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第四章 学園編・1年後半
第195話 思わぬ情報庫
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ベジタリウス王国……。サーロイン王国の北西に位置する王国である。
その国土の環境はそんなに悪いというわけではないのだが、山を越えた場所は比較的温暖な地域であり、どこに広がるサーロイン王国の土地を昔から狙っている国である。それというのもベジタリウス王国の国土の南側はすべて山というのが影響している。そのせいか、寒暖の差が激しい土地となっていて、安定した気候を求めていたのだとされている。
ベジタリウス王国の話はこんなところだろうか。話し終えたヒーゴは紅茶を口に含んでいた。
「王国にはちゃんと報告してあるが、奴らとの停戦との一環で、うちが仲介となって交易を行ってるんだ。それを見る限りはそれほど向こうの経済状態は悪くない」
ヒーゴはそう言うと、使用人を呼んで保管してある布地を持ってこさせていた。
「この布なんかは、そのベジタリウス王国で生産されたものだ」
ヒーゴが布を手渡ししてくるので、私はそれを受け取る。この光沢に手触り、見た事がある。
「シルク……」
私がぽつりと呟く。
「シルク? なんだそれは」
「あ、いえ。なんでもありません」
呟きをヒーゴに聞かれてしまったらしく、突っ込まれた私はとりあえずごまかしておく。
それにしても、このつやつやとした光沢に滑らかな手触りといったら、前世でよく見たシルクに間違いなかった。サーロイン王国の貴族の服はほとんどが毛皮か木綿だと記憶している。染色されている事もあるので、シルクは見た記憶がなかった。まさか存在していたとは。
「一応、サクラが着ている服の一部にも存在しているぞ。それ以外だと王族の服と寝具などだな」
これを聞かされて私は驚いている。なぜならリブロ王子の部屋には突撃した事がある。ならばそこで気が付かなければいけなかったのに、私は気付けていなかったのだ。まあ、あの時はリブロ殿下の状態の方が心配で気が気でなかったのもあるでしょうけれどね。
「言っておくが、一般的な服に使う木綿もベジタリウス王国産だぞ。サーロイン王国産なのは毛皮だけだ」
ヒーゴから予想外な事実を知らされる私。なんて事なの、そんな事も知らなかっただなんて!
私はテーブルに両手をついて悔しがる。なにせ、ボンジール商会にもあれだけがっつり関わっているからだ。それでありながら知らなかったなんて、恥以外の何ものでもないのだもの。
「何を思っているかは知らんが、とりあえず説明を始めていいか?」
「あっ、申し訳ございません、どうぞ説明をお願い致します」
ヒーゴがもの凄く訝しんで見てくるので、私は慌てて姿勢を正して反応する。
そこからは長々としたヒーゴによるベジタリウス王国の話である。
さすがベジタブルとサジタリウスの合成語っぽい王国だけに、野菜と馬についての話がほとんどだった。あれだけ戦いの歴史があるというのにバッサーシ辺境伯との間で取引がされているのも、バッサーシ辺境伯領が優れた馬産地である事が大きかったのだ。内陸地で地形も変化に富むせいか、馬というものが生活に馴染んでしまっているらしい。これはバッサーシ辺境伯領とも似た環境がゆえに、バッサーシ辺境伯領の馬はベジタリウス王国でも人気なのだという。
それ以上に私の興味を引いたのはやはり野菜だった。前世でもなじみがあって、サーロイン王国では見た事のない野菜がいくらかあるらしい。
「ずいぶんと目を輝かせているな、ファッティ嬢」
「ええ、まあ。私も商会の仕事に少し関わっておりますので、珍しいものには目がありませんでしてね」
「ああ、そうだったな」
私が少し引きつりながら笑っていると、ヒーゴはボンジール商会の事を思い出したようである。
「人を寄こしてくれれば、ボンジール商会との仲を取り持っても構わないぞ。ここに来る連中は私の顔色を窺うベジタリウスの商会ばかりだからな」
「そうなのですね。それでは早速さっきのシルク……じゃなかった、キャピルの取引でもさせて頂いてもよろしいのですね?!」
「ああ、構わないぞ」
私の勢いにヒーゴは驚いていたが、あっさりと許可を出してくれた。
キャピルというのキャピタールという魔物から取れる糸とそれを編んで作られた布を指す言葉だ。元々は野菜を食い荒らす魔物として討伐されていたのだが、ある時きれいな糸を吐いている現場が目撃され、それに目を付けた人物によって回収、編み上げられて布が完成したらしい。今ではベジタリウス王国の主要産業となっており、サーロイン王国にも売り込みに行こうとしているそうな。だというのにサーロイン王国に浸透していないのは、やはり過去に戦争が起きた事による信用のなさのせいだろう。
そういう状況下でも王家などの一部で使われているのは、やっぱりその生地の光沢と手触りによるものなのだという。木綿と違って美しいその生地は、庶民との違いを出すにはもってこいなのである。
「ただ、現状は王家と私のところだけだからな。国王たちにも許可を取るのを忘れずにな」
「承知致しましたわ」
ヒーゴの注意に私は元気に返事をする。すると、ヒーゴは何かを思い出したようだった。
「そうだ、最初に言っていた王子と王女の留学の件も、向こうが本気で和睦を結びたいという気の表れなんだ。ベジタリウスとのわだかまりが無くなれば、私たちは本気で魔物との戦いに集中できるってものだ」
ヒーゴはそう言って、ものすごく大きな声で笑っていた。
何にしてもたくさんの情報を手に入れられたので、瞬間移動魔法を使ってここまで来たかいがあるというものだった。
その国土の環境はそんなに悪いというわけではないのだが、山を越えた場所は比較的温暖な地域であり、どこに広がるサーロイン王国の土地を昔から狙っている国である。それというのもベジタリウス王国の国土の南側はすべて山というのが影響している。そのせいか、寒暖の差が激しい土地となっていて、安定した気候を求めていたのだとされている。
ベジタリウス王国の話はこんなところだろうか。話し終えたヒーゴは紅茶を口に含んでいた。
「王国にはちゃんと報告してあるが、奴らとの停戦との一環で、うちが仲介となって交易を行ってるんだ。それを見る限りはそれほど向こうの経済状態は悪くない」
ヒーゴはそう言うと、使用人を呼んで保管してある布地を持ってこさせていた。
「この布なんかは、そのベジタリウス王国で生産されたものだ」
ヒーゴが布を手渡ししてくるので、私はそれを受け取る。この光沢に手触り、見た事がある。
「シルク……」
私がぽつりと呟く。
「シルク? なんだそれは」
「あ、いえ。なんでもありません」
呟きをヒーゴに聞かれてしまったらしく、突っ込まれた私はとりあえずごまかしておく。
それにしても、このつやつやとした光沢に滑らかな手触りといったら、前世でよく見たシルクに間違いなかった。サーロイン王国の貴族の服はほとんどが毛皮か木綿だと記憶している。染色されている事もあるので、シルクは見た記憶がなかった。まさか存在していたとは。
「一応、サクラが着ている服の一部にも存在しているぞ。それ以外だと王族の服と寝具などだな」
これを聞かされて私は驚いている。なぜならリブロ王子の部屋には突撃した事がある。ならばそこで気が付かなければいけなかったのに、私は気付けていなかったのだ。まあ、あの時はリブロ殿下の状態の方が心配で気が気でなかったのもあるでしょうけれどね。
「言っておくが、一般的な服に使う木綿もベジタリウス王国産だぞ。サーロイン王国産なのは毛皮だけだ」
ヒーゴから予想外な事実を知らされる私。なんて事なの、そんな事も知らなかっただなんて!
私はテーブルに両手をついて悔しがる。なにせ、ボンジール商会にもあれだけがっつり関わっているからだ。それでありながら知らなかったなんて、恥以外の何ものでもないのだもの。
「何を思っているかは知らんが、とりあえず説明を始めていいか?」
「あっ、申し訳ございません、どうぞ説明をお願い致します」
ヒーゴがもの凄く訝しんで見てくるので、私は慌てて姿勢を正して反応する。
そこからは長々としたヒーゴによるベジタリウス王国の話である。
さすがベジタブルとサジタリウスの合成語っぽい王国だけに、野菜と馬についての話がほとんどだった。あれだけ戦いの歴史があるというのにバッサーシ辺境伯との間で取引がされているのも、バッサーシ辺境伯領が優れた馬産地である事が大きかったのだ。内陸地で地形も変化に富むせいか、馬というものが生活に馴染んでしまっているらしい。これはバッサーシ辺境伯領とも似た環境がゆえに、バッサーシ辺境伯領の馬はベジタリウス王国でも人気なのだという。
それ以上に私の興味を引いたのはやはり野菜だった。前世でもなじみがあって、サーロイン王国では見た事のない野菜がいくらかあるらしい。
「ずいぶんと目を輝かせているな、ファッティ嬢」
「ええ、まあ。私も商会の仕事に少し関わっておりますので、珍しいものには目がありませんでしてね」
「ああ、そうだったな」
私が少し引きつりながら笑っていると、ヒーゴはボンジール商会の事を思い出したようである。
「人を寄こしてくれれば、ボンジール商会との仲を取り持っても構わないぞ。ここに来る連中は私の顔色を窺うベジタリウスの商会ばかりだからな」
「そうなのですね。それでは早速さっきのシルク……じゃなかった、キャピルの取引でもさせて頂いてもよろしいのですね?!」
「ああ、構わないぞ」
私の勢いにヒーゴは驚いていたが、あっさりと許可を出してくれた。
キャピルというのキャピタールという魔物から取れる糸とそれを編んで作られた布を指す言葉だ。元々は野菜を食い荒らす魔物として討伐されていたのだが、ある時きれいな糸を吐いている現場が目撃され、それに目を付けた人物によって回収、編み上げられて布が完成したらしい。今ではベジタリウス王国の主要産業となっており、サーロイン王国にも売り込みに行こうとしているそうな。だというのにサーロイン王国に浸透していないのは、やはり過去に戦争が起きた事による信用のなさのせいだろう。
そういう状況下でも王家などの一部で使われているのは、やっぱりその生地の光沢と手触りによるものなのだという。木綿と違って美しいその生地は、庶民との違いを出すにはもってこいなのである。
「ただ、現状は王家と私のところだけだからな。国王たちにも許可を取るのを忘れずにな」
「承知致しましたわ」
ヒーゴの注意に私は元気に返事をする。すると、ヒーゴは何かを思い出したようだった。
「そうだ、最初に言っていた王子と王女の留学の件も、向こうが本気で和睦を結びたいという気の表れなんだ。ベジタリウスとのわだかまりが無くなれば、私たちは本気で魔物との戦いに集中できるってものだ」
ヒーゴはそう言って、ものすごく大きな声で笑っていた。
何にしてもたくさんの情報を手に入れられたので、瞬間移動魔法を使ってここまで来たかいがあるというものだった。
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