異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第17話 転生者、魔王城の中を歩く

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 バフォメットとカスミの相性の悪さは気になるところだが、魔王領の運営を円滑に行うための計画を立て始める。
 将来的にはのんびりしたいところだが、何事も最初が肝心だもんな。
 しかしだ。将来的にのんびり暮らそうとすると、最大の障害があるんだよな。

(魔族の方をうまくやるにしても、そこに人間が入り込んでくると面倒だよなぁ……。実際、俺たちが魔王を倒そうとしてかなり魔王領の中を引っ掻き回したもんな)

 そう、魔族と対立する関係にある人間たちだった。
 魔王領を平定して平和にしたところで、人間たちが攻め込んでくればスローライフどころじゃなくなるからな。
 頭の痛い問題がこれでもかと転がっていて、俺はドレス姿だという事を忘れてソファーの上に足を放り出して寝転がってしまった。

「何をしてらっしゃるんです、魔王様。はしたないですよ」

「うわぁ、カスミ?!」

 ちょうど紅茶を持ってきたカスミにジト目で諫められてしまった。これはなかなかに恥ずかしい。

「まったく、あたしだからよかったですけれど、そんな姿部下に見せないで下さいね。幻滅させたら統治どころじゃなくなりますよ」

「うう、分かったよ……」

 カスミからお説教を食らって、おとなしく縮こまって座り直す俺だった。

(うーん、これは思った以上に気を抜けないな)

 正直なところ、こんな状態ではスローライフどころか忙殺されかねない。前世の社畜からは脱却したいところだが、魔族のトップとなると簡単とはいかなさそうだった。
 少しは自由な時間を持たせるためには、何としても部下に頑張らせるしかない。そのためには魔族たちとの信頼関係を早く築かねば……。
 しかし、悩んでいるとつい手が止まってしまうものだ。
 どうにもこうにもいかなくなったので、俺はカスミを呼んで城の中だけでも見て回ることにした。言ってしまえば気分転換だ。うん、引きこもりはよくないよな。
 俺は代々の魔王が使っていたというマントを羽織らされると、カスミと一緒に城の中の散策へと出向く。
 よくよく思えば、城の中を見て回るのは魔王城に来てから初めてだった。
 魔王を倒しに来ていた時は、見て回る余裕なんてなかったしな。まさか、攻め入る側から攻め入られる側として城の中を見ることになるなんて思ってもみなかった。
 歩いてみてよく分かったのだけど、魔王城は異様に広かった。王都でも城の中を歩いた事はあったが、魔王城はその比にならないくらいに広かった。回るだけに1日が終わるなんてのも余裕なくらいだ。
 魔王城の中をカスミの案内で歩いていると、途中通りがかった部屋の中から変な声が聞こえてきた。

「あれ、ここは?」

 俺の声にカスミが慌てたように反応する。そして、扉を見て口に手を当てて青ざめていた。

「やっば……。ここ通っちゃったんだ」

 明らかにまずそうだという反応をしている。一体どうしたのだろうか。

「カスミ、ここって?」

 俺の鼻がひくひくと反応しているが、あえてカスミに聞いてみる。

「あははは、ここは気にしなくてもいいですよ。魔王城は広いですから、先を急ぎましょう」

 俺の質問に答えずに移動しようとするカスミ。

「魔王様、いらしてたのですか」

 ところが、それと同時に扉が開いて、中から聞いた事のある声が聞こえてきた。

「ひっ、キリエ姉……」

 カスミが飛び退いている。多分、会いたくなかったのだろうな。

「キリエ、大丈夫なのか。服の進捗は……」

「ええ、ご心配なく。魔王様にふさわしい服を作らせていますので、今しばらくお待ち下さいませ」

 俺が確認すると、実に淡々とした声でキリエは答えていた。あまりの雰囲気に、俺の耳はしょげしょげと垂れていく。

「カスミ。私が居ない間、魔王様の事をよろしく頼みましたよ」

「は、はい。キリエ姉」

 カスミも背筋を伸ばして返事をするくらいだった。
 そして、扉はゆっくりと閉まり、キリエは姿を消したのだった。

「……次に行こうか」

「はい、こちらへどうぞ」

 俺たちは何事もなかったかのように、魔王城の次の場所へと移動する。一刻も早く離れたかったからな。
 案内が続き、城のあちこちを見て回った俺だったが、どうしても寄りたいところがあるのでカスミに声を掛ける。

「なあ、カスミ」

「なんでしょうか、魔王様」

「訓練場みたいな場所はあるか?」

「ございますよ。……そうですね、魔王様がご覧になるとあれば、兵士たちの士気もきっと上がるでしょう。ご案内致します」

 俺の申し出に、カスミは少し悩んだようだが了承して案内を始めてくれた。いや、言ってみるもんだな。
 そう、城には兵士たちが居るのだから、日夜訓練をする場所があるはずだと考えた。というのも、いい加減に体を動かしたくなったからだ。
 転生してからの俺は、貴族の嫡男としていろいろと叩き込まれてきた。中でも前世では体験できなかった剣と魔法というものは、俺にとってとても刺激的なものだったんだ。
 それをふと思い出した結果が、今の状況というわけだ。

(さて、今の魔王軍の兵士たちってどんな感じなんだろうな)

 カスミが歩く後ろを、楽しみにしながらついて行く俺なのだった。
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