マジカル☆パステル

未羊

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第99話 脳筋かと思えば器用でした

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 ブラークを撃退した後は、しばらくのんびりできた千春たち。部活とか動画撮影だとか、思うように過ごす事ができた。
 そんな中、雪路は少し悩みを抱えていた。それというのも……。
「あら~、雪路様ったら変身なんかしてどうされたのかしら~」
 イエーロが家の中でパステルパープルに変身している雪路を見つけた。
「イエーロさん、ちょうどいい所に来られましたわ」
「なになに~、なんかお困り事~?」
 パステルパープルに呼ばれて、近付いていくイエーロ。すっかりお互いに信頼関係があるようである。
「ちょっと困った事がありましてね。これを見て頂いた方が早いかと思いますわ」
 パステルパープルが何か言っているが、その物言いが理解できないイエーロはちょっと頭を捻っている。
「パステルイレーサー!」
 パステルパープルが武器である消しゴムを取り出す。
「あら、いつもの武器じゃないの~」
 イエーロは不思議そうに見ている。
「パステルイレーサー、フォームチェンジ、イレーサーシールド!」
 と思ったのも束の間、パステルパープルの呼び声で、消しゴムは大きな盾へと変化した。
「んまっ! なんなのその盾」
 純粋に驚きの声を上げるイエーロ。なんと言っても盾の大きさがパステルパープルを覆い隠すほどの大きさである。これはとても大きくて、パステルパープルには扱えそうになかった。
 そう、雪路、パステルパープルの悩みはこの盾だった。なにせ大きすぎて思うように扱えないのである。
「ははーん、この盾の大きさが悩みってわけなのね~。確かにこれでは大きすぎて、動きが阻害されちゃうものねぇ」
 まじまじとイエーロは盾を見ている。全体的に純白の盾だが、紫の縁取りや模様があるなど、パステルパープルらしいデザインになっている。
「でも、パステルパープル。これ、あなたの武器なんでしょう?」
「え、ええ、そうですわよ」
「だったらぁ、自分の意思で大きさ変えられないの? 見た事ないでしょうけれど、私のマジックも~、大きさは変えられるのよぉ?」
「えっ?!」
 イエーロの証言に、パステルパープルは目を丸くした。
「まあ、論より証拠よねぇ。ほらっ」
 そう言ってイエーロは、自分の武器であるマジックを取り出す。
「デフォルトの大きさは、私の背丈ほどだけど~、ほいっ」
 イエーロが掛け声を出すと、イエーロのマジックが一般的な文房具のマジックほどの大きさに縮まった。
「ほいっ」
 もう一度掛け声をかけると、今度は竹刀ほどの大きさに変わる。これは知らなかったために、パステルパープルは面食らっていた。
「そ、そんな事ができますの?!」
「ええ、意外と知られてないけれど、実は大きさが変えられるのよ~? ただ、地味に少しずつ体力を削られるわよ~」
 パステルパープルはイエーロの持つマジックをじっくり見ている。
「ふむふむ、なるほどですわね。面白そうだからやってみますわ」
 パステルパープルは、早速自分のイレーサーシールドを構えて、大きさを変えるように念じてみる。イメージとしては今の大きさの半分程度、自分の腰くらいまでの大きさだ。それでもまだ十分に重量感のある盾ではあるが、ある程度は扱えるようになるだろう。
 すると、しゅるしゅると盾の大きさが変わっていく。そして、自分の肩まであった盾は、腰ほどまでに小さくなったのである。
「や、やりましたわ。こんな風に変えられますのね」
「そうね~、モノトーンでも知っているのは私くらいよ~。でも、小さくできる限界はあって、一般的な文房具くらいの大きさまでにしかできないみたいよ~。道具として使う事が前提みたいだから~、そうなっているのかも知れないわね~」
 喜ぶパステルパープルを見て、イエーロは腕を組んで頷きながら話している。
「そうなのですわね。でも、見えないほどに小さくしたら、確かに扱いづらいですものね。自分の手から離れても大きさを変えられたら、それこそとんでもない話ですわ」
「そうねぇ、自分の手から離れた場合は、大きさは変えられないけれど、動きを操る事はできるみたいよぉ?」
「そ、そうなの?」
「ええ、これでも鍛錬の一種でしていた時期があるもの~。自分の武器を投げて、自分で操って、それを受け止めるのよ。私は~、鍛える事には余念はないもの~」
 イエーロの話に驚きの連続だったパステルパープルだったが、最後の言葉に妙に納得がいったのだった。
 そういえば、イエーロは筋肉美に関しては異様な執着を持っているのである。己を鍛えるためなら何でもしていた男なのだった。ただ、なんでオネエになったのかは分からないが、それでも自分の筋肉には絶対的な自信があるのだ。
「盾持ちといったら戦略の要ですものねぇ。パステルパープルは冷静さと臨機応変さを備えなきゃいけないって事ね。結構大変よぉ」
 イエーロの言葉に、パステルパープルは自分の盾を見ながら真剣な表情をする。
「そういえば、ワイスもそういうタイプの聖獣だわよねぇ? なるほど、聖獣の性質を反映するって事なのねぇ」
 イエーロは腕を組んで何か一人で納得している様子である。
「まぁそれはそれとして、それを活かせるかどうかはパステルパープル次第って事ね。私もこっちに寝返った以上は、協力は惜しまないわよぉ」
 敵としてはそこそこ厄介だった男の言葉だ。なんとも頼りになるものに聞こえる。
「ええ、そうね。よろしく頼みますわよ、イエーロさん」
「おっけ~。任せておいて」
 こうして、パステルパープルは自分の武器がいろいろ変化できる事に気が付いた。これが、これからモノトーンとの戦いにおいてどのような影響を及ぼすのか、この時点ではまったく想像がつかなかった。
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