マジカル☆パステル

未羊

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第43話 再会の双子

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「あたいが、あんたの姉さん? はっ、何を言っているのかしらね」
 目の前の少女は、杏の指摘を鼻で笑った。
「顔が似すぎているもの。それに色だって、まるであたしの姉さんのようだわ」
 だが、杏は食い下がる。確証はないが、自分の中の何かがそう告げているのである。あまりのしつこさに、少女はイラついた表情を見せる。
「まったく、せっかくいい気分になってたのに台無しだわ。いい加減にしなさいよ、パシモっ!」
 こう叫んで、少女は口を押さえた。
「今、パシモって……。やっぱり姉さん、メルプ姉さんなのね!」
「ちっ、しまったわ」
 少女が自分の思わぬミスに舌打ちをしている。
「姉さん、会いたかったわ……」
 杏が少女に近付く。だが、
「きゃっ!!」
 杏は次の瞬間、一回転して地面に叩きつけられていた。少女が背負い投げを放ったのである。
「うるさい。言ってしまったからには、取り消すのはやめておくわ。そうよ、あたいはあんたの双子の姉のメルプさ。だけどね……」
 頭を掻きながらメルプは言う。そして、その次の瞬間、杏は信じられない光景を見てしまう。
「今は、あんたらとは敵対関係にあるんだよ!」
 メルプから紅のもやが吹き出す。それが晴れた時、そこにはマジェの姿があったのだ。
「う、嘘よ……。姉さん、そんな……」
「嘘なんかじゃないわ。これが現実よ」
 マジェは冷めた目で杏を見ている。杏は信じられないものを見てしまい、完全に言葉を失っている。マジェはすっと仮面を被る。
「あたいは生き延びるために、ダクネース様の娘としてモノトーンの軍門に下ったのさ。さぁ、パシモ、あんたの覚悟を見せなさいっ!」
「モノ、トーンッ!」
 マジェが大きく左手を掲げると、公園に生えた木の一本が化け物へと変貌した。
「言っておくけれど、今回は手加減はなしよ。パシモがあたいを倒すか、あたいがパシモを倒すか、そのどっちかよ! 行けっ、モノトーン!」
 マジェの命令に、化け物が杏に襲い掛かる。ところが、杏は棒立ちのままだった。このままでは化け物の攻撃が杏を貫いてしまう。その時だった。
「分かったわ、姉さん。あたしも覚悟を決めるわ!」
 あまりのショックに絶望した表情になっていた杏だったが、マジェの本気に応えるために目を一度閉じて一気に見開いた。
「パステル・カラーチェンジ!」
 間一髪攻撃を躱して変身をする杏。
「命彩る時、秋の妖精パステルオレンジ!」
 パステルオレンジにはもう迷いはなかった。たとえ自分の双子の姉であろうと、敵であるなら倒すしかない。悲しき覚悟がそこにはあった。そのパステルオレンジの表情を見たマジェは、どこか微笑んだように見えた。
「さぁ、パステルオレンジ! 姉であるあたいを越えてみせろ!」
「言われなくても!」
 化け物がパステルオレンジに襲い掛かるが、手下の化け物風情では、今のパステルオレンジの敵ではなかった。
「モ、モ、モノトーンッ!」
 弄ばれた挙句、見せ場もなく化け物は浄化されてしまった。
「さぁ、次はあんたよ、姉さん。いえ、マジェ!」
「ふふっ、いいわねその顔。泣いてばっかりだった小さい頃を思えば、ずいぶんと立派になったじゃないの」
「う、うるさいわね。一体どんだけ昔の事を言うのよっ!」
 険しい顔を向けるパステルオレンジに、無邪気に笑うマジェ。そこで暴露された事に、パステルオレンジは恥ずかしがりながら怒っている。
「本当に、少しは成長したようね。あたいがうざく絡んだかいがあったってものだわ」
 マジェは感慨深そうにしている。
「さて、どこまで成長したか、確かめてあげるわっ!」
 マジェが叫ぶと、その背後には12本の色鉛筆が現れた。
「今回は何本躱せるかしらね。マゼンダ・ペンシル・ロケット!」
 そして、一斉にパステルオレンジに向けて色鉛筆が発射された。
「くっ……」
 パステルオレンジは、集中して色鉛筆を見る。そして、1本、また1本と躱していく。だが、やはりどうしても回避が難しいものが出てきてしまう。
「オータム・リーフ・フラッド!」
 牽制技も交えながら、どうにか半分は回避した。だが、まだ残り6本が襲い掛かってきていた。
「へえ、半分躱せたのね。少しはサッカーボールの特訓が役に立ったようね」
 マジェは冷静にパステルオレンジの姿を見ている。
「でも、回避だけに集中しているようじゃあ、まだまだよっ!」
 マジェは一気に畳みかけに入った。残った6本が一斉にパステルオレンジに襲い掛かったのである。
「くっ!」
 パステルオレンジは、攻撃の隙間となっていた上方へ跳んで回避する。だが、これは罠だった。
「かはっ!」
 色鉛筆に集中していたパステルオレンジは、飛び込んできたマジェに反応できなかったのである。飛び蹴りを食らってしまったパステルオレンジは、そのまま芝生の上に叩きつけられてしまった。
「まったく、周囲への注意力が散漫ね。だから、あんたに舞は無理だったのよ」
 マジェは地面に横たわるパステルオレンジの隣に降りて見下ろしている。
「どうして双子でここまで差がついたのかしらね」
 そう言いながら、マジェはパステルオレンジの隣に座って、その頭を撫でていた。
「パシモ、あんたはあたいには敵わない。悪い事は言わないから、戦いから身を引きなさい。あんたは未熟すぎるのよ」
 マジェからそう声を掛けられて、パステルオレンジは悔しさのあまりに泣き出してしまった。
「確かに、あたしは未熟よ。それは……分かってるの。ひくっ」
 そして、顔に両腕をかぶせる。泣き顔を見せないためだ。
「でも、姉さんは優しいままだった。敵に落ちても姉さんは姉さんだったのね……。うっうっ……そこは、嬉しかった……」
「ホント、泣き虫なんだから」
 そう言うと、マジェは立ち上がる。
「だけど、今のあたいはマジェ。ダクネース様の娘としての立場があるの。だから、痛いだろうけど今は我慢してね」
「うぐっ!」
 パステルオレンジが声を上げる。マジェが思いっきりパステルオレンジの脇腹を蹴り飛ばしたのだ。
「ね、姉さん……。そ、んな、辛そうな顔……しないでよ……」
 痛いのを我慢しながら、パステルオレンジはマジェに笑顔を向ける。すると、その顔からマジェは視線を背けた。
「はあ、いけないわね。つい情に走ってしまったわ」
 そう呟くマジェの頬には、何か光るものがあった。
「パシモ、まだ戦うつもりがあるのなら、その時は完全に敵だと思って倒しに来なさい。いいわね?」
「うん、姉さん」
 パステルオレンジの返事を聞くと、マジェは黙ってその場を去っていった。パステルオレンジは、しばらくそのまま芝生の上で寝そべっていた。マジェが本気で蹴った脇腹がまだ痛いからだ。
「……いつでもとどめを刺せるのに、姉さんは相変わらず甘いんだから」
 完敗だったはずなのに、なぜか嬉しそうなパステルオレンジ。
「マジェが姉さんだという事は、黙っておいた方がいいわね。冬柴さんはともかくとして、千春と美空は絶対戦えなくなりそうだもの」
 パステルオレンジは、マジェがメルプだという事を黙っておく事に決めた。そして、痛みが引くまでその場にじっとしていたのだが、さすがに日が暮れてしまった。そのために杏が家に帰ると、住職から帰りが遅いとお説教を食らったのだった。
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