不死の少女は王女様

未羊

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第112話 思い悩むリューン

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 リューンは相変わらず、コリーヌ帝国の騎士や兵士を相手に鍛錬を続けている。
 リューンの家系はずっとたどっていくとエルミタージュ王国の騎士にたどり着くためか、騎士や兵士たちが行う訓練に必死に食らいついていた。
 なによりも、ステラへの忠誠心のようなものが芽生えているらしく、そのために頑張れているといった感じなのである。

「よし、今日はここまでだ。まだ続けたい奴がいたら付き合いが、無理はするなよ」

 騎士ではなく兵士の長、つまりは兵士長が訓練場に向けて声を掛けていた。
 すると多くの兵士たちは引き上げていくのだが、リューンはその場に残っていた。

「おう、坊主。今日もやるのか?」

 兵士長が問い掛ければ、リューンは顔を兵士長へと向ける。

「はい、お願いします」

「ふっ、元気のいい事だ。俺の小さい頃を思い出すぜ」

 笑みを浮かべながらも、兵士長はリューンへと近付いていく。

「だが、ちょっと焦りが見えるな。強くなるために訓練に励むのはいいが、無理と無茶をはき違えちゃいけないぞ」

「はい、分かっています!」

 兵士長の言葉に、力強く頷くリューン。その姿を見て、兵士長はなんともいえない表情になった。

(やれやれ、若いがゆえの暴走とやつかな。本当にかつての自分を見ているようでつらいな)

 どうやら兵士長にもそういう時期があったらしい。その頃の自分とリューンが重なって見えてしまっているようだ。
 だが、リューンが自分へ向けてくるその瞳に、いかに本気かということを感じ取った兵士長。部下の一人に木剣を持ってこさせ、そのうち1本をリューンへと投げ渡した。

「……取れ。この私が直々に相手をしてあげよう」

 兵士長の重苦しい口調で放たれた言葉に、リューンは表情を引き締めて木剣を拾い上げる。
 そして、しっかりと木剣を構える。

「よろしくお願いします!」

 元気のいい返事に、兵士長は小さく笑みをこぼした。

「さあ、来なさい。君が何のためにその剣を振るうのか、俺に見せてもらおう」

 兵士長とリューンの打ち合いは、しばらくの間続いたのだった。

 その姿を眺めていた兵士たちだったが、次第にその表情が驚きに染まっていく。
 それというのも、リューンは確かに何度となく打ち伏せられているというのに、諦めずに兵士長へと向かっていっていたからだ。

「おいおい、ずいぶんと頑張るな……」

「まったくだ。いくら兵士長が本気で打っていないとはいえ、あれだけやられてもまだ続けるのかよ」

 兵士たちがこういうのも無理もない。
 リューンと兵士長の間には絶対的な体格差がある。背が足りない、腕の長さが足りない。さらに経験もまったく足りない。そうなると互角に打ち合うのはほぼ不可能である。
 だから、簡単にやられてしまうのだ。それでも諦めることなく、リューンは兵士長に立ち向かっていっているのだ。
 あまりにも熱心で意地になっているその姿に、周りにいる兵士や騎士たちの視線は釘付けになっていた。

「よし、そろそろ終わりにしようか」

「いえ、まだまだいけます」

 兵士長が止めようとするが、リューンはやる気が十分である。
 だがしかし、ここで兵士長が止めようとするのはちゃんと理由があった。

「がむしゃらに頑張るのは構わないが、焦り過ぎだな。それに見てみろ」

 兵士長が空を指差す。そこにはもう星が輝き始める闇夜が広がりつつあった。

「日が暮れちまった状況で続けるのは危ない。物足りないっていうのなら、部屋で体を鍛えるといい」

 兵士長は木剣を構えるリューンに近付いて肩を叩く。

「あまりこういうところに不慣れな生活をしてたんだろうな。もちっと筋肉をつけろ。でないと、剣に振り回され続けることになる」

 兵士長の言葉に、ようやく木剣を下ろすリューン。そして、無言で大きくこくりと頷いた。

「よし、とっとと兵舎に戻って飯にするぞ。木剣はちゃんと片付けておけよ」

「はっ!」

 兵士長の言葉で、兵士たちが一斉に動き始める。
 リューンはしばらく下を向いていたが、いつまでもぼーっとしていてはご飯を食べ損ねてしまう。渋々諦めたように木剣を訓練場の倉庫に戻すのだった。

 その夜、リューンは寝床で横になりながら、ずっと考えていた。
 ステラとの間で約束を交わしたあの日から、自分を鍛えてきたつもりだった。
 だが、現実は厳しく、アンペラトリスは仕方ないにしても、兵士長相手に手も足も出ない状態だった。この状況に、リューンはずいぶんと悔しさをにじませていた。
 体だってまだまだ貧弱なままだ。その現実はリューンに更なる追い打ちをかけていた。

(これじゃ、ステラさんを守るどころか、僕が足手まといになってしまう……。もっと鍛えて強くならなくちゃ……)

 天井を見上げながら、強く決意を固めるリューン。
 だが、そのためにはまずは体を鍛えなければならない。大きく、そして力も強くなければステラを守るなんていうのは無理だろう。
 今日のところはもう遅くなってしまっているため、明日から頑張ると意気込んだリューンはそのまま眠りについたのだった。
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