ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

文字の大きさ
143 / 182

第143話 小さな……

しおりを挟む
 理恵の家の問題はひとまず決着したようだが、栞たちにはまだ解決しなければならない事がたくさんあった。
 理恵の転校の話が出た事で、具体的なリミットが示されたために、水崎警部をはじめとした面々の作業は急ピッチで行われていった。
 久々に理恵が学校にやって来たその日、栞は久しぶりに千夏となじみの喫茶店に顔を出していた。
「ここに来るのも久しぶりね」
「ええ、そうね。最近は慌ただしくてなかなか顔を出せなかったものね」
 二人は揃っていつものを注文していた。ここのコーヒーとケーキはおいしいから仕方がない。
「それにしても、まさかあの噂の数々の本体が学園の外だとは思わなかったわね」
「そうね。そのせいで、私たちの存在がだいぶ宙に浮いちゃってる気がするわ」
 栞も千夏も役立たずになってきたせいか、ため息を吐いている。
 実際、その通りで仕方がない。
 学生と教師という立場である以上、どうしても学校の外となると関われる時間が少なくなってしまう。特に教師という立場にある千夏は、余計に時間が割けないのだ。結局、今まで通り学校内の調査に留まらざるを得ないのである。
「それはそうと千夏」
「何かしら、栞」
「飛田先生となんかいい雰囲気だとか聞くけど、いつの間にそんな事になってるのよ」
「べ、別にいいじゃないのよ。同じ教師なんだからそのくらいの交流、当たり前でしょう?」
 栞から問い詰められて、焦ったように言い訳をする千夏。顔が真っ赤になっているので、栞ですら簡単に分かるくらいの反応をしていた。
 しかし、幼馴染みとして千夏の事を応援してあげたいものだが、童顔でちび、そして何より、現在進行形で中学生をやらされている自分にとってはなかなか無縁な事に、栞はものすごく複雑な心境になっていた。栞に春は訪れなさそうである。
「ま、千夏はそのままの調子でいいわよ。完全に学校の外の話になっちゃってるもの。私は友人が絡んでいる話だから、もう少し首を突っ込むつもりだけどね」
 栞はケーキを頬張りながら、千夏に当てつけのように言っている。
「その話なら私も聞いてるわ。まさかそんな子ばかりが集まるなんて思ってもみなかったわね。警部さんのお子さんが一番普通じゃないの?」
「まーちゃんと勝くんよね。まあ、確かにそんな気がするわね。わっけーは最初っから変な奴だったけど」
 千夏の指摘に、栞はどういうわけか頭を抱えた。大体はわっけーのせいである。その頭を抱える栞を見て、つい笑ってしまう千夏だった。
「はあ、とりあえず今週末が勝負になるかしらね。理恵ちゃんの転校話が出たって事は、あいつは来週には行動を起こすってわけだし。被疑者逃亡で決着なんて、締まらないと思うわ」
 コーヒーをお替りした栞は、ミルクと砂糖を突っ込んで2杯目を味わっている。
 栞のその姿を見た千夏は驚いている。なにせ、大概はブラックで飲むし、入れても量は知れていた。その栞が、なんと砂糖をスプーン2杯も入れているのである。これは衝撃だった。
「なによ」
 衝撃を受けている千夏を見て、栞が文句ありげに眉間にしわを寄せている。
「いや、砂糖を入れる栞が珍しいかなって思ってね」
「ああ、確かにそうかもね。でも、今日は入れたい気分なの」
 そう言いながら、栞はコーヒーをかき混ぜる。
「栞、それ砂糖入れるためのスプーンよ」
「えっ?」
 栞は改めて、自分が持っているスプーンを確認する。すると、確かにそれは喫茶店備え付けの砂糖を入れるためのスプーンだった。コーヒー用のスプーンは、カップの上に置かれたままになっていた。
「あっちゃ~……。言って交換してもらうわ」
 栞はそそくさと立ち上がってカウンターへと向かっていった。その姿を見て千夏は笑ってはいたのだが、やはり、栞にもかなり心の余裕がなくなってきているのだと感じていた。なにせ、普段の栞ならまずするはずのないミスを犯していたのだから。
(やっぱり、最近の身の回りの事にかなり衝撃を受けているような感じかしらね。同じ調査員として情報は共有しているけれど、私ですらこれなら、栞の心境はもっと複雑なんでしょうね)
 そう思いながら、千夏は恥ずかしそうにスプーンを受け取って戻ってくる栞の姿を眺めていた。
「千夏」
 席に座ってスプーンを戻した栞は、千夏に声を掛ける。
「何かしら、栞」
「今週末は私は忙しいからね」
「分かったわ」
 栞が言った言葉はこれだけだが、千夏は長年の友人という事もあって、何を言いたいのかすぐに分かった。
 昔っから正義感は強い栞だし、その性格なら間違いなく首を突っ込むはずだからだ。
 だからこそ、千夏は軽く頷くだけで栞を止めるような事はしなかった。止めたって無駄だからだ。
「派手にやってきなさいよ、栞」
 千夏はこう言って栞に発破を掛けていた。それに対して栞は、無言で親指を立てて笑っていた。
 その後、別れて家に帰った栞と千夏。
 いくら仕事とはいえど、千夏は栞に対して、危険な事にこれ以上首を突っ込んでほしくなかった。でも、正義感あふれる栞を止めるのは難しいだろう。
 この週末、一体どんな結末が待っているかは分からない。
 千夏は一番の親友を信じて待つだけしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...