2 / 135
第2話 初心者の少年
しおりを挟む
ステラが冒険者組合に姿を見せるより前のこと。冒険者組合から一人の少年が元気よく飛び出していった。
見た目としては12~14歳くらいだろうか。ステラよりは年上に見える感じの少年である。腰にはショートソードがぶら下がっており、駆け出しの冒険者といった感じだった。
意気揚々とした表情を見る限り、おそらくは冒険者として初めて依頼を受けたという風に見える。
なぜならその目には、曇りがまったくない。冒険者を夢見た者なら、誰もがするであろう希望に満ちた瞳。
その瞳がすぐにでも絶望に染まるとは、この時誰が思っただろうか。
少年が出て行った冒険者組合ではというと、
「あの少年、一人で大丈夫なんでしょうかね。今回が初めての依頼でしょう?」
「近くで弱い魔物相手だし、大丈夫だろうよ。ただ、探し出すのは面倒だろうがな」
おっさんと職員が話している。やはりどこか適当なおっさんだったようだ。
「そんな調子でどうするんですか。何かあったら責任は取れるんですか?」
「何を言いやがる。そこまで含めても冒険者の責任だろ? 子どもったってそれが冒険者の決まりなんだからよ」
職員に怒られるおっさんだが、決まりだと言い張って聞きそうになかった。その態度に頭を押さえてため息の止まらない職員である。
「まったく、何もないといいのですけれどね」
「何もないだろ。この辺の魔物はあらかた狩られて最低限しか居ねえんだからよ」
心配そうに外を見る職員だが、おっさんはかなり楽観しているようだ。
「まあ、ステラさんのおかげですね。……そろそろ戻って来られるはずですから、しっかり対応お願いしますね」
「分かったよ」
おっさんに頼み事をした職員は、組合の奥へと引っ込んでいったのだった。おっさんもおっさんで、ステラの帰りを今か今かと座って待ち続けたのだった。
―――
さて、少年に話を戻そう。
少年が受けた依頼はスライムの討伐。このバナル近郊に居るスライムはかなり弱い部類で、子どもの力でも楽に倒せるくらいだ。動きも遅いので、本当に倒すのが楽な魔物である。
ならば、なぜそのスライムが討伐対象になるのか。
それは、何でもかんでも取り込んで無限に増殖するため。放っておけばそこらじゅうがスライムであふれてしまうので、定期的に間引く必要があるのである。
少年は、そのための依頼を引き受けたのだ。初めてでもこなせる依頼という事で、少年はかなりやる気にあふれていた。
依頼をこなすために少年がやって来たのは、バナル近郊にあるこの平原では珍しい森だった。
なぜこの森にやって来たのか。プレヌ王国に生息するスライムは基本的に弱い。だから、スライムたちは身を潜めるように隠れ住んでいるのである。森というのは絶好の地形なのである。
「確か、依頼はスライムの核10個だったよな。よーし、頑張るぞ!」
少年は意気込んで森の中へと入っていった。
国土のほとんどを平原で占めるプレヌ王国にある珍しい森。木々が生い茂っており、昼間でも少々暗いものの、そこまでといった感じの場所だった。
少年は一応警戒しながら森の中を進んでいく。
「ピギッ!」
森の中から妙な声が聞こえてくる。
これがスライムの鳴き声である。人の気配に気が付いたスライムが、大慌てで逃げているのである。
「逃がさないぞ~」
声を聞いた少年は、聞こえてくる音を追ってスライムを追いかけていく。
いくらスライムは足音がしないとはいっても、木や草に当たればその時に音を出す。少年はそれを頼りに追いかけているのだ。
それにしても、初めての依頼とは思えないような動きをする少年である。
気が付けば、逃げていたスライムを追い詰めていた。
「ピ、ピィ……」
小さく鳴くスライム。まるで命乞いでもしているかのような弱々しい声だった。
「怖いかい? でも、ごめんよ。これも冒険者になるためなんだ」
少年は躊躇なくスライムに向けて、持っていたショートソードを抜いて振り下ろす。
その瞬間だった。
「ワオーーンッ!!」
突如としてウルフの遠吠えが響き渡る。
その声に驚いたスライムは、少年の動きが止まったために、無傷のまま慌ててその場から逃げ出した。
「な、何だ、今のは?」
少年の表情が急に険しくなる。
ガサッという音がしたかと思えば、そこには見た事のない灰色のウルフが居るではないか。
「ひぃっ!」
スライムを追い詰めたところから一転、少年は狩られる側へと立場が変わってしまったのである。
「うわあっ!!」
少年は剣を持ったまま走って逃げる。すると、ウルフはそれに反応して追いかけ始める。
少年の足とウルフの足では、その結果は明らかだ。
だが、ウルフはどういうわけかすぐには追いつこうとはせず、少年の先回りをして翻弄し始めた。まるで、スライムを追い回していた少年を同じ目に遭わせるようにである。
逃げ回っていた少年は、石に蹴躓いて地面に倒れてしまう。
「グルルルル……」
「く、来るなぁっ!」
「グワアアッ!!」
少年が剣を振り回してウルフを牽制するが、お前が言わんばかりにウルフは動けない少年目がけて飛び掛かる。
ところが、さっさと攻撃をしなかったのが徒となる。
「そこまでです!」
いくつもの剣筋がウルフを切り刻んだのだった。
見た目としては12~14歳くらいだろうか。ステラよりは年上に見える感じの少年である。腰にはショートソードがぶら下がっており、駆け出しの冒険者といった感じだった。
意気揚々とした表情を見る限り、おそらくは冒険者として初めて依頼を受けたという風に見える。
なぜならその目には、曇りがまったくない。冒険者を夢見た者なら、誰もがするであろう希望に満ちた瞳。
その瞳がすぐにでも絶望に染まるとは、この時誰が思っただろうか。
少年が出て行った冒険者組合ではというと、
「あの少年、一人で大丈夫なんでしょうかね。今回が初めての依頼でしょう?」
「近くで弱い魔物相手だし、大丈夫だろうよ。ただ、探し出すのは面倒だろうがな」
おっさんと職員が話している。やはりどこか適当なおっさんだったようだ。
「そんな調子でどうするんですか。何かあったら責任は取れるんですか?」
「何を言いやがる。そこまで含めても冒険者の責任だろ? 子どもったってそれが冒険者の決まりなんだからよ」
職員に怒られるおっさんだが、決まりだと言い張って聞きそうになかった。その態度に頭を押さえてため息の止まらない職員である。
「まったく、何もないといいのですけれどね」
「何もないだろ。この辺の魔物はあらかた狩られて最低限しか居ねえんだからよ」
心配そうに外を見る職員だが、おっさんはかなり楽観しているようだ。
「まあ、ステラさんのおかげですね。……そろそろ戻って来られるはずですから、しっかり対応お願いしますね」
「分かったよ」
おっさんに頼み事をした職員は、組合の奥へと引っ込んでいったのだった。おっさんもおっさんで、ステラの帰りを今か今かと座って待ち続けたのだった。
―――
さて、少年に話を戻そう。
少年が受けた依頼はスライムの討伐。このバナル近郊に居るスライムはかなり弱い部類で、子どもの力でも楽に倒せるくらいだ。動きも遅いので、本当に倒すのが楽な魔物である。
ならば、なぜそのスライムが討伐対象になるのか。
それは、何でもかんでも取り込んで無限に増殖するため。放っておけばそこらじゅうがスライムであふれてしまうので、定期的に間引く必要があるのである。
少年は、そのための依頼を引き受けたのだ。初めてでもこなせる依頼という事で、少年はかなりやる気にあふれていた。
依頼をこなすために少年がやって来たのは、バナル近郊にあるこの平原では珍しい森だった。
なぜこの森にやって来たのか。プレヌ王国に生息するスライムは基本的に弱い。だから、スライムたちは身を潜めるように隠れ住んでいるのである。森というのは絶好の地形なのである。
「確か、依頼はスライムの核10個だったよな。よーし、頑張るぞ!」
少年は意気込んで森の中へと入っていった。
国土のほとんどを平原で占めるプレヌ王国にある珍しい森。木々が生い茂っており、昼間でも少々暗いものの、そこまでといった感じの場所だった。
少年は一応警戒しながら森の中を進んでいく。
「ピギッ!」
森の中から妙な声が聞こえてくる。
これがスライムの鳴き声である。人の気配に気が付いたスライムが、大慌てで逃げているのである。
「逃がさないぞ~」
声を聞いた少年は、聞こえてくる音を追ってスライムを追いかけていく。
いくらスライムは足音がしないとはいっても、木や草に当たればその時に音を出す。少年はそれを頼りに追いかけているのだ。
それにしても、初めての依頼とは思えないような動きをする少年である。
気が付けば、逃げていたスライムを追い詰めていた。
「ピ、ピィ……」
小さく鳴くスライム。まるで命乞いでもしているかのような弱々しい声だった。
「怖いかい? でも、ごめんよ。これも冒険者になるためなんだ」
少年は躊躇なくスライムに向けて、持っていたショートソードを抜いて振り下ろす。
その瞬間だった。
「ワオーーンッ!!」
突如としてウルフの遠吠えが響き渡る。
その声に驚いたスライムは、少年の動きが止まったために、無傷のまま慌ててその場から逃げ出した。
「な、何だ、今のは?」
少年の表情が急に険しくなる。
ガサッという音がしたかと思えば、そこには見た事のない灰色のウルフが居るではないか。
「ひぃっ!」
スライムを追い詰めたところから一転、少年は狩られる側へと立場が変わってしまったのである。
「うわあっ!!」
少年は剣を持ったまま走って逃げる。すると、ウルフはそれに反応して追いかけ始める。
少年の足とウルフの足では、その結果は明らかだ。
だが、ウルフはどういうわけかすぐには追いつこうとはせず、少年の先回りをして翻弄し始めた。まるで、スライムを追い回していた少年を同じ目に遭わせるようにである。
逃げ回っていた少年は、石に蹴躓いて地面に倒れてしまう。
「グルルルル……」
「く、来るなぁっ!」
「グワアアッ!!」
少年が剣を振り回してウルフを牽制するが、お前が言わんばかりにウルフは動けない少年目がけて飛び掛かる。
ところが、さっさと攻撃をしなかったのが徒となる。
「そこまでです!」
いくつもの剣筋がウルフを切り刻んだのだった。
5
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる