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第66話 女の勘を侮ってはいけない
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その数日後のこと、アンペラトリスは城を離れて遺跡の視察へと出かけていた。
どうやら報告だけでは我慢しきれなくなったようで、現地視察へと重い腰を上げたのである。
この日やって来たのは、城から4日程度離れたディス遺跡だった。ちょうど近くには建設中の設備もあるので、その視察も兼ねているというわけである。
「あれは、帝国正規軍ではないか……。おい、お前ら道を開けろ!」
ディス遺跡の管理にあたっている兵士や冒険者たちが、一斉に騒がしく動き出す。
正規軍がやって来たという事は、少なくとも将軍クラスの人間がやって来たということだ。万一のことがあれば、それは命の危険すらあるのである。それは大慌てで動き出すのも無理はないというものである。誰だって命は惜しいのだ。
正規軍がディス遺跡の入口の前で止まると、管理者である兵士が出迎える。
「これはこれは、正規軍の皆様ではございませんか。長旅お疲れさまでございます」
正規軍相手なので、管理兵は膝をついて対応をしている。
いや、ただの正規軍が相手ならば、何も膝はつかなくていいのだ。管理兵は後ろに控える馬車を見たからこそ、膝をついて対応をしているのだ。
(あれは皇帝陛下の馬車……。なんでこんなところに来ておられるのだ)
内心ばっくばくの管理兵である。
しかし、その心配は的中してしまう。馬車から現皇帝であるアンペラトリスが降りてきたのだ。
ゆっくりと歩み出てきたアンペラトリスに、管理兵は心臓が張り裂けそうな感覚だった。
「出迎えご苦労。これまでのディス遺跡の調査状況の確認を行うゆえ、事務所に案内なさい」
「はっ、承知致しました!」
跪いたまま声を張り上げて返事をする管理兵。そして、すぐさまアンペラトリスを事務所へと案内する。
ただ、事務所内はまさか皇帝がやって来るとは考えていなかったらしく、散らかし放題だった。一足先に数名を事務所を片付けるように向かわせていたのだが、時間を稼ぐ事は叶わなかった。
「……まったく、この無能が何をやっているんだ」
「も、申し訳ございません。ですが、必要な書類はこの通り、ちゃんとございますのでご勘弁を!」
管理兵が命乞いにも似た言い回しをしている。事務所内に居た他の人員たちも震え上がっている。どうやら全員皇帝アンペラトリスの顔は分かっているようだ。
「まあよい。事前に連絡もなくやって来たからな、今回ばかりは大目に見てやろう」
アンペラトリスがそう言うと、管理兵たちはほっとした表情をしていた。だが、それも束の間の事だった。
「だが、次はない。その口が胴体とおさらばしたくなければ、日頃からちゃんと片付けておけ、いいな!」
「は、はいぃっ!」
目力を伴ったアンペラトリスのお叱りに、管理兵は背筋を伸ばして精一杯の返事をしていた。管理兵の足を見れば、どのくらい恐怖を感じていたかがよく分かる。
「さて、茶番はこのくらいにして本題に入らせてもらおうか。嘘を言ってみろ、どんな目に遭うか分かっているだろうな?」
「は、はい。もちろんでございます」
脅しをかけてくるアンペラトリスに、管理兵は何度も激しく首を縦に振る。さっきの怒りの気迫がいまだに尾を引いているのである。
アンペラトリスは最近の調査状況とその報告を確認する。やって来た面々の名前を見ていたアンペラトリスだったが、気になる名前を見つけたようだった。
「うん? このベルオムとかいう名前、どこかで見たことがあるな……」
「はい。子ども二人を連れてやって来たエルフです。確か、ボワ王国の方からやって来たとか聞きました」
首を捻るアンペラトリスに、管理兵が素早く答える。
「その子どもの名前はどれだ?」
「えーっとですね。……ああ、これだ。ステラとリューンという名前がそうですね」
アンペラトリスが確認すると、管理兵は記録を指でなぞりながら探し出す。
その名前を聞いた時、アンペラトリスの表情が曇った。
「おい」
「な、なんでございますでしょうか、皇帝陛下……」
ものすごく低い声を発するアンペラトリス。管理兵は恐怖を感じて思わず仰け反ってしまう。
「このステラというやつの容姿を覚えているか?」
「えっ、ええ?」
戸惑う管理兵だが、その瞬間、アンペラトリスの鋭い睨みが飛ぶ。
その視線に思わず震え上がってしまう管理兵。死にたくない一心で必死にその姿を思い出そうとしている。
「そのステラという少女の事でしたらよく覚えています。仮面を着けていたので顔はよく分からないですけれども、見た目は11歳くらいの少女で、髪は頭の両側で結んでおりました」
「ほう、もっと詳しく聞かせてくれないか?」
アンペラトリスの瞳が怪しく光る。その表情に、思わず答えた職員が震え上がってしまった。
「は、はい。分かる範囲でよろしければ、こと細かくお答えします……」
しまったと思ったのも既に時遅し。目の前には皇帝アンペラトリスの怪しい笑顔がある。もう逃げられないのだ。
観念した職員から情報を聞いたアンペラトリスはすぐさま指示を出す。その指示に、正規兵の一部がすぐに動き出した。
「うふふふ、見つけたよ。さて、この大陸の中でいつまで逃げられるというのかな、ステラリア・エルミタージュ」
怪しく笑うアンペラトリスの姿に、その場に居た誰もが震え上がったのだった。
どうやら報告だけでは我慢しきれなくなったようで、現地視察へと重い腰を上げたのである。
この日やって来たのは、城から4日程度離れたディス遺跡だった。ちょうど近くには建設中の設備もあるので、その視察も兼ねているというわけである。
「あれは、帝国正規軍ではないか……。おい、お前ら道を開けろ!」
ディス遺跡の管理にあたっている兵士や冒険者たちが、一斉に騒がしく動き出す。
正規軍がやって来たという事は、少なくとも将軍クラスの人間がやって来たということだ。万一のことがあれば、それは命の危険すらあるのである。それは大慌てで動き出すのも無理はないというものである。誰だって命は惜しいのだ。
正規軍がディス遺跡の入口の前で止まると、管理者である兵士が出迎える。
「これはこれは、正規軍の皆様ではございませんか。長旅お疲れさまでございます」
正規軍相手なので、管理兵は膝をついて対応をしている。
いや、ただの正規軍が相手ならば、何も膝はつかなくていいのだ。管理兵は後ろに控える馬車を見たからこそ、膝をついて対応をしているのだ。
(あれは皇帝陛下の馬車……。なんでこんなところに来ておられるのだ)
内心ばっくばくの管理兵である。
しかし、その心配は的中してしまう。馬車から現皇帝であるアンペラトリスが降りてきたのだ。
ゆっくりと歩み出てきたアンペラトリスに、管理兵は心臓が張り裂けそうな感覚だった。
「出迎えご苦労。これまでのディス遺跡の調査状況の確認を行うゆえ、事務所に案内なさい」
「はっ、承知致しました!」
跪いたまま声を張り上げて返事をする管理兵。そして、すぐさまアンペラトリスを事務所へと案内する。
ただ、事務所内はまさか皇帝がやって来るとは考えていなかったらしく、散らかし放題だった。一足先に数名を事務所を片付けるように向かわせていたのだが、時間を稼ぐ事は叶わなかった。
「……まったく、この無能が何をやっているんだ」
「も、申し訳ございません。ですが、必要な書類はこの通り、ちゃんとございますのでご勘弁を!」
管理兵が命乞いにも似た言い回しをしている。事務所内に居た他の人員たちも震え上がっている。どうやら全員皇帝アンペラトリスの顔は分かっているようだ。
「まあよい。事前に連絡もなくやって来たからな、今回ばかりは大目に見てやろう」
アンペラトリスがそう言うと、管理兵たちはほっとした表情をしていた。だが、それも束の間の事だった。
「だが、次はない。その口が胴体とおさらばしたくなければ、日頃からちゃんと片付けておけ、いいな!」
「は、はいぃっ!」
目力を伴ったアンペラトリスのお叱りに、管理兵は背筋を伸ばして精一杯の返事をしていた。管理兵の足を見れば、どのくらい恐怖を感じていたかがよく分かる。
「さて、茶番はこのくらいにして本題に入らせてもらおうか。嘘を言ってみろ、どんな目に遭うか分かっているだろうな?」
「は、はい。もちろんでございます」
脅しをかけてくるアンペラトリスに、管理兵は何度も激しく首を縦に振る。さっきの怒りの気迫がいまだに尾を引いているのである。
アンペラトリスは最近の調査状況とその報告を確認する。やって来た面々の名前を見ていたアンペラトリスだったが、気になる名前を見つけたようだった。
「うん? このベルオムとかいう名前、どこかで見たことがあるな……」
「はい。子ども二人を連れてやって来たエルフです。確か、ボワ王国の方からやって来たとか聞きました」
首を捻るアンペラトリスに、管理兵が素早く答える。
「その子どもの名前はどれだ?」
「えーっとですね。……ああ、これだ。ステラとリューンという名前がそうですね」
アンペラトリスが確認すると、管理兵は記録を指でなぞりながら探し出す。
その名前を聞いた時、アンペラトリスの表情が曇った。
「おい」
「な、なんでございますでしょうか、皇帝陛下……」
ものすごく低い声を発するアンペラトリス。管理兵は恐怖を感じて思わず仰け反ってしまう。
「このステラというやつの容姿を覚えているか?」
「えっ、ええ?」
戸惑う管理兵だが、その瞬間、アンペラトリスの鋭い睨みが飛ぶ。
その視線に思わず震え上がってしまう管理兵。死にたくない一心で必死にその姿を思い出そうとしている。
「そのステラという少女の事でしたらよく覚えています。仮面を着けていたので顔はよく分からないですけれども、見た目は11歳くらいの少女で、髪は頭の両側で結んでおりました」
「ほう、もっと詳しく聞かせてくれないか?」
アンペラトリスの瞳が怪しく光る。その表情に、思わず答えた職員が震え上がってしまった。
「は、はい。分かる範囲でよろしければ、こと細かくお答えします……」
しまったと思ったのも既に時遅し。目の前には皇帝アンペラトリスの怪しい笑顔がある。もう逃げられないのだ。
観念した職員から情報を聞いたアンペラトリスはすぐさま指示を出す。その指示に、正規兵の一部がすぐに動き出した。
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