伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

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第七章 3年目前半

第355話 華やかな会場で

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 まだパーティーが始まるまでには時間がある。私はできる限りの柑橘魔石を王都中に仕掛けていく。正直作るので精一杯だったので、効果のほどは疑念しかない。それでも、これで王都の平和が守れるのであるならば、ならない手はないというものよ。
(まったく、この短期間でこれだけの柑橘の香りを閉じ込めた魔石を作れるとはね。エスカったら頑張りすぎなのよね)
 たくさんの柑橘魔石を取り扱ったせいで、私の全身もすっかり柑橘の香りに包まれてしまっていた。
 でも、そんな状態になりながらでも柑橘魔石を仕掛けたんだから、なんとしてでも魔族の企みは潰させてもらうわよ。
 時間いっぱいまで魔石を仕掛けて回った私は、短距離転移を繰り返して城へと戻っていったのだった。

「お姉様、ものすごくオランとレモネの香りがしますよ」
 パーティー会場に現れた私は、モモからいきなりそんな事を言われてしまう。
 本当はきれいさっぱりに落としたかったのだけど、パーティーが始まってしまうのでそんな時間が確保できなかったのよ。
 そんなわけで、私は柑橘の香りを強烈に漂わせながら会場入りをせざるを得なかったのである。
「うーん、こんなに香りを漂わせてると目立って仕方ないわ」
「素敵ですよ、アンマリア様」
 首を捻る私に対して、テールが手を合わせながら褒めてくれる。
 しかし、これに対して私はすごく複雑だった。なにせ柑橘の香りが強烈すぎるのだから。それが証拠に、私の両親もどう反応していいのか困っている。
(はあ、とりあえず魔族に対して柑橘の香りが特効らしいですから、このまま我慢しますか……)
 いろいろ考えたものの、私は結局この状況を受け入れる事にしたのだった。街を柑橘まみれにしてきた罰かしらね……。
 ため息をごまかすように、私は近くのテーブルにあった料理を口へと放り込んだのだった。

 やがて音楽が止まる。
 宰相であるバラクーダ・ブロックが出てきたのだ。つまり、これから王族たちが会場に姿を見せるというわけである。
 先程まで談笑していた貴族たちも、全員が黙って会場の正面を見つめている。
「ようこそ、みなさまお集まりいただきました。これより、国王陛下並びに王族の登場でございます」
 宰相が挨拶をすると、壇上に次々と王族たちが姿を現す。その中には他国の王子王女に来賓のベジタリウス王妃も混ざっていた。
 そして、その登場の最後は、今日のパーティーの主役であるフィレン王子だった。
 さすがに今回の主役であるフィレン王子が現れると、会場からはものすごい拍手が起きていた。なんだかんだ言ってもフィレン王子はかなり人気があるのである。第一王子なので、次期国王の有力候補なのだから仕方ないわね。
 会場のあちこちから黄色い声も聞こえてくる。おそらくは学園に通う貴族の令嬢たちだろう。確認しておくけれど、フィレン殿下は私やサキの婚約者だからね。
 そうは思いつつも、場の空気を考えて口には出さない私である。
 そんな様子を気にする事なく、フィレン王子が一歩前へと歩を進める。
「みなさん、本日は私の15歳の誕生日を祝う席にお集まりいただき、誠にありがとうございます。これからもサーロイン王国のために、並びに周辺諸国との良き関係のためにともに力を合わせて参りましょう」
 フィレン王子の声に、会場に集まった貴族たちからは大きな声が上がる。
 まあこの場で反発する貴族は居ないでしょうね。なにせミール王国とベジタリウス王国の王子王女が居るし、それだけならまだしもベジタリウス王妃まで居るんだもの。下手な声を上げれば宣戦布告になって、周りの貴族から袋叩きだろう。誰だって空気は読むものである。
「私の誕生日を祝うという名目ではありますが、どうぞみなさん、心行くまでごゆるりとお楽しみ下さい」
 フィレン王子がグラスを持った右手を掲げると、会場の貴族たちも同じように右手を掲げている。
「乾杯」
 フィレン王子の声に、貴族たちも続く。
 こうして、フィレン王子の誕生日を祝うパーティーが始まったのである。
 楽団の奏でる優雅な調べに乗せて、会場の中は実に和やかな雰囲気に包まれる。
 そんな中、私たちファッティ家はサキのテトリバー男爵家に声を掛けて、一緒にフィレン王子へと近付いていく。婚約者特権よ。
「お誕生日おめでとうございます、殿下」
「ありがとう、アンマリア、サキ。君たちみたいな婚約者が居て、私は本当に幸せものだな。そう思わないかい、リブロ」
「ええ、その通りでございます、兄上」
 フィレンに問い掛けられたリブロ王子も、実に穏やかな表情で肯定していた。
「そうだ、アンマリア、サキ。私たちと一緒に踊ってくれるかい?」
「えっ、今からですか?」
 体中から柑橘の香りを漂わせている私は、つい驚いてしまった。この状態で大丈夫なのかと。
「その香りを気にしているのかい? むしろいいんじゃないのかな。これが私たちの幸せの香りだとでも言って、みんなにおすそ分けをしようじゃないか」
 フィレン王子が笑いながらそんな冗談めいた事を言っている。これには私は困惑するし、リブロやサキは必死に笑いを堪えていた。
 だけど、さすがに王子からの申し出を断れる事もなく、私たちは一緒に踊りを披露する事になったのだった。
 そして、私たちに気が付いた貴族たちが場所を空けると、私たちはそこへと歩み出していく。
 その時だった。突然、会場の窓ガラスが割れたのだった。
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