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第一章 大陸編
第119話 転生者、交渉へ向かう
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「我を忘れてもらっては困るな」
「いや、デザストレ。お前が出ていくといろいろと面倒な気がするんだが?」
出しゃばってきたデザストレに、俺は素直なひと言をぶつける。
びびりの脳筋であるこいつを向かわせて、交渉事がうまくいくイメージが湧かないというものだ。
「なめてくれるなよ、魔王。西方王国とはまだ街道が整備されておらぬだろう? それにまだ大臣とやらが一人屈したのが確認されるのみ。ならば移動速度に優れ、力もある我が行くのが一番というものだろう?」
デザストレにしては珍しく頭が冴えていやがるな。
だが、交渉事となると、こいつは絶対相手にペースを握られて面倒なことになる。簡単に認めるわけにはいかないというものだ。
なので、俺はキリエとバフォメットに確認して、誰か適任がいないか確認してみることにした。
「でしたら、やはり魔王様が同行されるのがよろしいかと存じます」
「私も同じ意見です。そのでかいトカゲを御せるのは魔王様だけですから」
「誰がトカゲだ。この厄災に向かってなんていうことを言うのだ」
キリエのトゲのある言葉に怒り心頭になるデザストレ。だから、そういうところだぞ。
「でしたら、もう少し頭を使えるようになって下さいませ。先程のだけでは、到底頭がよいとは言い切れません。常日頃が常日頃でございますのでね」
「ぐぬぬぬぬ……」
キリエに鋭い指摘をされて、デザストレは反論もできずに唸っている。一応の自覚はあるのか……。
「まあ、仕方ないな。俺が交渉に向かう時には、デザストレに同行してもらうという形を取ろう」
「我だけではダメなのか」
「ダメだ」
無駄な抵抗を見せるデザストレに、俺はとどめといわんばかりにきっぱりと言い切っておいた。するとデザストレが本気で落ち込んでいた。できると思い込んでるんだな、このドラゴンは。
とりあえずデザストレが乱入してきたことで、再び俺たちは席に着く。会議のやり直しだ。
とはいっても、さっきまでの話を再確認するだけだ。ほぼ終わってたからな。
「南方王国との間の街道はバフォメット、よろしく頼むぞ」
「承知致しました。魔王様の御心のままに」
胸の前に手を当てて、深く頭を下げて返事をするバフォメット。
「アラクネたちとの取引は、最初のうちはキリエがついてやってくれ。ニーナの様子からするにしばらくの間は不安だからな」
「お任せ下さいませ」
キリエも同じように頭を下げる。
「それで、デザストレは俺と一緒に西方王国との交渉だ。当面は移動手段と牽制という役目で黙って立っていてくれ」
「黙って立っているだけなのか?!」
やっぱりというか、デザストレは文句を言ってきた。さっきまでの話を聞いていたか?
デザストレの本質は脳筋で、自分の思い通りにならないと気が済まないタイプだ。なので、こいつに発言させるつもりはまったくないってことだよ。力の差は見せつけるが、俺の目指すところはそうじゃないからな。不要な暴力は極力排除だ、排除。
自分の力を示せると考えていたデザストレは、ものすごく凹んでいた。
「まったく、少しは理解してくれ。俺たちがやるのは戦争じゃない、交渉だ。力は見せてもねじ伏せる必要はないんだぞ」
「戦いでなければ、我の存在意義が見出せないではないか!」
「いい加減にその脳筋な考えを捨てろよ」
相変わらず戦いたがるデザストレに、正直頭が痛くなる。
いろいろと考え抜いた結果、俺は魔王城での対応と同じ事をやるしかなさそうだった。
「しょうがないな。西方王国の兵士たちと戦えるように話をつけてやるよ。だから一切暴れるんじゃないぞ」
「本当か? よかろう。ならば我慢をしてやるぞ。わっはっはっはっ!」
これでご機嫌になるのか。まったく、本当に戦うことしか頭にないような奴だな。
ひとまず会議がこれで終わったので、俺たちは一度クローゼとニーナのところへと向かう。
「あら、魔王様」
「二人とも、できた服はあるか?」
「ええ、ありますよ。そうですわ、魔王様。これをお持ちになって下さいまし」
クローゼはそう言いながら、何かを取り出した。
「これは?」
「今は失われた技術、空間拡張の魔法がかけられた鞄ですわ。商人をするなら、必須ともいえるものですのよ」
「いいのか?」
「今回は特別にお貸しするだけですわよ。西方王国との交渉に行かれるのでしょう?」
クローゼはそう言いながらにこにこと微笑んでいる。参ったな、会議の内容はお見通しってわけか。さすがはキリエと交友関係があるだけのことはあるぜ。
「ありがとう。今回は借りていくぞ」
「ええ、活用して下さいませ」
クローゼから鞄を借りた俺は、でき上がった服とデザイン画の写しを何枚か鞄の中へと詰め込んでいく。
それ以外にもクローゼによれば、二人で作った布も何枚かすでに放り込んであるらしい。まったく準備がいいな。
「ありがとう、二人とも。早速行ってくるぜ」
「ええ、いってらっしゃい、魔王様。ご武運を」
にっと笑って俺はデザストレと一緒に魔王城を出ていく。目指すは西方王国だ。
これで面倒事が減ればいいんだがな。デザストレの背に乗りながら、俺は気を引き締め直していた。
「いや、デザストレ。お前が出ていくといろいろと面倒な気がするんだが?」
出しゃばってきたデザストレに、俺は素直なひと言をぶつける。
びびりの脳筋であるこいつを向かわせて、交渉事がうまくいくイメージが湧かないというものだ。
「なめてくれるなよ、魔王。西方王国とはまだ街道が整備されておらぬだろう? それにまだ大臣とやらが一人屈したのが確認されるのみ。ならば移動速度に優れ、力もある我が行くのが一番というものだろう?」
デザストレにしては珍しく頭が冴えていやがるな。
だが、交渉事となると、こいつは絶対相手にペースを握られて面倒なことになる。簡単に認めるわけにはいかないというものだ。
なので、俺はキリエとバフォメットに確認して、誰か適任がいないか確認してみることにした。
「でしたら、やはり魔王様が同行されるのがよろしいかと存じます」
「私も同じ意見です。そのでかいトカゲを御せるのは魔王様だけですから」
「誰がトカゲだ。この厄災に向かってなんていうことを言うのだ」
キリエのトゲのある言葉に怒り心頭になるデザストレ。だから、そういうところだぞ。
「でしたら、もう少し頭を使えるようになって下さいませ。先程のだけでは、到底頭がよいとは言い切れません。常日頃が常日頃でございますのでね」
「ぐぬぬぬぬ……」
キリエに鋭い指摘をされて、デザストレは反論もできずに唸っている。一応の自覚はあるのか……。
「まあ、仕方ないな。俺が交渉に向かう時には、デザストレに同行してもらうという形を取ろう」
「我だけではダメなのか」
「ダメだ」
無駄な抵抗を見せるデザストレに、俺はとどめといわんばかりにきっぱりと言い切っておいた。するとデザストレが本気で落ち込んでいた。できると思い込んでるんだな、このドラゴンは。
とりあえずデザストレが乱入してきたことで、再び俺たちは席に着く。会議のやり直しだ。
とはいっても、さっきまでの話を再確認するだけだ。ほぼ終わってたからな。
「南方王国との間の街道はバフォメット、よろしく頼むぞ」
「承知致しました。魔王様の御心のままに」
胸の前に手を当てて、深く頭を下げて返事をするバフォメット。
「アラクネたちとの取引は、最初のうちはキリエがついてやってくれ。ニーナの様子からするにしばらくの間は不安だからな」
「お任せ下さいませ」
キリエも同じように頭を下げる。
「それで、デザストレは俺と一緒に西方王国との交渉だ。当面は移動手段と牽制という役目で黙って立っていてくれ」
「黙って立っているだけなのか?!」
やっぱりというか、デザストレは文句を言ってきた。さっきまでの話を聞いていたか?
デザストレの本質は脳筋で、自分の思い通りにならないと気が済まないタイプだ。なので、こいつに発言させるつもりはまったくないってことだよ。力の差は見せつけるが、俺の目指すところはそうじゃないからな。不要な暴力は極力排除だ、排除。
自分の力を示せると考えていたデザストレは、ものすごく凹んでいた。
「まったく、少しは理解してくれ。俺たちがやるのは戦争じゃない、交渉だ。力は見せてもねじ伏せる必要はないんだぞ」
「戦いでなければ、我の存在意義が見出せないではないか!」
「いい加減にその脳筋な考えを捨てろよ」
相変わらず戦いたがるデザストレに、正直頭が痛くなる。
いろいろと考え抜いた結果、俺は魔王城での対応と同じ事をやるしかなさそうだった。
「しょうがないな。西方王国の兵士たちと戦えるように話をつけてやるよ。だから一切暴れるんじゃないぞ」
「本当か? よかろう。ならば我慢をしてやるぞ。わっはっはっはっ!」
これでご機嫌になるのか。まったく、本当に戦うことしか頭にないような奴だな。
ひとまず会議がこれで終わったので、俺たちは一度クローゼとニーナのところへと向かう。
「あら、魔王様」
「二人とも、できた服はあるか?」
「ええ、ありますよ。そうですわ、魔王様。これをお持ちになって下さいまし」
クローゼはそう言いながら、何かを取り出した。
「これは?」
「今は失われた技術、空間拡張の魔法がかけられた鞄ですわ。商人をするなら、必須ともいえるものですのよ」
「いいのか?」
「今回は特別にお貸しするだけですわよ。西方王国との交渉に行かれるのでしょう?」
クローゼはそう言いながらにこにこと微笑んでいる。参ったな、会議の内容はお見通しってわけか。さすがはキリエと交友関係があるだけのことはあるぜ。
「ありがとう。今回は借りていくぞ」
「ええ、活用して下さいませ」
クローゼから鞄を借りた俺は、でき上がった服とデザイン画の写しを何枚か鞄の中へと詰め込んでいく。
それ以外にもクローゼによれば、二人で作った布も何枚かすでに放り込んであるらしい。まったく準備がいいな。
「ありがとう、二人とも。早速行ってくるぜ」
「ええ、いってらっしゃい、魔王様。ご武運を」
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