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第56話
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美幸たちがまとめていたデータは、部長たちの方でも把握されていた。
なにせ、発信器を取りつけたのは部長なのだ。その本人が把握していないわけがないのである。
「何を見ているのかしら」
編集長が後ろから話しかけてくる。
「ああ、必死の思いで取り付けた発信器のデータをまとめてたんだ。ずいぶんと面白い動きをしてくれているよ」
「どれどれ?」
部長が見ている画面を、編集長が覗き込む。
その様子を眺めていた編集長は、思わずにやりと笑みを浮かべている。
「へえ、ずいぶんと面白いじゃないの」
「ああ、こうも分かりやすい動きをしてくれていると、罠も仕掛けやすいと思う。ただ、何もないような場所すらも登っていけるような超越した運動能力を持っているから、仕掛けたところでかかるかは分からないんだけどね」
「確かに、校舎の屋上まで登ってきたのは驚いたわね。ただ、降りられなかったようだけど」
編集長は先日の犬ばあさんの家を見張っていた時のことを思い出した。
あの時は犬ばあさんの家の近くの中学校の屋上から見張っていたのだが、なぜか犬が集まってきて襲われたのだ。
ただ、そのおかげで半分くらいの犬は降りる際に残念なことになったのだが、あの時感じた恐怖といったら思い出しても身を震わせるばかりだ。
「とりあえず、時間を迎えてからの犬たちの動き、もう一度見せてくれるかしら」
「ああ、いいですよ」
編集長が頼み込むと、部長は快くもう一度再生していた。
「なるほど、家を出てから一直線。どういうわけか隣の市の境目に到着すると止まって、そのまま境界付近を反時計と……。まったくよく分からない動きね」
「どうやって襟峰市と隣の境界を認知しているのかは分からないけれど、襟峰市内だけを基本的にターゲットにしているみたいですよ。ただ、先日の獣医師襲撃の件は、隣の市だったために時間的余裕があって攻撃を仕掛けたとみるのが妥当でしょうかね」
「ふむふむ。面白い仮説だわ」
部長の話した内容に、編集長は何度も頷いていた。
「動きを見る限り、起点となる犬ばあさんの家から一時間半で境界まで到達。そこから午前4時の一時間半前まで周囲を旋回。午前2時半になると、家に向かって帰っていくという行動パターンのようだね」
「ただし、対象がいれば、その分帰宅は遅れる……と。なんとも不思議な術で操られているかのような動きね」
「オカルト研究部の部長として、そのオカルトを否定できませんね。おそらくは、犬の体から発見された未知の成分のせいでしょう。それが一種の催眠効果を生み出して、犬たちに一定の動きをさせるように仕向けていると考えられるね」
部長の仮説に、編集長も納得しているようだ。
「この結果を警察に持ちかけないといけないわね。もう正体もはっきりしてきたわけだし、害獣駆除として持ちかけられそうな気がするわ」
「私もそう……おっと、すまない。メールのようだ」
話をしている部長のスマートフォンが突然震える。
メールの文面を見た部長は、再び怪しい笑みを浮かべている。
「どうやら、向こうも同じような結論に至ったみたいですよ。さすがはみゆ姉。いとこって感じがするよ」
「あら、そうなのね。ということは……」
「ああ、もうこちらから攻めるタイミングってわけですよ。残っている犬を全部捕まえて、この凶行を終わりにしないいけない」
部長と編集長は頷き合うと、捕獲に向けた綿密な計画を立て始める。
襟峰市の夜明けが、いよいよ少しずつ近づき始めているようだ。
なにせ、発信器を取りつけたのは部長なのだ。その本人が把握していないわけがないのである。
「何を見ているのかしら」
編集長が後ろから話しかけてくる。
「ああ、必死の思いで取り付けた発信器のデータをまとめてたんだ。ずいぶんと面白い動きをしてくれているよ」
「どれどれ?」
部長が見ている画面を、編集長が覗き込む。
その様子を眺めていた編集長は、思わずにやりと笑みを浮かべている。
「へえ、ずいぶんと面白いじゃないの」
「ああ、こうも分かりやすい動きをしてくれていると、罠も仕掛けやすいと思う。ただ、何もないような場所すらも登っていけるような超越した運動能力を持っているから、仕掛けたところでかかるかは分からないんだけどね」
「確かに、校舎の屋上まで登ってきたのは驚いたわね。ただ、降りられなかったようだけど」
編集長は先日の犬ばあさんの家を見張っていた時のことを思い出した。
あの時は犬ばあさんの家の近くの中学校の屋上から見張っていたのだが、なぜか犬が集まってきて襲われたのだ。
ただ、そのおかげで半分くらいの犬は降りる際に残念なことになったのだが、あの時感じた恐怖といったら思い出しても身を震わせるばかりだ。
「とりあえず、時間を迎えてからの犬たちの動き、もう一度見せてくれるかしら」
「ああ、いいですよ」
編集長が頼み込むと、部長は快くもう一度再生していた。
「なるほど、家を出てから一直線。どういうわけか隣の市の境目に到着すると止まって、そのまま境界付近を反時計と……。まったくよく分からない動きね」
「どうやって襟峰市と隣の境界を認知しているのかは分からないけれど、襟峰市内だけを基本的にターゲットにしているみたいですよ。ただ、先日の獣医師襲撃の件は、隣の市だったために時間的余裕があって攻撃を仕掛けたとみるのが妥当でしょうかね」
「ふむふむ。面白い仮説だわ」
部長の話した内容に、編集長は何度も頷いていた。
「動きを見る限り、起点となる犬ばあさんの家から一時間半で境界まで到達。そこから午前4時の一時間半前まで周囲を旋回。午前2時半になると、家に向かって帰っていくという行動パターンのようだね」
「ただし、対象がいれば、その分帰宅は遅れる……と。なんとも不思議な術で操られているかのような動きね」
「オカルト研究部の部長として、そのオカルトを否定できませんね。おそらくは、犬の体から発見された未知の成分のせいでしょう。それが一種の催眠効果を生み出して、犬たちに一定の動きをさせるように仕向けていると考えられるね」
部長の仮説に、編集長も納得しているようだ。
「この結果を警察に持ちかけないといけないわね。もう正体もはっきりしてきたわけだし、害獣駆除として持ちかけられそうな気がするわ」
「私もそう……おっと、すまない。メールのようだ」
話をしている部長のスマートフォンが突然震える。
メールの文面を見た部長は、再び怪しい笑みを浮かべている。
「どうやら、向こうも同じような結論に至ったみたいですよ。さすがはみゆ姉。いとこって感じがするよ」
「あら、そうなのね。ということは……」
「ああ、もうこちらから攻めるタイミングってわけですよ。残っている犬を全部捕まえて、この凶行を終わりにしないいけない」
部長と編集長は頷き合うと、捕獲に向けた綿密な計画を立て始める。
襟峰市の夜明けが、いよいよ少しずつ近づき始めているようだ。
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