異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第99話 転生者、領の境へ

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 バフォメットと別れ、俺はカスミと一緒に街道のチェックを兼ねて王国との境界まで馬車を走らせる。魔王領の馬車だと思った以上に早く目的地に着いてしまった。
 境界を隔てる門の前に到着すると、兵士たちが相変わらず魔王領の馬車に驚いている。
 俺が馬車から降りて姿を見せると、ようやく安心した様子で落ち着きを取り戻していた。

「これはセイ殿。お久しぶりでございます」

 敬礼で俺を出迎える兵士たち。まさかの出迎えに、俺はつい面食らってしまう。

「魔王様、何を驚いてらっしゃるのですか」

 真顔でツッコミを入れてくるカスミ。
 いや、だって人間たちからこんな出迎えを受けるなんて思ってなかったからな。

「マールン殿より、セイ殿がいらした時には丁重に出迎えるようにと仰せつかっております。ささっ、こちらへどうぞでございます」

 兵士が俺を案内しようとしている。
 どうやらこの扱いは、マールンが気を遣ってくれた結果らしい。獣人化したことで反逆者扱いにされたというのに、ピエラもそうだが、あいつも俺のことを考えていてくれているようだ。
 まったく嬉しい限りだな。
 俺が感動していると、カスミがじっと俺の顔を覗き込んできた。

「魔王様?」

「いや、なんでもない」

 俺はカスミに反応すると、御者の方を向いて馬車の事を任せておく。そして、兵士の案内の後ろをカスミと一緒に追いかけていった。

 俺たちが連れてこられたのは、どうやら会議室のようだった。
 さすがに街に入れることはためらったようで、俺たちがいるのはまだ門の外というわけだ。
 俺たちに敵意がないとしても、街の人たちの反応を考えると、仕方のない配慮といったところだろう。まだまだ魔族に対する偏見があるからな、人間には。
 ともかく、案内された部屋で、俺たちはくつろいでいた。
 しばらく待つと、他の兵士とは違う容姿の男が入ってきた。

(うん、こいつを俺は知ってる。前回はいなかったが、その後にでも配属になったのかな)

 じっと男を見つめる。すると、男の方は露骨に表情をしかめて睨み返してきた。俺と分かっての行為なのか、それとも魔族相手ゆえなのかは分からんな。

「よくぞ参られたな。俺はこの街の警備隊長を務めるヨネス・デッソンだ。歓迎するぞ、魔王。いや、セイ・コングラート」

 あっ、やっぱり知り合いか。しかも俺を認識している。
 こいつは確かデッソン男爵家の次男だったかな。よく学園では競ったもんだよな。

「懐かしいな。ヨネス、立派になったもんだな」

「ふん、このくらい当然だ」

 威張って座るヨネス。そうだよ、こいつはこういうやつだったよ。
 男爵家という貴族では下の方の家柄だが、本人のプライドはかなり高かった。そして、どういうわけか侯爵家子息である俺に対して一方的によく絡んできた。
 まぁうざ絡みをしてこられたとはいえ、そんなに悪い奴には思っていなかった。プライドの高さがあるとはいえ努力はちゃんとする奴だったからな。だからこそ、魔王領との境界なんて場所に配置されるくらいになったんだろう。
 実際のところは左遷といったところなんだが、実力がないと任せられないからな。なにせここには街があるんだし。

「それで、何をしに来たんだ、セイ・コングラート」

 ヨネスはわざわざフルネームで俺を呼ぶ。意識してるんだぞと言わんばかりだ。

「街道の再チェックと、宿場町の住人を募りに来たんだ」

 素直に用件を伝える俺。すると、ヨネスの表情が分かりやすく曇った。

「俺たちに魔王領へ移住しろというのか?」

「そうだな。希望者だけになるけれどな。魔族と一緒に住むとなると抵抗は多いかもしれないが、今後はこっちとも交流が盛んになるだろうから、人間にも見てもらいたいんだよ」

「ふん、物は言いようだな」

 俺が素直に説明すると、両腕を組んで不機嫌そうに構えるヨネスである。
 典型的な王国の民な事もあって、魔族に対しては嫌悪感が強いもんな。俺とこうやって話しているのも、対抗心と仕事があってこそなんだよな、きっと。

「悪いようにはしませんよ。魔王様が人間との和平を望んでいる以上、私たち魔族もそれに従うまででございます。あとはあなた方人間の問題でございます」

 カスミは厳しい表情をヨネスへと向けている。
 まったく、やっぱりこうなるんだな。仕方ないので、俺はちょっと一肌脱ぐ事にするか。

「ヨネス、ちょっと久しぶりに剣でも交えるか?」

「いいだろう。俺も勝負がしたいところだったからな」

「なら決まりだな」

 俺はにっこりと笑って外へと移動していく。
 ヨネスも部下を連れて一緒に外へと向かう。
 その後ろから、カスミはやれやれといった表情で追いかけてくる。
 悪いな。男ってのはこうやってケンカでもしないとすっきりしないものなんだよ。
 塀の外にやって来た俺たちは、木剣を手に互いに睨み合う。

「学生の時以来かな、こうやって剣を交えるのは」

「そうだな。それ以降貴様はずっと魔物相手に戦っていたからな。まったく、この時をどれほど待ち望んだ事か」

 ヨネスは見下すようにしながら言っているが、つまりはかまってちゃんの寂しがり屋じゃねえか。

「いくら女になったからとはいえ、手加減はしないぞ」

「ああ、本気で来い」

 俺たちが睨み合う中、一陣の風がそっと吹き抜けたのだった。
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