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第12話 遠出の依頼
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ステラがリューンの指導をするようになってから、ひと月ほどが経過した。
この日は少し遠出をして、行商人の護衛を買って出ており、隣町のヴォワザンへと向かっている。
徒歩で2日程度離れた街で、バナルの間とは互いの生産品を取引している間柄にある街なのだ。
距離は短いとはいっても、魔物や盗賊が出る事があるために、こうやって護衛となる冒険者を雇って交易をしている状態なのである。
何気にリューンにとっては、初めて別の街に行く依頼となったのである。
「本当に歩くのかい?」
「はい、慣れていますから。リューンは乗せてもらった方がいいと思いますが?」
「鍛錬のためです。歩きます」
「いざという時に動けないと護衛の意味はありませんよ?」
半ば意固地になっていたリューンだったが、ステラに指摘されるとおとなしく御者台に座っていた。まだまだ体力は乏しいので仕方がない。
すごすごと御者台に座るリューンを見て、ステラは可愛いものだなと思って笑っていた。
とことこと歩いていく街道は実に平和だ。
そもそも平原地帯であるプレヌ王国内には、崖だの森だのはほとんど存在しない。なので、魔物も盗賊も隠れて待ち伏せというのはほぼ不可能なのである。つまり護衛といっても万が一に備えてという形だけのものなのだ。だから、リューンが居ても引き受けられたというわけである。
バナルの街の外でもこちらの方は初めてなのか、リューンはあちこちをきょろきょろと眺めている。まったく落ち着きのない様子だった。
「はははっ、坊主はこっちの方は初めてか」
「はい」
御者がリューンに声を掛けると、元気よく肯定していた。
「彼はほとんど街の外に出た事がないそうです。なので、少しでも外に慣れさせようと思って、今回の依頼を引き受けたのですよ」
「へえ。そっちの嬢ちゃんと見た感じは同じくらいなのに、ずいぶんと慣れた感じだな」
「私は見た目が小さいだけですよ」
「それは失礼したな。デリカシーに欠けていたな」
別に怒っているわけではないが、御者は悪い事をしたように感じたようだった。
それからはしばらく黙々と馬車を走らせていた。
食事の時になると街道から少し外れた場所で馬車を止め、馬を木につないで食事を取る。
「そういえばステラさんでしたよね。それでどうやって食事を取られるのですか?」
依頼主から質問されるステラである。
確かにそうなのだ。ステラは顔面を完全に覆う仮面を着けているのだ。そのままではどうやっても食事をする事はできない。
ところが、ステラは気にした様子もなく、仮面に手を当てている。しばらくすると、仮面の口にあたる部分だけがすっと消えてなくなってしまった。
「この通り、口の部分だけは開閉が自由ですので、まったく問題ないんですよ。ただ、個人的事情で顔全体をお見せすることはできませんので、そこだけはご了承下さいませ」
そう言うと、ステラは再び仮面で完全に顔を覆っていた。
すると、商人も御者も、それ以降は仮面に関してはまったく突っ込んでこなくなった。さすがは信用第一、機密厳守が信条の商人である。
食事を終えると、再びヴォワザンを目指して移動を始める。
そして、おおよそ半分少々進んだところで陽が落ちてしまう。今日はそこで野宿となった。
「それでは今日はここで野宿としましょう。夜の間、見張りをお願いします」
「分かりました、お任せ下さい」
ステラは商人の言葉にしっかりと答える。リューンはわくわくとして両手を握っているだけだったので、ステラは軽く注意しておいた。
それにしても、リューンは本当に楽しそうな顔をしている。おそらくは初めての野宿なので興奮しているのだろう。
「リューン、今はそういう時ではないのですよ。初めての野宿なので楽しみなのは分かりますが……」
ステラはリューンを窘める。さすがに困った様子のステラを見てしまうと、リューンもようやく落ち着いたようだった。
「ごめんなさい。つい、初めてなので浮かれてしまいました」
素直に謝るリューンである。
「まったく、そんな事では冒険者としてはやっていけませんよ。気の緩みは最大の敵なんですから」
「分かりました」
リューンに言い聞かせた後に、ステラは料理を始める。本来は商人のお抱えの料理人が作ったりもするのだが、今回ばかりはステラが買って出たのである。
仮面の口の部分だけを開けて料理をする姿は、なんとも奇妙に映っている。
しかし、その調理の光景とは裏腹に、その料理の味はなんとも好評だった。こんな料理まで作ってしまうとは、ステラは一体何者なのだろうか。その場の全員にそんな考えが浮かんできた。
本当にステラは謎の多き人物なのである。
夕食を終えると、一行は翌日のために休息をとる。そんな中、ステラだけは近くにある木にもたれ掛かって周囲を警戒し始める。そこにリューンが近付いてくる。
「リューンは皆さんと一緒に寝ていて下さい。初めての遠出で疲れているでしょう?」
「でも、いいんですか?」
「構いませんよ。その代わり、いざという時に起きて対応できるようにはしておいて下さい」
「分かりました」
ステラに言われたリューンは、仕方なく商人たちの近くへと移動していく。そこで毛布にくるまって眠りについた。
「さて、それでは私は寝ずの番といきますか」
ステラは星空を見上げながら、周囲の警戒を再開したのだった。
この日は少し遠出をして、行商人の護衛を買って出ており、隣町のヴォワザンへと向かっている。
徒歩で2日程度離れた街で、バナルの間とは互いの生産品を取引している間柄にある街なのだ。
距離は短いとはいっても、魔物や盗賊が出る事があるために、こうやって護衛となる冒険者を雇って交易をしている状態なのである。
何気にリューンにとっては、初めて別の街に行く依頼となったのである。
「本当に歩くのかい?」
「はい、慣れていますから。リューンは乗せてもらった方がいいと思いますが?」
「鍛錬のためです。歩きます」
「いざという時に動けないと護衛の意味はありませんよ?」
半ば意固地になっていたリューンだったが、ステラに指摘されるとおとなしく御者台に座っていた。まだまだ体力は乏しいので仕方がない。
すごすごと御者台に座るリューンを見て、ステラは可愛いものだなと思って笑っていた。
とことこと歩いていく街道は実に平和だ。
そもそも平原地帯であるプレヌ王国内には、崖だの森だのはほとんど存在しない。なので、魔物も盗賊も隠れて待ち伏せというのはほぼ不可能なのである。つまり護衛といっても万が一に備えてという形だけのものなのだ。だから、リューンが居ても引き受けられたというわけである。
バナルの街の外でもこちらの方は初めてなのか、リューンはあちこちをきょろきょろと眺めている。まったく落ち着きのない様子だった。
「はははっ、坊主はこっちの方は初めてか」
「はい」
御者がリューンに声を掛けると、元気よく肯定していた。
「彼はほとんど街の外に出た事がないそうです。なので、少しでも外に慣れさせようと思って、今回の依頼を引き受けたのですよ」
「へえ。そっちの嬢ちゃんと見た感じは同じくらいなのに、ずいぶんと慣れた感じだな」
「私は見た目が小さいだけですよ」
「それは失礼したな。デリカシーに欠けていたな」
別に怒っているわけではないが、御者は悪い事をしたように感じたようだった。
それからはしばらく黙々と馬車を走らせていた。
食事の時になると街道から少し外れた場所で馬車を止め、馬を木につないで食事を取る。
「そういえばステラさんでしたよね。それでどうやって食事を取られるのですか?」
依頼主から質問されるステラである。
確かにそうなのだ。ステラは顔面を完全に覆う仮面を着けているのだ。そのままではどうやっても食事をする事はできない。
ところが、ステラは気にした様子もなく、仮面に手を当てている。しばらくすると、仮面の口にあたる部分だけがすっと消えてなくなってしまった。
「この通り、口の部分だけは開閉が自由ですので、まったく問題ないんですよ。ただ、個人的事情で顔全体をお見せすることはできませんので、そこだけはご了承下さいませ」
そう言うと、ステラは再び仮面で完全に顔を覆っていた。
すると、商人も御者も、それ以降は仮面に関してはまったく突っ込んでこなくなった。さすがは信用第一、機密厳守が信条の商人である。
食事を終えると、再びヴォワザンを目指して移動を始める。
そして、おおよそ半分少々進んだところで陽が落ちてしまう。今日はそこで野宿となった。
「それでは今日はここで野宿としましょう。夜の間、見張りをお願いします」
「分かりました、お任せ下さい」
ステラは商人の言葉にしっかりと答える。リューンはわくわくとして両手を握っているだけだったので、ステラは軽く注意しておいた。
それにしても、リューンは本当に楽しそうな顔をしている。おそらくは初めての野宿なので興奮しているのだろう。
「リューン、今はそういう時ではないのですよ。初めての野宿なので楽しみなのは分かりますが……」
ステラはリューンを窘める。さすがに困った様子のステラを見てしまうと、リューンもようやく落ち着いたようだった。
「ごめんなさい。つい、初めてなので浮かれてしまいました」
素直に謝るリューンである。
「まったく、そんな事では冒険者としてはやっていけませんよ。気の緩みは最大の敵なんですから」
「分かりました」
リューンに言い聞かせた後に、ステラは料理を始める。本来は商人のお抱えの料理人が作ったりもするのだが、今回ばかりはステラが買って出たのである。
仮面の口の部分だけを開けて料理をする姿は、なんとも奇妙に映っている。
しかし、その調理の光景とは裏腹に、その料理の味はなんとも好評だった。こんな料理まで作ってしまうとは、ステラは一体何者なのだろうか。その場の全員にそんな考えが浮かんできた。
本当にステラは謎の多き人物なのである。
夕食を終えると、一行は翌日のために休息をとる。そんな中、ステラだけは近くにある木にもたれ掛かって周囲を警戒し始める。そこにリューンが近付いてくる。
「リューンは皆さんと一緒に寝ていて下さい。初めての遠出で疲れているでしょう?」
「でも、いいんですか?」
「構いませんよ。その代わり、いざという時に起きて対応できるようにはしておいて下さい」
「分かりました」
ステラに言われたリューンは、仕方なく商人たちの近くへと移動していく。そこで毛布にくるまって眠りについた。
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ステラは星空を見上げながら、周囲の警戒を再開したのだった。
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