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第54話 お寺で修業
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イエーロの襲撃からしばらくした週末。千春と美空は杏に呼ばれて寺へとやって来ていた。
「ここって色鮮寺じゃねーか。杏ってここに住んでるのか」
歴史ある外観が特徴的な小高い丘の中腹に存在するお寺、それが今杏が住んでいる場所である。ただ、歴史があるだけに古く、ところどころに手入れが行き届いていない様子が見られる。数少ない檀家のおかげで、朽ち果てるとまでは至っていないようだ。
「待ってたわよ、千春、美空」
杏が出迎える。
「あれ、杏一人なのか?」
「ええ。住職なら今は修行してる人の相手をしているわ」
「へー、そんな人が居るんだな」
杏だけが出迎えた理由を聞くと、千春は興味がなさそうな物言いをしていた。
とはいえ、禅寺での修行とかはたまに聞く事のある話である。そういう人が居てもまぁいっかと、千春はその程度の感想というわけだ。
「言っておくけど、千春たちもその修行を受けてもらうのよ。覚悟はいい?」
杏が千春と美空に問い掛けると、
「本当にやるのかい?」
「無理させないでよ、パシモ」
チェリーとグローリが心配そうに文句を言ってきた。
「住職は対応できないけれど、二人の事はあたしが任されたからね。まぁ大丈夫と思うわ。あたしも同じ事をやるし」
杏は住職から渡された冊子を取り出して、準備に取り掛かった。
「座禅と走り込みと滝行を、今日の夕食前と明日の朝食後にするわよ。初心者だから軽いメニューで済ませてるんですって」
「うげぇ、それで軽いって言うのかよ」
「住職が言われるには、夕食後と朝食前にも座禅が入るらしいわ。あと早朝の掃除もね」
露骨に嫌な顔をしている千春は、杏の言った事に対して黙り込んでしまった。想像以上に千春にはきつそうな内容のようだった。
「まあ、それはそれとして、二人とも準備してちょうだい。貴重品とかはしまっておくための棚があるからそこを使って」
杏の言葉でてきぱきと準備をする千春と美空。だが、千春の顔は相変わらず嫌そうだった。
「言っておくけど、あんたたちは強くならなきゃいけないんだからね。ワイスが言うには、イエーロとグーリの次の標的は間違いなくあんたたちとの事よ。あたしたちの中では一番実力が低いんだから、そこは危機感を持ってもらいたいわ」
杏にこう言われれば、千春と美空の表情が変わる。
「イエーロはあたしよりも強いし、グーリはあたしが一方的にやられたマジェと互角なんだもの。そうなると二人はどうなるかって、すぐ分かるわよね?」
さらに付け加えられた言葉に、二人は完全に黙り込んでしまった。
「まっ、そういう事よ。さっさと始めましょう。チェリーとグローリは補助をお願い」
「おう、なら監視役は俺っちが受け持つぜ」
「ワイス?!」
始めようとしたその矢先に、ワイスが突然現れた。
「ちょっと、冬柴さんの相手はいいの?」
「ノンノン、雪路から頼まれてきたんだぜ。自分の事はいいから、手伝ってきてあげてくれってな。雪路は俺っちが側に居なくても力を使いこなせるしな、離れててもまったく問題ないんだぜ」
ワイスは右手を左右に振りながら、キザに決めている。羊とはいえサングラスを掛けているせいで、どこか決まって見える。
「てなわけだ。俺っちがビシバシしごいてやるからな。覚悟しとけよ、甘ちゃんども」
ワイスはとても燃えていた。
「お、お手柔らかにお願いしますね?」
美空はワイスの気迫に顔を引きつらせていた。
夕方、遊歩道に備えられたベンチに、千春と美空の二人は寝転がるようにしてダウンしていた。杏はまだ余裕がありそうである。
「お疲れ様だよ、三人とも」
「はい、ジュースよ」
「おう、サンキュな」
へばっている三人に、チェリーとグローリが労いを入れる。
「かあ~、だらしねえなぁ。俺っちはそんなにきつくした覚えはないんだがなぁ。こりゃ、経験不足が間違いなく疑われるぜ」
ワイスからの評価は厳し過ぎた。だが、疲れ切っている千春と美空からは反論はなかった。疲れているのでそれどころではなかったのだ。
しばらく三人が休んでいると、何やら声が聞こえてくる。この声に真っ先に反応したのは、杏とワイスだった。
「楓さん、無理はいけませんよ。今日はこの辺でやめておきましょう」
「いいや、杏の事を考えたら、あたいは一刻も早く自分を取り戻さなきゃいけないんです」
そう、声の主は住職と楓だった。
ふと双方がかち合う。
「おやおや、杏さん。その二人が今回の修業の希望者ですかな?」
住職は千春と美空、そして杏にだけ反応している。聖獣たちは一般人には見えないというのは事実のようだ。
「はい。今しがたひと通り終えて、少し休んでから寺に戻るところでした」
「そうですか。楓さん、私は一足先に戻りますね。少し、話をした方がよろしいでしょうから、邪魔者の私はお風呂とご飯の支度をしてきますよ」
「えっ、ちょっと……?」
杏の返答を聞くと、住職は楓にそう伝えると、答えを待つ事なくそのまま寺の方へと歩いていった。
残された四人と三体は、何とも言えない雰囲気となった。特に楓の事を知る杏とワイスは非常に困っていた。楓の事をどう紹介したらいいのだろうかと。
一方で千春と美空も困っていた。楓と呼ばれた少女は杏とよく似ているし、そこそこ前にゲーセンで目撃した少女とも似ていたからだ。
だが、その困惑した中、チェリーが動いた。
「君のこの気配……、モノトーンの力を感じる」
「!!」
チェリーが呟くと、楓は驚いて一歩下がった。
「ちょっと待て、今チェリーの声に反応したぞ」
「くっ!」
千春が体を起こして叫ぶと、楓はぐっと歯を食いしばった。
「くそっ、本当ならもっと後に出くわしたかったんだけどね!」
楓から紅色のもやが吹き出す。すると、そこに現れたのは、何度となく見た事のある姿だった。
「マジェっ!」
千春と美空、チェリーとグローリがマジェを睨むつける中、杏とワイスは顔を押さえていた。一応出くわさないようにスケジュールは組んだはずだが、可能性があるのは分かっていた。けれど、こんなに早く顔を合わせる事になるとは思ってもみなかったのだ。
なんて事はない。千春たちの予定が遅くなった事に加え、楓の方は逆に早まってしまった事による事故なのだ。予定が狂って、杏たちは開き直った。
「姉さん、予定にはなかったけれど、ここで模擬戦といきましょう」
「そうね。あいつらと戦うとなれば、実戦経験は必要だからね」
杏とマジェのやり取りに、千春たちが驚いている。
「ちょっと待って、パシモ。マジェが姉さんって……、まさか!」
チェリーが勘付いたようで、その表情を青ざめさせる。
「そうよ、マジェはあたしの姉さん、秋を司る実りの聖獣メルプよ!」
千春たちに衝撃が走った。
「ここって色鮮寺じゃねーか。杏ってここに住んでるのか」
歴史ある外観が特徴的な小高い丘の中腹に存在するお寺、それが今杏が住んでいる場所である。ただ、歴史があるだけに古く、ところどころに手入れが行き届いていない様子が見られる。数少ない檀家のおかげで、朽ち果てるとまでは至っていないようだ。
「待ってたわよ、千春、美空」
杏が出迎える。
「あれ、杏一人なのか?」
「ええ。住職なら今は修行してる人の相手をしているわ」
「へー、そんな人が居るんだな」
杏だけが出迎えた理由を聞くと、千春は興味がなさそうな物言いをしていた。
とはいえ、禅寺での修行とかはたまに聞く事のある話である。そういう人が居てもまぁいっかと、千春はその程度の感想というわけだ。
「言っておくけど、千春たちもその修行を受けてもらうのよ。覚悟はいい?」
杏が千春と美空に問い掛けると、
「本当にやるのかい?」
「無理させないでよ、パシモ」
チェリーとグローリが心配そうに文句を言ってきた。
「住職は対応できないけれど、二人の事はあたしが任されたからね。まぁ大丈夫と思うわ。あたしも同じ事をやるし」
杏は住職から渡された冊子を取り出して、準備に取り掛かった。
「座禅と走り込みと滝行を、今日の夕食前と明日の朝食後にするわよ。初心者だから軽いメニューで済ませてるんですって」
「うげぇ、それで軽いって言うのかよ」
「住職が言われるには、夕食後と朝食前にも座禅が入るらしいわ。あと早朝の掃除もね」
露骨に嫌な顔をしている千春は、杏の言った事に対して黙り込んでしまった。想像以上に千春にはきつそうな内容のようだった。
「まあ、それはそれとして、二人とも準備してちょうだい。貴重品とかはしまっておくための棚があるからそこを使って」
杏の言葉でてきぱきと準備をする千春と美空。だが、千春の顔は相変わらず嫌そうだった。
「言っておくけど、あんたたちは強くならなきゃいけないんだからね。ワイスが言うには、イエーロとグーリの次の標的は間違いなくあんたたちとの事よ。あたしたちの中では一番実力が低いんだから、そこは危機感を持ってもらいたいわ」
杏にこう言われれば、千春と美空の表情が変わる。
「イエーロはあたしよりも強いし、グーリはあたしが一方的にやられたマジェと互角なんだもの。そうなると二人はどうなるかって、すぐ分かるわよね?」
さらに付け加えられた言葉に、二人は完全に黙り込んでしまった。
「まっ、そういう事よ。さっさと始めましょう。チェリーとグローリは補助をお願い」
「おう、なら監視役は俺っちが受け持つぜ」
「ワイス?!」
始めようとしたその矢先に、ワイスが突然現れた。
「ちょっと、冬柴さんの相手はいいの?」
「ノンノン、雪路から頼まれてきたんだぜ。自分の事はいいから、手伝ってきてあげてくれってな。雪路は俺っちが側に居なくても力を使いこなせるしな、離れててもまったく問題ないんだぜ」
ワイスは右手を左右に振りながら、キザに決めている。羊とはいえサングラスを掛けているせいで、どこか決まって見える。
「てなわけだ。俺っちがビシバシしごいてやるからな。覚悟しとけよ、甘ちゃんども」
ワイスはとても燃えていた。
「お、お手柔らかにお願いしますね?」
美空はワイスの気迫に顔を引きつらせていた。
夕方、遊歩道に備えられたベンチに、千春と美空の二人は寝転がるようにしてダウンしていた。杏はまだ余裕がありそうである。
「お疲れ様だよ、三人とも」
「はい、ジュースよ」
「おう、サンキュな」
へばっている三人に、チェリーとグローリが労いを入れる。
「かあ~、だらしねえなぁ。俺っちはそんなにきつくした覚えはないんだがなぁ。こりゃ、経験不足が間違いなく疑われるぜ」
ワイスからの評価は厳し過ぎた。だが、疲れ切っている千春と美空からは反論はなかった。疲れているのでそれどころではなかったのだ。
しばらく三人が休んでいると、何やら声が聞こえてくる。この声に真っ先に反応したのは、杏とワイスだった。
「楓さん、無理はいけませんよ。今日はこの辺でやめておきましょう」
「いいや、杏の事を考えたら、あたいは一刻も早く自分を取り戻さなきゃいけないんです」
そう、声の主は住職と楓だった。
ふと双方がかち合う。
「おやおや、杏さん。その二人が今回の修業の希望者ですかな?」
住職は千春と美空、そして杏にだけ反応している。聖獣たちは一般人には見えないというのは事実のようだ。
「はい。今しがたひと通り終えて、少し休んでから寺に戻るところでした」
「そうですか。楓さん、私は一足先に戻りますね。少し、話をした方がよろしいでしょうから、邪魔者の私はお風呂とご飯の支度をしてきますよ」
「えっ、ちょっと……?」
杏の返答を聞くと、住職は楓にそう伝えると、答えを待つ事なくそのまま寺の方へと歩いていった。
残された四人と三体は、何とも言えない雰囲気となった。特に楓の事を知る杏とワイスは非常に困っていた。楓の事をどう紹介したらいいのだろうかと。
一方で千春と美空も困っていた。楓と呼ばれた少女は杏とよく似ているし、そこそこ前にゲーセンで目撃した少女とも似ていたからだ。
だが、その困惑した中、チェリーが動いた。
「君のこの気配……、モノトーンの力を感じる」
「!!」
チェリーが呟くと、楓は驚いて一歩下がった。
「ちょっと待て、今チェリーの声に反応したぞ」
「くっ!」
千春が体を起こして叫ぶと、楓はぐっと歯を食いしばった。
「くそっ、本当ならもっと後に出くわしたかったんだけどね!」
楓から紅色のもやが吹き出す。すると、そこに現れたのは、何度となく見た事のある姿だった。
「マジェっ!」
千春と美空、チェリーとグローリがマジェを睨むつける中、杏とワイスは顔を押さえていた。一応出くわさないようにスケジュールは組んだはずだが、可能性があるのは分かっていた。けれど、こんなに早く顔を合わせる事になるとは思ってもみなかったのだ。
なんて事はない。千春たちの予定が遅くなった事に加え、楓の方は逆に早まってしまった事による事故なのだ。予定が狂って、杏たちは開き直った。
「姉さん、予定にはなかったけれど、ここで模擬戦といきましょう」
「そうね。あいつらと戦うとなれば、実戦経験は必要だからね」
杏とマジェのやり取りに、千春たちが驚いている。
「ちょっと待って、パシモ。マジェが姉さんって……、まさか!」
チェリーが勘付いたようで、その表情を青ざめさせる。
「そうよ、マジェはあたしの姉さん、秋を司る実りの聖獣メルプよ!」
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