マジカル☆パステル

第141話 聖獣の力を見せてやる

　渾身の力を振り絞ってシイロの浄化を試みるパステルパープルだったが、シイロの抵抗は想像以上に激しかった。ワイスが注意を逸らしているにもかかわらず、シイロのターゲットは完全にパステルパープルに向いていた。
　凍てつく周囲のおかげで、シイロの反撃はパステルパープルに届かないものの、これがいつまでもつのかは時間の問題だった。
「さすがに……厳しいですわ……」
　片膝をつきながらも、必死にシイロを抑え込むパステルパープル。その限界はかなり近くなっていた。
「パステルパープル！」
　ようやく化け物たちを片付けたパステルピンクたちが駆け寄ってきた。だが、かなり疲弊しているパステルパープルに、それに返事するだけの余力はなかった。
「あれは、ワイス？！」
　パステルオレンジとパステルブラウンが、シイロに突撃するもこもこを発見して叫ぶ。
「よう、ようやく来たか。おい、お前らも出てこいよ！」
　ワイスが合図をすると、もぞもぞっとチェリーとグローリが姿を現した。
「俺っちたち聖獣の力、ここで見せてやろうぜ。本当はダクネースの奴に取っておきたがったが、もう今のシイロは手に負えねえっ！」
「くそっ、うざい連中だっ！！」
　ワイスが叫ぶと、シイロは苛立ってワイスにターゲットを切り替えた。満身創痍のパステルパープルよりも、聖獣たちの方に嫌な予感を感じたのだろう。浄化技に体を凍てつかせながらも、シイロはワイスに思い切り斬り掛かっている。あの状態で動けるあたり、シイロは化け物過ぎるというものだ。
「はっ、そいつぁ褒め言葉として受け取っとくぜ！」
　ワイスが気を引いているうちに、チェリーとグローリ、それとパステルオレンジとパステルブラウンが動いていく。
「パステルパープル！　一瞬だけでいい、奴の気を引いてくれっ！」
「分かりましたわ！」
　ワイスが叫ぶと、パステルパープルが浄化技に込める力を、振り絞って強める。
「ぐっ、うっ、ぐぅ……」
　シイロの動きが鈍る。ところが、パステルパープルはもう限界だった。片膝をついた上に、上体までもがふらつき始めていた。
　しかし、パステルパープルが倒れる事はなかった。
「大丈夫だ、俺たちが支えてやる」
「そうよ。仲間だもの」
　パステルピンクとパステルシアンが、その体を支えたのだ。そして、一緒に力を込めた。
「うしっ、俺っちたちの力、見せてやるぜ！」
　ワイスがシイロを蹴り飛ばして後方に飛び、スタッと見事に着地を決める。すると、聖獣たちがきれいに星の形に並んで陣が完成したのだった。
「いいな、お前たち。ありったけの力を込めるんだっ！」
「うん！」
「分かったわ！」
「言われなくても！」
「もちろんよ！」
　ワイスの呼び掛けに、聖獣たちが心を一つにして力を解放する。そこには星形の魔法陣が浮かび上がった。天頂部にチェリー、その両脇にパステルオレンジとパステルブラウン、対面右にワイス、左にグローリ。彼らが力を込めると、陣から光があふれ出る。
「ぐあああっ！！」
　シイロが苦しそうに叫び声を上げる。その光景は痛々しいものではあるが、今の彼女は敵なのだ。倒さなければこちらがやられる。パステルピンクたちも歯を食いしばっている。
「あいつがパステル王国の騎士だって言うのなら、その心に巣食った闇を追い払わねえとなっ！」
　パステルピンクの言葉に、パステルシアンとパステルパープルがこくりと頷く。
「パステル王国に蔓延りし悪よ。我らが守護聖獣の力をもって、その汚れを浄化せん」
　ワイスが代表して詠唱をしている。
「我ら五色の導きによって、汝をあるべき姿へと戻さん」
　ワイスの詠唱に、それぞれの体から色が浮かび上がっている。チェリーからは赤、グローリからは青、パステルオレンジからは黄、パステルブラウンからは緑、そしてワイスからは白の玉が浮かび上がり、中央に居るシイロへと向かっていく。
「ぐわあぁっ！！」
　色がぶつかったシイロは苦痛の声を上げる。すると、シイロの体からは黒の玉が浮き上がってきた。
「あれは……？」
「なんて不気味な色なのかしら」
　パステルピンクたちは、ただどうしていいのか分からずに呆然と目の前の光景を眺めていた。
　そして、黒い玉がシイロから完全分離したところで、ワイスが叫ぶ。
「今だ！　あの黒い玉を思いっきり浄化してくれっ！」
　その言葉に、まだ元気なパステルピンクとパステルシアンが反応する。
「分かったぜ！」
　二人はパステルパープルから手を離すと、構えを取って一気に浄化技を放つ。
「輝け、ぬくもりの色よ！　舞え、春風に乗せて！　スプリング・カラフル・ストーム！」
「降り注げ、浄化の雨！　パステル・サマー・スコール！」
　シイロの上に浮かんだ黒い玉に、見事に二人の浄化技が命中する。
「うおぉぉぉぉ……」
　だがしかし、黒い玉はうめき声を上げながら浄化に対して抵抗しようとしている。シイロの体を蝕み続けた負の感情が、最後の抵抗とも思える行動を取っているのだ。さすがは長年にわたって溜まり続けた負の感情である。簡単には浄化されてくれないようだった。
　対シイロの最終局面。やはり一筋縄では終わってくれそうになかったのだった。