不死の少女は王女様

未羊

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第73話 重苦しい雰囲気の中で

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 帝都までやって来たステラたちは、あっという間に城の中まで連れてこられてしまう。
 アンペラトリスが客人といっていた通り、最初の時を思えばかなり丁重に扱われている。最初は両脇を抱えられて持ち上げられていたステラだったが、今回は兵士一人に手を引かれる形になっていた。扱いの差に思わず呆気を取られてしまうくらいだった。
 ステラたちが最終的に通されたのは、どこかの小さな部屋のようだった。アンペラトリスは部屋に入ると、兵士たちを払って一人でステラたちを向かい合う。
 この事態にはステラたちの方だって驚いている。
 なんといってもさらっておきながら、無防備に一人で相手をしようというのだから。

「まあそう構えなくてもよいぞ。おい、これまでの調査結果を持ってこい」

 アンペラトリスは部屋の外に向かって呼び掛ける。すると、部屋の外から返事が聞こえ、バタバタという足音が響き渡っている。
 思ったよりもアンペラトリスの帰還が早く、準備できていなかったのだろう。アンペラトリスはこの不手際に少々イラついた様子を見せていた。

「すまないな。戻ったらすぐにでも始めるつもりだったのだが……」

 意外にも謝罪をしてくるので、ステラは面食らっていた。

「あと、悪いが君の正体はもう割れているんだ。その仮面を取ってもらっても構わないか?」

「ぐっ……」

 仮面に言及されて、ステラは判断に困ってしまったようだ。仮面を取るということは、正体を認めることになる。アンペラトリスがどういった相手か判断しかねる状況では、ステラは極力取りたくないようなのだ。
 ステラは迷いながら、リューンとベルオムの顔を見る。リューンも同じように戸惑ってはいるが、ベルオムは取った方がいいというような顔をしている。

「ぐうう……、仕方ないですね。ですが、他の方には内密で頼みます」

 ステラはそう言って、やむなく仮面を外す。仮面の下からは、確かに手配書通りの顔が現れたのである。

「やはりそうか。すごいな、500年経って生きている事もそうだが、その容姿を保ち続けているというのもな」

 アンペラトリスの顔から笑みがこぼれる。
 しかし、ステラの方は渋い顔をして黙り込んでいる。素顔なんてさらす気もなかったのだから仕方がない。
 女性陣が対照的な表情で黙り込む中、部屋の扉が叩かれる。

「皇帝陛下、研究班エチューでございます。お呼びになられましたでしょうか」

「おお、エチューか。入れ」

 アンペラトリスが許可を出すと、初老の男性が部屋の中へと入ってきた。すると、アンペラトリスだけかと思っていたエチューは、予想外に人数がいたことに驚いていた。

「皇帝陛下、そちらの方々は?」

「私の客人だ。気にせずともよい」

「は、はあ、畏まりました」

 驚きのあまりに、気の抜けた返事をするエチュー。

「そんな事よりも、エルミタージュの遺跡の調査、分かっているところまででいいから話せ。こやつらは協力者だからな、情報を共有したいから気にするでないぞ」

 改めて気にするなと忠告するアンペラトリス。
 皇帝以外に話す気のないエチューは少し躊躇するが、その皇帝たるアンペラトリスの命令なので、仕方なく調査の報告を始めた。

「……以上の事から、大規模な魔道具に関しては魔力ロックが掛かっているようでして、これ以上の調査は不可能という結果になっております」

「ほう、それはどういうロックだ?」

 エチューの報告に、アンペラトリスが妖しく問い掛ける。その雰囲気に思わず飲まれそうになるエチュー。
 いったん目を閉じて気持ちを落ち着かせると、アンペラトリスの質問に答え始める。

「魔道具の使用者に制限が掛けられているのです。冒険者組合や商業組合のネットワークもそうですが、鍵となっている魔力の持ち主以外では、起動させたり停止させたりということが不可能になっているようなのです」

「ほうほう、そうか。で、その鍵となる魔力の持ち主とは、一体誰だ?」

 睨むように問い詰めるアンペラトリス。その冷たい視線に思わず震え上がるエチュー。
 だが、質問をされた以上は答えなければならない。
 なんとか踏ん張って、アンペラトリスの質問に答える。

「どうにか干渉して調べてみた結果、『ステラリア・エルミタージュ』の魔力が必要のようでございます」

「そうかそうか。で、報告は以上なのかな?」

「いえ、他にも一応ございます」

 エチューが否定した事で、アンペラトリスの眉がぴくりと動く。

「……申してみよ」

 あまりにも鋭い声だったので、エチューは顔を青ざめさせる。
 胃をキリキリとさせながらも、踏ん張って答えるエチューである。

「ヌフ遺跡とディス遺跡にて、これまでになかった魔力反応が検出されました。どうやら隠し部屋があったようでございます」

 これに思わずピクリ眉を動かしてしまうステラ。

「それで、その調査はどうなった?」

「それが……その場所に行ってみても、我々では何の反応も見られませんでした。おそらくは同様の制限が掛けられているのかと……」

「そうか、報告ご苦労。戻って更なる分析を頼む」

「はっ、畏まりました」

 ようやく報告を終えて、エチューはほっとした様子で部屋を去っていった。
 そして、彼が去った部屋の中は、再び沈黙に包まれたのだった。
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