異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第68話 転生者、フルボッコにする

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 キリエが『緑精の広葉』を持って薬師たちのところへ行っている間、俺は魔王軍の訓練場に姿を見せていた。
 そこではデザストレがなんだかんだ言いながら、魔王軍の下っ端相手に乱取りを行っていた。

「おらぁ、突進が甘いぞ。そっちは攻撃が軽い。もっと力を入れろ」

 最初は嫌がっていた様子もあったが、今じゃずいぶんと指導役が板についてきてやがるな。まったく、人もドラゴンもどうなるか分かったものではないな。
 人型になっている上に、場所も狭いとあっては、デザストレは元の姿にもなれずブレス攻撃も使えない。当の本人はかなりイラついているようだ。
 だけど、そういう状況にも慣れてもらわないと困るからな。
 何度か戦ってみて分かったが、デザストレの攻撃は意外と単純だ。
 高火力の攻撃とブレス攻撃を用いての、実に勢いに任せた戦い方をしている。それでいて格上との戦いを経験していないために、俺たちと戦った時はかなりちぐはぐな戦い方をしていた。
 そう、デザストレは弱い連中を初見殺ししてきただけの思い上がりだったのだ。
 そういう意味では、魔王軍相手の稽古というものは、デザストレにとってもプラスになるはずである。
 なにせ、初見ではなくなったデザストレの攻撃が、魔族たちに対処されつつあるのだから。それでも防げてはいないんだけどな。
 俺はいろいろと期待をしながら、その訓練の様子を見守っている。

「いかがですかな、魔王様」

 俺が黙って見学していると、ヴォルフがやってきて声を掛けてきた。
 初めて会った時は俺の実力を認められずにけんかを吹っかけてきた獣人だが、今ではしっかりと互いの力を認め合う仲となっている。

「ああ、だいぶいい感じに強くなってきているな。どうだ、魔王軍からのデザストレの評価は」

 俺はあえてヴォルフにデザストレの事を聞いてみる。

「そうですな。最初こそ厄災と聞いて引け腰になってはいましたが、今ではかなり慣れたように思います。やはり魔王様との直接対決を見せつけたのが功を奏したかと存じます」

 うん、デザストレの事を聞いているのに違う答えが返ってきたぞ。

「それで、デザストレの評価ですが、攻撃が単純な上に動きも基本的なものばかりなので、いい練習になるといったところでしょうか」

「そうかそうか。やっぱりそう思うよな」

「はい。ですが、さすがに我ら魔族を屠ってきただけのことはございますね。分かっていてもその攻撃を捌き切れないのですからね」

 ヴォルフはそのように話している。そこで、俺はヴォルフにこう問いかけた。

「今のヴォルフなら、デザストレに勝てそうか?」

 その質問に、ヴォルフはびっくりしたように目を見開いて少し引いていた。
 そして、腕を抱えて考え込み始めた。

「そうですね……。パワーもスピードも彼の方が上ですから、私でも善戦が精一杯というところでしょうか。さすがに魔王様のようには動けません」

 ヴォルフは冷静に判断していた。推測ということは、ヴォルフはまだデザストレと戦ったことがないらしい。なんだヘタレか。
 ということで、俺はヴォルフの肩に手を置いた。

「よし、デザストレと戦えるように、俺がいっちょヴォルフを揉んでやろうじゃないか」

「ちょっと、魔王様?!」

 冷静沈着を装っていたヴォルフの表情が一気に崩れる。

「なに、軽い運動だ。お前だけ動いていないのも部下に悪いと思わないか?」

「わ、私は上官として……」

「言い訳は俺に勝ててから聞こう。さあ、始めるぞ」

「うわあーっ!!」

 次の瞬間、俺にこてんぱんにされたヴォルフが地面をなめていた。
 まったく、初めて会った時の威勢は一体どこにいったんだよ。あまりにも拍子抜けのする戦いっぷりに、俺はお手上げ状態である。

「うへえ……。ヴォルフ様でも子ども扱いだよ。久しぶりに魔王様の戦いっぷりを見たけど、さすがだよな」

「ああ、あのデザストレ様に対しても一方的だったし、さすが魔王様としか言いようがないよな」

「それにしても、あの動きにくそうな服装にあの胸。よくあんなに動けるよな」

 俺たちの戦いを見ていた魔王軍の連中がひそひそと話している。
 まあ、俺の服装と胸に関しては同意だな。かなり大きいので動く度にかなり揺れる。まあ、そこは魔法でどうにかできるからいいんだが、服装だってかなり問題だった。
 今俺が普段着ているのはドレスタイプの服装だ。なので、足の可動範囲がどうしても制限されちまう。
 だけど、それも魔法でどうにかできるから、魔法って素晴らしいよな。

「よーし、俺の胸を見てた奴、今から全員相手してやろうか」

 俺はにこっと笑顔で魔王軍を見る。すると、みんな揃って震え上がっていた。
 うん、お前ら。罰確定な。

「デザストレ、こいつらとちょっと本気で戦って稽古してやれ」

「おおおっ、多少壊れても大丈夫なのだな?」

「ああ、そのくらいなら魔法が得意な連中が集まれば修復できるだろう。ただし、城は壊すなよ?」

「もちろんだとも。ふはははははっ、お前ら覚悟しろ。死なない程度にボコってやるからよ! なんといっても稽古だからな!」

「ひ、ひぃーっ!」

 俺はデザストレが暴れる様をバックに、華麗に訓練場を後にしたのだった。
 その後、訓練場には気絶した魔族たちが寝そべっていたそうだ。
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