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第七章 3年目前半
第347話 峠を越えろ
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それから数日後、フィレン王子の誕生祭に向かうために、ベジタリウス王国の王妃はサーロイン王国へ向かう事になった。さすがに王妃の隊列ともなれば護衛の騎士や兵士がたくさんつく事になる。
それに同行するメチルたち使用人たちも相当の数だ。専属であるメチルは王妃と同じ馬車に乗っているのだが、その顔は相当の緊張に包まれていた。
(いよいよ、サーロイン王国へと向かうのね。どうか私の事がテトロたちにばれませんように)
メチルは、とにかく生き残る事を最優先に願っていた。
それというのも、メチルは治癒魔法以外には最低限の防御魔法しか使えないからだ。強力な力を持つ魔族たちに襲われればひとたまりもないというわけである。
いろいろと思うところはあるものの、それとは無関係にサーロイン王国へと向かっていくベジタリウス王家の馬車なのであった。
国境付近の山岳地帯に差し掛かると、運の悪い事に雨が降り始めてしまう。
メチルの前世の世界とは違い、長々と雨の降るような季節はないはずなのだが、どういうわけか少し強めの雨が降り続いている。
「おかしいですね。この時期にこんな雨は降るはずがないのですが」
王妃が顔をしかめながら呟いている。
「早く越えてしまいましょう。なんだか嫌な予感が致します」
王妃がそう決断を下すと、隊列の足並みが速くなる。とはいえ、通常でもこの山道を登り切るのにまるっと1日掛かってしまう。ふもとの街を朝に出て、夕方に国境の砦に到着するというわけなのだ。
すでにお昼を過ぎて半分は進んできている。今さら引き返せないので、急いで国境まで向かおうというわけなのだ。
その王妃の隊列を上から眺める者が居た。
「キャハッ、困ってる困ってる。魔王様が復活した時のために、ベジタリウスには弱ってもらわないと困るからねぇ。あんたたちには恨みはないけれど、あたしたちのために死んでもらうよ?」
そこにはサイドテールをなびかせた女性、魔族のテリアが立っていた。
テリアが指を天に掲げる。
「そーれ、やっちゃえ~」
指を地面に向けて振り下ろすと、隊列の進む先の崖上に雷が落ちる。
「キャハハハハハ、これならひとたまりもないだろうね。バイバーイ」
お別れの言葉を言い放ったテリアは、結果を見届ける事なくその場から消え去ったのだった。
その瞬間、メチルはピンと魔力の波動を受け取った。
(この魔力はテリア? 噓、あいつここに来てたっていうわけなの?)
その次の瞬間、急に地響きがし始める。
(あいつ、崖崩れを起こしたってわけね? 岩で私たちを押し潰すつもりなんだわ)
メチルは表情を険しくする。
「アルー!」
「はいですよ、ご主人様」
「力を貸して、崖崩れよ」
「なんですって?!」
アルーの返事よりも先に、王妃の声が響き渡る。しかし、それに答えている猶予はない。
「ご主人様、私の力をしっかり使って下さいね」
アルーが力を集中させる。
「借りますよ、アルー」
こくりと頷いたメチル。
立ち上がって目を閉じたメチルの体が急に光り始める。
(ここで死ぬわけになんていかないわ。みんなと笑える未来を、私は守ってみせる!)
再び目を見開いたメチルは叫ぶ。
「守りの壁よ、みんなを守って!」
次の瞬間、街道を包み込むように光の屋根が展開されていく。壁といったのに屋根である。展開された屋根が、隊列全体の頭上へと広がっていく。そこへ、テリアが人工的に引き起こした崖崩れが襲い掛かってくる。だが、その崖崩れはすべて、メチルによって展開された屋根に受け止められてしまったのだった。
……実に間一髪だった。あの時魔力の波動を感じ取っていなければ、今頃は全員が岩に潰されてぺちゃんこになってしまっていただろう。
へなへなと馬車の中に座り込むメチル。それと同時に馬車の扉がコンコンと叩かれていた。
「どうされましたか」
「はっ、失礼致します。崖崩れが起きたようなのですが、どういうわけか上空に岩が留まっております」
信じられないのか、報告している兵士の声に妙に落ち着きがなかった。
「そうですか。けが人などはいますか?」
だが、王妃は冷静に受け答えをしている。
「全員無事でございます。いかがなさいますか?」
「念のために周囲に気を付けながら、そのまま進みなさい」
「はっ、畏まりました」
王妃の命令を受けて、先程止まった隊列が再び動き始める。
「メチル、ご苦労様でした。ありがとうございます」
「い、いえ。こんなところで死にたくなかったので、必死でした。うまくいってよかったです」
馬車の床にへたり込んだまま、メチルは王妃と受け答えをしていた。
「ふふん、どうですか、私の力は」
「ええ、素晴らしい力でしたよ」
胸を張って自慢げに誇るアルー。その姿がついおかしくて笑いながら反応する王妃。その姿を見ながら呆れた顔で笑うメチル。馬車の中は実に穏やかな雰囲気に包まれていた。
こうして、強い雨の降る中ではあるものの、王妃やメチルたちは無事に国境の砦に到着できたのだった。
しかし、テリアが出てきたということで、まだまだ油断はできない状況は続きそうである。その状況に、メチルは一度は安堵しながらも再び気を引き締め直すのだった。
それに同行するメチルたち使用人たちも相当の数だ。専属であるメチルは王妃と同じ馬車に乗っているのだが、その顔は相当の緊張に包まれていた。
(いよいよ、サーロイン王国へと向かうのね。どうか私の事がテトロたちにばれませんように)
メチルは、とにかく生き残る事を最優先に願っていた。
それというのも、メチルは治癒魔法以外には最低限の防御魔法しか使えないからだ。強力な力を持つ魔族たちに襲われればひとたまりもないというわけである。
いろいろと思うところはあるものの、それとは無関係にサーロイン王国へと向かっていくベジタリウス王家の馬車なのであった。
国境付近の山岳地帯に差し掛かると、運の悪い事に雨が降り始めてしまう。
メチルの前世の世界とは違い、長々と雨の降るような季節はないはずなのだが、どういうわけか少し強めの雨が降り続いている。
「おかしいですね。この時期にこんな雨は降るはずがないのですが」
王妃が顔をしかめながら呟いている。
「早く越えてしまいましょう。なんだか嫌な予感が致します」
王妃がそう決断を下すと、隊列の足並みが速くなる。とはいえ、通常でもこの山道を登り切るのにまるっと1日掛かってしまう。ふもとの街を朝に出て、夕方に国境の砦に到着するというわけなのだ。
すでにお昼を過ぎて半分は進んできている。今さら引き返せないので、急いで国境まで向かおうというわけなのだ。
その王妃の隊列を上から眺める者が居た。
「キャハッ、困ってる困ってる。魔王様が復活した時のために、ベジタリウスには弱ってもらわないと困るからねぇ。あんたたちには恨みはないけれど、あたしたちのために死んでもらうよ?」
そこにはサイドテールをなびかせた女性、魔族のテリアが立っていた。
テリアが指を天に掲げる。
「そーれ、やっちゃえ~」
指を地面に向けて振り下ろすと、隊列の進む先の崖上に雷が落ちる。
「キャハハハハハ、これならひとたまりもないだろうね。バイバーイ」
お別れの言葉を言い放ったテリアは、結果を見届ける事なくその場から消え去ったのだった。
その瞬間、メチルはピンと魔力の波動を受け取った。
(この魔力はテリア? 噓、あいつここに来てたっていうわけなの?)
その次の瞬間、急に地響きがし始める。
(あいつ、崖崩れを起こしたってわけね? 岩で私たちを押し潰すつもりなんだわ)
メチルは表情を険しくする。
「アルー!」
「はいですよ、ご主人様」
「力を貸して、崖崩れよ」
「なんですって?!」
アルーの返事よりも先に、王妃の声が響き渡る。しかし、それに答えている猶予はない。
「ご主人様、私の力をしっかり使って下さいね」
アルーが力を集中させる。
「借りますよ、アルー」
こくりと頷いたメチル。
立ち上がって目を閉じたメチルの体が急に光り始める。
(ここで死ぬわけになんていかないわ。みんなと笑える未来を、私は守ってみせる!)
再び目を見開いたメチルは叫ぶ。
「守りの壁よ、みんなを守って!」
次の瞬間、街道を包み込むように光の屋根が展開されていく。壁といったのに屋根である。展開された屋根が、隊列全体の頭上へと広がっていく。そこへ、テリアが人工的に引き起こした崖崩れが襲い掛かってくる。だが、その崖崩れはすべて、メチルによって展開された屋根に受け止められてしまったのだった。
……実に間一髪だった。あの時魔力の波動を感じ取っていなければ、今頃は全員が岩に潰されてぺちゃんこになってしまっていただろう。
へなへなと馬車の中に座り込むメチル。それと同時に馬車の扉がコンコンと叩かれていた。
「どうされましたか」
「はっ、失礼致します。崖崩れが起きたようなのですが、どういうわけか上空に岩が留まっております」
信じられないのか、報告している兵士の声に妙に落ち着きがなかった。
「そうですか。けが人などはいますか?」
だが、王妃は冷静に受け答えをしている。
「全員無事でございます。いかがなさいますか?」
「念のために周囲に気を付けながら、そのまま進みなさい」
「はっ、畏まりました」
王妃の命令を受けて、先程止まった隊列が再び動き始める。
「メチル、ご苦労様でした。ありがとうございます」
「い、いえ。こんなところで死にたくなかったので、必死でした。うまくいってよかったです」
馬車の床にへたり込んだまま、メチルは王妃と受け答えをしていた。
「ふふん、どうですか、私の力は」
「ええ、素晴らしい力でしたよ」
胸を張って自慢げに誇るアルー。その姿がついおかしくて笑いながら反応する王妃。その姿を見ながら呆れた顔で笑うメチル。馬車の中は実に穏やかな雰囲気に包まれていた。
こうして、強い雨の降る中ではあるものの、王妃やメチルたちは無事に国境の砦に到着できたのだった。
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