異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
24 / 431
第一章 大陸編

第24話 転生者、なんとなく気まずい

しおりを挟む
 ピエラまで魔王城にやって来てから数日が経過する。
 バフォメットから聞いた情報を元にある程度組み立てたものの、ここは一度現地も見ておきたくなった。
 いや、信じてないわけじゃないけど、やっぱり鵜呑みにするのもよろしくないかと思ってね。あと、ピエラがしばらく魔王領に居座るみたいだからな。見て回るにはちょうどいい理由というわけだ。
 というわけで、ある夜のこと、俺はキリエに相談を持ちかけることにした。

「はあ、魔王領の中を実際に見て回りたい、そう仰られるのですね」

 どういうわけか第一声がため息である。変な事を言ったつもりはないんだがな。
 キリエの反応はどこか呆れたような感じだった。

「いやな。バフォメットの事を信用してないわけじゃないんだ。今はピエラもいるから、せっかくだし一緒に見て回っておこうと思うんだよ。以前来た時は当時の魔王を倒す事しか頭になかったから、魔王領の中を詳しく知らないわけだしな」

「なるほど、そちらの彼女さんが原因なのですね」

「か、彼女……」

 キリエがどこか不機嫌そうな感じで漏らすと、ピエラは頬を押さえながら赤くなっていた。いや、一体どういうわけなんだ。

「まあ、現在の魔王領に住む魔族で魔王様たちに手を出すような愚か者は居ないでしょうけれど、一応ヴォルフを護衛としてお連れになって下さい」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 キリエが眉間にしわを寄せながら提案している。いや、どうしてそんなに不機嫌そうな顔なんだ?
 俺はキリエの態度に疑問を持ちながらも、その提案は了承しておいた。

 さて、魔王領の現地視察が決まったのはいいのだが、キリエからは準備に時間がかかると言われたので、翌日はピエラとのんびりと過ごす事になった。
 ピエラと二人っきりになるのは、先日のピエラが魔王城にやって来た日以来だ。
 実は昨日までのピエラは、カスミの付き添いで魔王城内の案内を受けていたのだ。そのためにこの数日間は食事以外で俺と顔を合わせなかったのだ。
 キリエの話によれば、かなり広いらしいので1日や2日では終わらなかった上に、書庫では大はしゃぎをしていたらしい。
 魔王城内には珍しい書物もあるらしいので、魔法使い系であるピエラにとっては宝の山に思えたことだろう。
 ところがどっこい、視察に向かう準備をしている今日は、先日ぶりに俺とずっと一緒に居るという状況だ。

(うーん、気まずい……)

 ひたすら笑っていたあの時のでき事が、お互いの脳裏をよぎっていた。
 俺もピエラも、どうしたらいいのかと言葉を交わす事もなくただただ時間だけが過ぎていった。
 しかし、さすがに沈黙に耐え切れなくなってきてしまう。俺は笑われる覚悟をして、ピエラに声を掛けることにした。

「あのさ、ピエラ」

「セイ、あのね」

 すると、驚いたことにピエラと声を出すタイミングがかぶってしまった。なんてよくあるパターンなんだ。

「……セイ、ごめんね」

 しばらくの沈黙が続いた後、ピエラが先に話し掛けてきた。というか、謝罪だった。
 面食らいはしたものの、俺はピエラの話を黙って聞く事にした。

「この間、笑い過ぎちゃってごめんなさいね。女性になっちゃったのが受け入れられなくて、現実逃避しちゃったみたい。そのせいでセイを傷付けちゃったわ。本当にごめんね……」

 ピエラは申し訳なさそうな表情をしながら、俺に頭を下げていた。
 俺はそっとピエラの頭に手を置く。

「もう気にしてないよ。さすがにその時は傷付いたけどな。もう大丈夫だから頭を上げてくれ」

「セイ……」

 俺が声を掛ければ、ピエラはゆっくりと頭を上げて笑っていた。ただ、目尻には涙が薄ら浮かんでいたので、泣くほどに反省しているのがよく分かった。

「それにしても、獣人というのも本当だというのが分かったわ。頭に触れた手がなんともふかふかしてたもの」

 そう言って、ピエラは俺の手を突然握りしめる。

「うう、なんて心地よい手触りなのかしら……」

「お、おい、ピエラ……」

 さっきまで泣きかけていたのが嘘のように、うっとりとした表情を浮かべるピエラ。これがもふもふの威力というやつか。

「肉球ってこんなにぷにぷにしてるの?!」

「おい、くすぐったいってば。とりあえず離してくれ」

 肉球の感触を一心不乱に確かめているピエラ。さすがにくすぐったくて笑いそうになってしまう。

「おい、ピエラ、頼むから手を離してくれ」

 さすがにしつこすぎてつい怒鳴ってしまう。

「あ、ごめんなさい……」

 俺が怒鳴ると、ようやくピエラは手を離してくれた。

「ふぅ、くすぐったかったぜ……」

「そっか、触られる側ってそんなに風に感じるのね。次からは気を付けるわね」

 本気で凹んでいるピエラの姿に、なんというかもう怒る気が失せてしまう。これって甘いんだろうかな……。

「とりあえず許すから、顔を上げてくれ……。まったく、何を話そうとしたのか忘れちまったよ」

 前髪をかき上げながら、大きなため息をついてしまう。
 でも、忘れてしまうくらいだから大した事じゃないんだろうなと、俺は気持ちを切り替える。

「明日からは魔王領の視察に向かうわけだし、この地をどう治めていくべきか、ピエラにも意見を聞いてみるとしようか」

「あ、うん。私でよければ……」

 そんなわけで、ここまで俺がまとめた運営計画をピエラと一緒に考え直してみることにしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...