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第21話 ある連休の日の二人
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ブルーエを撃退して数日。この日は、朝から美空が千春の家に勉強をしに来ていた。
「あー、みそらねえちゃん、おひさしぶり」
そこへ妹のさくらが顔を出した。どうやら母親から飲み物差し入れのお手伝いを受けたようで、プラスチックのコップと、横倒しになった未開封の紙パックジュースがお盆に乗せられていた。幼稚園児にはまだ安定して運ぶのは厳しいようである。
「おー、さくら。頑張ったな、えらいぞ」
千春がさくらの頭を撫でると、さくらは「えへへ」と笑っていた。幼稚園児の笑顔の破壊力はすさまじい。
「では、ごゆっくりどうぞなのです」
さくらはぺこりと頭を下げて部屋を出ていった。千春の妹とは思えないくらいできた子なのである。
「さくらちゃんの素直さが、少しでも千春にあればねえ……」
部屋のドアが閉まって、さくらが階段を降りていく音を聞いた美空がジト目で千春を見る。
「なんだよ、それじゃ俺が素直じゃねえみたいな言い方じゃないか」
「その通りよ。何か文句あるの?」
「あるに決まってんだろうが!」
片肘をついてジト目で言う美空に、千春は怒り混じりに言い返している。
「はいはい、文句もいいけど宿題を済ませなさいよ。サボって泣きを見るのは千春なんだからね」
美空は意に介さないと言わんばかりにさらっと反撃する。ぐぬぬと唸った千春だったが、結局何も言い返せないまま、頭をぼりぼりとかきながら宿題と向き合った。
まったくもうと言わんばかりの表情をしている美空だが、こちらはすでに宿題を終わらせており、次の授業の予習を始めていた。この辺に二人の性格の差がはっきり出ている。
ちなみにチェリーとグローリは、相変わらず他の聖獣探しに奔走している。
三人目のパステルオレンジが見つかったというのに、その相方となる聖獣パシモの姿が見つからないのだ。この不可解な現象の解明も加わって、二体の聖獣は精力的に出かけているというわけである。
残る伝説の戦士は二人、聖獣は三体。すべてが揃うにはまだ時間が掛かりそうだった。
「なあ、美空」
「なによ、千春。くだらない事だったら怒るわよ?」
千春が手を止めて声を掛けると、美空は視線も上げずに集中した状態で返事をする。
「パステルオレンジって何者なんだろうな」
「さぁね。私たちとは馴れ合う様子はないし、放っておけばいいんじゃないの?」
千春の質問に答えている間も、美空の手は止まらない。
「そっかあ。でも、あいつの目は寂しそうな感じだったんだよな。確かに言葉は冷たいし、態度とかも淡々としてたけどさ。なーんか気になるんだよなあ」
千春はそう言いながら、後ろに手をついて首を反らしている。
「確かにね。私もそれは感じているけれど、向こうが関わる気がないのなら、無理にこっちに付き合わせる必要はないんじゃないかしら」
美空は淡々と答える。
「というか、手を止めないでよ、千春」
美空が視線だけを上げて千春を叱る。どこか殺気走った視線に、千春は慌てて体を起こして宿題と向き合った。
(おー、こえぇ……)
千春は冷や汗を流した。
というわけでお昼までの間、千春は鬼教官の監視の下、宿題をせっせと終わらせていった。結局終わらなかったのだが。
「午後も勉強ね。今日は遊ぶの禁止よ」
「なんだってーっ!」
美空から言い渡された千春は、絶望の表情を浮かべて叫ぶ。
「そりゃそうよ。サボるお前が悪いんだから」
「にーちゃんがわるいー」
母親とさくらにまで言われてしまう千春。ゴールデンウィークでも仕事の父親が居たら、一体どっちに味方しただろうか。父親もまじめなので、きっと千春の敵に回ったと思われる。千春はがっくりと項垂れたのだった。
「はいはい、宿題をやればいいんですよね、そうですよね……」
千春の声が泣きそうになっていた。だが、千春以外はさっさと昼食の準備に取り掛かっており、千春もとぼとぼとそれを手伝った。しかし、昼食のメニューがカレーだった事を知ると、千春は大好物とあってすっかり元気を取り戻していた。本当に単純である。
カレーを食べて元気を取り戻した千春だったが、厳しい鬼教官の監視の下に行われた宿題との格闘に、夕方までかかりながらもなんとか決着をつけたのであった。
ところが、宿題との格闘を終えた千春に、母親から指令が下る。
「千春、美空ちゃんを家まで送っていって、その帰りに買い物をしてきてちょうだい。あたしはまだ家事が残ってるからね、頼んだよ」
母親からのお使いだった。千春は母親から買い物リストとお金とエコバッグを押し付けられると、そのまま送り出されてしまった。
「ちょっと待て、拒否権は無しか! 問答無用かよ!」
玄関の前で叫ぶ千春だったが、
「にーちゃん、さっさとみそらねえちゃんをおくりとどけるのです」
玄関の隙間からさくらが千春たちを覗き見ていた。
「あー、分かったよ。さっさと行ってくればいいんだろ、行ってくれば!」
半ば自棄になりながらも、千春は美空と一緒に家を出ていった。
とことこと歩いていく千春と美空。こうやって二人でゆっくり歩くのも、そういえば久しぶりである。チェリーたちと会ってからはモノトーンが遠慮なしに襲い掛かってくるので、途中で切り上げる事も多かったのだ。
「なんだか、すごく久しぶりな気がするね」
「あー、そうだな。大体あいつらも一緒に居るから賑やかだったしなぁ」
「そうね」
そう、チェリーやグローリが一緒という事もあって、二人で落ち着いた話もなかなかできなかったのである。
とか言いながらも、いざ二人になるとこうも話のネタが出てこない。結局ろくな会話もないまま、千春は美空を家まで送り届ける事になってしまった。勉強中はあれだけ話をしていたというのに、そうしてこうなるのだろうか。まったく理解できない話である。
その後、美空を家まで送り届けた千春は、母親からのお使いを淡々とこなして家に帰ったのだった。
「あー、みそらねえちゃん、おひさしぶり」
そこへ妹のさくらが顔を出した。どうやら母親から飲み物差し入れのお手伝いを受けたようで、プラスチックのコップと、横倒しになった未開封の紙パックジュースがお盆に乗せられていた。幼稚園児にはまだ安定して運ぶのは厳しいようである。
「おー、さくら。頑張ったな、えらいぞ」
千春がさくらの頭を撫でると、さくらは「えへへ」と笑っていた。幼稚園児の笑顔の破壊力はすさまじい。
「では、ごゆっくりどうぞなのです」
さくらはぺこりと頭を下げて部屋を出ていった。千春の妹とは思えないくらいできた子なのである。
「さくらちゃんの素直さが、少しでも千春にあればねえ……」
部屋のドアが閉まって、さくらが階段を降りていく音を聞いた美空がジト目で千春を見る。
「なんだよ、それじゃ俺が素直じゃねえみたいな言い方じゃないか」
「その通りよ。何か文句あるの?」
「あるに決まってんだろうが!」
片肘をついてジト目で言う美空に、千春は怒り混じりに言い返している。
「はいはい、文句もいいけど宿題を済ませなさいよ。サボって泣きを見るのは千春なんだからね」
美空は意に介さないと言わんばかりにさらっと反撃する。ぐぬぬと唸った千春だったが、結局何も言い返せないまま、頭をぼりぼりとかきながら宿題と向き合った。
まったくもうと言わんばかりの表情をしている美空だが、こちらはすでに宿題を終わらせており、次の授業の予習を始めていた。この辺に二人の性格の差がはっきり出ている。
ちなみにチェリーとグローリは、相変わらず他の聖獣探しに奔走している。
三人目のパステルオレンジが見つかったというのに、その相方となる聖獣パシモの姿が見つからないのだ。この不可解な現象の解明も加わって、二体の聖獣は精力的に出かけているというわけである。
残る伝説の戦士は二人、聖獣は三体。すべてが揃うにはまだ時間が掛かりそうだった。
「なあ、美空」
「なによ、千春。くだらない事だったら怒るわよ?」
千春が手を止めて声を掛けると、美空は視線も上げずに集中した状態で返事をする。
「パステルオレンジって何者なんだろうな」
「さぁね。私たちとは馴れ合う様子はないし、放っておけばいいんじゃないの?」
千春の質問に答えている間も、美空の手は止まらない。
「そっかあ。でも、あいつの目は寂しそうな感じだったんだよな。確かに言葉は冷たいし、態度とかも淡々としてたけどさ。なーんか気になるんだよなあ」
千春はそう言いながら、後ろに手をついて首を反らしている。
「確かにね。私もそれは感じているけれど、向こうが関わる気がないのなら、無理にこっちに付き合わせる必要はないんじゃないかしら」
美空は淡々と答える。
「というか、手を止めないでよ、千春」
美空が視線だけを上げて千春を叱る。どこか殺気走った視線に、千春は慌てて体を起こして宿題と向き合った。
(おー、こえぇ……)
千春は冷や汗を流した。
というわけでお昼までの間、千春は鬼教官の監視の下、宿題をせっせと終わらせていった。結局終わらなかったのだが。
「午後も勉強ね。今日は遊ぶの禁止よ」
「なんだってーっ!」
美空から言い渡された千春は、絶望の表情を浮かべて叫ぶ。
「そりゃそうよ。サボるお前が悪いんだから」
「にーちゃんがわるいー」
母親とさくらにまで言われてしまう千春。ゴールデンウィークでも仕事の父親が居たら、一体どっちに味方しただろうか。父親もまじめなので、きっと千春の敵に回ったと思われる。千春はがっくりと項垂れたのだった。
「はいはい、宿題をやればいいんですよね、そうですよね……」
千春の声が泣きそうになっていた。だが、千春以外はさっさと昼食の準備に取り掛かっており、千春もとぼとぼとそれを手伝った。しかし、昼食のメニューがカレーだった事を知ると、千春は大好物とあってすっかり元気を取り戻していた。本当に単純である。
カレーを食べて元気を取り戻した千春だったが、厳しい鬼教官の監視の下に行われた宿題との格闘に、夕方までかかりながらもなんとか決着をつけたのであった。
ところが、宿題との格闘を終えた千春に、母親から指令が下る。
「千春、美空ちゃんを家まで送っていって、その帰りに買い物をしてきてちょうだい。あたしはまだ家事が残ってるからね、頼んだよ」
母親からのお使いだった。千春は母親から買い物リストとお金とエコバッグを押し付けられると、そのまま送り出されてしまった。
「ちょっと待て、拒否権は無しか! 問答無用かよ!」
玄関の前で叫ぶ千春だったが、
「にーちゃん、さっさとみそらねえちゃんをおくりとどけるのです」
玄関の隙間からさくらが千春たちを覗き見ていた。
「あー、分かったよ。さっさと行ってくればいいんだろ、行ってくれば!」
半ば自棄になりながらも、千春は美空と一緒に家を出ていった。
とことこと歩いていく千春と美空。こうやって二人でゆっくり歩くのも、そういえば久しぶりである。チェリーたちと会ってからはモノトーンが遠慮なしに襲い掛かってくるので、途中で切り上げる事も多かったのだ。
「なんだか、すごく久しぶりな気がするね」
「あー、そうだな。大体あいつらも一緒に居るから賑やかだったしなぁ」
「そうね」
そう、チェリーやグローリが一緒という事もあって、二人で落ち着いた話もなかなかできなかったのである。
とか言いながらも、いざ二人になるとこうも話のネタが出てこない。結局ろくな会話もないまま、千春は美空を家まで送り届ける事になってしまった。勉強中はあれだけ話をしていたというのに、そうしてこうなるのだろうか。まったく理解できない話である。
その後、美空を家まで送り届けた千春は、母親からのお使いを淡々とこなして家に帰ったのだった。
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