不死の少女は王女様

未羊

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第129話 葛藤

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 ベルオムは目を覚ます。

「……ここはどこだ?」

 ベルオムは上半身を起こして周りを見渡している。

「ようやく起きたか。ずいぶんとうなされていたようだが、どうだったのかな」

「……コリーヌの皇帝か」

 ベルオムの視界にアンペラトリスの姿が入る。その姿を見たベルオムはあからさまに嫌な表情をしている。
 その表情を見たアンペラトリスは、ふっと笑みを浮かべている。

「何がおかしい! ぐっ……」

 笑みを見て声を荒げるベルオム。だが、さすがに傷は塞がってもダメージは残っているようで、痛みが走っていた。

「無理をするな。今のお前はステラリアとリューンの二人の攻撃を食らった傷があるんだ。治るまでおとなしく寝ているといい」

「……ステラたちは?」

 アンペラトリスに言われて再び横になったベルオム。アンペラトリスにそんな質問をぶつけている。

「あの二人なら今はよく眠っているよ。リューンの方は特に休養が必要だろうな。稽古では剣を向けてはいるが、人を斬って傷付けたなど初めての経験だろうしな」

「そうか。それなら悪い事をしたかもしれないですね」

 天井を見上げながら、ベルオムは呟いていた。
 それが聞こえたのか、アンペラトリスは小さく笑っている。

「ずいぶんと悪役ぶっていたようだが、本音では二人の事が心配でたまらなかったようだな」

「お前に何が分かるというのだ」

「まったく、この私もお前の真意をすぐに見抜けぬとは、まだまだといったところだろうかな。うなされている時の表情に、お前の苦悶というものがよく伝わってきたよ」

 怒鳴るベルオムに、アンペラトリスは笑いながら話し掛けている。
 その様子を見て、ベルオムは歯をギリッと食いしばっている。

「それで、私をどうするつもりだ」

 アンペラトリスに問い掛けるベルオム。すると、アンペラトリスは驚いたような表情をしている。

「どうもせぬよ。言ったであろう? お前の処遇を決めるのはエルミタージュ王国の関係者であるステラリアとリューンの二人だ。私は口を挟むつもりはない」

「ふん、信じられないですね」

「お前がどう思うと構わん。ただ、お前とあの二人との間にある因縁は、当事者同士に任せるということだ」

 アンペラトリスはそう言うと、静かに立ち上がる。

「どこへ行くつもりだ」

「なに、けが人の無事が確認できたから安心しただけだ」

 アンペラトリスは天幕の入口まで行くとくるりと振り返る。

「夜が明ければ、あの地下室に行こうと思う。いろいろ思うところもあるだろう、ゆっくり休んで体を治しておいてくれ」

「逃げるとは思わないのか?」

「……そう軟弱者でもあるまいて」

 アンペラトリスはベルオムだけを残して、天幕を出ていった。

「まったく、私など信用されるような人物ではないというのに……」

 一人ベッドに横たわるベルオムは、小さく悔しそうに呟いた。

 朝を迎えて、食事を済ませたアンペラトリス。ステラとリューン、それとベルオムを連れてトレイズ遺跡の隠し部屋へと向かう。
 さすがに先日の決闘の事があるので、ベルオムとステラたちの間には何とも言えないよそよそしい空気が漂っている。なにせ一切顔を合わせようとしていないのだから。よっぽどのわだかまりになっているようだった。
 一方、ベルオムはまだ傷が癒えていないのかかなりおとなしい感じだ。後ろでアンペラトリスに睨まれていることもあるのだろう。下手に行動を起こしても、すぐさま斬り伏せられるという警戒心がベルオムを支配しているのである。
 言葉もなく進むことしばらく、ステラたちは例の小部屋に到着する。
 アンペラトリスが促すと、ステラは小さく頷いて勲章をかざす。
 すると、目の前にエルミタージュ最後の国王と王妃が再び姿を現す。

『また来たか。今度は何の話なのだ』

 今回の国王は少々というかかなり不機嫌そうだった。それというのも、目の前にベルオムの姿があったからだ。
 自分の国を滅ぼし、命も奪った連中の指揮官であったベルオムを許せるわけがない。できることなら今すぐにでも仕返しをしたいところだろう。その気持ちがあるからこそ、国王はここまで不機嫌になっているのだ。

『まあまあ、あなた。どうせ私たちにどうこうすることはできません。おとなしく話をしようではありませんか』

『う、ううむ……』

 王妃に諭されて、国王は少し落ち着いたようである。
 改めてステラたちの方を見る国王。だが、露骨にベルオムだけを視界に入れないように首を動かしている。

「すまないな。今回この男を連れてきたのは、500年前の真実をこやつから語ってもらうためだ」

『500年前の真実?』

 アンペラトリスの言葉に、王妃が首を小さく傾げながら反応している。

『今さらそやつの弁明を聞く事はあるまい。即刻自害でもして詫びてもらわねば困る』

 だが、国王は聞く耳を持ちそうになかった。両親の反応を見ながら、ステラは重い表情で押し黙ったままである。リューンもまったく言葉を発しようとしなかった。
 そんな中、アンペラトリスだけが平然としている。

「気持ちは分かる。だが、私はこやつの中に何かを感じたんでな。自害するとしても最後の言い分くらい聞いてやってもいいのではないかと思うのだ」

 アンペラトリスの言葉に国王が考え込む。
 そして、国王以外の視線がベルオムへと向けられる。

「なに、おかしなことをしようとすれば私が斬って捨ててやろう。命が惜しかったら、正直に話す事だな」

「ぐっ……」

 アンペラトリスの脅しに、ベルオムは表情を歪めている。
 しばらく視線を泳がせたベルオムは、観念したように昔話を始めたのだった。
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