123 / 431
第一章 大陸編
第123話 転生者、カスミの反応に驚く
しおりを挟む
魔王城へと戻ってきた俺とデザストレ。
西方王国の状況に関しては当面は静観するということで、俺は再び筆を執って服のデザインを始める。
今までは外見上の服ばかりに力を入れていたので、今回は肌着系を頑張ってみることにした。
今の俺は獣人の女性だから、以前のような気兼ねを起こすことなく平然と描けてしまう。これが男と女の意識の違いというものだろうか。
現状ではマネケンとメイヤーの二人だけとはいえ、西方王国内で俺の計画に乗ってくれそうな人間がいたのは嬉しいものだ。そのせいもあってか、デザイン画を手掛ける俺の手がよく動くってもんだよ。
「魔王様、ずいぶんと楽しそうですね」
俺のところにやって来たのはキリエではなくて妹のカスミだった。
「あれ、カスミがお茶を持ってくるのか」
「ええ。キリエ姉ならアラクネの対応で今は精一杯のようですから、あたしが代わりに身の回りの世話をする事になったんですよ」
普段とあまり変わりなさそうに喋るカスミだが、俺はどうも違和感を感じていた。
それもそうだろうな。カスミの視線が、俺の描いているデザイン画に注がれているんだからな。カスミもやっぱり女性なんだなって思わされる。
「なんだ、カスミ。これに興味があるのか?」
俺はデザイン画を手に持って軽く振る。カスミの視線はその動きにつられるように左右へと動く。うん、間違いなかった。
「カスミ、気になるんだったら見てみるか?」
「えっ、よろしいんですか?」
「ああ、売り出すとしても他人の意見というのはいろいろ聞いてみたいんだ。俺に対する当たりがきついから、カスミはそういう意味では期待できる。忌憚ない意見を頼むよ」
俺がデザイン画をまとめてカスミに手渡すと、奪い取るような勢いで手に取って、一枚一枚じっくりと眺めている。
しばらくその様子を見守っていたが、カスミの表情はなんとも言えないくらいに目を輝かせている。
しかし、今描いていたのは肌着ばかりなので、正直見せるのはやめておきたかった。でも、あれだけ興味を示してくれているのなら、見せないわけにはいかなかったのだ。現に今もじっくりと食い入るように見てるんだもんな。
「魔王様」
急に声を出すものだから、ついついびっくりしちまった。
「な、なんだ、カスミ」
驚きはしたものの、魔王として堂々と振る舞わなければならない。俺は冷静なふりをして話を聞くことにする。
「これってすぐに作ってもらうことはできますかね」
デザイン画を握りしめながら、ずずいと俺に迫ってくるカスミ。なんだろうか。普段あれだけ毛嫌いしてくるだけに、なんとも新鮮な表情と態度だな。
「まあ落ち着け。クローゼとニーナに確認してみないとな。現状衣類を作っているのはあの二人だけだからな」
「そうですか。では早速参りましょう」
「おいおい……」
なんとも前のめりなカスミである。新鮮ではあるものの、ちょっと強引すぎないだろうか。
そのくらい、俺の描いたデザイン画に興味を示しているということなのだが、普段メイドなだけになんとも想像がしづらかった。
強引なカスミと一緒にクローゼの部屋にやって来た俺は、ノックをしてクローゼの部屋へと入る。中ではキリエが何かの話をしているようだった。
「これは魔王様。それとカスミまで一緒に……。一体どうなされたというのですか?」
当然ながら疑問に感じるキリエである。なんといっても一番違和感があったのがカスミの態度である。
「キリエ姉、これって画期的よね」
俺のデザイン画を手に持ったままキリエに近付いていくカスミ。そして、ばっとキリエの目の前で広げて見せている。
そのデザイン画を見たキリエの表情はなんとも複雑だ。なにせ顔に近すぎてよく見えないからだ。カスミ、勢いがよすぎたんだよ。
近すぎるデザイン画を一歩引いて確認するキリエ。さすが見えないからといっても相手を遠ざけることはしないようだった。
「ふむ、面白いデザインですね」
「でしょでしょ。あたし着てみたいのよ。ねえ、いいかしら」
上目遣いで目をうるうるとさせながら頼み込むカスミ。その姿に呆れながらもキリエは許可をしてくれた。
「クローゼ、ちょっとよろしいでしょうか」
「何かしら、キリエ」
奥からのっそりとクローゼが姿を見せる。
「このデザイン画の服を作ってもらうことはできますでしょうか」
「どれどれ……」
キリエが手に持っているデザイン画を覗き込むクローゼ。次の瞬間、クローゼの目が大きく見開く。
「これは……! 分かりましたわ、すぐにでも作らせてもらいますわよ」
キリエからデザイン画を受け取ると、再び奥へと消えていく。
デザイン画を見た直後の表情からするに、やる気が満ちあふれてきたというところだろう。
奥へと引っ込んでしばらく、でき上がったらしく、誇らしげな表情でクローゼが俺たちのところに戻ってきた。
かなり複雑なデザインだったとは思うんだが、アラクネって服を作るのが早いな。
「ふふっ、これは作り甲斐がありましたわよ」
満面の笑みを浮かべながら、クローゼはでき上がった服を取り出して俺たちに見せつけたのだった。
西方王国の状況に関しては当面は静観するということで、俺は再び筆を執って服のデザインを始める。
今までは外見上の服ばかりに力を入れていたので、今回は肌着系を頑張ってみることにした。
今の俺は獣人の女性だから、以前のような気兼ねを起こすことなく平然と描けてしまう。これが男と女の意識の違いというものだろうか。
現状ではマネケンとメイヤーの二人だけとはいえ、西方王国内で俺の計画に乗ってくれそうな人間がいたのは嬉しいものだ。そのせいもあってか、デザイン画を手掛ける俺の手がよく動くってもんだよ。
「魔王様、ずいぶんと楽しそうですね」
俺のところにやって来たのはキリエではなくて妹のカスミだった。
「あれ、カスミがお茶を持ってくるのか」
「ええ。キリエ姉ならアラクネの対応で今は精一杯のようですから、あたしが代わりに身の回りの世話をする事になったんですよ」
普段とあまり変わりなさそうに喋るカスミだが、俺はどうも違和感を感じていた。
それもそうだろうな。カスミの視線が、俺の描いているデザイン画に注がれているんだからな。カスミもやっぱり女性なんだなって思わされる。
「なんだ、カスミ。これに興味があるのか?」
俺はデザイン画を手に持って軽く振る。カスミの視線はその動きにつられるように左右へと動く。うん、間違いなかった。
「カスミ、気になるんだったら見てみるか?」
「えっ、よろしいんですか?」
「ああ、売り出すとしても他人の意見というのはいろいろ聞いてみたいんだ。俺に対する当たりがきついから、カスミはそういう意味では期待できる。忌憚ない意見を頼むよ」
俺がデザイン画をまとめてカスミに手渡すと、奪い取るような勢いで手に取って、一枚一枚じっくりと眺めている。
しばらくその様子を見守っていたが、カスミの表情はなんとも言えないくらいに目を輝かせている。
しかし、今描いていたのは肌着ばかりなので、正直見せるのはやめておきたかった。でも、あれだけ興味を示してくれているのなら、見せないわけにはいかなかったのだ。現に今もじっくりと食い入るように見てるんだもんな。
「魔王様」
急に声を出すものだから、ついついびっくりしちまった。
「な、なんだ、カスミ」
驚きはしたものの、魔王として堂々と振る舞わなければならない。俺は冷静なふりをして話を聞くことにする。
「これってすぐに作ってもらうことはできますかね」
デザイン画を握りしめながら、ずずいと俺に迫ってくるカスミ。なんだろうか。普段あれだけ毛嫌いしてくるだけに、なんとも新鮮な表情と態度だな。
「まあ落ち着け。クローゼとニーナに確認してみないとな。現状衣類を作っているのはあの二人だけだからな」
「そうですか。では早速参りましょう」
「おいおい……」
なんとも前のめりなカスミである。新鮮ではあるものの、ちょっと強引すぎないだろうか。
そのくらい、俺の描いたデザイン画に興味を示しているということなのだが、普段メイドなだけになんとも想像がしづらかった。
強引なカスミと一緒にクローゼの部屋にやって来た俺は、ノックをしてクローゼの部屋へと入る。中ではキリエが何かの話をしているようだった。
「これは魔王様。それとカスミまで一緒に……。一体どうなされたというのですか?」
当然ながら疑問に感じるキリエである。なんといっても一番違和感があったのがカスミの態度である。
「キリエ姉、これって画期的よね」
俺のデザイン画を手に持ったままキリエに近付いていくカスミ。そして、ばっとキリエの目の前で広げて見せている。
そのデザイン画を見たキリエの表情はなんとも複雑だ。なにせ顔に近すぎてよく見えないからだ。カスミ、勢いがよすぎたんだよ。
近すぎるデザイン画を一歩引いて確認するキリエ。さすが見えないからといっても相手を遠ざけることはしないようだった。
「ふむ、面白いデザインですね」
「でしょでしょ。あたし着てみたいのよ。ねえ、いいかしら」
上目遣いで目をうるうるとさせながら頼み込むカスミ。その姿に呆れながらもキリエは許可をしてくれた。
「クローゼ、ちょっとよろしいでしょうか」
「何かしら、キリエ」
奥からのっそりとクローゼが姿を見せる。
「このデザイン画の服を作ってもらうことはできますでしょうか」
「どれどれ……」
キリエが手に持っているデザイン画を覗き込むクローゼ。次の瞬間、クローゼの目が大きく見開く。
「これは……! 分かりましたわ、すぐにでも作らせてもらいますわよ」
キリエからデザイン画を受け取ると、再び奥へと消えていく。
デザイン画を見た直後の表情からするに、やる気が満ちあふれてきたというところだろう。
奥へと引っ込んでしばらく、でき上がったらしく、誇らしげな表情でクローゼが俺たちのところに戻ってきた。
かなり複雑なデザインだったとは思うんだが、アラクネって服を作るのが早いな。
「ふふっ、これは作り甲斐がありましたわよ」
満面の笑みを浮かべながら、クローゼはでき上がった服を取り出して俺たちに見せつけたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる