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第29話 自主練習
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ブルーエを倒してからというもの、モノトーンの軍勢による攻撃が起こらなくなった。そんなわけで、千春と美空は部活に精一杯打ち込む事ができている。平和なのが一番なのである。
「しっかし、まったく何も起こらなくなったな。おかげで安心して部活を頑張れるんだけど、よっ!」
美空の見守る中、自主練でリフティングをしていた千春。
「ナイスシュート!」
最後に思いっきりゴールに向けて蹴り出された千春のシュートは、見事にゴール左隅に突き刺さった。
「どんなもんだい!」
千春は得意げになっている。
「それにしても千春」
「なんだ?」
「最近眠くなる事なくなったよね?」
「ああ、そういえば……」
ふと思い出したように美空がぶつけてきた疑問。千春はパステルピンクに変身するようになってから、変身後はしばらく体のずれのせいで眠気に襲われるようになっていた。だが、ゴールデンウィーク辺りからそれがすっかり解消されていたのだ。まったくもって不思議な現象である。
「それは多分、千春に自覚が出てきた証拠だろうね」
「なんだよ、チェリー。俺は別にあんなひらひらした姿は好きじゃねーぞ」
ひょこっと顔を出してきた千春のパートナーである聖獣チェリーの言葉に、千春はあからさまな不機嫌を示す。それもそうだろう。千春は根っからのサッカー少年なのだ。少女趣味なんてこの方一度も抱いた事がない。幼馴染みの美空と話を合わせる程度の嗜みである。
「別にそういう意味じゃないよ。モノトーンを許せないって気持ちかな、それが高まった事で伝説の戦士の力が体に定着したんだと思う」
「あーなるほど、そういうわけか」
チェリーの説明に、千春はなんとなく納得いったようである。やはり気持ちの問題だったというわけだ。
「とはいえ、変身中の千春も千春っぽくて安心したわ。変身中だけ体に引っ張られるんじゃないかって心配したのよね」
「そういえばそういうのもあるね。千春は精神がしっかりしてるから、そういう点は安心していいと思うよ」
「うんうん、私もそう思うわよ、美空」
美空が思いっきり胸を撫で下ろしていると、チェリーとグローリが揃ってフォローを入れていた。
「ばか野郎! 正義の味方ってのは夢なんだ、ロマンなんだよ! そりゃ姿には驚いたが、純粋に嬉しいもんだぞ!」
美空たちの態度に千春が熱弁している。その姿に、美空はくすくすと笑っている。たまに醸し出される幼馴染みの甘い空間である。だが、チェリーとグローリもすっかりそれに馴染んでいた。この千春の熱弁は、自主練のリフティグをしながらしばらく続けられていた。喋りながらリフティングって、こいつただ者ではないぞ。
さて、しばらく続いた千春の自主練も終わり、ようやく千春たちは帰宅の途に就く。
帰り道もいろいろと話が盛り上がり、和気あいあいとしていたのだが、それは突然終わりを告げる。
「あらあら、ずいぶんと楽しそうね」
目の前に見慣れない人物が立っていたのである。露出の高い服に仮面まで付けて、実に怪しさ満点である。
「何者だ、あんた」
千春が美空をかばうように立ち、目の前の少女を睨みつける。その視線にも少女はまったく動じる様子はない。
「ここで立ち話も他の人の邪魔でしょ。少し場所を変えましょう」
仮面の少女はくるりと振り返る。
「ついて来なさい。ただし、拒否権はないわよ」
顔だけ振り向いた少女。だが、どういう事だろうか。この言葉にどういうわけか逆らってはいけない空気が強く感じられた。千春たちは仕方なく、その後を追う事にした。
やって来たのは近くの公園だった。時間的には散歩の人間も多そうだが、どういうわけかまったく人の気配が感じられなかった。
「人が居ないのが不思議かしら。この辺りはあたいの力で人が近付けなくしてあるのよ。他人に聞かれるわけにもいかない話だしね」
立ち止まって振り返った少女は、腰に手を当ててあごを上げた状態で千春たちに話し掛ける。どう見ても態度が偉そうである。
それにしても、チェリーとグローリの様子がさっきからおかしい。だが、それを気にしてばかりもいられない空気がひしひしと伝わってくる。美空の前に立ってかばう千春の拳にさらに力が入る。
「なかなかな騎士気取りね。いいわねそういうの」
目の前の仮面の少女がくすくすと笑っている。
「何がおかしい」
「おかしくなんてないわよ。ただ、素直に感動しただけよ」
怒鳴る千春に、少女は淡々と言葉を返した。
「感動させてもらったついでに、あたいからあんたたちにプレゼントをあげる」
「怪しい奴からの贈り物なんて受け取らねえよ!」
仮面の少女の発言に、即拒否する千春。しかし、
「言ったでしょう? あんたたちに拒否権はないって!」
叫んだ少女から紅色のオーラがあふれ出る。
「あたいの名前はマジェ。モノトーン首領ダクネース様の娘よ」
続けざまに少女から出た言葉に、千春たちに衝撃が走る。まさか敵の軍団の中心的な人物が出てくるとは思っていなかったからだ。
「さあ、パステルピンク、パステルシアン。これからあたいが訓練をつけてあげるわ!」
そう叫んだマジェの両手から、紅色の光の玉が放たれた!
「しっかし、まったく何も起こらなくなったな。おかげで安心して部活を頑張れるんだけど、よっ!」
美空の見守る中、自主練でリフティングをしていた千春。
「ナイスシュート!」
最後に思いっきりゴールに向けて蹴り出された千春のシュートは、見事にゴール左隅に突き刺さった。
「どんなもんだい!」
千春は得意げになっている。
「それにしても千春」
「なんだ?」
「最近眠くなる事なくなったよね?」
「ああ、そういえば……」
ふと思い出したように美空がぶつけてきた疑問。千春はパステルピンクに変身するようになってから、変身後はしばらく体のずれのせいで眠気に襲われるようになっていた。だが、ゴールデンウィーク辺りからそれがすっかり解消されていたのだ。まったくもって不思議な現象である。
「それは多分、千春に自覚が出てきた証拠だろうね」
「なんだよ、チェリー。俺は別にあんなひらひらした姿は好きじゃねーぞ」
ひょこっと顔を出してきた千春のパートナーである聖獣チェリーの言葉に、千春はあからさまな不機嫌を示す。それもそうだろう。千春は根っからのサッカー少年なのだ。少女趣味なんてこの方一度も抱いた事がない。幼馴染みの美空と話を合わせる程度の嗜みである。
「別にそういう意味じゃないよ。モノトーンを許せないって気持ちかな、それが高まった事で伝説の戦士の力が体に定着したんだと思う」
「あーなるほど、そういうわけか」
チェリーの説明に、千春はなんとなく納得いったようである。やはり気持ちの問題だったというわけだ。
「とはいえ、変身中の千春も千春っぽくて安心したわ。変身中だけ体に引っ張られるんじゃないかって心配したのよね」
「そういえばそういうのもあるね。千春は精神がしっかりしてるから、そういう点は安心していいと思うよ」
「うんうん、私もそう思うわよ、美空」
美空が思いっきり胸を撫で下ろしていると、チェリーとグローリが揃ってフォローを入れていた。
「ばか野郎! 正義の味方ってのは夢なんだ、ロマンなんだよ! そりゃ姿には驚いたが、純粋に嬉しいもんだぞ!」
美空たちの態度に千春が熱弁している。その姿に、美空はくすくすと笑っている。たまに醸し出される幼馴染みの甘い空間である。だが、チェリーとグローリもすっかりそれに馴染んでいた。この千春の熱弁は、自主練のリフティグをしながらしばらく続けられていた。喋りながらリフティングって、こいつただ者ではないぞ。
さて、しばらく続いた千春の自主練も終わり、ようやく千春たちは帰宅の途に就く。
帰り道もいろいろと話が盛り上がり、和気あいあいとしていたのだが、それは突然終わりを告げる。
「あらあら、ずいぶんと楽しそうね」
目の前に見慣れない人物が立っていたのである。露出の高い服に仮面まで付けて、実に怪しさ満点である。
「何者だ、あんた」
千春が美空をかばうように立ち、目の前の少女を睨みつける。その視線にも少女はまったく動じる様子はない。
「ここで立ち話も他の人の邪魔でしょ。少し場所を変えましょう」
仮面の少女はくるりと振り返る。
「ついて来なさい。ただし、拒否権はないわよ」
顔だけ振り向いた少女。だが、どういう事だろうか。この言葉にどういうわけか逆らってはいけない空気が強く感じられた。千春たちは仕方なく、その後を追う事にした。
やって来たのは近くの公園だった。時間的には散歩の人間も多そうだが、どういうわけかまったく人の気配が感じられなかった。
「人が居ないのが不思議かしら。この辺りはあたいの力で人が近付けなくしてあるのよ。他人に聞かれるわけにもいかない話だしね」
立ち止まって振り返った少女は、腰に手を当ててあごを上げた状態で千春たちに話し掛ける。どう見ても態度が偉そうである。
それにしても、チェリーとグローリの様子がさっきからおかしい。だが、それを気にしてばかりもいられない空気がひしひしと伝わってくる。美空の前に立ってかばう千春の拳にさらに力が入る。
「なかなかな騎士気取りね。いいわねそういうの」
目の前の仮面の少女がくすくすと笑っている。
「何がおかしい」
「おかしくなんてないわよ。ただ、素直に感動しただけよ」
怒鳴る千春に、少女は淡々と言葉を返した。
「感動させてもらったついでに、あたいからあんたたちにプレゼントをあげる」
「怪しい奴からの贈り物なんて受け取らねえよ!」
仮面の少女の発言に、即拒否する千春。しかし、
「言ったでしょう? あんたたちに拒否権はないって!」
叫んだ少女から紅色のオーラがあふれ出る。
「あたいの名前はマジェ。モノトーン首領ダクネース様の娘よ」
続けざまに少女から出た言葉に、千春たちに衝撃が走る。まさか敵の軍団の中心的な人物が出てくるとは思っていなかったからだ。
「さあ、パステルピンク、パステルシアン。これからあたいが訓練をつけてあげるわ!」
そう叫んだマジェの両手から、紅色の光の玉が放たれた!
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