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第一章 大陸編
第148話 転生者、頭を悩ませる
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俺の前世の記憶から再現された料理も、魔王城に最も近い宿場町の目玉として配置されることになった。
必要となる材料について、植物であればウネがその多くを育てることができるので、庭園を拡充することとなった。
卵はそもそもその目的で連れてきたクルクーが居るので問題はない。鳥獣類の肉も、絶滅しない程度に魔物を狩って集めることとなった。
運がいいのは魔王城の近辺だけでほぼ集まってしまうことだった。それでも、一部の食材は魔王領の中でも見当たらないらしい。
料理長のスキルで見た限りは、人間たちの国の中で手に入れることができるそうだが、一部はまだ和解の気配すらない東方帝国や北方聖国で手に入れられるものだという。
さすがに和解できていなければ入手は困難だろう。それらを必要とする料理は、再現を先延ばしすることとなった。
「まっ、こればっかりは仕方ないな。無い袖は振れないってもんだ」
「なんですか、その言葉」
「えっ」
料理長の報告を聞き終わって執務室で小休止をしている俺の呟きに、キリエが冷静にツッコミを入れてきた。そのツッコミに俺は驚きを隠せなかった。
冷静に考えてみるとそうだ。
俺が呟いた言葉は、前世のことわざだ。この世界に存在していない可能性は高かった。
いかんな、ちょくちょく以前の知識が顔を覗かせてしまう。
「今のは『ないのはどうしようもできない』って意味の言葉だ。服の袖がなければ、こうやって振り回せないだろ。つまりそういうことなんだ」
「どういった意図でそのような言葉を?」
「今回の料理のことだよ。材料が手に入らなければ作りようがないからな」
「なるほど、理解致しました」
適当に言い訳をしておくと、キリエは分かってくれたようだ。そもそも参謀をするだけあって頭がいいからな。理解が早くて助かるぜ。
「しかし、東方帝国と北方聖国か。話には聞くんだが、どういう国かほとんど知らないんだよな。俺の出身の南方王国ともそれほど国交がなかったもんな……」
砂糖はサトウキビか甜菜を搾って作るとなんとなくは知っているが、その材料となる植物はほとんどがその二国に存在している。
ドライアドたちでも知らないものは育てられないらしく、魔王領内で手に入れるのは困難のようだ。なんでもとは言わなかったのはそのせいだ。
そして、北方聖国でのみ手に入れることができるジャガイモやサツマイモだな。いや、こっちでは別の言葉でいうべきか。
芋の類もドライアドが育てられない植物らしくて、ウルルンの力で再現した芋を見て、ウネもクルルもルククも全員無理と首を横に振っていた。
魔族たちも万能じゃないんだなと、俺は絶望したものだったよ。
なので、芋料理系は諦めざるを得なかった。
北方聖国は魔族にとって天敵ともいえる相手なので、それで純魔族たちが睨みを利かせているというわけだった。
「芋を食べるなら、北方聖国との和解が必須。だけど、人間たちの中で最も魔族を敵視する国か……。うん、後回しだな」
手厳しい相手と見て、俺は完全にお手上げだった。
そこでふと俺は、とあることを思い出す。
「そういえば、コモヤからの報告が最近ないな。キリエは何か知らないか?」
「いいえ、私にも連絡は来ておりません。ただ、あの子に限ってへまを犯すなんていうことはないでしょうから、単純に手間取っているだけだと思われます」
「ふむ。それならいいんだが、ちょっと気になるな……」
気になるとはいっても、今の俺にはどうすることもできない。やむなく仕事に戻ろうとしたその時だった。
「あら、この子は……」
キリエが何かに気が付いて窓の方へと小走りに向かっていく。
ガラスのはまった窓を開けると、そこから何かが室内へと飛び込んできた。
何かと視線を向けてみれば、そこにいたのは小動物の魔物だった。
「この子はコモヤの使い魔です。ということは、コモヤの身に何かあったのですか?!」
使い魔である魔物を、キリエはひょいと抱え上げる。その足には何か手紙のようなものが括りつけられていた。
「魔法で括りつけた手紙ですね。これならば途中で何かがあっても破れませんし滲みません。どんな状況でも冷静なコモヤらしいですね」
冷静に喋っているようだが、キリエの態度にどこか落ち着きがなかった。姉だからだろうか、何かを察しているのだろう。
手紙を読み終わったキリエが顔を上げる。そして、俺の前で直立すると、報告を始める。
「魔王様、コモヤが北方聖国に捕まりました」
「なんだって?!」
端的に放たれた言葉に、俺は勢いよく立ち上がる。
「捕まっている場所は分かるか?」
「いえ、特には書かれておりません。ですが、見せしめにするのでしたら、聖都で行うでしょう」
「そうか……。とはいえ、あまり時間があるようにも思えないな」
俺は歯を食いしばる。
「話は聞かせてもらった」
「話は聞かせてもらったわ」
突如として扉が勢いよく開く。そこにはデザストレとピエラが立っていた。
「この際だからちょうどいいわ。聖国に殴り込みをかけましょう」
「うむ、西方王国と同様に、分からせた方がいいぞ」
デザストレはともかくとして、ピエラまでが物騒なことを言っている。お前ってそんな性格だったか?
だが、二人の参戦は嬉しい限りだ。デザストレなら西方王国同様に一瞬で都にたどり着けるだろう。
「キリエは残って魔王城の事を頼む。俺は二人と一緒に聖国に出かけてくるぞ」
「しょ、承知致しました。お気をつけて」
心配そうに立ち尽くすキリエを残し、俺たちはさっさと北方聖国へ向けて飛び立ったのだった。
必要となる材料について、植物であればウネがその多くを育てることができるので、庭園を拡充することとなった。
卵はそもそもその目的で連れてきたクルクーが居るので問題はない。鳥獣類の肉も、絶滅しない程度に魔物を狩って集めることとなった。
運がいいのは魔王城の近辺だけでほぼ集まってしまうことだった。それでも、一部の食材は魔王領の中でも見当たらないらしい。
料理長のスキルで見た限りは、人間たちの国の中で手に入れることができるそうだが、一部はまだ和解の気配すらない東方帝国や北方聖国で手に入れられるものだという。
さすがに和解できていなければ入手は困難だろう。それらを必要とする料理は、再現を先延ばしすることとなった。
「まっ、こればっかりは仕方ないな。無い袖は振れないってもんだ」
「なんですか、その言葉」
「えっ」
料理長の報告を聞き終わって執務室で小休止をしている俺の呟きに、キリエが冷静にツッコミを入れてきた。そのツッコミに俺は驚きを隠せなかった。
冷静に考えてみるとそうだ。
俺が呟いた言葉は、前世のことわざだ。この世界に存在していない可能性は高かった。
いかんな、ちょくちょく以前の知識が顔を覗かせてしまう。
「今のは『ないのはどうしようもできない』って意味の言葉だ。服の袖がなければ、こうやって振り回せないだろ。つまりそういうことなんだ」
「どういった意図でそのような言葉を?」
「今回の料理のことだよ。材料が手に入らなければ作りようがないからな」
「なるほど、理解致しました」
適当に言い訳をしておくと、キリエは分かってくれたようだ。そもそも参謀をするだけあって頭がいいからな。理解が早くて助かるぜ。
「しかし、東方帝国と北方聖国か。話には聞くんだが、どういう国かほとんど知らないんだよな。俺の出身の南方王国ともそれほど国交がなかったもんな……」
砂糖はサトウキビか甜菜を搾って作るとなんとなくは知っているが、その材料となる植物はほとんどがその二国に存在している。
ドライアドたちでも知らないものは育てられないらしく、魔王領内で手に入れるのは困難のようだ。なんでもとは言わなかったのはそのせいだ。
そして、北方聖国でのみ手に入れることができるジャガイモやサツマイモだな。いや、こっちでは別の言葉でいうべきか。
芋の類もドライアドが育てられない植物らしくて、ウルルンの力で再現した芋を見て、ウネもクルルもルククも全員無理と首を横に振っていた。
魔族たちも万能じゃないんだなと、俺は絶望したものだったよ。
なので、芋料理系は諦めざるを得なかった。
北方聖国は魔族にとって天敵ともいえる相手なので、それで純魔族たちが睨みを利かせているというわけだった。
「芋を食べるなら、北方聖国との和解が必須。だけど、人間たちの中で最も魔族を敵視する国か……。うん、後回しだな」
手厳しい相手と見て、俺は完全にお手上げだった。
そこでふと俺は、とあることを思い出す。
「そういえば、コモヤからの報告が最近ないな。キリエは何か知らないか?」
「いいえ、私にも連絡は来ておりません。ただ、あの子に限ってへまを犯すなんていうことはないでしょうから、単純に手間取っているだけだと思われます」
「ふむ。それならいいんだが、ちょっと気になるな……」
気になるとはいっても、今の俺にはどうすることもできない。やむなく仕事に戻ろうとしたその時だった。
「あら、この子は……」
キリエが何かに気が付いて窓の方へと小走りに向かっていく。
ガラスのはまった窓を開けると、そこから何かが室内へと飛び込んできた。
何かと視線を向けてみれば、そこにいたのは小動物の魔物だった。
「この子はコモヤの使い魔です。ということは、コモヤの身に何かあったのですか?!」
使い魔である魔物を、キリエはひょいと抱え上げる。その足には何か手紙のようなものが括りつけられていた。
「魔法で括りつけた手紙ですね。これならば途中で何かがあっても破れませんし滲みません。どんな状況でも冷静なコモヤらしいですね」
冷静に喋っているようだが、キリエの態度にどこか落ち着きがなかった。姉だからだろうか、何かを察しているのだろう。
手紙を読み終わったキリエが顔を上げる。そして、俺の前で直立すると、報告を始める。
「魔王様、コモヤが北方聖国に捕まりました」
「なんだって?!」
端的に放たれた言葉に、俺は勢いよく立ち上がる。
「捕まっている場所は分かるか?」
「いえ、特には書かれておりません。ですが、見せしめにするのでしたら、聖都で行うでしょう」
「そうか……。とはいえ、あまり時間があるようにも思えないな」
俺は歯を食いしばる。
「話は聞かせてもらった」
「話は聞かせてもらったわ」
突如として扉が勢いよく開く。そこにはデザストレとピエラが立っていた。
「この際だからちょうどいいわ。聖国に殴り込みをかけましょう」
「うむ、西方王国と同様に、分からせた方がいいぞ」
デザストレはともかくとして、ピエラまでが物騒なことを言っている。お前ってそんな性格だったか?
だが、二人の参戦は嬉しい限りだ。デザストレなら西方王国同様に一瞬で都にたどり着けるだろう。
「キリエは残って魔王城の事を頼む。俺は二人と一緒に聖国に出かけてくるぞ」
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