不死の少女は王女様

未羊

文字の大きさ
53 / 135

第53話 古の先祖グラン

しおりを挟む
 目の前のどこかぼやけた存在の老人は、ステラたちとしっかり意思疎通をしている。そこに居ないはずなのに、どうしてこのような事ができるのか。ステラたちの理解はとてもではないが追いつかなかった。

『ふむ、よく分からぬという顔をしておるな。じゃが、今もエルミタージュ大陸を支えておるのは、わしらが生み出した技術たちじゃからのう。ふぉっふぉっふぉ……』

 自慢げに笑う老人である。
 笑い終わったかと思いきや、じっとステラたちの方を見ている。

『わしはここに居ながらにして、エルミタージュのすべてを見てきた。まさか、わしの子孫がこのような事になるとはな……』

「子孫?」

 老人が喋った単語に、つい反応するステラである。

『エルミタージュの血筋は、わしの子孫ぞ。騎士団たちの中にもその血は受け継がれているのう』

 顎を触りながら話す老人。いろいろとよく分からない話ばかりで、ステラとリューンはどう反応していいのか分からなかった。

『おお、そうじゃ。自己紹介がまだじゃったな。わしの名前はグラン・エルミタージュ。エルミタージュ王家の中でも、特に魔道具に秀でた王族ぞ』

「ご、ご先祖様?!」

 出てきた名前に思わず驚いてしまうステラである。
 その驚く顔に、つい満足げに笑ってしまうグランである。

『そう構えるでないぞ。子孫が気になるあまりに、魔道具に意識を移して暇を持て余すだけの、ただの隠居じじいなのじゃからな』

 にかっと白い歯と歯茎を見せるグランである。
 あまりに気さくな態度を取るグランに、ようやくステラとリューンは落ち着いてきたようだった。

「それにしても、ここは一体どこだというのでしょうか。今は遺跡という風に言われておりますが」

『ふむ、今はそのような扱いか。まあ間違ってはおらぬな。お前さんたちが先日訪れた、今はヌフ遺跡と呼ばれた場所に住んでおった魔道具師たちの墓場じゃからな、ここは』

「ええ?!」

 グランが話した内容に、思わず大声を上げてしまう二人である。

『ここは、その中でも特に優れた魔道具師たちが眠っておる。今も活動できておるのは、中でも天才と呼ばれたわしくらいじゃよ、わっはっはっ』

 説明に驚きたいステラたちだが、大笑いをするグランに思わず表情が固まってしまう。どう反応したらいいのだろうか。
 ステラたちが困っていると、グランの表情がすっと真面目に変わった。

『ひとまず冗談はこれくらいにしておこう。真面目な話に移るぞ』

 立体映像だというのに、咳払いまでしてみせている。昔の魔道具師というのはとんでもない技術の持ち主のようだ。

『まず、ステラリアたちがこっちに来た目的は把握している。魔物の生息地の変化だが、おおよそ予想している通りだ』

「やはりですか……」

 グランの言葉に、ステラは険しい表情をする。

『最近はわしらの残した遺産がどんどんと発見されていく。その調査にあたって魔物を排除する動きが出ておるからな』

「やはり、そうやって住処を追われた魔物が、周辺へと移動していっているわけですか……」

『そういうことだな。とはいえ、やめさせたとしても、すぐには戻るまい』

「となると、魔物を封じつつ、冒険者の方のレベルを上げるしかないですね」

 ステラは頭が実に痛そうだった。

「しかし、どうして今まで隠されていた遺跡が、急に発見され始めたのでしょうか」

 そんな中、リューンがグランに質問をしていた。
 確かにそれは気になるところである。

『それはわしにも分からんところだ。この設備はエルミタージュの血筋を持つ者しか見つける事はできぬからな』

 グランも首を捻るばかりだった。
 しかし、その言い分にはステラは納得するばかりだった。

「でも、さすがにここまではやって来れていないようですね」

『うむ、ここには最高レベルの結界を施してあるからな。わしらの最高傑作をよそ者に荒らされるわけにはいかぬ』

 ステラの言葉に、グランは胸を張っていた。
 確かにその通りだ。肝心の部分にはステラの魔力だとか顔だとかが必要だったのだから。つまり、遺跡を発見できても、エルミタージュの関係者でなければその核心には迫れないというわけである。

「なるほど、それで師匠もここには入れなかったのですね」

『師匠? ああ、外に居たエルフか。確かに大陸外から来た人物だからのう』

 ステラが納得したように話すと、グランは少し間をおいて反応していた。

「それで、あの外のトカゲは何なんでしょうか。私も最初は襲われましたけれど」

『ああ、あのトカゲはわしらが生きていた頃から飼っておった連中じゃよ。ここを守ることと、エルミタージュの関係者だけを通すこと、この2点だけを忠実に守っているのじゃよ。ステラリアの事が分からなかったのは、偽装された容姿のためにうまく感知できんかったのだな』

「むぅ、あの変装魔法のせいですか……」

 自分の髪をいじりながら、ステラは不満げな顔をしている。なにせあの変装魔法は、自分の身を守るために使っていたのだから。それがあだとなれば、それはもう不満しかないわけである。

『それでは、質問の類はこのくらいにしておこうか』

 グランは両手を打ち合わせると、いよいよ本題に入るようだった。
 グランはこれから何を語るというのだろうか。ステラの体に、自然と力が入ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...