった。
次の瞬間、リブロ王子が大きくよろめいた。だけれども、私がすぐさま体と魔法で支えたのでリブロ王子が転倒するような事はなかった。いくら私が女性だからといっても、体重100kgを舐めないでちょうだい。
さて、松葉杖を使うリブロ王子だけれども、やっぱり足元を見れば小刻みに震えている。まだまだ自分の足だけで立てるほどの筋力は戻っていないようだ。
「リブロ殿下、少々失礼致します」
「何をする気なんだい?」
「立ったこの状態で鑑定魔法を掛けさせて頂きます。詳しい状態を知りたいですから」
リブロ王子の返事を待つ事なく、私は鑑定魔法をリブロ王子に掛ける。すると、リブロ王子の体の状態が事細かに空中に表示されていった。
「これはなんだい、アンマリア」
「これが今のリブロ王子の体の状態ですね。侍従の方も確認頂けますか?」
「は、はい!」
鑑定魔法の結果によると、腕や胴体に関してはほぼ正常と出ている。一方で脚に関しては……。
「うーん、まだ立つには厳しそうですね。私の鑑定結果でも、順調に回復して冬に差し掛かる頃と出てますね」
「という事は、一応学園に入る前どころか、年末の行事までには間に合うわけか」
「そういう事になります。ただし、順調に回復すればという条件が付きますけれど」
険しい顔をする私の姿を見て、リブロ王子と侍従の顔も険しくなる。
「どうすればいい?」
「魔力循環を正す治療の継続と、あそこに作った歩行訓練のための器具を使って歩く練習を欠かさない事ですね。長らく動かしていなかったので、まだまだ脚の機能が衰えていますから」
「分かった。そこまで心配されては、僕も頑張らなくてはいけないと思う。これ以上みんなに心配をかけては、王子としても、君の婚約者としても失格だろうから」
リブロはそう宣言していたものの、どことなく顔が赤くなった気がした。見間違いよね?
「モモの誕生日を祝った後、夏休みに入りますので、しばらく私は領地の方へ出向こうと思います。ちゃんとリブロ殿下の誕生日までには戻りますので、ご安心下さい」
「そうか。すぐとんぼ返りだろうけれど、久々の領地を満喫してきてくれ」
これでリブロ王子との会話を終えた私は、後の事は侍従に任せて、そのまま部屋を後にして家へと戻ったのだった。
「案内ご苦労様ですわ」
「はっ、この私めでよければ、いつでも!」
私が労うと、案内をしてくれた兵士は敬礼をしてその場を去っていった。
さて、私は気を取り直してリブロ王子の部屋の扉を叩く。
「アンマリア・ファッティでございます。リブロ殿下、様子を見に参りました」
「あ、アンマリアかい? 入ってきていいよ」
私が中に呼び掛けると、ちょっと慌てたような感じのリブロ王子の反応が返ってきた。一体何があったというのだろうか。気にはなったものの、私は許可が下りたので扉を開けて中へと入った。
「や、やあ、アンマリア。一体どうしたんだい?」
テーブルに向かって車椅子に乗ったまま本を読んでいるリブロ王子。どうやら来年から通う学園のために、ちょっとした勉強をしているようだった。
その様子をしばらく眺めていた私だけれども、手の方は完全に動きが戻ってきているようで、本をめくる動作も、紙に文字を書く動作も実にスムーズに行えている。
「だいぶお体の調子はよろしくなられたようですね」
ようやく私は口を開いた。
「ああ、アンマリアがしてくれた魔力循環治療のおかげだよ。腕や手を使った作業についてはまったく問題が無くなってきてる」
うん、それは見れば分かるものである。痛がる様子も動き止まる様子も誤差レベルと言っていいくらいスムーズなのだ。
しかし、私が今回見に来たのは脚の方だ。普通に立って歩けるかどうか、歩けたとして何歩ぐらいまでなのか、そっちの方を確認する必要があるのである。医者ではないけれど、初期治療を始めた者としては完治まで見届ける義務があると思うわ。
「あ、アンマリア? なんだか怖いよ?」
あまりにじっと凝視していたら、リブロ王子に怖がられてしまった。いやこれは失敗ね。
「申し訳ございません、リブロ殿下。殿下の状態がどのくらい回復したのか気になってしまって、つい凝視をしてしまいました」
とりあえず正直に話しておく私。もちろん謝罪もするために頭だって下げておく。
「そうか。婚約者だものね、気になってしまうのも当然か」
私の返答に、リブロ王子は納得した様子だった。
私は視界に入った松葉杖を取るために部屋の中を移動する。そして、松葉杖を手にすると、笑顔をリブロ王子に向けた。
「どれほど脚の状態が回復したのか、確認させて頂いてよろしいでしょうか。どちらが王位を継ぐと致しましても、やはり歩けない事には話にならないと思いますのでね」
松葉杖を運んできた私は、リブロ王子に無言の笑顔絵で松葉杖を差し出した。当のリブロ王子や彼の使用人たちも驚いていたが、こればかりは要る要らないの選択ではなく、必須の項目なのだ。
私の無言の圧力に屈したリブロ王子は、車椅子の方向を変えて両手に松葉杖を持つ。そして、力を込めて車椅子から立ち上がった。
次の瞬間、リブロ王子が大きくよろめいた。だけれども、私がすぐさま体と魔法で支えたのでリブロ王子が転倒するような事はなかった。いくら私が女性だからといっても、体重100kgを舐めないでちょうだい。
さて、松葉杖を使うリブロ王子だけれども、やっぱり足元を見れば小刻みに震えている。まだまだ自分の足だけで立てるほどの筋力は戻っていないようだ。
「リブロ殿下、少々失礼致します」
「何をする気なんだい?」
「立ったこの状態で鑑定魔法を掛けさせて頂きます。詳しい状態を知りたいですから」
リブロ王子の返事を待つ事なく、私は鑑定魔法をリブロ王子に掛ける。すると、リブロ王子の体の状態が事細かに空中に表示されていった。
「これはなんだい、アンマリア」
「これが今のリブロ王子の体の状態ですね。侍従の方も確認頂けますか?」
「は、はい!」
鑑定魔法の結果によると、腕や胴体に関してはほぼ正常と出ている。一方で脚に関しては……。
「うーん、まだ立つには厳しそうですね。私の鑑定結果でも、順調に回復して冬に差し掛かる頃と出てますね」
「という事は、一応学園に入る前どころか、年末の行事までには間に合うわけか」
「そういう事になります。ただし、順調に回復すればという条件が付きますけれど」
険しい顔をする私の姿を見て、リブロ王子と侍従の顔も険しくなる。
「どうすればいい?」
「魔力循環を正す治療の継続と、あそこに作った歩行訓練のための器具を使って歩く練習を欠かさない事ですね。長らく動かしていなかったので、まだまだ脚の機能が衰えていますから」
「分かった。そこまで心配されては、僕も頑張らなくてはいけないと思う。これ以上みんなに心配をかけては、王子としても、君の婚約者としても失格だろうから」
リブロはそう宣言していたものの、どことなく顔が赤くなった気がした。見間違いよね?
「モモの誕生日を祝った後、夏休みに入りますので、しばらく私は領地の方へ出向こうと思います。ちゃんとリブロ殿下の誕生日までには戻りますので、ご安心下さい」
「そうか。すぐとんぼ返りだろうけれど、久々の領地を満喫してきてくれ」
これでリブロ王子との会話を終えた私は、後の事は侍従に任せて、そのまま部屋を後にして家へと戻ったのだった。
7
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる