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第120話 動き出す運命
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ステラがトレイズ遺跡へと向かってから数日が経過した。おそらくは翌日にはトレイズ遺跡に到着するはずである。
そんな中、相変わらずアンペラトリスは事務処理に追われ、リューンは稽古に打ち込んでいる。
アンペラトリスが警戒するベルオムも、こもりっぱなしでまったく部屋から出てこない。不気味なくらいに静かなのである。
それからほどなくして、アンペラトリスの元に一人の使用人がやって来た。
「皇帝陛下、失礼致します」
「うむ、どうした。何か変わった事でもあったか?」
仕事の手を止めたアンペラトリスが、使用人に顔を向けて問い掛けている。
「は、はい。変わったというか、気になった事がございまして……」
なんとも煮え切らない態度の使用人である。
どうにも気になる態度に、アンペラトリスは少し強い口調で質問を投げかける。
「気になった事とは何かな?」
その声に使用人は少し固まる。説明を戸惑っているようだった。思い違いだったらどうしようかというところだろう。
しかし、アンペラトリスから真面目な目を向けられてしまっては、使用人は答えるしかなかった。
「いえですね……。ベルオム様の部屋を訪れた際にお食事の事を訪ねるのですが、その時の受け答えがどうも……」
どうにも歯切れの悪い言い方である。
アンペラトリスは気になったのか、立ち上がって使用人に声を掛ける。
「案内してくれ。私が直接見る」
「わ、分かりました。ご案内致します」
こうして、アンペラトリスはベルオムがこもる部屋へと向かっていく。
どうにも胸騒ぎがするのである。
部屋へと到着したアンペラトリスは、いきなりドアを叩き始める。
「おい、ベルオム開けろ。私だ、アンペラトリスだ」
ドンドンとものすごい音に加えて大声で呼び掛けるアンペラトリス。だが、まったく反応がない。
これは怪しいと見たアンペラトリスは、少し下がって勢いをつけてドアへと突撃する。
「ど、どうなさったのですか、陛下?!」
使用人が悲鳴を上げるように、口に手を当てて叫んでいる。
まるで気が狂ったかのような行動を見せられればそうなるのも無理もない。
だが、アンペラトリスの目はいたって真剣で冷静である。
何度か体当たりしたのちに、大きな音を立てて扉が勢いよく開く。
そこでアンペラトリスが目にしたのは、予想もしない光景だった。
「くそっ、やられた……」
アンペラトリスから漏れるのは悔しさの言葉だった。
それもそうだろう。ベルオムが居るはずの部屋の中は、空っぽだったのだ。
そして、部屋の中からは音に反応して返事をする魔道具が置かれていた。使用人が聞いたのはこれの声だったのだ。
「ステラリアが危ない。急いで追わねば」
顔を青ざめさせたアンペラトリスは、使用人に口止めをしてから訓練場の方へと走っていく。
ステラの事を危ないと考えるのは、アンペラトリスが不老は知っていても不死な事を知らないからだ。
とはいえ、警戒していたベルオムが突然姿を消したがために、慌てざるを得ないというのが実情である。
「リューンは居るか?」
訓練場に姿を見せたアンペラトリスは、声を張り上げて見回しながらリューンを探す。
「はい、ここにいます!」
大きな声ゆえに、リューンがすぐに反応する。
「おお、そこにいたか。おい、誰か馬を連れてくるのだ」
「はっ!」
アンペラトリスの命令に、騎士の一人が素早く動く。
そして、アンペラトリスはリューンへと近付き、目の前に立つと用件を短く伝える。
「ベルオムが姿を消した。おそらく狙いはステラリアだ」
「なんですって?!」
険しい表情で叫ぶリューン。
「いくらステラさんの師匠だとしても、もしステラさんに危害を加えるなら、僕だって黙っていませんよ」
リューンが感情を露わにしている。
「皇帝陛下、馬をお持ちしました」
騎士が馬を連れて戻ってくる。だが、馬の数は予想外にも一頭だけだった。
「一頭だけか。まぁその方が都合がいい。リューン行くぞ」
「はい!」
リューンがを抱え上げると、前に座らせる形で馬に跨るアンペラトリス。
「皇帝陛下、これを!」
訓練場から城門へ向かうアンペラトリスの前に使用人が現れる。先程、ベルオムの部屋へ一緒に向かった使用人だった。
その使用人は叫ぶと同時に、アンペラトリスに向けてぽいっと小さな鞄を投げる。
「魔法鞄に食料を詰め込んでおきました。ご武運を祈っております」
「すまないな。では行ってくる。城のことはアジャダに任せておけ」
しっかりと鞄を受け取り、リューンに持たせるアンペラトリス。
お礼を言った上でそう言い残して、アンペラトリスは城門を駆け抜けてトレイズ遺跡へと向けて出発していった。
(どうか間に合っておくれよ。そして、無事でいてくれ、ステラリア)
強い気持ちで祈るアンペラトリスは、必死に馬を駆るのであった。
両親に会うためにトレイズ遺跡を目指すステラ。
そのステラをつけ狙うベルオム。
それを追いかけるアンペラトリスとリューン。
それぞれの運命が、今まさに交錯しようとしていたのだった。
そんな中、相変わらずアンペラトリスは事務処理に追われ、リューンは稽古に打ち込んでいる。
アンペラトリスが警戒するベルオムも、こもりっぱなしでまったく部屋から出てこない。不気味なくらいに静かなのである。
それからほどなくして、アンペラトリスの元に一人の使用人がやって来た。
「皇帝陛下、失礼致します」
「うむ、どうした。何か変わった事でもあったか?」
仕事の手を止めたアンペラトリスが、使用人に顔を向けて問い掛けている。
「は、はい。変わったというか、気になった事がございまして……」
なんとも煮え切らない態度の使用人である。
どうにも気になる態度に、アンペラトリスは少し強い口調で質問を投げかける。
「気になった事とは何かな?」
その声に使用人は少し固まる。説明を戸惑っているようだった。思い違いだったらどうしようかというところだろう。
しかし、アンペラトリスから真面目な目を向けられてしまっては、使用人は答えるしかなかった。
「いえですね……。ベルオム様の部屋を訪れた際にお食事の事を訪ねるのですが、その時の受け答えがどうも……」
どうにも歯切れの悪い言い方である。
アンペラトリスは気になったのか、立ち上がって使用人に声を掛ける。
「案内してくれ。私が直接見る」
「わ、分かりました。ご案内致します」
こうして、アンペラトリスはベルオムがこもる部屋へと向かっていく。
どうにも胸騒ぎがするのである。
部屋へと到着したアンペラトリスは、いきなりドアを叩き始める。
「おい、ベルオム開けろ。私だ、アンペラトリスだ」
ドンドンとものすごい音に加えて大声で呼び掛けるアンペラトリス。だが、まったく反応がない。
これは怪しいと見たアンペラトリスは、少し下がって勢いをつけてドアへと突撃する。
「ど、どうなさったのですか、陛下?!」
使用人が悲鳴を上げるように、口に手を当てて叫んでいる。
まるで気が狂ったかのような行動を見せられればそうなるのも無理もない。
だが、アンペラトリスの目はいたって真剣で冷静である。
何度か体当たりしたのちに、大きな音を立てて扉が勢いよく開く。
そこでアンペラトリスが目にしたのは、予想もしない光景だった。
「くそっ、やられた……」
アンペラトリスから漏れるのは悔しさの言葉だった。
それもそうだろう。ベルオムが居るはずの部屋の中は、空っぽだったのだ。
そして、部屋の中からは音に反応して返事をする魔道具が置かれていた。使用人が聞いたのはこれの声だったのだ。
「ステラリアが危ない。急いで追わねば」
顔を青ざめさせたアンペラトリスは、使用人に口止めをしてから訓練場の方へと走っていく。
ステラの事を危ないと考えるのは、アンペラトリスが不老は知っていても不死な事を知らないからだ。
とはいえ、警戒していたベルオムが突然姿を消したがために、慌てざるを得ないというのが実情である。
「リューンは居るか?」
訓練場に姿を見せたアンペラトリスは、声を張り上げて見回しながらリューンを探す。
「はい、ここにいます!」
大きな声ゆえに、リューンがすぐに反応する。
「おお、そこにいたか。おい、誰か馬を連れてくるのだ」
「はっ!」
アンペラトリスの命令に、騎士の一人が素早く動く。
そして、アンペラトリスはリューンへと近付き、目の前に立つと用件を短く伝える。
「ベルオムが姿を消した。おそらく狙いはステラリアだ」
「なんですって?!」
険しい表情で叫ぶリューン。
「いくらステラさんの師匠だとしても、もしステラさんに危害を加えるなら、僕だって黙っていませんよ」
リューンが感情を露わにしている。
「皇帝陛下、馬をお持ちしました」
騎士が馬を連れて戻ってくる。だが、馬の数は予想外にも一頭だけだった。
「一頭だけか。まぁその方が都合がいい。リューン行くぞ」
「はい!」
リューンがを抱え上げると、前に座らせる形で馬に跨るアンペラトリス。
「皇帝陛下、これを!」
訓練場から城門へ向かうアンペラトリスの前に使用人が現れる。先程、ベルオムの部屋へ一緒に向かった使用人だった。
その使用人は叫ぶと同時に、アンペラトリスに向けてぽいっと小さな鞄を投げる。
「魔法鞄に食料を詰め込んでおきました。ご武運を祈っております」
「すまないな。では行ってくる。城のことはアジャダに任せておけ」
しっかりと鞄を受け取り、リューンに持たせるアンペラトリス。
お礼を言った上でそう言い残して、アンペラトリスは城門を駆け抜けてトレイズ遺跡へと向けて出発していった。
(どうか間に合っておくれよ。そして、無事でいてくれ、ステラリア)
強い気持ちで祈るアンペラトリスは、必死に馬を駆るのであった。
両親に会うためにトレイズ遺跡を目指すステラ。
そのステラをつけ狙うベルオム。
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それぞれの運命が、今まさに交錯しようとしていたのだった。
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