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第一章 大陸編
第56話 転生者と服と筋肉と
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扉を開けた先には、目の下にクマを作りながらも満面の笑みを浮かべるクローゼが立っていた。
「やあ、待っていましたわよ。ささっ、わたくしの渾身の作品を、とくとご覧あれ」
クローゼはそう言いながら、なぜか掛けられていたシーツを一気に取り払った。
そこから現れたのは、この7日間の間で作られた服である。一体何着あるんだよ。
「ふっふっふっ……。今までのうっ憤を吹き飛ばすかのように、腕によりをかけさせて頂きましたわ。こちらの4着はデザストレ様、真ん中の5着はピエラ様、残りの5着は魔王様の服となりますわ」
多いな……。
クローゼの言葉に真っ先に思い浮かんだ言葉である。
とはいえ、アラクネの中でも服飾を得意とするクローゼからしたら、このくらいは普通なのだろう。まったく、頑張り過ぎだ。
俺とピエラの服装は、2着がドレス風、2着がパンツルック、1着が寝間着となっていた。ちなみに肌着は別である。
その服装の説明をするクローゼは、オタク特有の早口のように、とても饒舌で恍惚な表情を浮かべていた。これが極めてるってやつか。
「ささっ、ぜひともご試着下さいませ」
ひと通り服の確認をしたところで、クローゼは鼻息荒く俺たちに試着を勧めてきた。あまりにも圧が強すぎたので、俺たちはそれにおとなしく従うことになった。
「とりあえず、1着だけでいいだろ?」
「ええ、ぜひとも。ああ、わたくしは満足でしてよ~」
徹夜ハイテンションのようでちょっと怖い。俺は思わず笑顔を引きつらせてしまう。
とりあえずクローゼを満足させるために、俺はピエラと一緒に用意されたパーテーションの裏へと進んでいった。
「って、なんで俺はピエラと一緒なんだよ」
「セイってば、今の私たちは女性同士よ。細かいことは気にしないの」
「お、おい。ピエラちょっと待てってば」
俺が止めようとするのも聞かず、ピエラは俺の服を着替えさせてきた。ちょっと待て、くすぐったいからやめろ。
だが、俺の抵抗虚しく、ピエラの手によってドレス風の服を着せられてしまった。俺は、大事な何かを失った気がしたのだった。
「ふぅ、セイって全身の毛のせいで体格が分かりにくかったけど、すごくメリハリのある体型だったのね。羨ましいわ」
着替えさせた挙句、体型の事までばらされる。いくらデザストレが興味ないと言っているからといって、やめてくれないかな、ピエラ。
「よーし、ピエラ。今度は俺がお前を着替えさせる番だ。覚悟しろよ」
「セイの手を煩わせるほどじゃないわよ」
「お前な。人の事を着替えさせておいて……!」
俺が文句を言っているのに、ピエラはそそくさと服を着替え始める。あまりに唐突だったせいで、俺は思わず顔を覆ってしまう。驚いて立った耳は、恥ずかしさのあまりにへにょりと垂れてしまっていた。
俺が反応に困っている間に、ピエラはさっさと服を着替えてしまっていた。早えよ。
「うん、すごい。私にぴったり……」
服を着替えたピエラは、くるくると回ったり腕を回したり、その着心地を確認していた。
「喜んでもらえたのならなによりですわ。それでこそ職人冥利に尽きるというもの」
好評を貰ったクローゼはにこやかに笑っている。ただ、目の下のクマは相変わらずはっきりついているので、俺たちとしては笑えない状態だった。
「ふむ、悪くはないな」
デザストレも体を動かしながら、服を確認している。そもそもドラゴンであるデザストレだが、意外にも服の着方は分かっているようだった。
それにしても、少し大きめに作られている服のようだが、その上からでもデザストレの筋肉はまったく隠れていなかった。なんて主張の激しい筋肉なんだ。俺もあのくらいの体格になってみたかったぜ……。
「何をじろじろ見ているのだ、魔王よ」
おっと、さすがにちょっと凝視し過ぎたか。デザストレは俺に怒鳴りつけてくる。
「別にいいじゃないか。別に筋肉が羨ましいわけじゃないからな」
俺は怒りながら腕を組んでそっぽを向く。
その俺の態度にピエラはツボに入ったのか大笑いしている。それに慌てた俺は周りを見ると、キリエも必死に笑いを耐えているのが目に入る。そんなにおかしいのかよ。
「まったく、よく分からんやつだな、今回の魔王は」
どうやら俺は、デザストレの中ですっかり変人扱いになってしまったようだ。
「あのなぁ……。俺は筋肉に憧れてるだけなんだ。どんなに頑張っても思った以上に筋肉がつかない体だったからな」
「確かにそうね。特訓の量的にはセイの方が多いのに、筋肉はマールンにはまったく敵わないものね」
「そう、それなんだよ。なんなんだよ、あの差はよ……」
マールンの筋肉質を思い出して、俺は凹んでしまった。耳もしっぽもしょげしょげに垂れてしまうくらいだった。
「ふん、そういう悩みか。おそらくは加護のせいだろうな。魔王にはいろいろな加護がついているが、見た目に反映されないように面倒な加護をつけた奴がいるようだ」
「はあ? なんだそれ、初耳だぞ」
俺はデザストレの言葉に驚く。
「とはいえ、我の力の及ぶところではない。諦めるのだな」
「ちくしょーっ!」
俺は思わずその場に崩れ落ちてしまう。
俺の落ち込み具合に、しばらくその場にはなんともいえない空気が漂い続けたのだった。
「やあ、待っていましたわよ。ささっ、わたくしの渾身の作品を、とくとご覧あれ」
クローゼはそう言いながら、なぜか掛けられていたシーツを一気に取り払った。
そこから現れたのは、この7日間の間で作られた服である。一体何着あるんだよ。
「ふっふっふっ……。今までのうっ憤を吹き飛ばすかのように、腕によりをかけさせて頂きましたわ。こちらの4着はデザストレ様、真ん中の5着はピエラ様、残りの5着は魔王様の服となりますわ」
多いな……。
クローゼの言葉に真っ先に思い浮かんだ言葉である。
とはいえ、アラクネの中でも服飾を得意とするクローゼからしたら、このくらいは普通なのだろう。まったく、頑張り過ぎだ。
俺とピエラの服装は、2着がドレス風、2着がパンツルック、1着が寝間着となっていた。ちなみに肌着は別である。
その服装の説明をするクローゼは、オタク特有の早口のように、とても饒舌で恍惚な表情を浮かべていた。これが極めてるってやつか。
「ささっ、ぜひともご試着下さいませ」
ひと通り服の確認をしたところで、クローゼは鼻息荒く俺たちに試着を勧めてきた。あまりにも圧が強すぎたので、俺たちはそれにおとなしく従うことになった。
「とりあえず、1着だけでいいだろ?」
「ええ、ぜひとも。ああ、わたくしは満足でしてよ~」
徹夜ハイテンションのようでちょっと怖い。俺は思わず笑顔を引きつらせてしまう。
とりあえずクローゼを満足させるために、俺はピエラと一緒に用意されたパーテーションの裏へと進んでいった。
「って、なんで俺はピエラと一緒なんだよ」
「セイってば、今の私たちは女性同士よ。細かいことは気にしないの」
「お、おい。ピエラちょっと待てってば」
俺が止めようとするのも聞かず、ピエラは俺の服を着替えさせてきた。ちょっと待て、くすぐったいからやめろ。
だが、俺の抵抗虚しく、ピエラの手によってドレス風の服を着せられてしまった。俺は、大事な何かを失った気がしたのだった。
「ふぅ、セイって全身の毛のせいで体格が分かりにくかったけど、すごくメリハリのある体型だったのね。羨ましいわ」
着替えさせた挙句、体型の事までばらされる。いくらデザストレが興味ないと言っているからといって、やめてくれないかな、ピエラ。
「よーし、ピエラ。今度は俺がお前を着替えさせる番だ。覚悟しろよ」
「セイの手を煩わせるほどじゃないわよ」
「お前な。人の事を着替えさせておいて……!」
俺が文句を言っているのに、ピエラはそそくさと服を着替え始める。あまりに唐突だったせいで、俺は思わず顔を覆ってしまう。驚いて立った耳は、恥ずかしさのあまりにへにょりと垂れてしまっていた。
俺が反応に困っている間に、ピエラはさっさと服を着替えてしまっていた。早えよ。
「うん、すごい。私にぴったり……」
服を着替えたピエラは、くるくると回ったり腕を回したり、その着心地を確認していた。
「喜んでもらえたのならなによりですわ。それでこそ職人冥利に尽きるというもの」
好評を貰ったクローゼはにこやかに笑っている。ただ、目の下のクマは相変わらずはっきりついているので、俺たちとしては笑えない状態だった。
「ふむ、悪くはないな」
デザストレも体を動かしながら、服を確認している。そもそもドラゴンであるデザストレだが、意外にも服の着方は分かっているようだった。
それにしても、少し大きめに作られている服のようだが、その上からでもデザストレの筋肉はまったく隠れていなかった。なんて主張の激しい筋肉なんだ。俺もあのくらいの体格になってみたかったぜ……。
「何をじろじろ見ているのだ、魔王よ」
おっと、さすがにちょっと凝視し過ぎたか。デザストレは俺に怒鳴りつけてくる。
「別にいいじゃないか。別に筋肉が羨ましいわけじゃないからな」
俺は怒りながら腕を組んでそっぽを向く。
その俺の態度にピエラはツボに入ったのか大笑いしている。それに慌てた俺は周りを見ると、キリエも必死に笑いを耐えているのが目に入る。そんなにおかしいのかよ。
「まったく、よく分からんやつだな、今回の魔王は」
どうやら俺は、デザストレの中ですっかり変人扱いになってしまったようだ。
「あのなぁ……。俺は筋肉に憧れてるだけなんだ。どんなに頑張っても思った以上に筋肉がつかない体だったからな」
「確かにそうね。特訓の量的にはセイの方が多いのに、筋肉はマールンにはまったく敵わないものね」
「そう、それなんだよ。なんなんだよ、あの差はよ……」
マールンの筋肉質を思い出して、俺は凹んでしまった。耳もしっぽもしょげしょげに垂れてしまうくらいだった。
「ふん、そういう悩みか。おそらくは加護のせいだろうな。魔王にはいろいろな加護がついているが、見た目に反映されないように面倒な加護をつけた奴がいるようだ」
「はあ? なんだそれ、初耳だぞ」
俺はデザストレの言葉に驚く。
「とはいえ、我の力の及ぶところではない。諦めるのだな」
「ちくしょーっ!」
俺は思わずその場に崩れ落ちてしまう。
俺の落ち込み具合に、しばらくその場にはなんともいえない空気が漂い続けたのだった。
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