異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第385話 転生者、魔法の修練を始める

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 リヒテルの使徒であるオルドルは、自分よりも俺たちの方が強いとか言っていた。だが、修練をつけるのだという。普通なら訳が分からないところだ。弱い者に鍛えてもらっても、普通は成長が見込めるとは思えない。

「私の方が弱いのは確かです。ですが、だからと言って魔力の扱い方が下手とは限りません。百の魔力を十二使える者と、十の魔力を九使える者、どちらの方が魔力を使いこなしていますかね?」

 オルドルの言葉に、俺たちははっとさせられる。
 確かに、使えている魔力が十二と九なら、十二の方が強い。だが、元の魔力量が百と十ならば、十の方が魔力を使いこなしていることになる。十二パーセントと九十パーセントだ。この差は明らかだろう。
 なるほど観点を変えてやると、結論は変わってくるというわけだな。

「ご理解いただけましたでしょうか」

「はい、とてもよく分かった。つまり、俺たちの使う魔法はまだまだ威力を上げられるというわけだな」

「その通りです。みなさん、まだまだ魔力に無駄が多いのです。私との修練で、その魔力の無駄を減らしていこうと思います。上達すれば、これまでよりも少ない魔力で、同じ威力の魔法を使うことが可能になります」

 オルドルの言葉に、俺どころかピエラもデイジーはもちろん、キリエも興味を示している。

「あなたもですよ、レーヴェンの使徒。なりたてな関係であなたの魔力もかなり無駄になっていますからね」

「むむむ……。同じ使徒同士、隠し事は無理ですか」

「はい、無理ですね」

 困った顔をするセイ太に対して、オルドルはにっこりと微笑んでいた。

 こうして、魔法の修練が始まったわけだが、最初は穴の外へと移動する。
 いきなり魔力の使用効率を上げようとしても、たいていの場合は暴走させてしまうためだ。自分の眠る祠を壊されてはたまらないというわけである。
 まっ、そりゃそうだよな。自分の家が一瞬で木っ端みじんになるのは誰だって嫌だぜ。
 ひとまず、オルドルから魔力の使用効率を上げるために、今の自分たちの魔力の効率について調べる。
 俺たちの目の前に、訓練場でよく見かける木偶人形が現れる。

「あれに向けて魔法を使って下さい。魔法を当てれば、どれだけの魔力を使ってどれほどの威力に変換されたのかが計測されます」

 オルドルの言葉に従い、まずはピエラが魔法を使うことにな多。

「どんな魔法でもいいのですよね?」

「攻撃でも治癒でも構いませんよ。あれをターゲットとする魔法なら何でもどうぞ」

 オルドルに言われて、ピエラは使う魔法を迷っているようだ。

「よし決めたわ」

 ようやく何を放つのか決めたピエラは、杖を構えている。

「マジックアロー!」

 魔法使いの基本中の基本ともいう、魔力を武器の形にして放つ攻撃魔法だ。
 射出するということから、たいていの場合は弓矢を連想するらしくて、マジックアローという名称になってしまう。本当のところ、実は槍でも短剣でも問題ないらしい。まっ、イメージだよな、イメージ。
 それはともかくとして、ピエラから放たれた魔法の矢が木偶人形に命中する。
 壊れるんじゃないかというくらいしっかり当たったというのに、木偶人形はまったく傷ひとつついていない。

「この世界の三使徒が力を合わせて作られたものです。そう簡単に壊れてたまるものですか」

 オルドルが胸を張って自慢顔になっている。そう言いながら作ったのはお前じゃないんだな。
 まあ、せっかく得意げになっているので、野暮なツッコミはなしだな。それよりも、ピエラの魔力の結果だ。

「今のマジックアローは、魔力値三十二、消耗魔力は五十五ですね。かなり魔力が無駄になっています」

「うへっ、四割以上か。結構魔力消費してしまうんだな」

「そうですね。どうしても魔力を魔法に変換する時に失われてしまいます。減衰分がすべて魔力から魔法への変換に使われたとしても、一割減衰してしまうでしょう」

 どうやらどんなに頑張っても、魔力を魔法に変換する時に一割減ってしまうだろうとのことだ。つまり、さっき例に出した中の力を九の魔法に変換するというのは、実は最高レベルの技術ということみたいだな。

「最初は消費魔力に魔法の魔力値を近付けていき、減衰が一割に近付いたところで今度は魔法の威力を弱めていきます。そうすることで魔力密度を高めて、同じ魔法でも威力を高めて参ります」

 ピエラたちはオルドルの話していることを理解できないようだ。さっきから首を捻ってばかりだ。

「無駄に魔力が流れてしまっているために、魔法が不安定になってしまうので。流れ出ていく魔力をしっかりと引き留めることで、魔法の形をしっかりと保ちます。これによって揺らぎの小さな魔法となり、威力が高まるのです。言ってしまえば硬い金属と柔らかい金属のような関係ですね」

「あっ、そういうことね。理解したわ」

 例えがよかったのだろうかな。ピエラはやっと理解していた。キリエはその前の段階で理解してたんだが、これはピエラには黙っておこう。ピエラにもプライドってのがあるからな。
 説明が終わると、デイジーにキリエ、セイ太、それと俺も魔法を使って魔力の損失率を割り出していく。結果が一番よかったのはキリエだった。そのキリエでも四分の一が減衰している。つまりは十五パーセントの無駄があるってことだ。
 だいたい自分たちの魔法の腕前がどのくらいか理解できた俺たちは、修練を開始させて木偶人形向かい合う。
 ぶっちゃけてしまえばこれは単純な作業なので、いずれ飽きはくるかもしれない。だが、これはヘルプワゾンたちに対抗するためには必要なことなんだ。
 正直なところ何が正解かは分からない。現状はこれが正しい方法だと信じ、とにかく俺たちは集中してただ魔法を放ち続けたのだった。
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