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第76話 お盆が終わる
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日付は8月15日。
この日の栞は夏祭りの最終日の手伝いではなく、両親と一緒に墓参りに来ていた。
栞の家系は両親の祖父母の時から、この浦見市の土地に住んでいるようで、その曽祖父母の墓は市内の墓地に存在していた。ちなみに両親の両親はまだ70歳代で元気にしている。
この日も30度を超える暑さが続いており、周りからは蝉時雨が聞こえてきている。いかにも夏らしい光景だ。浦見市のちょっとした郊外にある墓地は、都会の喧騒なんてどこに行ったというくらい静かなのだった。
栞は両親と一緒に墓を掃除している。年に一回、このお盆の時にしか訪れる事がないので、屋外雨ざらしの墓はやっぱり汚れている。なので供養のためにしっかりと気持ちを込めて掃除をしておいた。
掃除をしてきれいになった曾祖父母の墓を前に、栞は今の仕事を全うする事を改めて誓っていた。代々が過ごしてきたこの土地で、これ以上好き勝手に悪い事をさせるわけにはいかない。その思いを胸に、栞と両親は墓参りを済ませて帰宅するのだった。
さて、それ以外の新聞部の面々は、今日も夏祭りで大わらわにしている。最終日の今日は花火は打ち上がらないが、商店街の広場では盆踊り行われるし、最終日の商店街のお店はタイムセールが行われているので、それ目当てという人もちらほらと来ているようだった。ちなみに商店街の店は、お盆が終わってから3日間の休業日を設ける事になっているらしい。だからなのか、どの店もものすごく気合いが入って呼び込みを行っていた。
「悪いなぁ、最終日まで手伝ってもらってしまって」
「いえいえ。せっかくのご縁ですからしっかりご一緒させて頂きますよ。それに、四方津の方々から少しばかりお話を伺えましたし、こちらとしても収穫はありましたからね。おかげで、我がバーディア家の事も少し知る事ができました」
「そうか、ならよかったが、あまり役に立てたようには見えないな」
調部長の表情を見て、会長はそんな感想を漏らす。
「あら、結果的にはそうかも知れませんが、過去の事を聞けたのはよかったですよ」
申し訳なさそうな顔を浮かべる会長に、調部長は微笑んで言葉を返していた。
調部長が聞いた分では、どうやら商店街に居る四方津組の残党は、あまり今回の問題には関わっていないようだった。だが、あの花屋のように巻き込まれる者は少なからず居るようで、事を起こしている連中は力関係では上に居る人物たちのようである。
ちなみに、あの花屋のテナントはあの一件で閉める事になってしまい、今では新たなテナント募集の真っ最中となっていた。ちなみに今回の夏祭りでは救護所として使われていた。
その花屋の主人たちはほとぼりが冷めるまで匿われる状態が続いているようで、今どこに居るのかという情報は知らされていないそうだ。あのケシについても知り合いから頼まれたらしいのだが、その知り合いは音信不通という事で、現在は完全に捜査が行き詰っているらしい。
「裏でレオンが動いているというのなら、尻尾を掴む事は難しいでしょうね。2年間もまったく情報が掴めなかったのですからね」
調部長がレオンの名を出すと、会長が動揺を見せる。それを調部長が見逃すわけがなかった。
「……あなた、レオンに関して何か知っているのですか?」
調部長が詰め寄ると、会長は明らかな動揺を見せている。これは間違いなく何かを知っていると直感した調部長は、会長にさらに詰め寄っていく。そうしていると、会長は調部長から視線を逸らしてしまう。
「知っているようですね。悪いようにはしません、話して下さい」
「じ、実は……」
調部長の覇気に、会長は折れてレオンについて話し始めた。
「という事は、奴は今この街に住んでいるっていう事なのですね?」
「さすがにそこまでは分からないが、この街の近辺には少なからず拠点を構えていると思う。でなきゃ、ここに姿を見せる事はできやしないはずだからな」
そこまで話した会長だったが、
「悪いが、俺だって死にたくはない。……これ以上は勘弁してくれ」
震えながらこれ以上話す事を拒否してきたのだった。それくらいには、レオンという男は四方津組にとって恐怖の対象だという事なのである。
その言葉を聞いた調部長は、
「分かりました。これ以上は無理にお聞きしません」
やむなく追及をやめる事にしたのだった。
「とはいえ、これは有益な情報です。あとでカルディと話をしておきませんとね」
腕を組んでそう喋っていたかと思うと、パンと両手を突然打つ。
「さて、お祭りも最終日です。湿っぽいのはこのくらいにしておいて、残りも楽しみますか」
「お、おう……」
完全に気持ちを切り替える。なにせ商店街はいまだに人がごった返している。少しでもそれを捌くための人手が必要なのだ。ちょうど休憩も終わるのだから、いつまでも話をしていられなかったのだった。
「また何かあったらお知らせして下さいね。迷惑をお掛けしませんので」
「わ、分かった。頼むから、身の安全だけは確保してくれよ」
「ええ、本国の父と相談してみます」
こうして、慌ただしいお盆の時期は過ぎていったのだった。
この日の栞は夏祭りの最終日の手伝いではなく、両親と一緒に墓参りに来ていた。
栞の家系は両親の祖父母の時から、この浦見市の土地に住んでいるようで、その曽祖父母の墓は市内の墓地に存在していた。ちなみに両親の両親はまだ70歳代で元気にしている。
この日も30度を超える暑さが続いており、周りからは蝉時雨が聞こえてきている。いかにも夏らしい光景だ。浦見市のちょっとした郊外にある墓地は、都会の喧騒なんてどこに行ったというくらい静かなのだった。
栞は両親と一緒に墓を掃除している。年に一回、このお盆の時にしか訪れる事がないので、屋外雨ざらしの墓はやっぱり汚れている。なので供養のためにしっかりと気持ちを込めて掃除をしておいた。
掃除をしてきれいになった曾祖父母の墓を前に、栞は今の仕事を全うする事を改めて誓っていた。代々が過ごしてきたこの土地で、これ以上好き勝手に悪い事をさせるわけにはいかない。その思いを胸に、栞と両親は墓参りを済ませて帰宅するのだった。
さて、それ以外の新聞部の面々は、今日も夏祭りで大わらわにしている。最終日の今日は花火は打ち上がらないが、商店街の広場では盆踊り行われるし、最終日の商店街のお店はタイムセールが行われているので、それ目当てという人もちらほらと来ているようだった。ちなみに商店街の店は、お盆が終わってから3日間の休業日を設ける事になっているらしい。だからなのか、どの店もものすごく気合いが入って呼び込みを行っていた。
「悪いなぁ、最終日まで手伝ってもらってしまって」
「いえいえ。せっかくのご縁ですからしっかりご一緒させて頂きますよ。それに、四方津の方々から少しばかりお話を伺えましたし、こちらとしても収穫はありましたからね。おかげで、我がバーディア家の事も少し知る事ができました」
「そうか、ならよかったが、あまり役に立てたようには見えないな」
調部長の表情を見て、会長はそんな感想を漏らす。
「あら、結果的にはそうかも知れませんが、過去の事を聞けたのはよかったですよ」
申し訳なさそうな顔を浮かべる会長に、調部長は微笑んで言葉を返していた。
調部長が聞いた分では、どうやら商店街に居る四方津組の残党は、あまり今回の問題には関わっていないようだった。だが、あの花屋のように巻き込まれる者は少なからず居るようで、事を起こしている連中は力関係では上に居る人物たちのようである。
ちなみに、あの花屋のテナントはあの一件で閉める事になってしまい、今では新たなテナント募集の真っ最中となっていた。ちなみに今回の夏祭りでは救護所として使われていた。
その花屋の主人たちはほとぼりが冷めるまで匿われる状態が続いているようで、今どこに居るのかという情報は知らされていないそうだ。あのケシについても知り合いから頼まれたらしいのだが、その知り合いは音信不通という事で、現在は完全に捜査が行き詰っているらしい。
「裏でレオンが動いているというのなら、尻尾を掴む事は難しいでしょうね。2年間もまったく情報が掴めなかったのですからね」
調部長がレオンの名を出すと、会長が動揺を見せる。それを調部長が見逃すわけがなかった。
「……あなた、レオンに関して何か知っているのですか?」
調部長が詰め寄ると、会長は明らかな動揺を見せている。これは間違いなく何かを知っていると直感した調部長は、会長にさらに詰め寄っていく。そうしていると、会長は調部長から視線を逸らしてしまう。
「知っているようですね。悪いようにはしません、話して下さい」
「じ、実は……」
調部長の覇気に、会長は折れてレオンについて話し始めた。
「という事は、奴は今この街に住んでいるっていう事なのですね?」
「さすがにそこまでは分からないが、この街の近辺には少なからず拠点を構えていると思う。でなきゃ、ここに姿を見せる事はできやしないはずだからな」
そこまで話した会長だったが、
「悪いが、俺だって死にたくはない。……これ以上は勘弁してくれ」
震えながらこれ以上話す事を拒否してきたのだった。それくらいには、レオンという男は四方津組にとって恐怖の対象だという事なのである。
その言葉を聞いた調部長は、
「分かりました。これ以上は無理にお聞きしません」
やむなく追及をやめる事にしたのだった。
「とはいえ、これは有益な情報です。あとでカルディと話をしておきませんとね」
腕を組んでそう喋っていたかと思うと、パンと両手を突然打つ。
「さて、お祭りも最終日です。湿っぽいのはこのくらいにしておいて、残りも楽しみますか」
「お、おう……」
完全に気持ちを切り替える。なにせ商店街はいまだに人がごった返している。少しでもそれを捌くための人手が必要なのだ。ちょうど休憩も終わるのだから、いつまでも話をしていられなかったのだった。
「また何かあったらお知らせして下さいね。迷惑をお掛けしませんので」
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