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第一章 大陸編
第13話 転生者、仕立て屋にびびる
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俺は翌日も魔王領の統治について頭を悩ませている。まったく知識のない中でやるっていうのはなかなかに大変で、キリエとカスミにいくつか魔族に関する書物を持ってきてもらって、今も必死に勉強中だ。
それにしても、ここまで数回魔王城で食事を取ったのだが、なんともまぁ、人間だった頃の食事に比べておいしかったんだよな。そのおかげで作業がはかどるというものだ。
キリエに確認したならば、俺が元人間という話を信じたらしくて、人間の食事に詳しい魔族を呼び寄せてまで作ったらしい。魔王のためならそこまでやってくれるのかよ。
魔王城にやって来て3日目ながら、俺は既に魔王城での生活に満足するほどになっていた。
魔王城までの移動も含めてひと月以上が経ったので、獣人の姿にもだいぶ慣れてきた。元が男だったから、女性の姿というのにはまだまだ慣れないところはあるんだがな。それでも、最初の魔族たちの前で行った挨拶のせいか、女物の服を着る覚悟ができてしまっていた。環境って怖いぜ。
昼食はキリエが付き添って食べていたのだが、そこにカスミがやって来た。
「魔王様、キリエ姉、失礼します。仕立て屋が到着しました」
どうやら昨日キリエが依頼を出しに行っていた仕立て屋がやって来たらしい。
キリエが半日で往復したような場所に居る割には、やって来るには時間がかかったな。
「食事も丁度終わったところだから、通してくれ」
「承知致しました。しばらくお待ち下さいませ」
カスミが俺の返事を受けて部屋を出ていく。
そして、仕立て屋を待つ間に、キリエが空になった食器を持って部屋を出ていった。
言葉の通りしばらく待つと、キリエよりも先にカスミが戻ってきた。しかし、その姿はカスミだけである。仕立て屋はどこだよ。
「お待たせ致しました。仕立て屋はひとまず外で待ってもらっております」
さすがはメイド。客人を招き入れるにも、俺に確認を取ってからか。魔族とはいっても、弁えるところは弁えてるんだな。
納得がいった俺は入室の許可を出す。すると、カスミは部屋の外に待たせていた仕立て屋を、俺の部屋の中へと招き入れた。
入ってきた魔族の姿に、俺はついびっくりしてしまう。
「あ、アラクネ?!」
そう、そこに居たのは下半身がクモの姿のアラクネだった。しかし、部屋に合わせてなのかクモの部分は思ったよりも小さかった。
「魔王様ってば、ご存じなのですね、この種族を」
「ま、まあ。人間たちの間でも有名な種族だからな」
笑いながら適当に答えておく。
「まぁ、魔王様に知られているなんて光栄ですわね。わたくし、アラクネのクローゼと申します。今回、魔王様の服を仕立てて頂くためにやって参りました」
クローゼと名乗った魔族は、丁寧に挨拶をしている。
しかしだ。なんだかその視線がちょっと怖かった。なんか舐め回すかのようにじっと見てくるんだよ。思わずしっぽも耳も垂れてしまうくらいだった。
「クローゼ様は女性専用の仕立て屋さんなんです。ですので、きっと魔王様の服装を立派に仕立てて下さいます」
「ええ、もちろん。依頼を受けたからには、しっかりとした服装を仕立てさせて頂きますわよ」
カスミの紹介を受けたクローゼ。だが、なんだろうか、その笑顔がとても怖く感じる。
「えっと、私は同席していた方がよろしいでしょうか?」
「助手は必要ですが、わたくし一人でも問題ありませんわ。ですので、今回は席を外してもらえますか?」
「畏まりました。では、クローゼ様、よろしくお願い致します」
「任されましたわ」
やり取りを終えてカスミが出ていくと、クローゼはまるで獲物を定めたかのように目を光らせる。こ、怖えぜ。
「ふふっ、私に全部任せて下されば、あっという間に終わりますわよ。ささっ、魔王様。早速始めましょう」
じりじりと詰め寄ってくるクローゼ。
一方の俺は獣人になったせいか、危機感をひしひしと感じて後退っていた。絶対ただじゃ終わらないと、全身が感じていたのだ。
ところが、背中には本棚が迫り、これ以上下がれなくなってしまう。あまりの恐怖に尻尾がピンと立ち上がる。
怪しい表情のクローゼが迫ったその時だった。
「何をしているのですか、クローゼ」
突如として怒鳴り声が響き渡る。その声に反応して、クローゼはぴたりと動きを止めた。
「キリエ……」
ゆっくりと振り返るクローゼ。その額からは冷や汗のようなものが流れていた。
「まったく、可愛いものを見ると着せ替えを楽しもうとする癖は相変わらずなのですね。本当は嫌でしたけれど、あなたの腕を見込んで呼んだのですから、仕事だけをしっかりとこなして下さらないかしら」
そう、空になった食器を厨房まで返しに行っていたキリエが戻ってきたのだ。
クローゼの動きが止まったので、俺はどうやら助かったようである。
「今あなたが失礼を働こうとしているのは魔王様ですよ? あなたは死にたいのですか?」
「ぐっ……」
キリエに言われて、思わず苦しそうな表情で胸に手を当てるクローゼである。
それにしても、また癖の強そうな魔族が出てきたな……。俺は無事でいられるのか、ちょっと心配になってきてしまった。
それにしても、ここまで数回魔王城で食事を取ったのだが、なんともまぁ、人間だった頃の食事に比べておいしかったんだよな。そのおかげで作業がはかどるというものだ。
キリエに確認したならば、俺が元人間という話を信じたらしくて、人間の食事に詳しい魔族を呼び寄せてまで作ったらしい。魔王のためならそこまでやってくれるのかよ。
魔王城にやって来て3日目ながら、俺は既に魔王城での生活に満足するほどになっていた。
魔王城までの移動も含めてひと月以上が経ったので、獣人の姿にもだいぶ慣れてきた。元が男だったから、女性の姿というのにはまだまだ慣れないところはあるんだがな。それでも、最初の魔族たちの前で行った挨拶のせいか、女物の服を着る覚悟ができてしまっていた。環境って怖いぜ。
昼食はキリエが付き添って食べていたのだが、そこにカスミがやって来た。
「魔王様、キリエ姉、失礼します。仕立て屋が到着しました」
どうやら昨日キリエが依頼を出しに行っていた仕立て屋がやって来たらしい。
キリエが半日で往復したような場所に居る割には、やって来るには時間がかかったな。
「食事も丁度終わったところだから、通してくれ」
「承知致しました。しばらくお待ち下さいませ」
カスミが俺の返事を受けて部屋を出ていく。
そして、仕立て屋を待つ間に、キリエが空になった食器を持って部屋を出ていった。
言葉の通りしばらく待つと、キリエよりも先にカスミが戻ってきた。しかし、その姿はカスミだけである。仕立て屋はどこだよ。
「お待たせ致しました。仕立て屋はひとまず外で待ってもらっております」
さすがはメイド。客人を招き入れるにも、俺に確認を取ってからか。魔族とはいっても、弁えるところは弁えてるんだな。
納得がいった俺は入室の許可を出す。すると、カスミは部屋の外に待たせていた仕立て屋を、俺の部屋の中へと招き入れた。
入ってきた魔族の姿に、俺はついびっくりしてしまう。
「あ、アラクネ?!」
そう、そこに居たのは下半身がクモの姿のアラクネだった。しかし、部屋に合わせてなのかクモの部分は思ったよりも小さかった。
「魔王様ってば、ご存じなのですね、この種族を」
「ま、まあ。人間たちの間でも有名な種族だからな」
笑いながら適当に答えておく。
「まぁ、魔王様に知られているなんて光栄ですわね。わたくし、アラクネのクローゼと申します。今回、魔王様の服を仕立てて頂くためにやって参りました」
クローゼと名乗った魔族は、丁寧に挨拶をしている。
しかしだ。なんだかその視線がちょっと怖かった。なんか舐め回すかのようにじっと見てくるんだよ。思わずしっぽも耳も垂れてしまうくらいだった。
「クローゼ様は女性専用の仕立て屋さんなんです。ですので、きっと魔王様の服装を立派に仕立てて下さいます」
「ええ、もちろん。依頼を受けたからには、しっかりとした服装を仕立てさせて頂きますわよ」
カスミの紹介を受けたクローゼ。だが、なんだろうか、その笑顔がとても怖く感じる。
「えっと、私は同席していた方がよろしいでしょうか?」
「助手は必要ですが、わたくし一人でも問題ありませんわ。ですので、今回は席を外してもらえますか?」
「畏まりました。では、クローゼ様、よろしくお願い致します」
「任されましたわ」
やり取りを終えてカスミが出ていくと、クローゼはまるで獲物を定めたかのように目を光らせる。こ、怖えぜ。
「ふふっ、私に全部任せて下されば、あっという間に終わりますわよ。ささっ、魔王様。早速始めましょう」
じりじりと詰め寄ってくるクローゼ。
一方の俺は獣人になったせいか、危機感をひしひしと感じて後退っていた。絶対ただじゃ終わらないと、全身が感じていたのだ。
ところが、背中には本棚が迫り、これ以上下がれなくなってしまう。あまりの恐怖に尻尾がピンと立ち上がる。
怪しい表情のクローゼが迫ったその時だった。
「何をしているのですか、クローゼ」
突如として怒鳴り声が響き渡る。その声に反応して、クローゼはぴたりと動きを止めた。
「キリエ……」
ゆっくりと振り返るクローゼ。その額からは冷や汗のようなものが流れていた。
「まったく、可愛いものを見ると着せ替えを楽しもうとする癖は相変わらずなのですね。本当は嫌でしたけれど、あなたの腕を見込んで呼んだのですから、仕事だけをしっかりとこなして下さらないかしら」
そう、空になった食器を厨房まで返しに行っていたキリエが戻ってきたのだ。
クローゼの動きが止まったので、俺はどうやら助かったようである。
「今あなたが失礼を働こうとしているのは魔王様ですよ? あなたは死にたいのですか?」
「ぐっ……」
キリエに言われて、思わず苦しそうな表情で胸に手を当てるクローゼである。
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