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第九章 拡張版ミズーナ編
第483話 最後の大問題
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収穫祭が終わり、もう残すイベントは最後の期末試験と卒業式くらいだった。
しかし、期末試験といえば、もう想像の通りである。
「ああああ……」
いつものようにエスカのうめき声が聞こえてくる。どうしてここまで試験が苦手なのだろうか。まったくもってよく分からない。
前世では営業職に就いていたんだし、勉強もよくできたはずである。だというのに、このうめき声である。おそらくは転生後の環境のせいだろう。
エスカの兄であるアーサリーもそれなりに勉強が苦手だった。もはやミール王国の血がそうさせているとしか思えない状況だった。
「まったく、収穫祭の時の騒動ではかっこよく活躍してたのに、どうして普段はこんなにポンコツなのかしらね……」
エスカの様子を見ているミズーナ王女とメチルが呆れている。
いざっていう時は頼りになるのに、本当に勉強にいたっては完全にそれを微塵も感じさせない。それがエスカという人物なのである。
「まったく、もう……。試験まではひと月半ありますから、頑張ってどうにかしましょう」
「え、ええ。そうね……」
ミズーナ王女の言葉に、遠い目をするエスカであった。まったく、勉強に関してはまったくぶれのないエスカの姿に、ミズーナ王女は困ったように笑うしかなかった。
ちなみに、あの崩れた小屋がどうなったのか。
収穫祭の日の夜には、ようやくあの怨念のもやが生み出していた結界が解けたようだ。ただ、夜の間は真っ暗だったこともあり巡回の兵士たちに気付かれる事はなかった。
ようやくあの場所の異常に気が付いたのは、翌朝の近所の人たちだったという。
住民たちの最後の記憶では、確かにあの場所には小屋が建っていた。そのために、がれきどころか砂のようになっていた事に驚きが隠せないようだった。
その話は城に住むミズーナ王女たちの耳にも入り、その異常さに驚愕せざるを得なかった。
ただ一人だけ、反応が違ったのがエスカだった。
その反応を怪しんだミズーナ王女が詰め寄ると、魔王から直々にあの小屋を粉みじんにした事を聞いたのだという。
少しでも残っていれば、念のもやが再び発生しかねないために、気の済むまで粉砕したのだそうだ。
その話を聞いたミズーナ王女は呆れて言葉も出なかったらしい。右手で顔を押さえて、「これで静かになるならもういいわ」と首を左右に振ったのだという。
そんなやり取りもあったものの、今日もまったく変化のないミズーナ王女とエスカの関係である。所詮は間にサーロインを挟んだ遠く離れた国の王女同士という関係なのだ。同じように前世持ちというのは、あくまでもおまけに過ぎなかった。
しかし、そんな関係にもいよいよ変化が訪れることになる。
ミール王国の王族の二人が、ベジタリウス王国内に住む魔族と婚姻関係になるということだ。ベジタリウス王国の王族自体とは関係ないものの、魔王もメチルも今はベジタリウス王国民である。したがって、王族同士ではなくてもミール王国とベジタリウス王国の間に、正式な交友関係が構築されるということなのだ。長い歴史を見ると、これがいかに衝撃的なことかよく分かるのである。
ただ、これをスムーズに進めようとすると、エスカが無事に学園を卒業しなければならない。最後の最後で赤点を取って留年などぶっちゃけ何の洒落になるというのだろうか。
そんなわけで、エスカの赤点回避は重要な任務なのである。
「うばああぁ……、試験なんていやぁ……」
今日もテーブルに突っ伏しながら奇声を上げている。
「大丈夫ですよ、エスカ。アーサリー殿下ですら赤点はなかったのです。エスカもやればできるんですよ」
あまりにも見ていられない光景だけに、エスカに声を掛けて励まそうとするミズーナ王女である。
「でもなぁ……」
テーブルに突っ伏した状態から、顔だけを上げて唇を尖らせているエスカ。どうやら、相当に不安があるようだ。まったく勉強嫌いここに極まれるという感じである。
「やる前から諦めてどうするのよ。私たちだって手伝うから最後まで頑張ってちょうだい。ほら、魔王様の元に嫁ぐんでしょ?」
「うーん……」
突っ伏したままミズーナ王女から視線を逸らすエスカである。
「魔王様ってかなり博識らしいですよ。私は封印後の人間ですから知りませんけれど、サンカリーやテリアは封印される前から仕えていたらしいですからね。二人もそれなりに頭のいいタイプでしたが、それでも敵わないと漏らすくらいの方です。頭がよろしくないと嫌われると思いますよ」
紅茶のおかわりを持ってきたメチルが、エスカにとどめを刺すべく言葉をかける。
「ガーン……」
ショックの音をわざわざ口にするエスカ。そのくらいに衝撃は大きかったようだ。
「ま、頑張りましょうね、エスカ」
「はい……」
激しく落ち込むエスカを、ミズーナ王女は丁寧に慰めていた。
アンマリアたちの卒業からもう9か月。今年もまたこの時期が近付いてきたのであった。
エスカは無事に赤点を回避して卒業できるかどうか、これが最後の障害となりそうだった。
しかし、期末試験といえば、もう想像の通りである。
「ああああ……」
いつものようにエスカのうめき声が聞こえてくる。どうしてここまで試験が苦手なのだろうか。まったくもってよく分からない。
前世では営業職に就いていたんだし、勉強もよくできたはずである。だというのに、このうめき声である。おそらくは転生後の環境のせいだろう。
エスカの兄であるアーサリーもそれなりに勉強が苦手だった。もはやミール王国の血がそうさせているとしか思えない状況だった。
「まったく、収穫祭の時の騒動ではかっこよく活躍してたのに、どうして普段はこんなにポンコツなのかしらね……」
エスカの様子を見ているミズーナ王女とメチルが呆れている。
いざっていう時は頼りになるのに、本当に勉強にいたっては完全にそれを微塵も感じさせない。それがエスカという人物なのである。
「まったく、もう……。試験まではひと月半ありますから、頑張ってどうにかしましょう」
「え、ええ。そうね……」
ミズーナ王女の言葉に、遠い目をするエスカであった。まったく、勉強に関してはまったくぶれのないエスカの姿に、ミズーナ王女は困ったように笑うしかなかった。
ちなみに、あの崩れた小屋がどうなったのか。
収穫祭の日の夜には、ようやくあの怨念のもやが生み出していた結界が解けたようだ。ただ、夜の間は真っ暗だったこともあり巡回の兵士たちに気付かれる事はなかった。
ようやくあの場所の異常に気が付いたのは、翌朝の近所の人たちだったという。
住民たちの最後の記憶では、確かにあの場所には小屋が建っていた。そのために、がれきどころか砂のようになっていた事に驚きが隠せないようだった。
その話は城に住むミズーナ王女たちの耳にも入り、その異常さに驚愕せざるを得なかった。
ただ一人だけ、反応が違ったのがエスカだった。
その反応を怪しんだミズーナ王女が詰め寄ると、魔王から直々にあの小屋を粉みじんにした事を聞いたのだという。
少しでも残っていれば、念のもやが再び発生しかねないために、気の済むまで粉砕したのだそうだ。
その話を聞いたミズーナ王女は呆れて言葉も出なかったらしい。右手で顔を押さえて、「これで静かになるならもういいわ」と首を左右に振ったのだという。
そんなやり取りもあったものの、今日もまったく変化のないミズーナ王女とエスカの関係である。所詮は間にサーロインを挟んだ遠く離れた国の王女同士という関係なのだ。同じように前世持ちというのは、あくまでもおまけに過ぎなかった。
しかし、そんな関係にもいよいよ変化が訪れることになる。
ミール王国の王族の二人が、ベジタリウス王国内に住む魔族と婚姻関係になるということだ。ベジタリウス王国の王族自体とは関係ないものの、魔王もメチルも今はベジタリウス王国民である。したがって、王族同士ではなくてもミール王国とベジタリウス王国の間に、正式な交友関係が構築されるということなのだ。長い歴史を見ると、これがいかに衝撃的なことかよく分かるのである。
ただ、これをスムーズに進めようとすると、エスカが無事に学園を卒業しなければならない。最後の最後で赤点を取って留年などぶっちゃけ何の洒落になるというのだろうか。
そんなわけで、エスカの赤点回避は重要な任務なのである。
「うばああぁ……、試験なんていやぁ……」
今日もテーブルに突っ伏しながら奇声を上げている。
「大丈夫ですよ、エスカ。アーサリー殿下ですら赤点はなかったのです。エスカもやればできるんですよ」
あまりにも見ていられない光景だけに、エスカに声を掛けて励まそうとするミズーナ王女である。
「でもなぁ……」
テーブルに突っ伏した状態から、顔だけを上げて唇を尖らせているエスカ。どうやら、相当に不安があるようだ。まったく勉強嫌いここに極まれるという感じである。
「やる前から諦めてどうするのよ。私たちだって手伝うから最後まで頑張ってちょうだい。ほら、魔王様の元に嫁ぐんでしょ?」
「うーん……」
突っ伏したままミズーナ王女から視線を逸らすエスカである。
「魔王様ってかなり博識らしいですよ。私は封印後の人間ですから知りませんけれど、サンカリーやテリアは封印される前から仕えていたらしいですからね。二人もそれなりに頭のいいタイプでしたが、それでも敵わないと漏らすくらいの方です。頭がよろしくないと嫌われると思いますよ」
紅茶のおかわりを持ってきたメチルが、エスカにとどめを刺すべく言葉をかける。
「ガーン……」
ショックの音をわざわざ口にするエスカ。そのくらいに衝撃は大きかったようだ。
「ま、頑張りましょうね、エスカ」
「はい……」
激しく落ち込むエスカを、ミズーナ王女は丁寧に慰めていた。
アンマリアたちの卒業からもう9か月。今年もまたこの時期が近付いてきたのであった。
エスカは無事に赤点を回避して卒業できるかどうか、これが最後の障害となりそうだった。
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