異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第399話 転生者、一段落を機に新たに誓いを立てる

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 ヘルプワゾンとの決着から約十日後……。

「これで最後ですかね、お姉様」

「ああ、ご苦労だったな、デイジー」

「えへへへ……」

 残っていた東の大陸でのレーヴェンの樹の植樹が完了したのだ。
 俺が労いの意味で頭をなでてやると、デイジーはすごく嬉しそうな顔でおとなしく撫でられていた。
 俺の手のひら、肉球もあるから感触はどうかと思ったんだけど、これだけ喜んでいるのなら問題はないようだ。
 ただ、問題があるとすれば……。

「ぐぬぬぬ、うらやましいわね……」

 うん、ピエラだった。
 時々忘れそうになるが、ピエラは重度のケモナーだ。こういう時は弁えておとなしくしていることが多いけれど、今は一段落した時だから禁断症状が出てしまったようだな。まったく困ったものだな。
 デイジーはまだ子どもな上に、次期聖国の王となる存在だからな。面倒は起こさないでくれよ?
 俺はキリエに視線を送っておくと、キリエはこくりと頷いていた。
 そして、ピエラを連れて少し距離を取ってくれていた。やれやれ、やっぱり頼りになる参謀だよ。

「セイ、私もちょっと離れていますね」

「ああ、食事の時間になったら呼ぶよ」

 セイ太が声をかけてきたので、俺はひとまず声を返しておく。
 俺に頭を下げたセイ太は、ネラールを連れてどこかに去っていった。

 というわけで、最後のレーヴェンの樹の下には、俺とデイジーだけになってしまった。いや、これはこれでどうしたらいいんだよっていう状況だぜ。
 俺が困っていると、デイジーがじっと俺を見てくる。

「ど、どうしたんだよ」

「いえ、あの時の質問の理由、改めて聞いておきたいと思いましてね」

 デイジーが確認を求めているのは、先日の件だ。
 ヘルプワゾンのことを弔おうとして、デイジーにレーヴェンの木の枝を一本折ってもいいかと確認した時の話だ。
 しかし、デイジーの表情を見るからに、だいたいの理由は察しているように見える。

「ああ、なかなかな敵だったからきっちり弔っておきたいと思ったんだよ。どうもああいうやつを気に入る傾向にあるらしい。まったく思いもしなかったぜ」

 俺はデイジーに簡単にだけ説明をしておいた。これだけでも十分分かるだろうからな。

「まったく、お姉様はお優しい方ですよ。あれほど苦しめられた相手だといいますのに……」

「いや、あれだけさっぱりしたやつだったからこそ、俺は気に入ったのかもしれない。実際、ほとんどデイジーたちに手を出すことはなかったしな」

「……確かにそうでしたね。私たちが割って入らない限り、あの敵は私たちに危害を加えてきませんでした。お姉様が戦っている間に襲い掛かってきたリッチとかいう呪いの使徒とはまるっきり正反対です」

 リッチというのはヘルプワゾンが言っていた呪いの使徒とかいうやつだな。
 俺はヘルプワゾンとの戦闘中だったので、俺だけが奴の容姿を知らない。デイジーやキリエたちに確認すれば、全身が骨という体に漆黒に近い色のローブをまとっていたらしい。ゲームなんかでよく見るリッチの姿って感じだな。
 なんでもネラールを操ろうとしてきたらしいから、それだけで相当に性根の悪いやつだということは想像にたやすいってもんだな。
 直前に魔法の修練をしていたデイジーたちには通じなかったらしい。それを思えば、ネラールが完全なネックになるのは間違いなさそうだ。
 さて、どうしたものだろうかな。

「お姉様?」

「ああ、次はどうするべきかなと思ってな。いったんサージェント遺跡に寄ってマーシャルたちに会ってくるか、それともそのままケオス大陸に戻るか。どっちの方がいいだろうかな」

「ケオス大陸に帰還で」

「うわおっ、ネラール、戻ってきていたのか」

 急に声が聞こえてきたものだから、つい驚かされちまったよ。
 ネラールは心痛な面持ちで俺たちを見ている。隣にいるセイ太も心配しているようだ。

「今の私には……、父上に顔を合わせるだけの資格はない。おのれの未熟さを改めて思い知らされたのだ。かつては世界を手中におさめんとした父上に劣らぬ立派な魔族になった時、ようやく私は父上の前に立てると思うのです」

「ネラール……」

 元男で、侯爵家の嫡男だった俺にはなんとなくだが気持ちが分かってしまう。
 ならば、ここはネラールの気持ちを汲んで、ケオス大陸に直帰だな。

「よし、キリエとピエラと合流して、まずはしっかりと休もうか。戻るだけとはいえ、移動距離はかなりある。最後の使徒の攻撃だって考えられるからな」

「承知した」

 俺たちはキリエとピエラを呼んで、レーヴェンの樹の真下で休息をとる。
 これでケオス大陸の南の大陸、東の諸島部、東の大陸とかなりの部分をレーヴェンの樹の影響下におさめることができた。残るは南東の大陸と中央の大陸だ。
 ネラールの話では中央の大陸がかつての魔族の中心地で、世界を覆う妙な毒素が噴き出したのも、その中央の大陸の南西部だったらしい。
 おそらくはそこが奴らの拠点だろう。
 外の世界を奴らの手から取り戻す下準備は順調に進んでいるが、まだ安心できる状況にはない。少なくとも、外の世界の環境を緩和させないとな。まだまだ侵略者がばら撒いた毒が空中を漂い続けている。
 これが完全に消えるまでは、俺たちの戦いは終わらないのだよ。
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