17 / 431
第一章 大陸編
第17話 転生者、魔王城の中を歩く
しおりを挟む
バフォメットとカスミの相性の悪さは気になるところだが、魔王領の運営を円滑に行うための計画を立て始める。
将来的にはのんびりしたいところだが、何事も最初が肝心だもんな。
しかしだ。将来的にのんびり暮らそうとすると、最大の障害があるんだよな。
(魔族の方をうまくやるにしても、そこに人間が入り込んでくると面倒だよなぁ……。実際、俺たちが魔王を倒そうとしてかなり魔王領の中を引っ掻き回したもんな)
そう、魔族と対立する関係にある人間たちだった。
魔王領を平定して平和にしたところで、人間たちが攻め込んでくればスローライフどころじゃなくなるからな。
頭の痛い問題がこれでもかと転がっていて、俺はドレス姿だという事を忘れてソファーの上に足を放り出して寝転がってしまった。
「何をしてらっしゃるんです、魔王様。はしたないですよ」
「うわぁ、カスミ?!」
ちょうど紅茶を持ってきたカスミにジト目で諫められてしまった。これはなかなかに恥ずかしい。
「まったく、あたしだからよかったですけれど、そんな姿部下に見せないで下さいね。幻滅させたら統治どころじゃなくなりますよ」
「うう、分かったよ……」
カスミからお説教を食らって、おとなしく縮こまって座り直す俺だった。
(うーん、これは思った以上に気を抜けないな)
正直なところ、こんな状態ではスローライフどころか忙殺されかねない。前世の社畜からは脱却したいところだが、魔族のトップとなると簡単とはいかなさそうだった。
少しは自由な時間を持たせるためには、何としても部下に頑張らせるしかない。そのためには魔族たちとの信頼関係を早く築かねば……。
しかし、悩んでいるとつい手が止まってしまうものだ。
どうにもこうにもいかなくなったので、俺はカスミを呼んで城の中だけでも見て回ることにした。言ってしまえば気分転換だ。うん、引きこもりはよくないよな。
俺は代々の魔王が使っていたというマントを羽織らされると、カスミと一緒に城の中の散策へと出向く。
よくよく思えば、城の中を見て回るのは魔王城に来てから初めてだった。
魔王を倒しに来ていた時は、見て回る余裕なんてなかったしな。まさか、攻め入る側から攻め入られる側として城の中を見ることになるなんて思ってもみなかった。
歩いてみてよく分かったのだけど、魔王城は異様に広かった。王都でも城の中を歩いた事はあったが、魔王城はその比にならないくらいに広かった。回るだけに1日が終わるなんてのも余裕なくらいだ。
魔王城の中をカスミの案内で歩いていると、途中通りがかった部屋の中から変な声が聞こえてきた。
「あれ、ここは?」
俺の声にカスミが慌てたように反応する。そして、扉を見て口に手を当てて青ざめていた。
「やっば……。ここ通っちゃったんだ」
明らかにまずそうだという反応をしている。一体どうしたのだろうか。
「カスミ、ここって?」
俺の鼻がひくひくと反応しているが、あえてカスミに聞いてみる。
「あははは、ここは気にしなくてもいいですよ。魔王城は広いですから、先を急ぎましょう」
俺の質問に答えずに移動しようとするカスミ。
「魔王様、いらしてたのですか」
ところが、それと同時に扉が開いて、中から聞いた事のある声が聞こえてきた。
「ひっ、キリエ姉……」
カスミが飛び退いている。多分、会いたくなかったのだろうな。
「キリエ、大丈夫なのか。服の進捗は……」
「ええ、ご心配なく。魔王様にふさわしい服を作らせていますので、今しばらくお待ち下さいませ」
俺が確認すると、実に淡々とした声でキリエは答えていた。あまりの雰囲気に、俺の耳はしょげしょげと垂れていく。
「カスミ。私が居ない間、魔王様の事をよろしく頼みましたよ」
「は、はい。キリエ姉」
カスミも背筋を伸ばして返事をするくらいだった。
そして、扉はゆっくりと閉まり、キリエは姿を消したのだった。
「……次に行こうか」
「はい、こちらへどうぞ」
俺たちは何事もなかったかのように、魔王城の次の場所へと移動する。一刻も早く離れたかったからな。
案内が続き、城のあちこちを見て回った俺だったが、どうしても寄りたいところがあるのでカスミに声を掛ける。
「なあ、カスミ」
「なんでしょうか、魔王様」
「訓練場みたいな場所はあるか?」
「ございますよ。……そうですね、魔王様がご覧になるとあれば、兵士たちの士気もきっと上がるでしょう。ご案内致します」
俺の申し出に、カスミは少し悩んだようだが了承して案内を始めてくれた。いや、言ってみるもんだな。
そう、城には兵士たちが居るのだから、日夜訓練をする場所があるはずだと考えた。というのも、いい加減に体を動かしたくなったからだ。
転生してからの俺は、貴族の嫡男としていろいろと叩き込まれてきた。中でも前世では体験できなかった剣と魔法というものは、俺にとってとても刺激的なものだったんだ。
それをふと思い出した結果が、今の状況というわけだ。
(さて、今の魔王軍の兵士たちってどんな感じなんだろうな)
カスミが歩く後ろを、楽しみにしながらついて行く俺なのだった。
将来的にはのんびりしたいところだが、何事も最初が肝心だもんな。
しかしだ。将来的にのんびり暮らそうとすると、最大の障害があるんだよな。
(魔族の方をうまくやるにしても、そこに人間が入り込んでくると面倒だよなぁ……。実際、俺たちが魔王を倒そうとしてかなり魔王領の中を引っ掻き回したもんな)
そう、魔族と対立する関係にある人間たちだった。
魔王領を平定して平和にしたところで、人間たちが攻め込んでくればスローライフどころじゃなくなるからな。
頭の痛い問題がこれでもかと転がっていて、俺はドレス姿だという事を忘れてソファーの上に足を放り出して寝転がってしまった。
「何をしてらっしゃるんです、魔王様。はしたないですよ」
「うわぁ、カスミ?!」
ちょうど紅茶を持ってきたカスミにジト目で諫められてしまった。これはなかなかに恥ずかしい。
「まったく、あたしだからよかったですけれど、そんな姿部下に見せないで下さいね。幻滅させたら統治どころじゃなくなりますよ」
「うう、分かったよ……」
カスミからお説教を食らって、おとなしく縮こまって座り直す俺だった。
(うーん、これは思った以上に気を抜けないな)
正直なところ、こんな状態ではスローライフどころか忙殺されかねない。前世の社畜からは脱却したいところだが、魔族のトップとなると簡単とはいかなさそうだった。
少しは自由な時間を持たせるためには、何としても部下に頑張らせるしかない。そのためには魔族たちとの信頼関係を早く築かねば……。
しかし、悩んでいるとつい手が止まってしまうものだ。
どうにもこうにもいかなくなったので、俺はカスミを呼んで城の中だけでも見て回ることにした。言ってしまえば気分転換だ。うん、引きこもりはよくないよな。
俺は代々の魔王が使っていたというマントを羽織らされると、カスミと一緒に城の中の散策へと出向く。
よくよく思えば、城の中を見て回るのは魔王城に来てから初めてだった。
魔王を倒しに来ていた時は、見て回る余裕なんてなかったしな。まさか、攻め入る側から攻め入られる側として城の中を見ることになるなんて思ってもみなかった。
歩いてみてよく分かったのだけど、魔王城は異様に広かった。王都でも城の中を歩いた事はあったが、魔王城はその比にならないくらいに広かった。回るだけに1日が終わるなんてのも余裕なくらいだ。
魔王城の中をカスミの案内で歩いていると、途中通りがかった部屋の中から変な声が聞こえてきた。
「あれ、ここは?」
俺の声にカスミが慌てたように反応する。そして、扉を見て口に手を当てて青ざめていた。
「やっば……。ここ通っちゃったんだ」
明らかにまずそうだという反応をしている。一体どうしたのだろうか。
「カスミ、ここって?」
俺の鼻がひくひくと反応しているが、あえてカスミに聞いてみる。
「あははは、ここは気にしなくてもいいですよ。魔王城は広いですから、先を急ぎましょう」
俺の質問に答えずに移動しようとするカスミ。
「魔王様、いらしてたのですか」
ところが、それと同時に扉が開いて、中から聞いた事のある声が聞こえてきた。
「ひっ、キリエ姉……」
カスミが飛び退いている。多分、会いたくなかったのだろうな。
「キリエ、大丈夫なのか。服の進捗は……」
「ええ、ご心配なく。魔王様にふさわしい服を作らせていますので、今しばらくお待ち下さいませ」
俺が確認すると、実に淡々とした声でキリエは答えていた。あまりの雰囲気に、俺の耳はしょげしょげと垂れていく。
「カスミ。私が居ない間、魔王様の事をよろしく頼みましたよ」
「は、はい。キリエ姉」
カスミも背筋を伸ばして返事をするくらいだった。
そして、扉はゆっくりと閉まり、キリエは姿を消したのだった。
「……次に行こうか」
「はい、こちらへどうぞ」
俺たちは何事もなかったかのように、魔王城の次の場所へと移動する。一刻も早く離れたかったからな。
案内が続き、城のあちこちを見て回った俺だったが、どうしても寄りたいところがあるのでカスミに声を掛ける。
「なあ、カスミ」
「なんでしょうか、魔王様」
「訓練場みたいな場所はあるか?」
「ございますよ。……そうですね、魔王様がご覧になるとあれば、兵士たちの士気もきっと上がるでしょう。ご案内致します」
俺の申し出に、カスミは少し悩んだようだが了承して案内を始めてくれた。いや、言ってみるもんだな。
そう、城には兵士たちが居るのだから、日夜訓練をする場所があるはずだと考えた。というのも、いい加減に体を動かしたくなったからだ。
転生してからの俺は、貴族の嫡男としていろいろと叩き込まれてきた。中でも前世では体験できなかった剣と魔法というものは、俺にとってとても刺激的なものだったんだ。
それをふと思い出した結果が、今の状況というわけだ。
(さて、今の魔王軍の兵士たちってどんな感じなんだろうな)
カスミが歩く後ろを、楽しみにしながらついて行く俺なのだった。
15
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる