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第35話 丘を目指して
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フォレを旅立ち、リヴィエール王国を目指すステラたち。
リヴィエール王国を流れる川をさかのぼっていくと、目的地であるコリーヌ帝国を含む丘陵地帯へと入っていくのである。
「いやあ、ステラとこうやって旅をするというのも、いつぞやぶりだろうかね」
「絶望に打ちひしがれていた頃ですから、500年は前だと思いますよ、師匠」
楽しそうに言うベルオムに、頭が痛そうに答えるステラである。
「おお、もうそんなに前だったのか。いやあ、最近な気がしてたまらなかったな」
「……エルフって感覚狂ってますよね」
「まあ、ご長寿さんだからね」
呆れたように口を挟むステラに、ベルオムはそれは楽しそうに話していた。
二人のやり取りについていけないリューンは、どうしたらいいのかずっと戸惑っているようだ。
「えっと……。ステラさんとベルオムさんって、どういった関係なんですか」
その日の野宿の場で、思わずリューンは二人に尋ねてしまっていた。
ステラとベルオムは、リューンの質問につい顔を見合わせてしまう。そして、揃って笑い出していた。
「先日もお話しましたが、彼は私の魔法と双剣の師匠です。私の祖国を滅ぼした連中と同じ大陸外の方ですけれど、師匠自体はとても信用できる方ですよ」
「そうだね。私がこのエルミタージュ大陸にやって来たきっかけ、それは他でもないステラリア王女の誕生日の席だったからね。ただ、私はその日欠席していたので、まさかあんな事件が起きているとは知らなかったけれどね」
ステラは笑いながら言うし、ベルオムも淡々とした表情で話している。その様子に、リューンは驚きを隠せなかった。
「しかし、あの時は驚いたね。全身ボロボロになって現れた少女が、まさかエルミタージュのお姫様とは……」
「あの時の私は、すべてに絶望していましたからね。城は焼け落ち、両親も炎に巻かれて死んでしまいましたから。すべてに絶望して、何度も死のうとしましたよ」
ステラは俯きながら話をしている。
「でも、死ねなかった。お父様とお母様の掛けた魔法の効果で、私は死ねない体になっていたんですからね。崖から飛び降りようとも、魔物に食いちぎられようとも、気がつけば元のきれいな体に戻っていました」
ステラの語った、自身に起きたあまりにも凄惨な出来事の数々。とてもじゃないが、何か言葉を掛けられるような内容ではなかった。
リューンは、ただ黙って聞いているのが精一杯だったのだ。
「私も聞いた時は驚いたね。そんな不死の秘術があるとは聞いた事がなかったからね。だから、研究ついでにステラを自分の弟子として鍛えたのだよ」
ベルオムはあまり悪びれた様子もなく、けらけらと笑いながら話していた。
「まったく、交換条件を持ち出された時には驚きましたね。でも、あの時の私にはちょっとどころではない希望の光に照らされた気持ちでしたよ。エルミタージュ再興のための足掛かりができた……と」
「その時だったかな、その仮面を作ってあげたのは」
「ええ、そうでしたね。師匠はこういう事態も想定していたのですか?」
仮面を取ったステラは、真剣な表情をベルオムに向けている。それに対して、ベルオムは柔らかな笑みを浮かべていた。
「いや、別にそこまでは考えていなかったよ。ただ、ステラリア王女を知る者が顔を見たら驚くだろうと考えただけさ。故人が生きて出てきたら、誰だって驚くだろう?」
「……それはそうですね」
ステラは黙り込んでしまった。
そのステラからリューンへと視線を移すベルオム。その視線はどこか興味深そうに見ている感じだった。
「しかし、ステラが気に掛けている男の子か。私としても気になるね」
ベルオムの言葉に、リューンは警戒している。
「ああ、彼はエルミタージュ騎士団を祖先に持っているのですよ。師匠と同じように当日城に居なくて難を逃れたんだそうです」
「ほう、それはそれは……」
リューンをじっと見つめるベルオム。
「な、何なんですか……」
あまりにじっと見てくるものだから、思わず引いてしまうリューン。
「ふむ、特別な何かがあるかと思ったが、いたって普通の少年だな」
ベルオムはそう言いながら身を引いた。
「まぁそうでしょうね。でも、先祖が騎士団に居たのですから、もしかしたらその系統の適性があるかも知れません。師匠もよければ、彼に剣を教えて頂けませんかね」
「うーむ、私は双剣使いなので、片手剣は専門外なのだけれどね。でもまあ、可愛い弟子の言うことなのだから、合間合間でよければ構わないよ」
「ありがとうございます」
ステラはベルオムに頭を下げてお礼を言っている。
そして、ベルオムはリューンの方へと視線を向ける。その視線に思わずリューンは驚いて視線を逸らしてしまう。
「ふふっ、この程度で視線を逸らすようでは困りるね。これはとても鍛えがいがありそうだ」
不敵な笑みを浮かべるベルオム。その笑みに恐怖を感じたリューンは、思わず背筋をピンと伸ばしてしまう。
その時だった。
「師匠、魔物の気配です」
「そのようだね」
どうやら、魔物が現れたようだ。和やかな野宿と思いきや、一気に緊張感が走ったのだった。
リヴィエール王国を流れる川をさかのぼっていくと、目的地であるコリーヌ帝国を含む丘陵地帯へと入っていくのである。
「いやあ、ステラとこうやって旅をするというのも、いつぞやぶりだろうかね」
「絶望に打ちひしがれていた頃ですから、500年は前だと思いますよ、師匠」
楽しそうに言うベルオムに、頭が痛そうに答えるステラである。
「おお、もうそんなに前だったのか。いやあ、最近な気がしてたまらなかったな」
「……エルフって感覚狂ってますよね」
「まあ、ご長寿さんだからね」
呆れたように口を挟むステラに、ベルオムはそれは楽しそうに話していた。
二人のやり取りについていけないリューンは、どうしたらいいのかずっと戸惑っているようだ。
「えっと……。ステラさんとベルオムさんって、どういった関係なんですか」
その日の野宿の場で、思わずリューンは二人に尋ねてしまっていた。
ステラとベルオムは、リューンの質問につい顔を見合わせてしまう。そして、揃って笑い出していた。
「先日もお話しましたが、彼は私の魔法と双剣の師匠です。私の祖国を滅ぼした連中と同じ大陸外の方ですけれど、師匠自体はとても信用できる方ですよ」
「そうだね。私がこのエルミタージュ大陸にやって来たきっかけ、それは他でもないステラリア王女の誕生日の席だったからね。ただ、私はその日欠席していたので、まさかあんな事件が起きているとは知らなかったけれどね」
ステラは笑いながら言うし、ベルオムも淡々とした表情で話している。その様子に、リューンは驚きを隠せなかった。
「しかし、あの時は驚いたね。全身ボロボロになって現れた少女が、まさかエルミタージュのお姫様とは……」
「あの時の私は、すべてに絶望していましたからね。城は焼け落ち、両親も炎に巻かれて死んでしまいましたから。すべてに絶望して、何度も死のうとしましたよ」
ステラは俯きながら話をしている。
「でも、死ねなかった。お父様とお母様の掛けた魔法の効果で、私は死ねない体になっていたんですからね。崖から飛び降りようとも、魔物に食いちぎられようとも、気がつけば元のきれいな体に戻っていました」
ステラの語った、自身に起きたあまりにも凄惨な出来事の数々。とてもじゃないが、何か言葉を掛けられるような内容ではなかった。
リューンは、ただ黙って聞いているのが精一杯だったのだ。
「私も聞いた時は驚いたね。そんな不死の秘術があるとは聞いた事がなかったからね。だから、研究ついでにステラを自分の弟子として鍛えたのだよ」
ベルオムはあまり悪びれた様子もなく、けらけらと笑いながら話していた。
「まったく、交換条件を持ち出された時には驚きましたね。でも、あの時の私にはちょっとどころではない希望の光に照らされた気持ちでしたよ。エルミタージュ再興のための足掛かりができた……と」
「その時だったかな、その仮面を作ってあげたのは」
「ええ、そうでしたね。師匠はこういう事態も想定していたのですか?」
仮面を取ったステラは、真剣な表情をベルオムに向けている。それに対して、ベルオムは柔らかな笑みを浮かべていた。
「いや、別にそこまでは考えていなかったよ。ただ、ステラリア王女を知る者が顔を見たら驚くだろうと考えただけさ。故人が生きて出てきたら、誰だって驚くだろう?」
「……それはそうですね」
ステラは黙り込んでしまった。
そのステラからリューンへと視線を移すベルオム。その視線はどこか興味深そうに見ている感じだった。
「しかし、ステラが気に掛けている男の子か。私としても気になるね」
ベルオムの言葉に、リューンは警戒している。
「ああ、彼はエルミタージュ騎士団を祖先に持っているのですよ。師匠と同じように当日城に居なくて難を逃れたんだそうです」
「ほう、それはそれは……」
リューンをじっと見つめるベルオム。
「な、何なんですか……」
あまりにじっと見てくるものだから、思わず引いてしまうリューン。
「ふむ、特別な何かがあるかと思ったが、いたって普通の少年だな」
ベルオムはそう言いながら身を引いた。
「まぁそうでしょうね。でも、先祖が騎士団に居たのですから、もしかしたらその系統の適性があるかも知れません。師匠もよければ、彼に剣を教えて頂けませんかね」
「うーむ、私は双剣使いなので、片手剣は専門外なのだけれどね。でもまあ、可愛い弟子の言うことなのだから、合間合間でよければ構わないよ」
「ありがとうございます」
ステラはベルオムに頭を下げてお礼を言っている。
そして、ベルオムはリューンの方へと視線を向ける。その視線に思わずリューンは驚いて視線を逸らしてしまう。
「ふふっ、この程度で視線を逸らすようでは困りるね。これはとても鍛えがいがありそうだ」
不敵な笑みを浮かべるベルオム。その笑みに恐怖を感じたリューンは、思わず背筋をピンと伸ばしてしまう。
その時だった。
「師匠、魔物の気配です」
「そのようだね」
どうやら、魔物が現れたようだ。和やかな野宿と思いきや、一気に緊張感が走ったのだった。
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