不死の少女は王女様

未羊

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第45話 扉の中へ

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 固く閉ざされた商会長の部屋。この部屋の扉は開けられた形跡が見られない。
 となると、この部屋の中には未知なるものが眠っている可能性が強いのだ。

「建物自体は健在だからね。この中はいまだに手付かずの可能性は十分あり得る。何があるか分からないから、十分警戒しよう」

 こくりと頷くステラとリューン。
 ところが、次の瞬間、ベルオムがとんでもない事を言い出した。

「というわけでステラ、ここを開けてくれるかな?」

「は?」

 ステラが困惑交じりの声で反応する。言い出しっぺのベルオムが動かないで振ってきたのだから、そりゃまあそうなるわけだ。

「なんで私なんですか」

「それはそうだろう。ステラは不死の状態にあるのだからね。こういう時の斥候として適役じゃないかな?」

「私は便利屋じゃないですからね?!」

 危険な役目を振ってきたベルオムに、ステラは噛みつくように近付いて抗議している。
 しかし、ステラはその自覚があるだけに、ため息をつきながら扉に近付いていく。

「まったく、人を罠除け代わりに使うだなんて、人でなしですね。死ぬ前後ってものすごく痛いですし苦しいんですから、その見返りくらいはもらいますからね」

「そのくらいは構わないよ。無茶をさせているんだからね」

 言葉を交わし終えたステラは双剣を構える。そして、いざ扉に飛び掛かろうとするのだが、扉に接触する瞬間だった。何か妙な魔法陣が扉に浮かび上がった。

『魔力を認識。ステラリア・エルミタージュの魔力を感知しました』

 淡々とした音声が流れ、扉がゆっくりと開き始めた。

「なっ、何なんですか、これは……」

 さすがにステラは驚いている。直前にベルオムがべたべたと触っていた時は何も起きなかったからだ。
 もちろん、ベルオムとリューンもこれにはたまげていた。

「何をしたんだ、ステラ」

「知りませんよ。近付いただけでこうなっただけです。とりあえず開きましたから、私が先に入って中を確認してきますね」

「あ、ああ……」

「気を付けて下さい、ステラさん」

 ベルオムとリューンを残して、ステラは商会長の部屋へと踏み入っていく。
 商会長の部屋の中は、特に荒らされた形跡はなかった。天井も壁も床も、そして、部屋の中の家具や本の類も、まったく傷んでいる形跡はなかった。まるで時が止まってしまったかのようである。
 ひと通り確認したステラは、ベルオムとリューンを部屋の中に呼ぶ。
 部屋に入った二人も、ステラ同様に驚くしかなかった。

「これは……、まさか500年前のままだというのか?」

 長生きのエルフでも信じられない状況なのである。

「こんな保存を利かせられるだけの魔法があるとは……。エルミタージュ王国というのは相当な魔法技術を有していたのだな」

 ベルオムが感心していたその時だった。

「あっ、扉が!」

 リューンが叫ぶので確認すると、商会長の部屋の扉が急に閉まり始める。

「くっ、このままでは閉じ込められてしまう」

 ベルオムが急ぐが、何かの力によって部屋の中に弾き返されてしまった。
 そして、あえなく三人は部屋に閉じ込められてしまったのである。

「……どうやら進むしかないようですね」

「だが、進むといってもどうやってだ。見たところ普通の部屋でしかないぞ」

「言ったじゃないですか、この部屋には秘密の部屋があると」

 困った顔をするベルオムに、ステラは仮面を外した上でにやりと笑っていた。
 ここは外から誰も入ってこれないために、ステラは仮面を外したのである。

「そこでです。今からその部屋へ向かう方法を思い出しますので、師匠たちは部屋の中を自由に見て頂いて構いませんよ。失われたエルミタージュの技術の本などもありますからね」

 ステラは仮面を魔法鞄にしまい込むと、ベルオムたちに提案をした上で部屋の中を探り始めた。

「ああ、そうさせてもらおう。私がエルミタージュ大陸にやって来たそもそもの理由だからね。さっ、リューンくんも手伝ってくれ」

「は、はい」

 ステラが思い出すまでの間、ベルオムは目を輝かせながら、リューンを巻き込んで本棚を手当たり次第に調べ始めた。これがエルフというものなのだろうか。
 ベルオムが自由に動く中、ステラは両腕を組みながら部屋の中をうろついている。もちろん、ベルオムたちの動きを気を付けながらだ。
 必死に思い出そうとはしているものの、なにせ500年以上も昔の話だ。不死になって何度も死んでは蘇りを繰り返してきたショックのせいで、もうその頃の記憶も曖昧なのである。
 ヌフ遺跡の中心たる建物が魔道具を扱う商会の建物だと思い出せたのは、まず奇跡だと言ってもいいくらいである。

(うーん、どうでしたかね。お父様と一緒に、商会長様が部屋で何かをしていたのは間違いないのですが……。さすがに年月が経ちすぎてしまいましたね。ここに入れた理由も分かりませんし)

 ステラが壁際でうろちょろとしていると、ふと見た壁に違和感を覚えた。

(これは?)

 思わず壁に手を伸ばしてしまうステラ。
 その手が壁に触れようかとしたその時だった。

『ステラリア・エルミタージュの魔力を感知。ウティ・マシーヌの遺言を実行致します』

 扉の時にも聞こえた妙な声が、部屋の中に響いたのだった。
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