異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第123話 転生者、カスミの反応に驚く

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 魔王城へと戻ってきた俺とデザストレ。
 西方王国の状況に関しては当面は静観するということで、俺は再び筆を執って服のデザインを始める。
 今までは外見上の服ばかりに力を入れていたので、今回は肌着系を頑張ってみることにした。
 今の俺は獣人の女性だから、以前のような気兼ねを起こすことなく平然と描けてしまう。これが男と女の意識の違いというものだろうか。
 現状ではマネケンとメイヤーの二人だけとはいえ、西方王国内で俺の計画に乗ってくれそうな人間がいたのは嬉しいものだ。そのせいもあってか、デザイン画を手掛ける俺の手がよく動くってもんだよ。

「魔王様、ずいぶんと楽しそうですね」

 俺のところにやって来たのはキリエではなくて妹のカスミだった。

「あれ、カスミがお茶を持ってくるのか」

「ええ。キリエ姉ならアラクネの対応で今は精一杯のようですから、あたしが代わりに身の回りの世話をする事になったんですよ」

 普段とあまり変わりなさそうに喋るカスミだが、俺はどうも違和感を感じていた。
 それもそうだろうな。カスミの視線が、俺の描いているデザイン画に注がれているんだからな。カスミもやっぱり女性なんだなって思わされる。

「なんだ、カスミ。これに興味があるのか?」

 俺はデザイン画を手に持って軽く振る。カスミの視線はその動きにつられるように左右へと動く。うん、間違いなかった。

「カスミ、気になるんだったら見てみるか?」

「えっ、よろしいんですか?」

「ああ、売り出すとしても他人の意見というのはいろいろ聞いてみたいんだ。俺に対する当たりがきついから、カスミはそういう意味では期待できる。忌憚ない意見を頼むよ」

 俺がデザイン画をまとめてカスミに手渡すと、奪い取るような勢いで手に取って、一枚一枚じっくりと眺めている。
 しばらくその様子を見守っていたが、カスミの表情はなんとも言えないくらいに目を輝かせている。
 しかし、今描いていたのは肌着ばかりなので、正直見せるのはやめておきたかった。でも、あれだけ興味を示してくれているのなら、見せないわけにはいかなかったのだ。現に今もじっくりと食い入るように見てるんだもんな。

「魔王様」

 急に声を出すものだから、ついついびっくりしちまった。

「な、なんだ、カスミ」

 驚きはしたものの、魔王として堂々と振る舞わなければならない。俺は冷静なふりをして話を聞くことにする。

「これってすぐに作ってもらうことはできますかね」

 デザイン画を握りしめながら、ずずいと俺に迫ってくるカスミ。なんだろうか。普段あれだけ毛嫌いしてくるだけに、なんとも新鮮な表情と態度だな。

「まあ落ち着け。クローゼとニーナに確認してみないとな。現状衣類を作っているのはあの二人だけだからな」

「そうですか。では早速参りましょう」

「おいおい……」

 なんとも前のめりなカスミである。新鮮ではあるものの、ちょっと強引すぎないだろうか。
 そのくらい、俺の描いたデザイン画に興味を示しているということなのだが、普段メイドなだけになんとも想像がしづらかった。
 強引なカスミと一緒にクローゼの部屋にやって来た俺は、ノックをしてクローゼの部屋へと入る。中ではキリエが何かの話をしているようだった。

「これは魔王様。それとカスミまで一緒に……。一体どうなされたというのですか?」

 当然ながら疑問に感じるキリエである。なんといっても一番違和感があったのがカスミの態度である。

「キリエ姉、これって画期的よね」

 俺のデザイン画を手に持ったままキリエに近付いていくカスミ。そして、ばっとキリエの目の前で広げて見せている。
 そのデザイン画を見たキリエの表情はなんとも複雑だ。なにせ顔に近すぎてよく見えないからだ。カスミ、勢いがよすぎたんだよ。
 近すぎるデザイン画を一歩引いて確認するキリエ。さすが見えないからといっても相手を遠ざけることはしないようだった。

「ふむ、面白いデザインですね」

「でしょでしょ。あたし着てみたいのよ。ねえ、いいかしら」

 上目遣いで目をうるうるとさせながら頼み込むカスミ。その姿に呆れながらもキリエは許可をしてくれた。

「クローゼ、ちょっとよろしいでしょうか」

「何かしら、キリエ」

 奥からのっそりとクローゼが姿を見せる。

「このデザイン画の服を作ってもらうことはできますでしょうか」

「どれどれ……」

 キリエが手に持っているデザイン画を覗き込むクローゼ。次の瞬間、クローゼの目が大きく見開く。

「これは……! 分かりましたわ、すぐにでも作らせてもらいますわよ」

 キリエからデザイン画を受け取ると、再び奥へと消えていく。
 デザイン画を見た直後の表情からするに、やる気が満ちあふれてきたというところだろう。
 奥へと引っ込んでしばらく、でき上がったらしく、誇らしげな表情でクローゼが俺たちのところに戻ってきた。
 かなり複雑なデザインだったとは思うんだが、アラクネって服を作るのが早いな。

「ふふっ、これは作り甲斐がありましたわよ」

 満面の笑みを浮かべながら、クローゼはでき上がった服を取り出して俺たちに見せつけたのだった。
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