96 / 135
第96話 秘術と心
しおりを挟む
目の前に浮かび上がる両親の幻。しかも、ディス遺跡のグランと同じように会話ができそうな雰囲気があった。
「お父様、お母様、お久しゅうございます。ステラリアは戻って参りました……」
跪いて首を垂れるステラ。それは今にも泣きそうになっている顔を隠すためでもある。
目の前にいるのは間違いなく自分の両親なのだ。様々な感情が入り混じって、とてもじゃないがステラは平静を保つ事ができないのである。
『どうしたんだい、ステラリア』
『その顔をよく見せておくれ』
ステラの屈み込むような仕草に、ステラの両親は慌てている。これは間違いなくそこに存在しているものの反応だった。
「……驚いたな。魔法による投影かと思ったが、ステラリアの反応に対して的確に言葉を発している。……エルミタージュ王国の有していた技術、実に興味深いというものだ」
ステラたちのやり取りを見て、ついつい口をついて感想が出てきてしまうアンペラトリスである。
すると、その声が耳に聞こえてしまったのか、ステラの両親がアンペラトリスの方へと視線を向けた。
『そなた、何者かな?』
ステラの父親が、アンペラトリスに問い掛ける。それに対して、アンペラトリスは実に堂々とした態度で答える。
「コリーヌ帝国の現皇帝、エンペラとリス・コリーヌと申す者。現在この地は我が帝国の領土内であり、本日は調査のためにやって来た」
聞かれてもいない事情もぺらぺらと話すアンペラトリス。だが、続けて質問をされるのを先回りして答えたに過ぎなかった。
『……そうか。既に侵略者の手に落ちているというわけか……』
顔をしかめているステラの父親。
ところが、ステラの母親は違った反応を見せている。
『あら、不思議な魔力を感じるわね。でも、エルミタージュの血筋はあの襲撃でほぼ途絶えてしまったはず……』
どうやらステラの母親は、アンペラトリスの中に違和感を感じているのだ。
『なんだと? だが、確かに妙な魔力を感じるな。一体どういう事だ?』
首を捻るステラの父親。
だが、いくら考えてみたところで何か分かるわけではない。ステラの両親は考えるのをやめたのだった。
『ともかくだ。ステラリアがここに戻ってきたということは、王国の再興ができるということだな』
『そうですね、あなた。私たちの命を賭して、ステラリアに祝福を掛けた努力が、今報われるというわけですね』
「うん、祝福だと?」
ステラの両親の言葉に、アンペラトリスの眉がぴくりと動く。
「どういうことだ、ステラリア。お前がその姿で生き続けている事と、何か関係があるというのか?」
ステラに向かってものすごい剣幕で突っ掛かっていくアンペラトリス。その勢いに、ついステラは後退ってしまった。
『なんだ、ステラリアから話を聞いていないのか』
「ステラリアは私を信用していないのだから、話してくれるわけがなかろう。だが、私の方も無理に聞くつもりもないがな」
ステラの父親の言葉に、そのように答えるアンペラトリス。
「最初はこの大陸を支配するためにステラリアを利用しようと考えていた。だが、実際に会ってみて考えが変わった。なぜ変わったのかは、私にも分からぬがな」
ぺらぺらと自分の心の内を話すアンペラトリスである。
「なんというのだろうかな……。ステラは不思議と庇護欲を呼び覚ますのかも知れないな」
最後には一人で勝手に納得して頷くアンペラトリスだった。
『ふむ……。おそらくはエルミタージュ王家に伝わる秘術の影響かもな』
『そうですね。この秘術には掛けられた者を守ろうとする力がありますからね。王家の血筋を絶やさないための、不思議な効果があるんですよ』
「ええ……、どんだけ強力な魔法なのよ……」
さすがに掛けられた本人であるステラがドン引きしていた。
「エルミタージュの国王と王妃よ、ぜひとも詳しく聞かせて頂きたい。エルミタージュはなぜ滅ぶに至ったのか、ステラリアに掛けられたその秘術とやらは何なのか。話次第では、私がエルミタージュの遺志を継ぎましょうぞ」
ステラの両親に対して真剣な表情をしながら跪くアンペラトリス。
この意外な姿まで見せられて、ステラはさっきからずっと驚きっぱなしになっていた。何がここまでアンペラトリスを変えたのだろうか。
アンペラトリスから強い意思を感じたステラの両親は、顔を見合わせながらどうしたものかと悩んでいるようだった。
とはいえ、ここまでたどり着いた人物である。なにより、アンペラトリスから感じる不思議な魔力に親近感のようなものを抱いてしまう。こうなってくると、他人のように思えないステラの両親は、こくりと決意を固めたのだった。
『いいだろう。おぬしの心意気を尊重して、我々の口からエルミタージュ王家について少しばかり語らせてもらおう』
『とは申しましても、私たちも受け継いだ部分が多くありませんから、そこまで期待しないで下さいね』
「それなら構わない。エルミタージュの人間から直に話を聞けるだけでも、我々としては大きな成果なのだからな」
アンペラトリスは真っすぐな瞳をステラの両親に向けている。そのあまりの真っすぐさに感心したところで、ステラの両親は自分たちが知る限りのエルミタージュの話を始めたのだった。
「お父様、お母様、お久しゅうございます。ステラリアは戻って参りました……」
跪いて首を垂れるステラ。それは今にも泣きそうになっている顔を隠すためでもある。
目の前にいるのは間違いなく自分の両親なのだ。様々な感情が入り混じって、とてもじゃないがステラは平静を保つ事ができないのである。
『どうしたんだい、ステラリア』
『その顔をよく見せておくれ』
ステラの屈み込むような仕草に、ステラの両親は慌てている。これは間違いなくそこに存在しているものの反応だった。
「……驚いたな。魔法による投影かと思ったが、ステラリアの反応に対して的確に言葉を発している。……エルミタージュ王国の有していた技術、実に興味深いというものだ」
ステラたちのやり取りを見て、ついつい口をついて感想が出てきてしまうアンペラトリスである。
すると、その声が耳に聞こえてしまったのか、ステラの両親がアンペラトリスの方へと視線を向けた。
『そなた、何者かな?』
ステラの父親が、アンペラトリスに問い掛ける。それに対して、アンペラトリスは実に堂々とした態度で答える。
「コリーヌ帝国の現皇帝、エンペラとリス・コリーヌと申す者。現在この地は我が帝国の領土内であり、本日は調査のためにやって来た」
聞かれてもいない事情もぺらぺらと話すアンペラトリス。だが、続けて質問をされるのを先回りして答えたに過ぎなかった。
『……そうか。既に侵略者の手に落ちているというわけか……』
顔をしかめているステラの父親。
ところが、ステラの母親は違った反応を見せている。
『あら、不思議な魔力を感じるわね。でも、エルミタージュの血筋はあの襲撃でほぼ途絶えてしまったはず……』
どうやらステラの母親は、アンペラトリスの中に違和感を感じているのだ。
『なんだと? だが、確かに妙な魔力を感じるな。一体どういう事だ?』
首を捻るステラの父親。
だが、いくら考えてみたところで何か分かるわけではない。ステラの両親は考えるのをやめたのだった。
『ともかくだ。ステラリアがここに戻ってきたということは、王国の再興ができるということだな』
『そうですね、あなた。私たちの命を賭して、ステラリアに祝福を掛けた努力が、今報われるというわけですね』
「うん、祝福だと?」
ステラの両親の言葉に、アンペラトリスの眉がぴくりと動く。
「どういうことだ、ステラリア。お前がその姿で生き続けている事と、何か関係があるというのか?」
ステラに向かってものすごい剣幕で突っ掛かっていくアンペラトリス。その勢いに、ついステラは後退ってしまった。
『なんだ、ステラリアから話を聞いていないのか』
「ステラリアは私を信用していないのだから、話してくれるわけがなかろう。だが、私の方も無理に聞くつもりもないがな」
ステラの父親の言葉に、そのように答えるアンペラトリス。
「最初はこの大陸を支配するためにステラリアを利用しようと考えていた。だが、実際に会ってみて考えが変わった。なぜ変わったのかは、私にも分からぬがな」
ぺらぺらと自分の心の内を話すアンペラトリスである。
「なんというのだろうかな……。ステラは不思議と庇護欲を呼び覚ますのかも知れないな」
最後には一人で勝手に納得して頷くアンペラトリスだった。
『ふむ……。おそらくはエルミタージュ王家に伝わる秘術の影響かもな』
『そうですね。この秘術には掛けられた者を守ろうとする力がありますからね。王家の血筋を絶やさないための、不思議な効果があるんですよ』
「ええ……、どんだけ強力な魔法なのよ……」
さすがに掛けられた本人であるステラがドン引きしていた。
「エルミタージュの国王と王妃よ、ぜひとも詳しく聞かせて頂きたい。エルミタージュはなぜ滅ぶに至ったのか、ステラリアに掛けられたその秘術とやらは何なのか。話次第では、私がエルミタージュの遺志を継ぎましょうぞ」
ステラの両親に対して真剣な表情をしながら跪くアンペラトリス。
この意外な姿まで見せられて、ステラはさっきからずっと驚きっぱなしになっていた。何がここまでアンペラトリスを変えたのだろうか。
アンペラトリスから強い意思を感じたステラの両親は、顔を見合わせながらどうしたものかと悩んでいるようだった。
とはいえ、ここまでたどり着いた人物である。なにより、アンペラトリスから感じる不思議な魔力に親近感のようなものを抱いてしまう。こうなってくると、他人のように思えないステラの両親は、こくりと決意を固めたのだった。
『いいだろう。おぬしの心意気を尊重して、我々の口からエルミタージュ王家について少しばかり語らせてもらおう』
『とは申しましても、私たちも受け継いだ部分が多くありませんから、そこまで期待しないで下さいね』
「それなら構わない。エルミタージュの人間から直に話を聞けるだけでも、我々としては大きな成果なのだからな」
アンペラトリスは真っすぐな瞳をステラの両親に向けている。そのあまりの真っすぐさに感心したところで、ステラの両親は自分たちが知る限りのエルミタージュの話を始めたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる