異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
153 / 431
第一章 大陸編

第153話 転生者、聖国での会合に臨む

しおりを挟む
 北方聖国に滞在して二日が経過する。
 さすがに純粋な魔族であるデザストレとコモヤは、少し弱っているような印象を受けた。

「二人とも大丈夫か?」

「大丈夫だ。あの女の言っていた通り、普通に比べれば弱体化の影響は小さい。二日も結界に閉じ込められれば、大抵の魔族は立つことするできなくなるからな」

「う、うちも大丈夫です」

 気にかかって声を掛けてみると、二人からはまだまだ余裕そうな返事があった。
 確かに少々呼吸が荒いように見えるだけで、動作などには大した影響はないようだった。

「二人にはもう少し我慢を強いることになるな。とりあえず今日が勝負だから耐えてくれよ」

「分かっている」

 俺はピエラたちを連れて、神殿内の会議室へと向かっている。
 聖国の神殿で魔族が堂々と歩く姿は、神殿の職員たちにとっては恐怖でしかない。一部の者は武器を構えようとしているが、聖王の客人であるがために手を出せずに歯がゆい様子を見せている。
 アウェイ中のアウェイ。そんな雰囲気をひしひしと感じていた。
 会議室に姿を見せると、聖王ルミネシアの姿はなかった。
 会議の円卓に座るのは見たことのない人物ばかり。年齢はばらばらだが、多くは男性のようだ。
 会議室に入ってきたばかりの俺たちに、円卓に座る唯一の女性が立ち上がって近付いてくる。

「今代の魔王でございますね。席に案内します」

「ああ、すまない」

 女性の案内で、俺たちも円卓の席に移動する。
 椅子の間隔を見ると、無理やり席を増やしたのがよく分かる。俺たちの辺りだけ明らかに間隔が詰まっているからな。想定外の参加者だし、人数も多いからからしょうがないところだろう。今回ばかりは我慢だ我慢。
 ひとまず、弱体化が見られるデザストレとコモヤは守らなきゃいけない。なので、俺とピエラで挟み込むように席に着く。
 そして、案内してくれた女性の隣にピエラ、いかにも怪しそうなおっさんの隣に俺が座る。目つきが怪しすぎるからな、ピエラを隣にやるわけにはいかない。
 デザストレが本調子なら隣を任せたんだが、今はしょうがない。
 しかしなぁ、隣のおっさんは俺が獣人であってもお構いなしという感じだな。胸がでかいからか、ちらちらとこっちを興奮した様子で見てきやがる。
 あとでピエラとコモヤから指摘されたが、俺のしっぽは垂れ下がったまま動いてなかったらしい。前世で犬を飼っていたからよく分かるが、これは警戒状態のサインだ。つまり、俺は隣のおっさんをずっと警戒していたというわけだな。気にしていないふりをしていても、しっぽは正直だったぜ。
 いろいろと落ち着かない要素はあるものの、俺たちは聖王が登場するまでじっと待機し続ける。
 どのくらい待っただろうか、ようやくルミネシアが登場する。

「申し訳ございません、大変お待たせ致しました」

 入ってくるなり、謝罪の言葉が出てくる。待たされた時間を考えれば仕方のないことかもしれないが、南方王国で育った俺やピエラからしたら、なかなかに衝撃的な場面だった。なにせあの王様は一切謝らなかったからな。
 謝罪をしたルミネシアが席に着くと、ようやく会合が始まる。
 急な招集の上に、魔族と同席、さらには待たされたとあって、会合の参加者の一部は既に不穏な空気を醸し出していた。平気そうなのは俺たちの案内をしてくれた女性と、俺の隣に座るおっさんくらいだ。てか、その視線をやめろ。

「今回の会合ですが、議題はそちらの魔族たちについてです」

「魔族など滅ぼしてしまえばよいではないですか。何を話すというのです」

 ルミネシアが告げれば、早々に文句をつける参加者がいた。まぁ予想通りだろうな、この反応は。
 特に気にしないで、俺は黙って会合の様子を見守っている。

「みなさんの認識ではそうでしょう。ですが、今は状況が変わりました」

「どう変わったというのですか」

 またルミネシアの発言に即異議を唱えようとしている。いくらなんでも早すぎだろうが。

「実は、魔王が代替わりしています」

「なん……だと……」

 ルミネシアからの衝撃発言に、ようやく参加者の怒号がやんだ。
 まぁそうだろうな。聖国が一番魔王討伐に躍起になってるんだからな。そもそも魔族を滅ぼしてしまえな連中だし、当然の話だ。

「そこにいる獣人が、今現在の魔王です。彼女は元は南方王国の貴族令息でした」

「令息?!」

「バカな、どう見ても女ではないか」

「聖王様、一体何を仰られているのですか」

 参加者たちは一様に混乱しているようだ。いろいろな事実を一気に叩きつけられれば、誰だってそうなるだろうな。女になった事自体、俺が一番信じられないんだからな。
 それにしても、会合だっていうのにこいつら好き勝手に話をしすぎだろうが。こいつらの姿を見ていると、俺の中で苛つきが増幅していく。
 気が付くと、俺は円卓を強く叩いていた。

「お前ら、いい加減にしろ。俺は話し合いに来てるんだ、ぎゃーこらうるせえんだよ」

 不機嫌マックスの状態で睨みを利かせると、ようやく参加者どもが静かになった。俺にいやらしい視線を向けていたおっさんもようやく視線を外したぜ。

「聖王、続きを」

「は、はい。ありがとうございます」

 ようやく静かになったことで、これで会合は進むだろう。
 さて、どういった取引をしようか。俺はちらちらと様子を見ながら、その候補を絞り込んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...