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第一章 大陸編
第159話 転生者、アラクネ糸を見せに行く
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プリンを味わえた料理長が舞い上がっている姿を尻目に、俺とデザストレは少女とその父親と一緒に聖都の服屋へと向かった。
聖王には悪いんだが、まだ忙しそうだったから後回しにさせてもらう。
神殿を出てしばらく歩くこと、ようやくその服屋に到着する。聖都の中でも一等地に建つ立派な構えのお店は、見た瞬間に圧倒される雰囲気があった。
なにせ、前世は量販店の安い服しか買ったことがないからな。スーツだけはいいものをと頑張ったが、それでもなるべく安く済ませていたぜ。
「どうしたの、お姉ちゃん」
少女が挙動不審な俺に声を掛けてくる。
「あ、いや。なんでもないよ、ははは」
よく思えば、南方王国にいた時も服屋には入ったことがなかったな。親父が屋敷に仕立て屋を呼んでそれで済ませていたからな。
さっき言った通り、前世でも量販店くらいしか入ったことがないから、こういうブティック的な場所ってのは身構えちまうもんだよ。
店構えにびびったものの、少女とその父親に連れられて、デザストレと一緒に建物へと入っていく。
中に入るとやっぱり目がくらみそうなくらいな豪華なお店だった。
「いらっしゃいませ、旦那様、お嬢様」
店員がゆったりとした動作で歩いてくる。少女と父親に対する呼び方から、どうやらこの少女の母親は経営者と思われる。
「あのね、昨日見せた服をくれたお姉ちゃんを連れてきたの。それで、ママに生地を見てもらいたいのよ」
10歳は超えている感じだが、話し方はかなり幼い印象だな。
それはいいとして、少女の言葉に店員はちょっと考え込んでいるようだ。これだけの店のオーナーだ。忙しいというのもあるのだろうな、きっと。
「オーナーは現在手が離せません。ですので、私でよければ代わりに対応致します」
「しょうがないのね。じゃあ、お姉ちゃんの持ってきた生地をフロスさんに見てもらいましょう」
「畏まりました。お初にお目にかかります。この店の店長を務めますフロスと申します。では、生地を早速よろしくお願い致します」
魔王である俺を前にしても堂々とした態度だ。さすがはいろんな客を応対してきた歴戦の店員といった感じを漂わせる人物だな。
というわけで、俺はデザストレに命じてアラクネ糸の生地を出してもらう。
それをフロスに手渡しすると、ルーペなどを出してじっくりと観察し始めた。本格的だな。
手に持っている道具をしまうと、フロスは一呼吸を置いていた。なんというか、観察した余韻を味わうかのような雰囲気だな。
一度すっと目を閉じたかと思うと、すぐに見開いていた。
「素晴らしい生地でございますね。この光沢に手触り、どの高級布にも負けぬ逸材でございます」
「お、おう」
目を輝かせながら語り出したので、俺は適当に相槌を入れておく。
「アラクネという魔族の糸は存じておりましたが、大体は討伐後の粗悪なものばかりでございました。いやぁ、これほどまでにきれいなものは初めて見ます。それでいてかなりの魔力含有量。これで法衣を作れば、それこそ強力な防具となりましょう。ええ、ええ。すぐにでも……」
「フロスさん、ストップです」
オタク特有の早口のように、ものすごい勢いで語り出したフロス。少女に止められるまで、それ事勢いがまったく止まらなかった。怖えな。
「ですが、お嬢様。この布の素晴らしさはこれだけでは足りません。もっと褒めたたえねばいけませんよ」
「お姉ちゃんたちを見て」
「はっ!」
フロスのマシンガントークに、俺はおろか、デザストレと少女の父親も固まってしまっていた。これでは交渉には移れないというものだ。
「これは失礼致しました。ですが、あらゆる布地に精通している私ですら、手放しで喜べる素晴らしい布地だということは言わせて頂きます」
「あ、ああ。そこまで言ってもらえて嬉しいよ」
俺は表情を引きつらせていた。
それにしても、西方王国でもここまでの反応ではなかったのだが、北方聖国だと価値観が違うのだろうかな。
「でもまぁ、このアラクネ糸で作った服がいいっていうのはよく分かる。俺なんか見ての通り全身が毛だらけだ。だというのに特に引っ掛かるようなこともなくスムーズに服の着脱が可能なんだよな」
「ええ、そうでしょうね。それもこのアラクネ糸の特徴のひとつでございます」
あっ、また火をつけちまったか?
俺が閉まったというかをすると、少女がフロスの後ろに回り込んでぺちっと背中を一発叩いていた。
「わ、分かりました、お嬢様……」
この一撃が聞いたのか、フロスは弾丸トークを発動することなく黙り込んでしまった。この少女、意外と強者なのではと思わされる一幕だった。
「では、奥の部屋へと参りましょう。交渉はそこで行わさせて頂きます」
「分かった。案内を頼む」
「承知致しました。では、こちらへどうぞ」
俺たちはフロスの案内で服屋の奥へと進んでいく。
少女の母親が興味を持ったアラクネ糸の生地。さて、どのくらいの値段になるんだろうかな。
だが、この時の俺はすっかり忘れていた。こういったものの相場に詳しいものが、ピエラを置いてきたことで俺たちの側に不在となっているという事実を。
はたして、この調子でまともな交渉などできるものなのだろうか。結果はいかに?!
聖王には悪いんだが、まだ忙しそうだったから後回しにさせてもらう。
神殿を出てしばらく歩くこと、ようやくその服屋に到着する。聖都の中でも一等地に建つ立派な構えのお店は、見た瞬間に圧倒される雰囲気があった。
なにせ、前世は量販店の安い服しか買ったことがないからな。スーツだけはいいものをと頑張ったが、それでもなるべく安く済ませていたぜ。
「どうしたの、お姉ちゃん」
少女が挙動不審な俺に声を掛けてくる。
「あ、いや。なんでもないよ、ははは」
よく思えば、南方王国にいた時も服屋には入ったことがなかったな。親父が屋敷に仕立て屋を呼んでそれで済ませていたからな。
さっき言った通り、前世でも量販店くらいしか入ったことがないから、こういうブティック的な場所ってのは身構えちまうもんだよ。
店構えにびびったものの、少女とその父親に連れられて、デザストレと一緒に建物へと入っていく。
中に入るとやっぱり目がくらみそうなくらいな豪華なお店だった。
「いらっしゃいませ、旦那様、お嬢様」
店員がゆったりとした動作で歩いてくる。少女と父親に対する呼び方から、どうやらこの少女の母親は経営者と思われる。
「あのね、昨日見せた服をくれたお姉ちゃんを連れてきたの。それで、ママに生地を見てもらいたいのよ」
10歳は超えている感じだが、話し方はかなり幼い印象だな。
それはいいとして、少女の言葉に店員はちょっと考え込んでいるようだ。これだけの店のオーナーだ。忙しいというのもあるのだろうな、きっと。
「オーナーは現在手が離せません。ですので、私でよければ代わりに対応致します」
「しょうがないのね。じゃあ、お姉ちゃんの持ってきた生地をフロスさんに見てもらいましょう」
「畏まりました。お初にお目にかかります。この店の店長を務めますフロスと申します。では、生地を早速よろしくお願い致します」
魔王である俺を前にしても堂々とした態度だ。さすがはいろんな客を応対してきた歴戦の店員といった感じを漂わせる人物だな。
というわけで、俺はデザストレに命じてアラクネ糸の生地を出してもらう。
それをフロスに手渡しすると、ルーペなどを出してじっくりと観察し始めた。本格的だな。
手に持っている道具をしまうと、フロスは一呼吸を置いていた。なんというか、観察した余韻を味わうかのような雰囲気だな。
一度すっと目を閉じたかと思うと、すぐに見開いていた。
「素晴らしい生地でございますね。この光沢に手触り、どの高級布にも負けぬ逸材でございます」
「お、おう」
目を輝かせながら語り出したので、俺は適当に相槌を入れておく。
「アラクネという魔族の糸は存じておりましたが、大体は討伐後の粗悪なものばかりでございました。いやぁ、これほどまでにきれいなものは初めて見ます。それでいてかなりの魔力含有量。これで法衣を作れば、それこそ強力な防具となりましょう。ええ、ええ。すぐにでも……」
「フロスさん、ストップです」
オタク特有の早口のように、ものすごい勢いで語り出したフロス。少女に止められるまで、それ事勢いがまったく止まらなかった。怖えな。
「ですが、お嬢様。この布の素晴らしさはこれだけでは足りません。もっと褒めたたえねばいけませんよ」
「お姉ちゃんたちを見て」
「はっ!」
フロスのマシンガントークに、俺はおろか、デザストレと少女の父親も固まってしまっていた。これでは交渉には移れないというものだ。
「これは失礼致しました。ですが、あらゆる布地に精通している私ですら、手放しで喜べる素晴らしい布地だということは言わせて頂きます」
「あ、ああ。そこまで言ってもらえて嬉しいよ」
俺は表情を引きつらせていた。
それにしても、西方王国でもここまでの反応ではなかったのだが、北方聖国だと価値観が違うのだろうかな。
「でもまぁ、このアラクネ糸で作った服がいいっていうのはよく分かる。俺なんか見ての通り全身が毛だらけだ。だというのに特に引っ掛かるようなこともなくスムーズに服の着脱が可能なんだよな」
「ええ、そうでしょうね。それもこのアラクネ糸の特徴のひとつでございます」
あっ、また火をつけちまったか?
俺が閉まったというかをすると、少女がフロスの後ろに回り込んでぺちっと背中を一発叩いていた。
「わ、分かりました、お嬢様……」
この一撃が聞いたのか、フロスは弾丸トークを発動することなく黙り込んでしまった。この少女、意外と強者なのではと思わされる一幕だった。
「では、奥の部屋へと参りましょう。交渉はそこで行わさせて頂きます」
「分かった。案内を頼む」
「承知致しました。では、こちらへどうぞ」
俺たちはフロスの案内で服屋の奥へと進んでいく。
少女の母親が興味を持ったアラクネ糸の生地。さて、どのくらいの値段になるんだろうかな。
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