マジカル☆パステル

未羊

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第132話 三傑決戦・その15-砕けるもの

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 剣が儚く砕け散る。その光景に絶望の顔を浮かべる。
「ば、バカな……。私の剣が……、砕けた?」
 そう。砕けたのはシイロの剣だった。
 剣は騎士の象徴。その剣が砕けた事は、シイロにとって命を失ったも同然と言えたのだ。
「はあはあ……。どうだ、お前の自慢の剣が砕けた感想は、よ」
 パステルピンクは満身創痍だった。剣が砕けた事でシイロの技の発動が不完全だったし、浄化技で対抗していたとはいえ、至近距離に居たパステルピンクのダメージは想像以上のものだった。
「私の……、私の剣があっ!!」
 するとどうした事だろうか。シイロがパステルピンク目がけて飛び掛かってきた。剣が折られた事で完全に逆上していた。
 その予想外な行動に、満身創痍のパステルピンクは気付きながらも動けないでいる。さすがにこれはやばいと感じていた。
「そうは参りませんわっ!」
 ガキーン!
 間一髪、パステルパープルが飛び込んでその攻撃を防ぐ。いくらシイロの攻撃が強力とはいえ、さすがに素手で盾を吹き飛ばすまでには至らなかったようである。
「邪魔を……、するなぁっ!!!」
「きゃあっ!!」
 それでも強引にパステルパープルを盾ごと殴り飛ばすシイロ。逆上した彼女を止める事は叶わなかった。
「よくも、よくも私の剣を砕いてくれたな……。お前も、同じように粉微塵に砕いてくれるっ!」
 シイロの目が据わっている。これは本気である。
「パステル・シュトローム・アロー!」
「パステル・ヴァイン・バインド!」
「パステル・ピアー・スラスト!」
 どこからともなく、技を放つ声が聞こえてくる。パステルシアンたちだ。
 だが、シイロは恐ろしい眼力を放ちながら、
「……うるさい」
 ずんと体を沈み込ませる。そして、
「はあっ!」
 気合い一発、拳を突き出すと、それらの攻撃を一瞬で消し去ってしまった。
「噓……、完全に不意を突いたと思ったのに」
「これが、モノトーン三傑の実質リーダーの実力ってわけか……」
 三人分の攻撃を、武器を使わずに気合いだけで消し飛ばしてしまったシイロ。さすがにこれには、全員が言葉を失わざるを得なかった。
「殺す殺す殺す、全員ここで殺してやる!」
 完全に逆上していて、もはや何も届きそうにない雰囲気を放つシイロ。これにはパステルピンクたちは恐怖するしかなかった。
 だが、この時、じんわりと地面あたりの空気が冷え始めていた。
「まったく、先程のは効きましたわよ」
 ゆらりとパステルパープルが立ち上がる。
「ですが、圧倒的不利な状況とはいえど、わたくしたちはここで諦めるわけには参りませんわ!」
 口元を拭うパステルパープル。さっき吹き飛ばされた際に唇を切ったらしい。
「……まだ立ち上がるか、死に損ないが」
 ゆらりとパステルパープルを睨み付けるシイロ。パステルパープルは一瞬飲まれそうになったが、どうにか視線をパステルピンクへと向ける。
 パステルピンクはその視線に気が付く。よく思えば地面に冷気が回っている。パステルパープルの持つ冬の力が発動しているのである。そして、よく見るとシイロの足元が凍り始めていた。この状況に、パステルピンクは何かに勘付いた。
「スリーピング・ウォーム」
 シイロに聞かれないように、ボソッと眠り攻撃を放つパステルピンク。さすがに卑怯かもしれないが、今のシイロ相手ではまともにやって勝てるイメージが出てこない。剣を砕いて弱体化かと思えば、発狂モードに入ったのだからやむを得ない。
 足元の冷気とその上に漂う春の陽気。これが揃うという事は、導き出される状況は明らかだった。
「う……、なんだ?」
 シイロがふらつく。
 そう、体が冷えた事と、春の暖かさのダブルパンチで眠気がシイロに襲い掛かっているのである。発狂モードで覚醒状態とはいえど、パステルパープルとパステルピンクによる連携攻撃の前には敵わなかったようだった。
「くそ……、貴様ら、何か、してく……れてるな?」
 意識が怪しくなり始めているシイロ。だが、眠気が襲い掛かっている事に気が付いたシイロは、思いがけない行動に出た。
 グサッ!
 自身の手に握りしめたままの折れた剣で、自分の脚を刺したのである。
「ぐぬぅ……」
 痛みに顔を歪めるシイロ。だが、これで完全とはいかなくても眠りに対して抵抗している。
「くそっ、みんな、早くシイロに浄化技をっ!」
 パステルピンクが耐えられずに叫ぶ。
 パステルピンクとパステルパープルは、眠り攻撃を断続的に放っているので手が出せない。となるとパステルシアンたちに頼るしかなかったのだ。
「はっ、そうだった」
 最初に我に返ったのはパステルブラウンだった。
「ここで決着をつけなければ、もう勝てないかも知れない。パステルオレンジ、パステルシアン、行くぞっ!」
 パステルブラウンの声に、二人もなんとか我に返る。そして、パステルブラウンの呼び掛けに応える。
「重なる色、実りを彩れっ! パステル・フォール・カラーリング!」
「悪しき心を塗り替える! パステル・オータム・ペイントレイ!」
「降り注げ、浄化の雨! パステル・サマー・スコール!」
 パステル戦士三人による浄化技の一斉射出である。
 だが、この攻撃を放つのは一瞬どころか遅すぎたのだ。
「この程度で、私を倒せると、思うなあっ!!」
 なんと、パステル戦士三人分の攻撃を、シイロは跳ね返してしまった。なんという規格外の化け物。聖獣たちを含めて、信じられないという顔をしていた。
 息を乱しているシイロ。弾き飛ばしたとはいえど、どうやら限界のようだった。
「はあはあはあ……。このまま始末してやりたいところだが、今日のところはやめておこう。だが、次に会った時には、確実にお前たち全員を葬り去ってくれる。そして、ダクネース様の前にその亡骸を献上してくれる……。さらばだっ!」
 片膝をついたシイロは、撤退していった。
 残されたパステル戦士たちは、その場に呆然と立ち尽くすのだった……。
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