不死の少女は王女様

未羊

文字の大きさ
66 / 135

第66話 女の勘を侮ってはいけない

しおりを挟む
 その数日後のこと、アンペラトリスは城を離れて遺跡の視察へと出かけていた。
 どうやら報告だけでは我慢しきれなくなったようで、現地視察へと重い腰を上げたのである。
 この日やって来たのは、城から4日程度離れたディス遺跡だった。ちょうど近くには建設中の設備もあるので、その視察も兼ねているというわけである。

「あれは、帝国正規軍ではないか……。おい、お前ら道を開けろ!」

 ディス遺跡の管理にあたっている兵士や冒険者たちが、一斉に騒がしく動き出す。
 正規軍がやって来たという事は、少なくとも将軍クラスの人間がやって来たということだ。万一のことがあれば、それは命の危険すらあるのである。それは大慌てで動き出すのも無理はないというものである。誰だって命は惜しいのだ。
 正規軍がディス遺跡の入口の前で止まると、管理者である兵士が出迎える。

「これはこれは、正規軍の皆様ではございませんか。長旅お疲れさまでございます」

 正規軍相手なので、管理兵は膝をついて対応をしている。
 いや、ただの正規軍が相手ならば、何も膝はつかなくていいのだ。管理兵は後ろに控える馬車を見たからこそ、膝をついて対応をしているのだ。

(あれは皇帝陛下の馬車……。なんでこんなところに来ておられるのだ)

 内心ばっくばくの管理兵である。
 しかし、その心配は的中してしまう。馬車から現皇帝であるアンペラトリスが降りてきたのだ。
 ゆっくりと歩み出てきたアンペラトリスに、管理兵は心臓が張り裂けそうな感覚だった。

「出迎えご苦労。これまでのディス遺跡の調査状況の確認を行うゆえ、事務所に案内なさい」

「はっ、承知致しました!」

 跪いたまま声を張り上げて返事をする管理兵。そして、すぐさまアンペラトリスを事務所へと案内する。
 ただ、事務所内はまさか皇帝がやって来るとは考えていなかったらしく、散らかし放題だった。一足先に数名を事務所を片付けるように向かわせていたのだが、時間を稼ぐ事は叶わなかった。

「……まったく、この無能が何をやっているんだ」

「も、申し訳ございません。ですが、必要な書類はこの通り、ちゃんとございますのでご勘弁を!」

 管理兵が命乞いにも似た言い回しをしている。事務所内に居た他の人員たちも震え上がっている。どうやら全員皇帝アンペラトリスの顔は分かっているようだ。

「まあよい。事前に連絡もなくやって来たからな、今回ばかりは大目に見てやろう」

 アンペラトリスがそう言うと、管理兵たちはほっとした表情をしていた。だが、それも束の間の事だった。

「だが、次はない。その口が胴体とおさらばしたくなければ、日頃からちゃんと片付けておけ、いいな!」

「は、はいぃっ!」

 目力を伴ったアンペラトリスのお叱りに、管理兵は背筋を伸ばして精一杯の返事をしていた。管理兵の足を見れば、どのくらい恐怖を感じていたかがよく分かる。

「さて、茶番はこのくらいにして本題に入らせてもらおうか。嘘を言ってみろ、どんな目に遭うか分かっているだろうな?」

「は、はい。もちろんでございます」

 脅しをかけてくるアンペラトリスに、管理兵は何度も激しく首を縦に振る。さっきの怒りの気迫がいまだに尾を引いているのである。
 アンペラトリスは最近の調査状況とその報告を確認する。やって来た面々の名前を見ていたアンペラトリスだったが、気になる名前を見つけたようだった。

「うん? このベルオムとかいう名前、どこかで見たことがあるな……」

「はい。子ども二人を連れてやって来たエルフです。確か、ボワ王国の方からやって来たとか聞きました」

 首を捻るアンペラトリスに、管理兵が素早く答える。

「その子どもの名前はどれだ?」

「えーっとですね。……ああ、これだ。ステラとリューンという名前がそうですね」

 アンペラトリスが確認すると、管理兵は記録を指でなぞりながら探し出す。
 その名前を聞いた時、アンペラトリスの表情が曇った。

「おい」

「な、なんでございますでしょうか、皇帝陛下……」

 ものすごく低い声を発するアンペラトリス。管理兵は恐怖を感じて思わず仰け反ってしまう。

「このステラというやつの容姿を覚えているか?」

「えっ、ええ?」

 戸惑う管理兵だが、その瞬間、アンペラトリスの鋭い睨みが飛ぶ。
 その視線に思わず震え上がってしまう管理兵。死にたくない一心で必死にその姿を思い出そうとしている。

「そのステラという少女の事でしたらよく覚えています。仮面を着けていたので顔はよく分からないですけれども、見た目は11歳くらいの少女で、髪は頭の両側で結んでおりました」

「ほう、もっと詳しく聞かせてくれないか?」

 アンペラトリスの瞳が怪しく光る。その表情に、思わず答えた職員が震え上がってしまった。

「は、はい。分かる範囲でよろしければ、こと細かくお答えします……」

 しまったと思ったのも既に時遅し。目の前には皇帝アンペラトリスの怪しい笑顔がある。もう逃げられないのだ。
 観念した職員から情報を聞いたアンペラトリスはすぐさま指示を出す。その指示に、正規兵の一部がすぐに動き出した。

「うふふふ、見つけたよ。さて、この大陸の中でいつまで逃げられるというのかな、ステラリア・エルミタージュ」

 怪しく笑うアンペラトリスの姿に、その場に居た誰もが震え上がったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...